3. 平成 27 年度の実施内容及び成果 10
3.2 核分裂片の崩壊熱と遅発中性子収率の研究
3.2.2 理論模型の改良
a. β崩壊及びその随伴現象の基本事項 β崩壊半減期は崩壊定数λβを用いて
T1/2 = ln2
λβ (3.14)
とかける。β崩壊は崩壊の型に応じてフェルミ遷移、ガモフ・テラー遷移、第1禁止遷移. . .と 独立事象として遷移する。よって
λβ =λF+λGT+λ(0)1 +λ(1)1 +λ(2)1 +· · · (3.15) となる。崩壊定数の具体的な表式はガモフ・テラー遷移のみを挙げると
λGT = m5ec4 2π3¯h7|gA|23
∫ 0
−Q|MGT(E)|2f(−E)dE
(3.16) となる。|MΩ(E)|は崩壊の型Ωに対する核行列要素、fは積分されたFermi関数である。積分は 親核の基底状態エネルギーを0、娘核の基底状態エネルギーが−Qβとして−Qβから0までなさ れる。QβはQ値である。
遅発中性子の放出はβ崩壊する際に娘核の中性子分離エネルギーSnがQβより小さいときに 起こりうる。そのとき放出される中性子は0からQβ−Snの範囲のエネルギーを持つ。このとき 遅発中性子放出確率は閾エネルギーから親核の基底状態エネルギーまでを積分することによって 得られる:
Pn = C λβ
∫ 0
−Qβ+Sn
|M(E)|2f(Z,−E) Γn
Γn+ ΓγdE (3.17)
ここでCは式(3.16)における積分の外側にある係数に関連した定数である。崩壊幅Γは中性子
放出とγ崩壊との競合を表現するために導入した。
崩壊熱の計算も核行列要素及びある因子を乗じた量を積分することによって得られる。
b. β崩壊大局的理論
β崩壊半減期、遅発中性子放出確率、崩壊熱を計算として得るためには核行列要素M(E)を求 める必要がある。本事業においては大局的理論と呼ばれる方法を採用してこれを求める。その詳 細は前年度までの報告にて概説したので割愛するが、その要点は|M(E)|を以下の形で記述する 点にある。
|MΩ(E)|2 =
∫ ϵmax
ϵmin
DΩ(E, ϵ)W(E, ϵ)dn1
dϵ dϵ (3.18)
ここでDΩは1粒子強度関数、ϵは崩壊する核子の単一粒子エネルギー、そしてW(E, ϵ)はPauliの 排他原理を表現した関数、そしてdn1/dϵは単一粒子エネルギー分布である。単一粒子関数D(E, ϵ) は適当な関数で表されており、これが和則を満たすように構築されている。
c. 解析
図3.2.2-2は核行列要素の2乗である|M(E)|2およびそれにf関数をかけた量|M(E)|2f(−E)を
137Iを例にとったものである。上段は|M(E)|2を対数表記で表したものである。 −2.8 MeV付近 にある不連続性は対相関エネルギーギャップによるものであり、娘核の基底状態付近(図中左端)
に見られるパルス状の構造は離散的な固有状態の成分によるものである[2]。核行列要素に関す る限り第1禁止遷移は許容遷移と比べてかなり大きい値を持つことが示されている。一方中段の 図は崩壊定数の要素を対数表記したものである。全エネルギー領域にわたってGamow-Teller遷 移に対する崩壊定数は他の崩壊様式に比べて大きい値を示す。これは一つには強度関数の関数形
がFermi関数や第1禁止遷移に比べて異なるからであり、また、第1禁止遷移の核行列要素が他
の遷移の場合に比べて大きいが、最終的に崩壊定数を求める際には、第1禁止遷移には(mec/¯h)2 というおよそ10−7の付加因子がかけられており、第1禁止遷移の値は小さい。
一方遅発中性子放出確率を計算する積分は−Qβ+Sn (図中の垂直線)から0までの、高励起部 分にわたる部分で行われる。この領域は積分値の絶対値は図中の対数表記の様子を見て分かる通 り全体の領域を積分する場合(全崩壊定数)に比べて小さいので、遅発中性子放出確率の積分は 全崩壊定数の値にはあまり寄与しない。
大局的理論はβ崩壊の遷移強度を表す強度関数が満たすべきエネルギー和則を用いて構築され たもので、β崩壊の大域的性質を表すのに適した理論である。ただし元々の形だとあまり核構造
の詳細に立ち入らないため、核構造依存の不一致が生じる場合があり、実際に用いられる大局的 理論はその点で一部改良を施している。和則のみを考慮した大局的理論を’Plain’と呼ぶとする と、現状の大局的理論は’GT2(Gross Thoery 2nd vversion)’と呼ばれ、’Plain’な大局的理論に 比べて、(1)パウリ原理適用の改良およびβ和則の再検討、(2)対相関理論に基づく陽子数・
中性子数の偶奇性に伴う補正、(3)ガモフ・テラー強度関数の改良が施したものである[3, 4, 5]。
図3.2.2-7は計算値と実験値の半減期の比の常用対数(Log10)を取ったものである。上図は大
局的理論のGT2のものである(下図は後説にて説明)。全体の傾向は理論計算は概ね実験データ の傾向を示しているといえるが、半減期を過小評価している特徴的な領域が存在する。それは
• Z=9-20, N=21-28
• Z=29-40, N=51-58
• Z=47-58, N=77-82
• Z=71-82, N=127-138 の領域である。
この不一致を詳細にするため、Z=47-58, N=77-82近辺の同位体の実験値との比較を図3.2.2-4 に示す。黒三角、黒丸などが実験値、赤がこれまでのGT2の結果である。In,Cd,Agの同位体に おいて、中性子数82のところから中性子数が大きいところ炉ででGT2の半減期が急に下がって いる。この境では実際β崩壊Q値が急に上がっているが、実験値はそのQ値の急な変化に影響 を受けず、単調な減少の傾向を示している。また、比較のために載せたFRDM+QRPA計算でも 単調な減少の傾向を示している(彼らのQ値も急な変化を示しているが、QRPAの半減期計算 にその影響は見られない)。
図3.2.2-5は131,132Inの単一粒子準位を示したものである。131In82では中性子のFermi面での 準位軌道が2d3/2でパリティは+であり、一方陽子のFermi面での準位軌道が1g9/2 でパリティ は同じく+である。一方132In83では中性子のFermi面での準位軌道が2f7/2でパリティは−であ り、陽子のFermi面での準位軌道1g1/2のパリティ+と異なる。これによりβ崩壊の主要な部分 は抑制され、半減期としては長くなる傾向になるはずである。
大局的理論は原子核の幅広い領域にわたり精度よく実験値のβ崩壊及びそれに付随する現象の 諸量をよく再現する模型として用いられているが、これまでの大局的理論ではこのような意味で の核構造に起因する効果は取り入れられていなかった。そこで、本事業では大局的理論にこのよ うな核構造に起因する効果を取り入れて改良を行う。
d. 大局的理論の改良
これまでの大局的理論はスピン・パリティといった核構造の詳細に関しては考慮していなかっ た。この場合、特に問題となるのは単一粒子軌道の移行に伴うパリティ変化である。単一粒子描 像で見たとき、中性子準位のパリティと陽子のパリティが異なる場合は許容遷移が抑制される。
この場合の準位とは、原子核全体のスピン・パリティ(例えば偶偶核なら0+、奇質量核なら半整 数、奇奇核なら整数を組む)そのものではなく、仮想的に陽子・中性子がそれぞれ独立に運動し ていると想定した際に考えれらる、それぞれの単一粒子準位のことである。例えば前節での例で
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図 3.2.2-1: β崩壊および遅発中性子放出の模式図。
は13149 In82の場合、中性子準位は2f7/2(パリティはf軌道により−)、陽子準位は1g9/2(パリティ はg軌道により+)といった具合である。
大局的理論では、核行列要素の2乗は式(3.18)で表されるが、単一粒子エネルギー分布dn1/dϵ
はFermi面付近では離散的に扱い、それ以外の部分は連続分布として扱っている。β崩壊に関わ
る核子はFermi面付近の核子のみではなく、エネルギー的に可能なあらゆる核子が関わる。例え
ば偶偶核の場合、β崩壊に関わる核行列要素は大局的理論では次のように表す。
|MΩ(E)|2 =|MΩS→l(E)|2+|MΩS→Cl(E)|2+|MΩC→C(E)|2+|MΩC→l(E)|2 (3.19) このうち添字sは陽子・中性子で崩壊する側の核子(β−の場合中性子、β+の場合陽子)の最後 の(離散)準位でsufaceの頭文字、添字lは陽子・中性子で崩壊されるる側の核子(β−の場合陽 子、β+の場合中性子)の最後の(離散)準位でlowestの頭、cは連続状態(continuum)の意味 である(図3.2.2-6参照)。奇質量数核も同様に表記できる。
今回の改良では、陽子・中性子の基底状態単一粒子準位のパリティが異なる場合、許容遷移で は基底状態を含む子崩壊に関わる遷移を抑制するように模型を修正する。言い換えるとパリティ が異なる場合の許容遷移では連続状態(c)→連続状態(c)間のみの遷移を許す、という条件を与 えることにする。つまり
|Mallowed,parity−hindered(E)|2 =|MΩC→C(E)|2 (3.20) とする(図3.2.2-6で黒矢印のみの遷移)。
このような過程が成り立つのは概ね球型原子核付近の準位に対してであり、変形核領域ではよ り多くの状態が混在するためあまりよく成り立たないと予想される(つまりFermi付近が関わ る許容遷移が起こりうる)。そこで、変形度が大きい原子核に対していは従来の方法のままで計 算を行う。変形度の理論予測に対してはKTUY質量模型[7]の値を用い、最適化の結果変形度
α= 0.05以下の核種に対して今回の修正を行った。
単一粒子準位の推定に対してはKoura-Yamada単一粒子ポテンシャル[8]の計算結果をもとに 数表化したものを用いた。このポテンシャルは任意の陽子数・中性子数に対して球形単一粒子準 位を与えるものであり、KTUY質量公式の元となるポテンシャルである。
10
-1110
-810
-5|M(E) |
2f( - E)
F 1st
all
GT
10
-510
-210
1|M(E)|
21st
F GT
8x10
-36 4 2 0
|M(E) |
2f( - E)
-6 -4 -2 0
Decay energy E (MeV)
GT all
F 1st
S
n- Q
β−Q
β−- Q
β−+S
n図 3.2.2-2: (上段): 137Iの場合の核行列要素の2乗。Fermi (F)遷移、Gamow-Teller (GT)遷移、
および第1禁止遷移(1st)の場合。(中段): 核行列要素の2乗と積分されたFermi関数との積(対 数表記)。 (下段): 中段と同様。ただし線形表記。
大局的理論の強度関数部分については上記の変更に伴い修正を行い、今回結果としてGT2と 呼ばれる版の一つ前の関数型及びパラメータセットを用いた[4]。その違いは関数型とパラメー タセットの選択にとどまる。
e. 改良の結果
(i)半減期・遅発中性子放出確率
上記の改良に伴い、単一粒子準位のパリティが変化する箇所で許容遷移が抑制された。まず Z=47-58, N=77-82近辺の同位体の実験値との比較を図3.2.2-4に示す。図中の緑の線が今回の結 果である。In,Cd,Agの同位体においてGT2の時に見られた、中性子数82のところでの理論計算 の急激な変化がなくなり、ほぼ実験値の傾向が再現されている。表3.2.2-1にあるように、この領 域でのKoura-Yamadaポテンシャルから得られた単一粒子準位は中性子数77-82までのが2d3/2