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3-1. 閉塞型睡眠時無呼吸低呼吸症候群における自律神経活動

3-1-1. はじめに

睡眠は、内分泌系、免疫系、感覚系および自律神経系と密接な関連性を持っ ている。特に自律神経系と睡眠の間の関連性については多くの研究が行われて おり、自律神経系の交感神経と副交感神経とがうまくバランスを取ることによ って良質の睡眠が得られることが報告されている 55-56)。通常、睡眠時は副交感 神経が優位となり、血圧を下げ、脳への血流を減らして、眠くなる。しかし、

そのバランスが崩れると、交感神経が優位となり、血圧を上げ、脳への血流量 を増やし、同時に心拍数を上げて、眠気を覚ますことになる。このように自律 神経活動と循環器系は密接な関係にある。このため自律神経系の活動、すなわ ち、交感神経および副交感神経の活動状態を測定するために心電図 RR 間隔を測 定し、そのパワースペクトルなどの変化が調べられている24,57)

近年、肥満や脂質代謝異常などのさまざまな生活習慣病において SAS の合併 が指摘されている。また、虚血性心疾患者では OSAHS を合併することがしばしば で、その予後は OSAHS の重症度に規定されることが報告されている58)。OSAHS の 重症度は、睡眠 1 時間あたりの AHI で評価され、AHI が 5 以上で睡眠時無呼吸・

低呼吸と診断され、5~20 を軽症、20~30 を中等症、30 以上を重症と分類する

44)。OSAHS の症状は、上気道が閉塞しているために睡眠中のはげしいいびきを 伴う無呼吸や低換気と日中の過剰傾眠を特徴とする。OSAHS では自律神経のバラ ンスが崩れ、交感神経活動の亢進が睡眠時のみでなく、覚醒時にも認められる ことが報告されている 59-61)。この交感神経活動亢進の機序としては、無呼吸に 伴っておこる低酸素血症、高炭酸ガス血症、低心拍出状態、覚醒反応などが考 えられている 24,59-65)。また、OSAHS では無呼吸の出現と同期する心拍数の変動 も認められる。そして、この変動は心拍変動のスペクトル解析では低周波成分よ りもさらに低周波な成分(VLF,0.0033-0.04Hz)として捕らえられる可能性が

あることが報告されている24-28)

そこで本研究では、まず OSAHS 患者の心電図 RR 間隔について 24 時間測定を 行い、得られたデータについて周波数解析を行い、この結果を健常者のそれと 比較することにより、OSAHS 患者の自律神経活動状態の特徴を明らかにする。次 に、無呼吸の出現と同期していると考えられている VLF が無呼吸の程度を表す AHI とどのような関係を持っているかを検討した。

3-1-2. 対象・方法

PSG 検査を施行して OSAHS と診断された症例 25 例、および肥満、高血圧、糖 尿病、高脂血症、喫煙習慣などの冠危険因子がなく、睡眠中の無呼吸症状のな い年齢、性を一致させた健常者 10 名を対照群とした。

事前に被験者全員に検査の趣旨を説明し同意を得た。また、行動記録表への記 入を依頼し、就寝および起床時間を確認した。検査実施時に身長、体重測定お よび既往歴をカルテまたは対象者から直接聴取し、血圧測定および血液の生化 学検査を実施した。

記録にはホルター心電図装置(FM-100、フクダ電子株、東京)を用い、24 時 間測定によって得られた洞調律の RR 間隔について周波数解析を実施した。得ら れたパワースペクトルから高周波成分として HF パワースペクトル値(HF パワー 値)、低周波成分として LF パワースペクトル値(LF パワー値)、および VLF パ ワースペクトル値(VLF パワー値)を測定した。自律神経の副交感神経活動指標 として HF パワー値を、交感神経活動指標として低周波数成分/高周波数成分の 比(LF/HF 値)を用いた。

統計学的検定には AVOVA 解析を用い、有意なものについては Mann Whitney ’s test を行った。検定の有意は

P

<0.05 をもって有意と判定した。心拍変動と AHI との相関係数の検定には回帰分析を用いた。

3-1-3. 結果

表 3−1 は、今回の実験に参加した 35 名の被験者の年齢、最大血圧、最小血圧、

尿酸、中性脂肪および総コレステロールの数値をまとめたものである。OSAHS で は BMI が有意に高値を示し、また、血中の尿酸、中性脂肪、総コレステロール も有意に高かった。

表 3-1. 被験者の特徴

OSAHS群 対照群

(平均値±標準偏差) (平均値±標準偏差)

被検者数(男/女) 25(24/1) 10(10/0)

年齢 51±14 54±11

BMI (Kg/m2) 29.5±6.5 * 23.5±4.4

収縮期血圧 (mmHg) 139±17 128±14

拡張期血圧 (mmHg) 87±10 79±8

尿酸 (mg/dl) 7.21±1.4 * 5.3±0.9 中性脂肪 (mg/dl) 196±107 * 113±34 総コレステロール(mg/dl) 210±34 * 161±37

*

P

< 0.05

図 3-1A は、OSAHS 群および対照群における HF パワー値の日内変動を示して いる。各プロット点は1時間ごとのパワースペクトルの平均値である。HF パワ ー値は OSAHS 群および対照群ともに覚醒時と比較して睡眠時に増大傾向を示し、

その最高値はともに早朝 5 時であった。一方、図 3-1B は、LF/HF 値の日内変動 を示しており、各プロット点は1時間ごとの LF/HF 値の平均値である。LF/HF 値 は、両群ともに日内変動は小さかったが、OSAHS 群は対照群に比べ常に高めであ った。表 3-2 は、これらの結果を 24 時間、覚醒時(10:00am-6:00pm)および睡 眠時(0:00am-6:00am)の時間帯における各群の HF パワー値および LF/HF 値を まとめたものである。以上の結果より、OSAHS 群では、対照群に比べて睡眠時に HF パワー値が有意に低下し、逆に LF/HF 値は常に有意に高いことがわかった。

図 3-1.OSAHS 群と対照群の HF パワー値および LF/HF 値の 24 時間変動 表 3-2.OSAHS 群と対照群の各時間帯の HF パワー値と LF/HF 値

OSAHS群 対照群

(平均値±標準偏差) (平均値±標準偏差) 24時間

  HF (msec2/Hz) 124±83 * 379±168 LF/HF 値 2.51±1.81 * 1.68±0.93 覚醒時 (10:00am-6:00pm)

  HF (msec2/Hz) 110±79 * 232±140 LF/HF 値 3.97±2.08 * 2.47±1.01 睡眠時 (0:00am-6:00am)

  HF(msec2/Hz) 478±426 560±560 LF/HF 値 3.06±2.10 * 1.85±1.34

*P < 0.05

次に、睡眠検査において OSAHS の重症度を表す AHI と自律神経活動を示す HF パワー値および LF/HF 値との関係を調べた。図 3-2 は、この結果を表している。

図 3-2A は AHI と HF パワー値との関係を示したものである。AHI の増加に伴い、

HF パワー値は大きく増加している。回帰分析を行った結果、指数関数曲線が最 もフィットしており、その式は y=47.27e0.032x となり、相関係数は 0.677 と有 意な相関を認めた。一方、AHI と LF/HF 値との関係は、回帰分析の結果、y=

1.421e0.016xとなり、その相関係数は 0.358 であった。このことから、AHI と自律 神経活動とは相関があることが示唆された。

図 3-2.PSG 検査による AHI と HF パワー値および LF/HF 値との関連

A: AHI と HF パワー値の関係、B: AHI と LF/HF 値の関係

最近、0.0033-0.04 Hz という VLF が無呼吸の出現と同期しているのではない かとの報告がある24-28)。そこで、まず、OSAHS 群と対照群における VLF パワー 値の日内変動を調べた。図 3-3 はこれをまとめたものである。各プロット点は 1時間ごとの平均値を示している。この図より、睡眠時において OSAHS 群が対 照群に比べて VLF パワー値が増加していることがわかる。

表 3-3 は、24 時間、覚醒時(10:00am-6:00pm)および睡眠時(0:00am-6:00am)

の時間帯における各群の VLF パワー値の平均値を示している。OSAHS 群、対照群 ともに覚醒時に比べて睡眠時では有意な増大を示していることがわかる。また、

24 時間を通して OSAHS 群では対照群に比べて常に有意に高かった。

そこで、PSG 検査で求めた AHI と VLF パワー値との関係を調べた。図 3-4 はそ の結果を示したものである。AHI の増加に伴い VLF パワー値は急激な増加を示し ており、回帰分析の結果、y=1045e0.024xで、R2=0.271(r=0.521)と有意な相関を 示した。

図 3-3. OSAHS 群と対照群における VLF パワー値の 24 時間変動

表 3-3. OSAHS 群と対照群の 24 時間、覚醒時、睡眠時における VLF パワー値

OSAHS群 対照群

VLF (msec2/Hz) (平均値±標準偏差) (平均値±標準偏差)

24時間 1739±787* 383±237

覚醒時 (10:00am-6:00pm) 1075±593* 718±604 睡眠時 (0:00am-6:00am) 3611±4246* 1842±1143

*

P

< 0.05

図 3-4. AHI と VLF パワー値との関連

3-1-4. 考察

OSAHS 患者はしばしば日中過度な眠気により交通事故や作業事故を起こすな ど重大な社会生活上の支障をきたすことがあり、日常生活面で QOL(quality of life) が低下している。OSAHS 発症のリスクファクターとしては、小顎症、扁桃肥 大などの局所の解剖学的異常33-36)、それに加えて、男性、加齢、肥満、家族性因子、

喫煙などがあげられる。また、OSAHS 患者は高血圧、虚血性心疾患、糖尿病なの 生活習慣病と密接に関連する疾患として位置付けられている 66-67)。しかし、最 近の多くの臨床成績は交感神経活動の抑制により心機能や予後が改善されるこ とを示しており8)、積極的な診断と治療が望まれる。

今回、OSAHS 群について、対照群との比較から検討を行った。その結果、OSAHS 群では BMI が有意に高値を示し、肥満がリスクファクターとなっていることが 確認された。また、OSAHS 群では血中の尿酸、中性脂肪、総コレステロールも有 意に高値を示した。さらに、虚血性心疾患を合併した症例は 25 例中 5 例(20%)、

高血圧を合併した症例は 25 例中 17 例(65.4%)と高率であった。 従って、本症 を早期に診断し、治療することは非常に重要である。

OSAHS 患者では対照群と比較し、HF パワー値は覚醒時には減少を示したこと から、覚醒時には副交感神経活動が抑制され、交感神経活動が優位であること が示唆された。また、OSAHS 群では対照群に比較して、LF/HF 値は終日、高値で あり、常に交感神経活動が優位に働いていることが示唆された。低酸素暴露下 では交感神経活動が有意に上昇し、交感神経活動上昇と肺動脈圧上昇が正相関 を示すとの報告がある24)。無呼吸を有する患者では覚醒時でも筋交感神経活動 や血漿ノルエピネフリン濃度が有意に高く、交感神経の亢進が睡眠時だけでな く覚醒時にも持ち越されると報告されている6-8)。本検討におい OSAHS 群では睡 眠時だけでなく覚醒時の LF/HF 値も有意に高値を示したことは覚醒時にも低酸 素状態にあることを示唆しているのかもしれない。低酸素性肺血管痙縮による 肺高血圧と交感神経作用とが相乗的に作用して、特に睡眠中に重篤な循環系の トラブルが起こりやすい状態となると考えられ、早期の治療が必要である。

今回、VLF パワー値は、両群でともに覚醒時に減少、睡眠時に増大していた。さ

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