第 2 章 TES 型 X 線マイクロカロリメータ
2.7 世界の開発状況
2.7.1 開発の歴史
1941年、Andrewsは3.2 Kの超伝導遷移端中のタンタル細線を流れる電流を利用し、温度変化による 抵抗の変化から赤外線の信号を検出した。これはTESを利用した史上初のボロメータである。また彼は 1949年に15 Kの遷移端中にある窒化ニオブのストリップを流れる電流を利用し、アルファ粒子の崩壊 に伴う電圧パルスを計測することに成功した。これも史上初となるTES型カロリメータの検出実証で ある。
だが上記の発明から半世紀の間、TES型検出器の応用はあまり行われてこなかった。開発を阻む顕著な 障害となったのは、FETアンプに対してTESのノイズをマッチングさせることが難しい点である(TES の典型的な常伝導状態の抵抗は数Ωか、それ以下である)。近年では低抵抗なTES型検出器に対して、
容易にインピーダンスマッチングが取りやすい超伝導量子干渉計(SQUID: Superconducting Quantum Interference Device)を用いた電流増幅によって、この問題は解決された。SQUID系による電流読み出 しと電圧バイアスの動作制御を導入した ことで、過去十年の間にTES型検出器は飛躍的な進歩を遂げ た。TESカロリメータは、多素子サブミリ観測器として天文観測に応用されている。X線分光器とし ては、提案段階であり、まだ観測は行われていない。MITが中心となって計画されているロケット実験 Micro-Xが最初の観測となる可能性が高い。
2.7.2 近年の開発状況
TESカロリメータの開発は、世界最高性能を出し続けているアメリカをはじめ、各国の研究機関で様々 な用途に向けて行われている。NASA/GSFCでは、TESである超伝導金属にMo、常伝導金属にAuを 使用した二層薄膜の構造を採用している。これまでに太陽フレアからのX線ジェット観測に向けたTES カロリメータで∆EFWHM=1.6 [email protected] keVという世界最高性能を達成している。デザインは32×32ピ クセルのアレイ素子で、35 µm角のTESの上にAuのマッシュルーム吸収体が4.5 µmの厚さで形成さ れている。図2.8に最高性能を出した素子の写真を示す。また図2.9は5.9 keVのX線で得られたエネ ルギースペクトルである。
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図 2.8: 世界最高のエネルギー分解能を持つGSFC/NASAの TESカロリメータ。(a) 32×32ピクセルアレイの全体像。(b) TESカロリメータのSEMイメージ。(c) SEM観察の拡大イ メージ。
図2.9: GSFC/NASAのTESカロリメータにX線を照射した 際に得られたエネルギースペクトル。
26 第2. TES型X線マイクロカロリメータ エネルギー分解能の追求のみならず、アレイ化の研究も行われている。アメリカのNIST(National Institute of Standards and Technology)ではAthena衛星に向けた3840ピクセルの大型アレイを開発し ている。図2.10はその概略図である。全体を上から見ると6角形の構造を持っており、図2.11のように 各素子が配置されている。また、多素子化が進むにつれて多チャンネルの読み出し系の必要性が高まり、
オランダのSRONを中心に周波数分割方式FDM(Frequency Division Multiplexing)による読み出し系 の開発が進められている。FDMとは複数の素子をそれぞれ異なる周波数で駆動させることで信号を多重 化する技術であり、SQUIDのGHzという広い帯域と非常に相性が良い。他にもTESカロリメータの主 な読み出し形式としてピクセルごとに読み出すタイミングをずらすTDM(Time Division Multiplexing) や、信号のパターンで分割するCDM(Code Division Multiplexing)などがある(図2.12)。
図2.10: Athenaに搭載予定のTESカロリメータアレイのデザイン[17]。
このように他機関においてもTESカロリメータの開発は活発である。高性能な単素子の基礎開発は もちろんのこと、多素子化へ向けた開発は日本でも行われてきた。次章では日本のこれまでの開発状況 と製作方法などを詳しく説明する。
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図2.11: TESアレイの拡大図[17]。
図2.12: 信号多重化の概要(左: TDM、中央: CDM、右: FDM)[18]。
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