第 4 章 これまでの我々の開発状況
4.3 積層配線素子の開発
これまで製作した素子はTESの両端から配線が伸びる構造(以下、単層配線構造)をしている(図4.1)。 十分な有効面積をを確保しつつ単ピクセルでのエネルギー分解能<5 eVを満たす為には、熱容量との 兼ね合いから200µm角のピクセルによる20×20以上のアレイが必要となる。しかし、単層配線ではピ クセルをより密集させようとすると以下のような問題が発生してしまう。
1. 配線スペース
単層配線では16×16 の256ピクセルアレイが限界である。これよりもピクセルを増やしてしまう と配線幅を細くせざるをえなくなり、配線も更に密集するため製作面でも困難となる。また、配線 の表面形状による影響が顕在化することで完全に超伝導転移することができず、残留抵抗が高く なってしまう可能性がある。
2. 配線間クロストークの発生
配線数が増えることにより配線間隔が狭くなり、配線電流やピクセルから発生した磁場が他配線 や他ピクセルに誘導起電力を起こし、余計な電流を発生させてしまう(クロストーク)。
3. 配線のループによる自己インダクタンスの影響
単層配線はコイルのようなループ構造をしている。よって配線電流が変化した際に、磁場の変化 を打ち消すような逆起電力を生み出してしまう。
これらの問題を解決するために、我々は積層配線構造を採用した。ここで積層配線構造とは、ピクセ ルまでのホットとリターン配線を絶縁膜を挟み上下に重ね、コンタクトホール部分で接続したものであ る。図4.2に積層配線デザイン図を示す。上下に重なった構造により、配線スペースの削減につながる 他、ホットとリターンを流れる電流がお互いの磁場を打ち消す効果がある。
4.3. 積層配線素子の開発 43
図4.1: 従来の16×16アレイデザイン。
絶縁膜
コンタクトホール
●
●
Au 吸収体 120 μm 角
TES
200 μm 角 Al 上部配線
SiO2 Al 下部配線
Ti Au Au 吸収体 積層配線(20 × 20 pixel)
断面図
コンタクトホール
基板
1 cm
図 4.2: 積層配線20×20アレイデザイン。
44 第4. これまでの我々の開発状況 4.3.1 製作素子の性能
最終的には20×20アレイを目標としているが、製作プロセス確立のためまずは4×4アレイの試作を 行った。
4×4ピクセルアレイ素子TMU 284では、歩留まりは94%、常伝導抵抗は∼153 mΩ、残留抵抗は0.28 mΩと我々の目標値を満たしていた。しかし臨界電流が目標の100µAと比べ30µAとやや低かった他、
転移温度が∼260 mKと要求値に対し高くなってしまった。これはTESと上部配線間の段切れを防ぐた めにTESの膜厚をチタン100 nm、金200 nm と上部配線よりも厚くせざるを得なかったためである。
また、TMU 284のX線照射試験を行い積層配線素子で初のX線信号を検出したが、エネルギー分解能
は∼100 eVと高かった。これはTESの膜厚を厚くしたために高くなった転移温度とピクセルの熱容量
が効いてきているものと考えられる。
図 4.3: TMU 284の完成後の光学顕微鏡写真。左: 全体像、右: ピクセル部分。
図 4.4: TMU 284 pixel ID:0301のR-T測定の結果。左: 対数スケール、右: 線形 スケール。
また、4×4ピクセルアレイで確立した積層配線素子の製作プロセスを、20×20ピクセルアレイに適 用し製作及び評価を行った。製作した20×20ピクセルアレイのTMU 293は、TMU 284の結果を受け
4.3. 積層配線素子の開発 45
図4.5: TMU 284で得た5.9 keVの鉄55線源に対するX線信号。
TESの膜厚はチタン100 nm、金250 nmと膜厚比を高くしたが転移温度は245 mKと依然高いままで あった。また、常伝導抵抗は9 Ω、残留抵抗も20 mΩと高く、X線信号は検出できなかった。歩留まり が60%という低さも問題であり原因を探るためにSEM及びFIBにて観察を行ったところ、上部配線の 傷による断線や上部配線- TES 間のコンタクトが不十分であるということがわかった。
図4.6: TMU 293の完成後光学顕微鏡写真。左: 全体像、右: ピクセル部分。
46 第4. これまでの我々の開発状況
図4.7: TMU 293完成後の上部配線パッド-下部配線 パッド間の室温抵 抗の実測値マップ。白く抜けているマスは導通していなかったピクセル。