3. 平成 27 年度の実施内容及び成果 10
3.4 核データ及び原子炉動特性の評価
3.4.2 積分評価
a. 原子炉動特性の評価
一昨年度、実効遅発中性子割合と遅発臨界における即発中性子減衰定数(実効遅発中性子割合 を中性子生成時間で割った値)のベンチマークとして、積分評価に活用可能な臨界実験データを 収集し、連続エネルギーモンテカルロコードMVP用の入力データの整備を行った。昨年度、整 備した入力データ、MVP動特性パラメータ計算機能 [Nagaya (2015)]、評価済み核データライブ ラリをJENDL-4.0 [Shibata et al. (2011)]、ENDF/B-VII.0 [Chadwick et al. (2006)]、JEFF-3.1 [Koning et al. (Eds.) (2006)]を用いて実効遅発中性子割合と即発中性子減衰定数を計算し、積分 実験解析を実施した。今年度は、本事業で新たに評価した核データで実効遅発中性子割合と即発 中性子減衰定数を計算し、その計算精度を評価する。
b. MVPライブラリの作成
本事業で新たに取得した遅発中性子収率データに基づいて、新たに核データファイルが評価さ れた。新たに評価された核種は表3.4.2-1の通りである。
表 3.4.2-1: 本事業で新たに評価された核種
ランジュバン計算に基づく評価 U-232, U-233, U-234, U-235, U-236, U-237, NP-237, Pu-238, Pu-239, Am-241, Am-243
代理反応に基づく評価 U-238, Pu-240, Pu-241, Pu-242, Am-242, Cm-246
新たに評価された核データは、ENDF-6形式で記述されている。これをMVP用ライブラリに 変換するためにLICEMコードシステム [奥村 (2011)]を用いた。図3.4.2-1にLICEMコードシ ステムで使用されているモジュールを示す。LINEAR, RECENT, SIGMA1モジュールは、IAEA から提供されているPREPRO2007のものを少し修正したものである。LINEARは、評価済み核 データファイルに与えられているすべての反応のポイント断面積を線形内挿が可能なエネルギー 点に対して与える。RECENTは、共鳴処理を行い、温度0 Kにおけるポイント断面積を作成す る。SIGMA1は、任意温度におけるドップラー拡がりを考慮した断面積を計算する。HEATRは、
米国ロスアラモス研究所で開発されたNJOY99モジュールの1つである。エネルギーバランス法 に基づき、中性子によるカーマ係数を計算する。U3R-Jは、非分離共鳴領域が定義された核種に 対し、確率テーブルを作成する。THERMJ-B6は、評価済み核データのファイル7に与えられる 熱中性子散乱データを処理して、MVP用の断面積データ、角度分布データ、エネルギー分布デー タを計算する。MVPLIBMKは、上記のモジュールからの出力結果を用いて最終的なMVPライ ブラリの編集作業を行うものである。新たに評価された核データファイルは、JENDL-4.0と同様 に処理を行い、MVPライブラリを作成した。詳細については、参考文献[奥村(2011)] を参照さ れたい。
図 3.4.2-1: LICEMコードシステム
c. 計算体系
ベンチマーク計算に用いた体系を以下にレビューする。体系名の後に続く括弧内の識別名は、
該当するICSBEP [OECD/NEA (2008)] またはIPRhEP [OECD/NEA (2012)] で用いられてい る識別名である。
Jezebel (PU-MET-FAST-001)
裸の金属球高速炉心体系で、プルトニウム金属系(Pu-239は95 at.%)である。
Godiva (HEU-MET-FAST-001)
裸の金属球高速炉心体系で、高濃縮ウラン金属系(U-235 は94 wt.%)である。
Jezebel-23 (U233-MET-FAST-001)
裸の金属球高速炉心体系で、ウラン-233金属系(U-233 は98 at.%)である。
・Flattop-Pu (PU-MET-FAST-006) ウラン反射体付金属球高速炉心体系で、プルトニウム 金属系(Pu-239は94 wt.%)である。
Flattop-25 (HEU-MET-FAST-028)
ウラン反射体付金属球高速炉心体系で、高濃縮ウラン金属系(U-235 は93 wt.%)である。
Flattop-23 (U233-MET-FAST-006)
ウラン反射体付金属球高速炉心体系で、ウラン-233金属系(U-233 は98 at.%)である。
ZPR-9/34 (HEU-MET-INTER-001)
非均質高速炉心体系で、SUS反射体付高濃縮ウラン鉄系である。
ZPR-6/9 (IEU-MET-FAST-010)
非均質高速炉心体系で、減損ウラン反射体付濃縮ウラン系(9%濃縮)である。
ZPR-6/10 (PU-MET-INTER-002)
非均質高速炉心体系で、SUS鉄反射体付プルトニウム黒鉛鉄系である。
SNEAK -7A (SNEAK-LFMR-EXP-001)
非均質高速炉心体系で、減損ウランブランケット付MOX黒鉛系である。
SNEAK -7B (SNEAK-LFMR-EXP-001) 非均質高速炉心体系で、減損ウランブランケット付
MOX-天然ウラン系である。
MASURCA R2
非均質高速炉心体系で、ウラン炉心系(30%濃縮)である。MASURCA炉心体系は、参考文 献[S. Okajima et al. (2002)]に記載されている2次元RZモデルで計算を行った。図3.4.2-2
にMASURCA R2炉心の計算体系を示す。
MASURCA Zona2 (Z2)
非均質高速炉心体系で、ウラン-プルトニウム炉心系である。
FCA XIX-1
非均質高速炉心体系で、ウラン炉心系である。FCA炉心体系は、参考文献[Okajima et al. (2002)]
に記載されている2次元RZモデルで計算を行った。図3.4.2-3にFCA XIX-1炉心の計算 体系を示す。
FCA XIX-2
非均質高速炉心体系で、ウラン-プルトニウム炉心系である。
FCA XIX-3
非均質高速炉心体系で、プルトニウム炉心系である。
TCA (LEU-COMP-THERM-006)
熱中性子炉心体系で、低濃縮UO2軽水系である。
IPEN/MB-01 (LEU-COMP-THERM-077)
熱中性子炉心体系で、バッフル付低濃縮UO2軽水系(4.3%濃縮)である。
Zeus-1 (HEU-MET-INTER-006)
高速炉心体系で、高濃縮ウラン黒鉛系である。
Zeus-5 (HEU-MET-FAST-073)
高速炉心体系で、銅反射体付高濃縮ウラン系である。
BigTen (IEU-MET-FAST-007)
高速炉心円柱体系で、減損ウラン反射体付中濃縮ウラン系(10%濃縮)である。
STACY-30 (LEU-SOL-THERM-007)
熱中性子炉心体系で、低濃縮ウラン溶液系である。
STACY-46 (LEU-SOL-THERM-004)
熱中性子炉心体系で、軽水反射体付低濃縮ウラン溶液系である。
図 3.4.2-2: MASURUCA R2炉心の計算体系
図 3.4.2-3: FCA XIX-1炉心の計算体系
上記体系の実効遅発中性子割合の実験値を表3.4.2-2に示す。また、表3.4.2-3にロッシα法に よる即発中性子減衰定数の実験値を示す。
d. 新評価に基づく核データを用いた計算結果
表3.4.2-4に新評価に基づく核データを用いた実効遅発中性子割合の計算値(C)と実験値(E)
の比(C/E)を示す。図3.4.2-4にはC/Eをプロットした結果を示す。新評価に基づく核データ の結果は、JENDL-4.0の結果と比べて全体的に過大評価する傾向にある。また、ZPR-6/10を除 けば、ほぼ15%の範囲で実験値を再現できることが分かった。ZPR-6/10に対する計算結果は、
実験値を大きく(23%)過大評価するが、原因については今後の検討課題である。
表3.4.2-5に新評価に基づく核データを用いた遅発臨界時の即発中性子減衰定数の計算値と図
3.4.2-5にC/Eをプロットした結果を示す。即発中性子減衰定数の計算結果についても、新評価
に基づく核データはJENDL-4.0と比べて全体的に過大評価する傾向にある。JENDL-4.0を用い た結果で大きく実験値を過大評価していた体系(Jezebel-23, Flattop-23, Zeus-5)を除けば、ほ ぼ15%の範囲で実験値を再現できることが分かった。Jezebel-23, Flattop-23, Zeus-5の体系につ いては、実験値の再評価、核データ起因誤差も含めた詳細な検討が必要である。
e. 加速器駆動炉ベンチマーク問題に対する計算結果
前節では、実効遅発中性子割合と遅発臨界時の即発中性子減衰定数の実験値が評価されている 体系に対し、新評価に基づく核データの計算精度を評価した。これらの体系では、U-235, U-238,
表 3.4.2-2: 実効遅発中性子割合の実験値
体系 実験値[pcm]
Jezebel 194 ± 10
Godiva 659 ± 10
Jezebel-23 290 ± 10 Flattop-Pu 276 ± 7 Flattop-25 665 ± 13 Flattop-23 360 ± 9 ZPR-9/34 667 ± 15 ZPR-6/9 725 ± 17 ZPR-6/10 222 ± 5 SNEAK7A 395 ± 12 SNEAK7B 429 ± 13
TCA 771 ± 17
IPEN/MB-01 742 ± 7 MASURCA R2 721 ± 11 MASURCA Z2 349 ± 6 FCA XIX-1 742 ± 24 FCA XIX-2 364 ± 9 FCA XIX-3 251 ± 4
表 3.4.2-3: 実効遅発中性子割合の実験値 体系 実験値 [104 sec−1]
Jezebel 64 ± 1 Godiva 111 ±2 Jezebel-23 100 ±1 Flattop-Pu 21.4 ± 0.5 Flattop-25 38.2 ± 0.2 Flattop-23 26.7 ± 0.5 Zeus-1 0.338 ± 0.008 Zeus-5 7.96 ± 0.08 Big-Ten 11.7 ± 0.1 STACY-30 0.0127 ± 0.003 STACY-46 0.0106 ± 0.004
表 3.4.2-4: 新評価に基づく核データを用いた実効遅発中性子割合の計算値
体系 実験値[pcm] 実験誤差 計算値[pcm] 計算の統計誤差 C/E 誤差
[pcm] [pcm] (1σ)
Jezebe 194 10 213 3 1.10 0.02
Godiva 659 10 684 5 1.04 0.01
Jezebel-23 290 10 333 4 1.15 0.01
Flattop-Pu 276 7 297 4 1.08 0.01
Flattop-25 665 13 708 5 1.07 0.01
Flattop-23 360 9 393 4 1.09 0.01
ZPR-9/34 667 15 728 6 1.09 0.01
ZPR-6/9 725 17 703 3 0.97 0.00
ZPR-6/10 222 5 274 4 1.23 0.02
SNEAK7A 395 12 383 3 0.97 0.01
SNEAK7B 429 13 419 3 0.98 0.01
TCA 771 17 836 8 1.08 0.01
IPEN/MB-01 742 7 826 8 1.11 0.01
MASURUCA R2 721 11 771 9 1.07 0.01
MASURUCA Z2 349 6 364 6 1.04 0.02
FCA XIX-1 742 24 811 11 1.09 0.02
FCA XIX-2 364 9 381 6 1.05 0.02
FCA XIX-3 251 4 289 6 1.15 0.02
C/Eの誤差は計算の統計誤差のみ考慮
図3.4.2-4: 実効遅発中性子割合に対する新評価に基づく核データを用いた計算結果と実験値との
比較
表 3.4.2-5: 新評価に基づく核データを用いた即発中性子減衰定数(遅発臨界時)の計算値 体系 実験値 実験誤差 計算値 計算の統計誤差 C/E 誤差
[104sec−1] [104sec−1] (1σ)
Jezebel 64 1 74 1 1.15 0.02
Godiva 111 2 121 1 1.09 0.01
Jezebel-23 100 1 124 1 1.24 0.01
Flattop-Pu 21.4 0.5 22.7 0.3 1.06 0.01
Flattop-25 38.2 0.2 41.6 0.3 1.09 0.01
Flattop-23 26.7 0.5 31.9 0.3 1.19 0.01
Zeus-1 0.338 0.008 0.388 0.003 1.15 0.01
Zeus-5 7.96 0.08 11.5 0.1 1.44 0.01
Big-Ten 11.7 0.1 11.9 0.1 1.02 0.01
STACY-30 0.0127 0.0003 0.0140 0.0001 1.10 0.01 STACY-46 0.0106 0.0004 0.0118 0.0001 1.12 0.01 C/Eの誤差は計算の統計誤差のみ考慮
図 3.4.2-5: 即発中性子減衰定数(遅発臨界時)に対する新評価に基づく核データを用いた計算結
果と実験値との比
図 3.4.2-6: 加速器駆動炉ベンチマーク問題の計算体系
Pu-239による遅発中性子収率の影響が大きく、マイナーアクニチド(MA)核種による影響は小
さい。そこで、マイナーアクニチド核種の遅発中性子収率の影響が大きいと考えられる加速器駆 動炉ベンチマーク問題に対する計算精度を評価した。本ベンチマーク問題は計算ベンチマークの ため、実験値は存在しない。JENDL-4.0, ENDF/B-VII.0, JEFF-3.1と新評価に基づく核データ を用いて、実効遅発中性子割合と即発中性子減衰定数を計算し、評価済み核データ間の差異を調 べた。
体系は、原子力機構が設計した800 MW級の加速器駆動炉(ADS)である[Tsujimoto et al. (2004)]。
このADS体系に対するベンチマーク問題は、IAEAの調整研究プロジェクト(CRP: Coordi-nated Research Project)として採用されており、菅原らがMVPコードを用いて解析を行ってい る[Sugawara et al. (2012)]。本解析では、菅原らが用意したMVP入力データを用いて、実効遅 発中性子割合と即発中性子減衰定数を計算した。計算体系を図3.4.2-6に、燃料組成を表3.4.2-6 に示す。
評価済み核データJENDL-4.0, ENDF/B-VII.0, JEFF-3.1と新評価に基づく核データを用いて、
加速器駆動炉ベンチマーク問題に対する実効遅発中性子割合と即発中性子減衰定数を計算した結 果を表3.4.2-7に示す。JENDL-4.0とJEFF-3.1の結果は、ほぼ同じ結果となり、ENDF/B-VII.0 はそれらの結果に比べて3%程度小さくなることが分かった。また、新評価に基づく核データは、
前節の解析結果と同様、JENDL-4.0の結果に比べて約10%過大評価する結果となった。どの核 種に対する遅発中性子収率データの影響が大きいかは、感度解析をする必要があり、今後の検討 課題である。
f. まとめ
遅発中性子収率を新しく評価した核データファイルからMVP用断面積ライブラリを作成し、
実効遅発中性子割合と遅発臨界時の即発中性子減衰定数に対する計算精度を調べるため、一昨年 度用意したベンチマーク問題について積分実験解析を実施した。