本節では転作農作物の販売額および田畑共通の麦・大豆への交付金に関して説明する。図表11で は、本稿における転作作物の販売額および田畑共通の交付金設定を示している。1列目には農林業セ ンサスが調査している農地利用と対応している年度、2列目には政策・交付金制度名、3列目には本 稿における交付金設定の導出の考え方、期待農業収入額の設定に関する説明、4列目には参考値とし て全国平均の農業収入額とその内訳が記載されている。86 なお、本稿で推定に用いるデータは農林 業センサス1995から農林業センサス2010までの3遷移4時点のデータであるが、将来的なシミュ レーションを行うために図表11には2014年度、2019年度に関する設定を記入している。
83 脚注80にも示したように都府県において小麦、大豆の大半は田で栽培されているが、作物統計が示す平均収量や作況指 数は田畑合算の値である。
84 東京都、大阪府など転作作物に関する平均収量が公表されていない都府県は対応する農業地域と同等の平均収量がある とみなして平均収量調整係数を1とした。
85 転作作物に関しては、平均収量調整係数によって県単位で平均収量の調整を行っている一方で、品質やブランドに関す る調整は麦で農業地域単位、大豆では全国一律となっている。
86 生産費統計による水稲の農業収入は(10aあたり全国平均)は1999年度で132,026円、2004年度で118,504円、2009年 度で115,430円、2013年度で113,522円となっている。
図表11 田作小麦および田作大豆の農産物販売額および田畑共通の交付金設定
図表11に関する説明に先だち生産費調査に公表されるデータとその変化について説明する。本章 1節でも言及したように生産量に比例する交付金は、原則として生産費統計において農業粗収益に含 まれている。2010年度以前の生産費統計においては農産物販売額と交付金を区別することができな い。87しかしながら、生産量に比例する交付金のみであれば、交付金額は地域差や作況による農産物 販売額の変化と比例的に変化すると考えることができる。全ての農家が受給でき、生産量と比例し て給付される交付金のみであれば、前節の(7)式において「農産物販売額+生産量に比例する交付金」
の各項を区別する必要はない。また転作作物に関しては、(8)式における米価調整係数は1であるた め、農産物販売額に生産費調査の農業収入データを代入すれば作況と地域別収量を考慮し、交付金 を含めた期待農業収入額を算出することができる。転作作物に関しては、全農家が受給できる生産 量と比例する交付金のみであれば、生産費統計で公表されている交付金を含めた農業収入を期待農 業収入の導出に直接利用することができる。
【1999年および2004年に関する導出】
農林業センサス2000に対応する1999年において、小麦は食糧法による政府無制限買取規定によ って、ほぼ全量が政府買取であった。全量買取は市場均衡価格と政府買取価格の差額を交付金で補
87 2010年度以前の生産費統計計では原則として農業粗収益は単一の系列であり、農産物の販売額と交付金を区別すること
ができなかった。2011年および2012年の生産費統計では「農業者戸別所得補償制度の受取金」、2013年以降の生産費調査 では「経営所得安定対策の受取金」が公表され、交付金を区別できる形になっている。
年度 政策、制度名
【補助金対象者】
本稿における導出の考え方、
期待農業収入額の設定
【 参考値】 転作作物の農業収入設定
( 1 0 aあたり全国平均)
1999年度 麦:ほぼ全量を政府買取 大豆:大豆交付金
田作小麦(全農家):58,006円 田作大豆(全農家):46,356円
2004年度 麦:麦作経営安定資金大豆:大豆交付金 田作小麦(全農家):49,138円
田作大豆(全農家):44,700円
2009年度
水田経営所得安定対策
(麦・大豆直接支払)
【4ha(北海道は10ha)以上 の経営耕地を持つ認定農業 者または20ha以上の経営 耕地を持つ集落営農組織】
水田経営所得安定対策における成績払は、その一部が、生産 費調査の農業収入(農業粗収益)に含まれており、固定払は除 外されていると見なす。
補助金の対象となる選択、対象者は農産物販売額、成績払を 選択時の期待値に換算し、固定払の現在価値と合わせて、
(6)式に代入し、転作作物の期待収入額を算出する。補助金の 対象とならない場合は農産物販売額のみ選択時の期待値に換 算して代入し、成績払、固定払は0として(6)式に代入し、転作 作物の期待収入額を算出する。
田作小麦(補助金の対象者):49,043円 農産物販売額:14,954円
成績払:7,953円
固定払の現在価値:26,136円 田作大豆(補助金の対象者):41,855円 農産物販売額:16,250円
成績払:6,545円
固定払の現在価値:19,060円
2014年度
(2013年度の 統計を利用)
経営所得安定対策
(畑作物の直接 支払交付金)
2011年度以降の生産費統計は、補助金を除いた農産物販売 額を計上するようになった。これに補助金政策として設定されて いる数量払い(面積払の内金を除く)および、面積払の現在価 値を加算する。
全農家、全選択において、農産物販売額、数量払、面積払の 現在価値を事前の期待値に換算して(6)式に代入し、転作作 物の期待収入額を算出する。
田作小麦(全農家):54,609円 農産物販売額:15,105円 数量払の期待値:19,800円
面積払(営農継続払)の現在価値:19,704円 田作大豆(全農家):62,576円
農産物販売額:24,772円 数量払の期待値:18,100円
面積払(営農継続払)の現在価値:19,704円
2019年度
(2013年度の 統計を利用)
経営所得安定対策
(畑作物の直接 支払交付金)
【認定農業者、
集落営農組織】
2019年度の大豆、小麦に対する補助金は2015年度に存在し ているものと同一と想定する。2014年度と2015年度の小麦大 豆に関する補助金政策の相異は、補助金の対象者が限定され たことに加えて面積払いの対象が当年産の作付面積となった ことの2点が挙げられる。
補助金の対象となる場合は、販売額、数量払、面積払を事前 の期待値に換算して(6)式に代入し、転作作物の期待収入額 を算出する。
田作小麦(補助金の対象者):54,905円 農産物販売額:15,105円
数量払の期待値:19,800円 面積払(営農継続払):20,000円 田作大豆(補助金の対象者):62,872円 農産物販売額:24,772円
数量払の期待値:18,100円 面積払(営農継続払):20,000円 政府買取・交付金は、生産費調査の農業収入(農業粗収益)に
含まれて計上されている。これらの政府買取、交付金は全農家 に対する生産量に比例する補助金と見なせる。このため、農業 収入の公表値を(8)式の「農産物販売額」に代入する。
填する政策に等しく、生産量に比例した交付金を受け取ると考えることができる。88 大豆に関して も1999年産の収穫物までは一定の基準価格が生産者に保証され、基準価格と販売価格の差を大豆交 付金で埋め合わせる形であった。89 1999年においては小麦および大豆は一定価格での政府買取が保 証されており、生産者を問わずに生産量に依存する交付金と同等と見なすことができた。90 このた め1999年産の小麦、大豆に関しては、生産費統計で公表されている農業収入データを(8)式の農 産物販売額に代入することで転作作物に関する期待農業収入額を算出することができる。
その後の2000年産の小麦より麦作経営安定資金による価格補償へと移行され、この制度は2006 年度まで継続した。なお、麦作経営安定資金の農業者を問わずに価格補償をする形式は全量買取の 期間と共通している。また、大豆に関しても1999年に公表された「新たな大豆政策大綱」によって 市場評価が生産者の手取額に一部反映される形となったが、2006年度に至るまで農業者を問わずに 生産量に依存して交付される交付金の形式を保っていた。このため2004年産の小麦、大豆に関して も、生産費統計公表されている農業収入データを(8)式の農産物販売額に代入することで転作作物 に関する期待農業収入額を算出することができる。よって図表11の1999年度、2004年度の3列目 には、生産費統計の公表値を直接利用する旨が記載されている。
【2009年に関する導出】
小麦、大豆に対する交付金制度が複雑になるのは、2007年度に開始された品目横断的経営安定対 策以降である。91 2 章 5 節にも論じたようにこの時期から、担い手に集中した交付金政策が本格的 に実施された。品目横断的経営安定では、2006年に成立した担い手経営安定新法(農業の担い手に 対する経営安定のための交付金の交付に関する法律)に基づき、農作物毎に区分されていた交付金 政策を一元化するとともに、交付金の受給対象を経営耕地規模の要件を満たす担い手農家に限定し た。4種類の特例措置が設定されたものの品目横断的経営安定対策の対象となる担い手は、原則とし て4ha以上(北海道は10ha以上)の認定農業者あるいは20ha以上の集落営農組織であった。92 2007 年度に開始された品目横断的経営安定対策は、修正を伴い2008年度より水田・畑作経営所得安定対 策と名称変更された。93
88 生産費統計における1999年産の田作小麦においては、交付金のない農業収入に加えて、契約生産奨励金、良品質麦安定 供給対策助成金、民間流通支援特別対策助成金が加算された農業収入が示されている。これらの交付金は原則として生産 量に依存し、本稿では交付金を含めた農業収入のデータを用いる。2004年産の田作小麦の農業収入に関しても、生産費統 計に記載のある交付金・奨励金収入を含めた額を農業収入データとして利用する。
89 生産費統計における1999年産の田作大豆においては、大豆交付金のみを加えた農業収入に加えて、大豆政策確立円滑化 対策の補助額を含めた農業収入が参考値として示されている。通常の農業収入との差異は10aあたり65円と微細だが、交 付金を含めた本稿ではデータとして農業収入として用いる。2004年産の田作大豆の農業収入に関しても、生産費統計に記 載のある交付金・奨励金収入を含めた額を農業収入データとして利用する。
90 梅本・島田(2013)P56によれば、全販連(現在の全農)に販売を委託することが、大豆交付金を得るために必要であり、
生産者が加工業者や卸売業者に直接販売する大豆は交付金の給付対象から除外されたとしている。
91 大豆、小麦に関する交付金政策や需給動向に関しては、藤野(2009)、藤野(2010)にそれぞれ示されている。生産費統計の データを用いて、品目横断的経営安定対策の実施時における緑ゲタ(固定払)、黄ゲタ(成績払)の取り扱いを示している。
92 4種類の特例措置は、物理的制約特例、生産調整特例、所得特例、知事要請による特例である。品目横断的経営安定対 策の導入の経緯および内容に関しては新妻(2006a)が端的にまとめている。
93 品目横断的経営安定対策から水田・畑作経営所得安定対策への主な修正としては、知事要請による特例が市町村特認制 度へと変更されたことが挙げられる。