• 検索結果がありません。

種おり、混在して分 布する(図 1 ) 。しかし、それぞれの種によって特性が異なる。例えば、同所的

に分布するこれらの種でも、コヒメハナカメムシは高所を好み、波ヒメハナカメ ムシは低所を好む(図

2)

。また、休眠性や移動分散性などの特徴も異なる。

1 同所的に分布するヒメハナカメムシ類の種構成。すべてセイタカアワダチソウ上での採集。

(Hinomoto et al 2009 JARQより改変)

68

したがって、土着天敵を保護利用する際には、形態的に酷似した近縁種であって も、正確な種の同定が必要である。

もとより種の同定は形態によって行うことが基本であるが、熟練を要する・時 間がかかる・同定可能な発育段階や性が限られる、などの問題点もある。成虫の 雌雄の識別は、実体顕微鏡下、あるいはルーペでの検鏡によっても、比較的容易 である(図

3

) 。しかし、ヒメハナカメムシ類の同定には雄成虫の交尾器を精査 する必要があり、ある程度の慣れが必要である(図

4

)。このように、雌成虫で は困難、他のステージでは不可能である同定を可能にするのが、

DNA

マーカー である。

DNA

マーカーでは、結果はバンドの有無・位置によってデジタルに示 され、判断に迷うことが少ないメリットが有る。

そこで本講義・実習ではヒメハナカメムシ類を材料にして、

PCR

法の原理と

DNA

マーカーの利用法について解説し、

DNA

の抽出法、ポリメラーゼ連鎖反 応(Polymerase Chain Reaction; PCR) 、電気泳動、シークエンス解読について 実習する。本テキストでは、基本的な部分を記載するにとどめ、実習を通じて技 術を習得していただきたい。本方法は、基本的に

DNA

マーカーが開発されてい る他の分類群でも同様に利用可能な技術であるので、応用していただきたい。

図2 同所的に分布するヒメハナカメムシ類の採集された高さによる種構成の違い(Hinomoto et al 2009 JARQより改変)

69

3 ヒメハナカメムシ類の外観による雌雄識別

4 ヒメハナカメムシ類4種の押す成虫交尾器。A:コヒメハナカメムシ、B: タイリクヒ メハナカメムシ、C: ナミヒメハナカメムシ、D: ツヤヒメハナカメムシ。(Yasunaga 1997より転載)

70 PCR

による同定技術

(1)

概要

PCR

法による土着天敵同定技術の大まかな流れは、以下のステップで行う。

① 野外からの採集・保存

DNA

抽出

PCR

反応

④ 電気泳動

以下の節では、それぞれの技術について解説する。

(2)

回収方法

ヒメハナカメムシ類は多く花に集まることが多いので、花を中心に採集する と良いだろう。果菜類などの作物の場合は花(実)を傷つけるわけには行かない ので、見取りと吸虫管によって採集するのが無難である。雑草などではビニル袋 に花を入れて振り落とすことで、比較的簡便に回収できる。秋のセイタカアワダ チソウには多数の個体がいるため、採集が容易である。

また、粘着版でトラップされた個体を回収する方法もある。ヘキサンを用いる と粘着物質が取れて、以後の操作が容易である。ただし、ヘキサン中に長期保存 すると

PCR

の結果が思わしくないので、すぐに以下に述べる保存方法に切り替 えることが望ましい。

(3)

保存方法

採集後、すぐに

DNA

実験に供試出来るとは限らないため、それまでの間の保 存方法について、簡単に解説する。虫体に含まれる

DNA

分解酵素による

DNA

の損傷を防ぐのが目的である。そのためには、超低温(−80℃)での保存と、有 機溶媒中での保存がある。いずれにしても、保存に際しては、出来るだけ不純物 を持ち込まないようにすることが望ましい。

超低温

超低温での保存は、虫体をサンプルチューブなど適切な容器に入れて、そのま ま冷凍庫に保管すれば良いので手間はかからないが、超低温冷凍庫が必要な点 が難点である。保存には−

80

℃が望ましく、−

20

℃程度の冷凍庫は望ましくない。

また、自動霜取り機能がついた冷凍庫は定期的な温度上昇があり、これも望まし

くない。必ず、バイオ研究用の超低温槽に保存すること。

71

また、保存容器は、スクリ

ューキャップ式のものを使 用するのが望ましい (図

5

) 。 スナップキャップ(蓋をは め込むだけのもの)を使用 せざるを得ない場合は、温 度変化により意図せず開い てしまうことがあるので、

アルミ箔などを巻き付けて 開栓しないようにし、取り 出すときも十分室温に戻し てからアルミ箔を取り除く ようにする。

有機溶媒

Fukatsu (1999)

によると、アセトン中での保存がもっとも効果的であるとさ

れる。しかし、アセトンは揮発性が高い、利用可能な容器が限られる、などの問 題点があるため、エタノールを推奨する。

エタノールは、形態同定用標本の保存には

70%

あるいは

80%

程度の水溶液が 用いられることが多いが、

DNA

解析用には希釈しない原液(

99.5%

)を用いる ことが望ましい。やむなく水溶液を使うような場合も、滅菌水での希釈を心が け、できるだけ速やかに

99.5%

の液に移し替えた方が良い。また、一斗缶に入っ ているようなエタノールではなく、瓶入りの試薬特級を用いること。虫体以外の 不純物を取り除いて保存するのが望ましい。

保管は直射日光を避け冷暗所に保管すること。できれば冷蔵庫内に保管する ほうが良い。

(4) DNA

抽出

各社から

DNA

抽出用のキットが販売されているので、それを用いるのが簡便 である。ただし、微小昆虫の場合、カラム式の抽出キットはロスが多いため、溶 液式で容量を変えることができるものが良い。ここでは、当研究室で使用してい る

2

つのキットを紹介する。

簡易抽出法 必要なもの

 PrepMan® Ultra Reagent

Applied Biosystems

サンプルチューブ(

0.5mL

もしくは

1.5mL

が適当)

 100℃および37℃に設定できるインキュベータ、ヒートブロック等

5 スナップキャップ式のチューブ(左)と スクリューキャップ式のチューブ(右)

72

試験管ミキサー

高速遠心機(

16,000xG

の遠心が可能なもの)