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天敵類の分類・同定技術(寄生蜂類)

カブリダニは日本国内からは 90 種が発見されているが、いずれも微小なため

2.  フェロモントラップ誘殺数に基づく被害予測

斑点米カメムシ類の発生予察と防除技術

(独)農研機構 中央農業総合研究センター(北陸) 高橋明彦 1. はじめに

 カメムシの吸汁加害により,褐色〜黒褐色の斑紋が生じた玄米は,「斑点米」(図 1)と呼 ばれ,米の品質低下の重要な一因である.斑点米を発生させるカメムシは,斑点米カメムシ類 と称され,多くの種が含まれるが,全国的な主要種は,アカスジカスミカメ,アカヒゲホソミド リカスミカメ(図 1),クモヘリカメムシの 3 種とされている(渡邊・樋口, 2006).これら 3 種は,いずれもフェロモンによるコミュニケーションを行なっていることが明らかにされて おり,発生予察におけるフェロモントラップの利用が検討されてきた.ここでは,アカヒゲホ ソミドリカスミカメの発生予察,被害予測におけるフェロモントラップの利用技術につい て,研究の現状を紹介する.

図 1  アカヒゲホソミドリカスミカメ成虫と斑点米

利用技術の開発にあたっては,発生量の把握に基づく被害予測,防除要否の判断に焦点を当 てて研究が進められてきた.

1)圃場単位の被害予測

 アカヒゲホソミドリカスミカメは,水稲が出穂すると成虫が水田に侵入する.侵入した成 虫は稲穂を加害するとともに産卵を行い,水田内で次世代幼虫が発生する.斑点米形成には,

侵入成虫よりも次世代幼虫の関与が大きく(石本,2004),幼虫を対象とした防除が効果的 であることが明らかにされている(石本・永瀬,2005).次世代幼虫の発生量は,侵入成虫 数によって左右されると考えられ,出穂期以降の成虫数を的確に把握することができれば,

その後の斑点米被害を予測できる可能性がある.そこで,出穂期以降のフェロモントラップ 誘殺数と斑点米被害との関係について解析を行なった.

 2006〜2011 年に山形,新潟,富山,長野各県のべ164筆の無防除水田において,水田内に 設置した合成性フェロモントラップ(図 2)における出穂期後の誘殺数を 5日間隔で調査す るとともに,収穫した玄米約3万粒について斑点米率を調査した.

図 2  アカヒゲホソミドリカスミカメのフェロモントラップ 注)粘着板2枚を背中合わせにして使用

 解析に際しての予測対象として,①斑点米率,②斑点米率が一定の閾値超える確率,の 2 つが考えられるが,斑点米率自体の正確な予測は困難であるとされている(渡辺ら, 2 001).また,斑点米被害とはすなわち玄米の等級低下であり,特定の斑点米率を超える確率 を予測の対象とすることは妥当であると考えられることから,②を選択した.すなわち,斑 点米率が 0.1%を超えた場合を「被害あり」とし,被害の有無を応答変数とするロジス ティック回帰モデルを適用した.説明変数としては,時期別のトラップ誘殺数を用いたが,

本種の防除適期は,出穂期 10日後とされており(石本・永瀬,2005),防除要否を判断す るためには,それよりも早い時期に被害予測を行うことが必要である.そこで,出穂期後 5 日間のトラップ誘殺数を用いたモデルについて検討を行なった.

 出穂期後 5日間のトラップ誘殺数を説明変数とした場合,予測に最も適していると考えら れるのは,誘殺数を平方根変換したものであった.モデルによる斑点米被害発生確率の推定

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値と実際に斑点米率が 0.1%を超えた圃場の割合を比較した結果,両者は概ね一致した(図 3)(高橋ら,2012).

図 3 出穂期後 5日間のトラップ誘殺数を説明変数とするロジスティック回帰モデルによる 斑点米被害発生確率の推定値(ライン)および実測値における斑点米率が 0.1%を超え た圃場の割合(棒グラフ)

破線は推定値の 95%信頼区間,数値は誘殺数ごとの圃場数を示す.

アカヒゲホソミドリカスミカメは,籾を貫通して玄米を加害することができないため,割 れ籾の発生頻度が高い品種において,斑点米率が高くなることが報告されている(八谷・橋 本,2001;松崎,2001;伊藤,2004).したがって,割れ籾率が斑点米被害発生確率に影響 を与える可能性は高いと考えられる.そこで,割れ籾率の年次変動が比較的大きい水稲品種

「てんたかく」(富山県主要品種)について,割れ籾率を説明変数に含むモデルについて検 討を行った(中島ら,2012).その結果,割れ籾率を説明変数に含むモデルは,誘殺数のみ の予測モデルに比べてあてはまりが良く,斑点米被害を的確に予測できていると考えられた.

誘殺数と割れ籾率に基づいて被害予測を行うためには,割れ籾の発生程度を予測する必要 がある.割れ籾の発生は,気象条件の影響を強く受け,幼穂形成期の低温と登熟期の恒温多 照によって助長されるとされている.中島ら(2012)は,幼穂形成期の平均気温に基づく割 れ籾率予測モデルを提示しており,出穂期前に割れ籾率の発生傾向を把握し,被害予測に活 用することは可能であると考えられる.

2)地区・経営体を対象とした被害予測

圃場単位の被害予測は,当該圃場にトラップを設置して調査を行うことを前提としている . しかし,トラップの設置および調査に要する費用や労力を考えると,すべての水田にフェロ

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モントラップを設置することは現実的ではない.そこで,一定程度の面積を持つ地域を対象 として,地域内にいくつかのトラップを設置し,それらの誘殺数から地域全体の防除要否を 判断する方法について検討を行なっている.

地区・経営体等の多数の圃場を単位として防除要否の判断を行うためには,当該地区にお いて斑点米被害がどの程度起こるかを予測する必要がある.しかし,地区の全収穫物を対象 として斑点米被害を予測することは難しい.そこで,地区全体の被害程度の基準として,

「危険圃場率」という概念を導入した.危険圃場率は,全圃場のうち,斑点米によって1等 米から格落ちする圃場の割合であり,危険圃場率が一定水準以上であるとき,地区全体とし て防除を行い,水準以下の場合には防除は行わない,すなわちある程度の斑点米の発生は許 容する,ということを前提としている.ここで,「1等米から格落ちする圃場」はトラップ 誘殺数が圃場単位の要防除水準を超える圃場であり,その水準は圃場単位の斑点米被害発生 確率予測モデル等によって決定される.抽出圃場におけるトラップ誘殺数に基づいて危険圃 場率を予測するためには,誘殺数がどのような空間分布にしたがうか明らかにする必要があ る.そこで,トラップ誘殺数の空間分布について検討を行なった.

 2009〜2012 年に山形,新潟,富山各県の平野部水田地帯に面積約9〜180ha の調査地区を 設定し,地区内の水田(13〜24筆)に合成性フェロモントラップを設置した.各トラップに おける出穂期後 5日間の誘殺数を解析に用いた.なお,これらの調査地区では,カメムシに対 する殺虫剤散布がないか,あるいは 出穂期 5日後以降に行っている.

 トラップ誘殺数が空間的にランダムに分布している場合,誘殺数の平均と分散は等しくな ることが期待される.そこで,調査地区,調査年次ごとに誘殺数の平均と不偏分散を比較し たところ,不偏分散は平均を大きく上回っていた.したがって,誘殺数はランダム分布には したがわず,集中分布すると考えられた.昆虫の個体数のような計数データにおいて,分布 に集中性が見られる場合,確率分布としては負の二項分布が考えられる.現在,誘殺数の分 布が負の二項分布にしたがうという仮定のもとで,危険圃場率の推定方法に関して検討を進 めている.