第5章 総合考察
5.1 種多様性と生産速度の関係
88
89
図
5.1
黒潮、相模湾、瀬戸内海、親潮域の一次生産速度の季節変動.水深が最大で
250
mまでのCopepoda
(カイアシ類)の種類数を比較すると,本研究と黒潮 域は150
種を越えたが,瀬戸内海と親潮域はCopepoda
(カイアシ類)の出現種類数が50
種 に満たず本研究よりも少なかったが,生産速度・転換効率いずれも本研究・黒潮域よりも高 かった(図5.2
).ただし,本研究の種類数は2
年間3
地点63
回の調査、ほかは1
回~4
回 の調査結果を合計したものを使用,本研究の生産速度は小型動物プランクトンを含まず,中・大型動物プランクトンのみである.
他海域の動物プランクトン群集の特徴をみると,黒潮域は
150
種を越える多様な種が出 現するが個体数密度は低く,1
種あたり数個体m
-3程度である(Hsiao et al., 2011
).瀬戸内海は
Copepoda
(カイアシ類)6
種ほどが数万個体m
-3も出現し数で97
%を占め(Madhupratap
0 1000 2000 3000 4000 5000
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
Sagami-Bay
0 1000 2000 3000 4000 5000
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
Japan Inland Sea
5000 4000 3000 2000 1000 0
黒潮と親潮は津田ほか(
2004
)より引用,相模湾は公共用水域データをもとに作成,瀬戸内海は上(1996
)をもとに作成90
&
Onbe, 1986
),やや大型の体長2mm
程度のCalanus
属と小型のParacalanus
属が生物量 で28
%(4
月)~55
%(10
月)優占するという偏った種組成となっている.親潮域は,春 季の植物プランクトン増殖時に大型で体長5mm
ほどのNeocalanus
属3
種,Eucalanus bungii
などの
Copepoda
(カイアシ類)が大量に出現・優占し,そのほかの時期はプランクトンの個体数密度は激減する(山口,
2011
).このように異なる海域間で年間値を比較すると,動物プランクトンの種数と生産速度の 関係に法則性が認められず,これは,すべての生態系の生産量は栄養塩(資源)の量で決ま る(
Begon et al., 1986
;Duffy et al., 2006
)ことに準じているともいえる.しかし,相模湾よ りはるかに少ない種が生息する親潮域と瀬戸内海での動物プランクトンの高い生産速度は,一次生産の高さに起因するだけでなく,大型種と卓越優占種の出現という,相模湾の高い二 次生産時にみられたような,偏りのある群集組成による影響も考えられる.二次生産速度は 種の多様性(種の豊かさ)よりも構成種の種類に依存しており,瀬戸内海や親潮そして本研 究の相模湾の春季のように一次生産が豊富なところでは,大型の生産速度の高い種や卓越 種に偏ることで二次生産速度が増すということがいえる.
また,食性別の種数を比較すると,黒潮や相模湾の肉食種は植食種の種数よりも多いが,
瀬戸内海や親潮では肉食種のほうが少なくなっている(図
5.2
).ペルー沖ではエル・ニーニ ョ発生時に動物プランクトン群集が亜熱帯性から熱帯性へ変化した結果,雑食種と肉食種 の増加が観察されている(Carrasco & Santander, 1987
).生態学では,富栄養域の食物連鎖は 単純化して短くなり,貧栄養域では複雑化して長くなることが分かっている(Lalli & Parsons, 1993
).瀬戸内海は相模湾に比べると水深が浅く,空間的ニッチ分割が起こりにくいこと,種組成が単純なために体サイズの違いによる餌ニッチが分割されにくいという理由から,
肉食種の種数が少ないものと考えられる.親潮域と相模湾ではもともと多様性と緯度の関
ಀࡽぶ₻ᇦ࡛✀ᩘࡀᑡ࡞ࡃ࡞ࡗ࡚࠸ࡿࡀ㸦$QJHO+DWWRUL 0RWRGD㸧㸪ぶ₻ᇦࡢ
ḟ⏕⏘✀ࡣᆺ✀೫ࡗ࡚࠸ࡿ࠺࠼㸪Ꮨ⠇ⓗ࡞㖄┤⛣ືࡢࡓࡵ⾲ᒙ࠸ࡿᮇ㛫ࡶ▷࠸
ࡓࡵ㸪⫗㣗✀ࡀ㣵ࡋ࡚⏝࡛ࡁࡎ㸪⫗㣗✀ࡀከᵝ࡛ࡁ࡞࠸ࡼ࠺࡞㐍ࢆࡆ࡚ࡁࡓࡶ
ࡢ⪃࠼ࡽࢀࡿ㸬ࡋࡓࡀࡗ࡚㸪✀ࡢከᵝ࡞ᾏᇦ࡛ࡢ⫗㣗ࡢ✀ᩘࡀቑຍࡍࡿࡢࡣ㸪ࣉࣛࣥࢡࢺ
ࣥ⩌㞟ࡀࡇࡢࡼ࠺࡞➇தࡸᤕ㣗ᅇ㑊࡞ࡢ㐍ࡢᙳ㡪ࢆཷࡅࡓ⤖ᯝ࠸࠺ࡇ࡞ࡿ㸬