5 離散選択モデルの推定およびシミュレーション
図表17 離散選択モデルの推定結果(サンプルサイズ:119,823,102 対数尤度:-1113901.1)
3段階目における田の作付面積の乖離に関しては、より離れた作付け規模の選択を行わない傾向に あるため、全ての推定値が負となっている。ただし、認定農業者に関しては、上方乖離の推定値は 下方乖離の推定値に比べて絶対値で小さく、認定農業者の田の作付面積は増加傾向となることが分 かる。一方で認定農業者以外に関しては上方乖離の推定値は下方乖離の推定値に比べて絶対値で大 きく、田の作付面積は減少傾向にあることが分かる。加えて、前期と同じ田の作付規模区間を継続 する選択ダミーは正の値となっており、田の作付け規模の変化には金銭的・心理的な固定費用があ る可能性を示唆している。また、農林業センサスの販売農家のデータ制約を考慮するために設定し
た 0.3ha 未満の田の選択に関するダミーは負の推定値を示している。当該規模の選択した農家の一
部は自給的農家となり、農林業センサスの販売農家に限ったデータにおいて表面化しない可能性を 示している。
段階 推定値 標準誤差
0.0006 0.0010 0.2991 0.0060
1995→2000 0.2661 0.0091
2000→2005 0.0606 0.0092
2005→2010 -0.1439 0.0098
0.4894 0.0037 0.7766 0.0077
1995→2000 -4.3479 0.0153
2000→2005 -3.8209 0.0138
2005→2010 -3.3832 0.0130
-0.3326 0.0046 -0.5067 0.0101 -1.8919 0.0082 -0.6944 0.0073 2.0520 0.0040 -0.3009 0.0061 0.4078 0.0236 0.2609 0.0145 -1.0776 0.0051 認定農業者:稲作割合の上方乖離(%) -0.0431 0.0015 認定農業者:稲作割合の下方乖離(%) -0.0435 0.0006 認定農業者以外:稲作割合の上方乖離(%) -0.0257 0.0004 認定農業者以外:稲作割合の下方乖離(%) -0.0535 0.0002 認定農業者:稲作割合の上方乖離(%) -0.0381 0.0011 認定農業者:稲作割合の下方乖離(%) -0.0560 0.0008 認定農業者以外:稲作割合の上方乖離(%) -0.0154 0.0003 認定農業者以外:稲作割合の下方乖離(%) -0.0618 0.0003 認定農業者:稲作割合の上方乖離(%) -0.0335 0.0009 認定農業者:稲作割合の下方乖離(%) -0.0548 0.0007 認定農業者以外:稲作割合の上方乖離(%) -0.0144 0.0004 認定農業者以外:稲作割合の下方乖離(%) -0.0689 0.0003 0.8952 0.0628 0.9532 0.0282 0.1263 0.0184 inclusive
value
2段階目→1段階目 3段階目→2段階目 4段階目→3段階目
稲作・転作の両作付ダミー
4段階目
(稲作割合)
稲作期待利潤(百万円)
転作期待利潤(百万円)
1995→2000
2000→2005
2005→2010 2段階目
(認定 農業者)
当期の田以外の農業売上(百万円)
当期の田以外の経営耕地面積(ha)
認定農業者の選択の固定効果
3段階目
(田の 作付規模)
認定農業者:前期との田の作付面積の上方乖離(ha)
認定農業者:前期との田の作付面積の下方乖離(ha)
認定農業者以外:前期との田の作付面積の上方乖離(ha)
認定農業者以外:前期との田の作付面積の下方乖離(ha)
田の作付規模区分の前期と合致の選択ダミー 田の作付規模0.3ha未満の選択ダミー
説明変数
1段階目
(田作継続)
前期の農業総売上(百万円)
前期の総経営耕地面積(ha)
農業経営体の継続選択の固定効果
4段階目における稲作の作付割合の選択に関しては、稲作利潤および転作利潤とも正であり、農家 は農作物からの利潤が大きい選択肢を選択する傾向にある。ただし、稲作利潤の推定値は転作利潤 に比べて大きくなっており、稲作と転作が同じ利潤額であれば転作に比べて稲作をより好む傾向、
あるいは転作作物の作付けには稲作に比べて生産費統計に表れない非金銭的な費用が大きいことが 示されている。また稲作、転作の両作付ダミーの推定値は負となっており、稲作あるいは転作作物 の生産に関する知識、技術を習得すること、複数の作物の並行した作付には非金銭的な費用がある ことを示唆している。
また 4 段階目の追加的な説明変数として、前期との稲作割合の乖離が認定農業者とそれ以外の 2 種、稲作割合が増える方向と上方乖離と減る方向の下方乖離の2種で計 4種類をそれぞれの期間で 設定している。総じて前期と近い稲作割合を選択する傾向にあるため、これら12種類の推定値は全 て負となっている。各期間において認定農業者と認定農業者以外を比べると認定農業者で上方乖離 が絶対値で大きく、下方乖離が絶対値で小さくなっている。この推定結果は、認定農業者は転作に 関する補助金などの金銭的な利潤をコントロールしても、認定農業者以外に比べて稲作生産調整に 応じて稲作割合を低下させる傾向にあることを示している。金銭的な利潤をコントロールしても認 定農業者の方が転作の選択が高い一因として 2010 年以前の認定農業者の申請において稲作生産調 整への協力が義務づけられていたことが考えられる。また荒幡(2014)P336 には『「担い手農家なら ば、転作を引き受けてくれる」という実感は、平成10年以前から、行政担当者の間では共通認識と なっていた。』と記載されており、転作を依頼する行政担当者側にも認定農業者で転作が浸透する理 由の一端があったと考えられる。
最後に下層の選択肢が上層の選択肢に与えるinclusive valueは総て正の値となっており、下層の 選択肢の魅力が増せば、それを含む上層の選択肢が選ばれやすくなる傾向を示している。4段階目の 稲作、転作の作付面積から得られる利潤などを考慮して、3段階目の田の作付規模を選択している。
また、3段階目における田の作付規模の変化等を考慮して、2段階目の認定農業者となるかを選択し ている。1段階目では、2段階目の認定農業者となるかを考慮した上で、田作の継続を選択している。
ひいては4段階目の稲作割合およびそこから得られる利潤が1段階目の田作継続の選択にまで遡っ て影響を与えていることを示している。
図表17が示す推定値は、基本的に理論や実態と整合的な符号を示している。図表17の推定値が 得られた後は、農家の状態および各選択肢の属性を説明変数として与えれば、その農家が各選択肢 を選択する予測確率を算出できる。農家毎にそれぞれの選択肢を選択する確率を作成し、全ての農 家で選択確率を足し上げれば、モデルが示す翌期の状態数を予測することが可能となる。なお、離 散選択モデルの推定においては 8.33%のサンプルデータを用いたが、状態数の予測およびシミュレ ーションに関しては利用可能な全てのデータを用いる。
以降の節でシミュレーションに利用する農林業センサス 2010 に関して実データと予測値の整合 性を確認する。まずはそれぞれ二択の選択となっている田作継続の農家数および認定農業者数を比 較する。農林業センサス2005から2010への田作農家の遷移において、田作を継続した実データ数
は 1,277,726 戸であり、対応する田作継続の予測数は 1,277,723 戸となっている。また、継続した
農家のうち認定農業者数は実データで142,677戸、予測値で142,594戸となっている。実データと 予測値において、田作を継続した農家数、認定農業者数の差は極めて小さくなっている。これはモ
デル当てはまりが良いのではなく本稿におけるモデルの設計に依存している。3 章 4 節にも示した ように田作の継続および認定農業者に対してそれぞれの期間に対して固定効果を設定している。各 固定効果の推定値は田作の継続および認定農業者となることを平均的に説明できる値となる。この ため、田作継続農家数および認定農業者数の予測値を集計すると概ね実データの頻度と合致する。130 本稿で用いた45府県データにおいて、農林業センサス2005から2010への遷移で実際に選択し た選択肢から田作面積を集計すると139.5万 haとなる。131 一方で、図表17から3段階目までの 予測値を集計すると田作面積の合計値は138.5万haとなっている。また、田作面積の内数となって いる4段階目の稲作面積は、実際の選択における集計値で118.4万ha、予測値での集計値では117.5 万haとなっている。農林業センサス2010における実際の選択に対して予測値の田作総面積は99.3%、 予測値の稲作総面積は99.2%となっている。図表17の推定結果の予測精度は許容範囲にあると見な して、推定結果を用いたシミュレーションによって将来における稲作生産調整政策を評価する。続 く 2 節では将来のシミュレーション全般に関する設定、3 節では本稿の分析における非主食用米の 増産および米価の変化に関する設定を示す。