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4-1. 脳波と下顎筋電図による睡眠段階判定の試み

4-1-1. はじめに

前章では、OSAHS 患者について、計測には PBSM を使用し、自律神経活動の評 価には心電図 RR 間隔のゆらぎ成分である HF 成分のパワー値や LF/HF 値などを 用い、睡眠呼吸障害の重症度の鑑別には PSG 記録による AHI および Arousal Index などの指標を用い、睡眠呼吸障害の重症度と自律神経活動との関連性について 検討した。その結果、AHI が 30 以上、および Arousal Index が 30 以上の重度障 害群では、無呼吸や低呼吸、それに伴う異常覚醒により、自律神経のバランス が崩れ交感神経活動が優位となる。一方、AHI が 15 未満程度の睡眠呼吸障害で は自律神経活動にあまり影響しないことを報告した78)。さらに、重度障害群で は深睡眠やレム睡眠の割合が少なく睡眠の質が低下していることが示唆された。

睡眠の質は一般的には眠っている時間、睡眠の深さ、中途覚醒などにより判 定される。すなわち、全睡眠に対する深睡眠比率は睡眠の質を評価するのに重 要な指標である4-5、79-83)。睡眠の深さの判定は脳波、眼球電図、筋電図により行 われ、睡眠・覚醒の判別の他に睡眠の質(睡眠段階)についても明らかにでき る。しかし、PSG 検査には入院が必要であり、また、解析が煩雑なため、容易に 繰り返し検査することができない。そこで、 PSG の結果を反映する睡眠呼吸障 害の簡便な検査法が必要である。

実際、睡眠呼吸障害の診断のための簡便な検査法として携帯モニター装置が あり、国内では、呼吸 2 チャネル、心拍数または心電図および酸素飽和度(SpO2)

の装置が使用されることが多い37-41, 84-86)。しかし、この装置では脳波のモニタ ーが含まれないことから睡眠段階を判定できず、睡眠の質が反映されない 37-41,

84-86)

そこで、睡眠段階を評価できる簡便な検査法の開発が望まれる。PBSM は脳 波の計測が可能であることから、本章では、まず、脳波および下顎筋電図の周

波数分布により、睡眠段階の推定の可能性について、PSG による睡眠段階と比較 することで検討を行った。

4-1-2. 対象・方法

OSAHS が疑われ、PSG 検査の目的で 2005 年 10 月から 2007 年 4 月の間に東北 大学病院感染症呼吸器内科に入院した 33 例、31~82 歳(56.2±14.7 歳,平均

±標準偏差)を対象とし、PSG と PBSM による脳波および下顎筋電図の同時測定 を午後 8 時から翌朝 6 時まで施行した。PSG 検査では、マニュアル解析により 30 秒間隔で睡眠段階を覚醒期、浅睡眠期、深睡眠期、レム睡眠期の 4 段階に分 類した。また、睡眠段階の判定とともに、PSG 記録から AHI、Arousal Index お よび ODI を算出した。

一方、PBSM では、脳波は乳様突起上に基準電極をつけ同側の前額部より導出 し、下顎筋電図はオトガイ筋上に 2 個の電極を 3~4cm 離して装着し双極導出と した。脳波および下顎筋電図を 2 秒間単位で FFT を用いて周波数解析し、30 秒 間の平均値を求め、これらの値を PSG により判定された睡眠段階に分類した。

検討した測定値は平均値±標準偏差で表示し、統計学的検討は分散分析を行い、

有意なものについて Mann Whitney’s U test を行った。その際、危険率 5%以下 を有意とした。また、二つのパラメータ間の相関には回帰分析を行い、相関係 数を算出し、その有意性を検討した。

4-1-3. 結果

表 4-1 は対象である 33 例の OSAHS が疑われる患者の BMI、AHI、ODI、Arousal Index、深睡眠比率、レム睡眠比率を示している。BMI は健常人の基準値と比較 して高く、肥満であることを示している。また、AHI、ODI いずれも基準値と比 較して高値であり、無呼吸や低呼吸により血中の酸素飽和度が低下しているこ とがわかる。さらに、Arousal Index の平均値は 45.4 であり、夜間、頻繁に脳 波上では覚醒反応を呈する症例が多かった。これと反対に、深睡眠の割合は平 均 8.4%と低値であった。PSG による AHI の数値から、OSAHS と診断された症例は

26 例であり、AHI5~15 の軽症は 7 例、AHI15~30 の中等症は 4 例、AHI30 以上 の重症は 15 例であった。なお、7例は AHI が 5 未満で、OSAHS ではないと診断 された。

表 4-1.OSAHS 群の特徴 測定値

平均値±標準偏差 基準値 被験者数(男/女) 33 (24/9)

年齢 58±15

BMI (Kg/m2) 26.7±5.1 18.5 ≦ BMI < 25 AHI (/h) 27.8±26.4 < 5.0 ODI (/h) 24.3±25.6 < 5.0 Arousal Index (/h) 45.4±18.4 < 5.0 深睡眠比率 (%) 8.4±6.6 20-25 レム睡眠比率 (%) 15.0±7.1 15-20

図 4-1 は、PSG 検査により判定した睡眠段階を横軸にとり、PBSM から得られ た脳波を 4 周波数帯域(δ波(1-4Hz)、θ波(4-8Hz)、α波(8-13Hz)、β波 (13-30Hz))に分類し、その割合を各睡眠段階で表したものである。この割合に ついて分散分析を行った結果、δ帯域の割合は覚醒期、浅睡眠期、深睡眠期、

レム睡眠期でそれぞれに有意差を認め、覚醒期で低値、深睡眠期で高値であっ た。θ帯域の割合は深睡眠期では他の 3 段階に比較して有意に低値であった。

一方、浅睡眠期と覚醒期、レム睡眠期の間には有意差を認めなかった。α帯域 の割合は浅睡眠期とレム睡眠期では有意差はなかったが、浅睡眠期とレム睡眠 期に比較して、覚醒期では有意に高値となり、深睡眠期では有意に低値であっ た。β帯域の割合は 4 段階全てでそれぞれに有意差を認め、深睡眠期で低値、

覚醒期で高値であった。

図 4-1 から覚醒から深睡眠期に移行するに従ってδ波の割合が増大し、β波 の割合が減少することがわかる。また、レム睡眠期におけるδ波とβ波の割合 は覚醒期と浅睡眠期における割合の中間にあることがわかる。従って、この傾 向をより強く表現するためにβ波の割合/δ波の割合の比を計算することを考

えた。

図 4-2 は、PSG 検査により判定した 4 睡眠段階別に PBSM による脳波のβ成分 とδ成分との割合について平均値±標準偏差で示している。覚醒期、浅睡眠期、

深睡眠期およびレム睡眠期における脳波のβ波の割合/δ波の割合の平均値は、

それぞれ 43.8%、14.7%、3.2%および 23.5%であり、全ての間に有意差を認め、

覚醒期で高値、深睡眠期で低値であった。深睡眠期のβ/δ値は全例で 5.5%以下 と小さく、浅睡眠期とは 33 例中 2 例のみで重なった。

図 4-3 は PSG 検査により判定した 4 睡眠段階別に PBSM による下顎筋電図のβ 周波数帯域の割合を平均値±標準偏差で示したものである。覚醒期、浅睡眠期、

深睡眠期、レム睡眠期におけるβ波の割合の平均値はそれぞれ 44.8%、29.3%、

15.0%、14.7%であり、深睡眠期とレム睡眠期の間のβ波の割合に有意差はなか った。一方、覚醒期および浅睡眠期のβ波の割合は、深睡眠期およびレム睡眠 期のそれと比較して有意に高値であり、覚醒期のβ波の割合は他の 3 段階と重 なる症例は 33 例中 4 例と少なかった。レム睡眠期のβ波の割合は全例で 20.2 % 以下で、浅睡眠期の 19.4 %以上に比較して有意に低く、重なり合う症例は 2 例 のみであった。

図 4-1. 睡眠 4 段階別の PBSM による脳波のδ、θ、β、and α波の割合

図 4-2.睡眠 4 段階別の脳波のβ周波数とδ周波数の割合(β/δ)の特徴

図 4-3.睡眠 4 段階別の下顎筋電図のβ成分の特徴

4-1-4. 考察

PSG 記録において、記録第一夜では、電極の装着や検査室の環境・寝具などが 被験者の普段の睡眠環境と異なり、睡眠段階の潜時などが延長し、普段の睡眠 と同一ではないとの指摘もある 87-90)。しかし、実際、睡眠呼吸障害の評価は第 一夜で実施されているのが現状であり、今回、われわれも第一夜記録で検討を 行った。

睡眠にはノンレム睡眠とレム睡眠という二つの異なった状態があり、眠りに 入ると、この二つの状態を周期的に繰り返す。最初に出現するのはノンレム睡 眠で、この睡眠には 4 つの段階があり、段階 1 から段階 4 へと深い睡眠に移行 する。ノンレム睡眠では筋肉へ送られる血液の量が増え、体力回復機能がある。

一方、深い眠りが続くと再び浅い眠りに戻り、レム睡眠が出現する。レム睡眠 では脳への血液量が増え、記憶の保管・保持・編成機能などが行われる 91-93)。 睡眠段階の 1 と 2、および 3 と 4 では睡眠の質に差がないと考えられることから

94)、今回の検討では、PSG 記録による睡眠段階を R&K の判定基準31-32)に基づき 覚醒期、浅睡眠期、深睡眠期、レム睡眠期の 4 つに分類した。今回記録した PBSM による脳波のδ波の分布は浅睡眠期では 57.3%であり、PSG 記録によって浅睡眠 期のδ波の割合を 20%未満と定義している R&K 判定基準からは外れていた。PBSM の周波数解析では振幅が判定できず、PSG によるδ波の段階判定基準である 75 μV 以上でないものをも算定していること、および導出部位の違いなどによると 考えられる。浅睡眠期とレム睡眠期の比較では、レム睡眠期のδ波の割合は有 意に低く、β波の割合は有意に高かったことから、ある程度までは睡眠段階の 鑑別は可能であると考えられた。次に、導出脳波の周波数のβ波の割合とδ波 の割合の比を睡眠段階で比較したところ、4 睡眠段階全てで有意差を認め、覚醒 期では 43.8%と高値を示し、深睡眠期では 3.2%と低値であり、睡眠の深さに応 じてβ波が減少し、δ波が増加する結果であった。

下顎筋電図の全成分中のβ成分の割合は覚醒期では 44.8%と全周波数の約半 分を占めたが、睡眠の深さとともに減少し、深睡眠期では 15.0%まで減少した。

一方、レム睡眠期では深睡眠期と同程度の比率であった。一般的にはレム睡眠

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