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社会的責任戦略コントロールについて― 2 つの事例―

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 135-200)

本章では、前章を受けてCSR戦略コントロールを遂行しているフランスの事業会社であ るダノン社とラファージュ社の 2 社を取り上げ、その特徴的な仕組みを紹介することが目 的である。ダノン社はヨーグルトをはじめとする健康食品を製造販売しており、事業自体が 社会貢献に結びつきやすい特徴をもっている。一方で、ラファージュ社はセメント事業がメ インとなるため、社会貢献へ取組む発端がダノン社と異なる。このような違いにも注目しな がら、事例を紹介していくことにしたい。

第1節 社会的責任戦略コントロールの事例研究 1.ダノン社の事例

ダノングループ(Groupe Danone)は、フランスに本社を置く1919年設立の国際的な食品 関連企業であり、主にヨーグルトやミネラルウォーター、シリアル食品などの製品を世界 的に製造・販売し、「健康」、「経済」、および「社会と環境」という3つの領域を軸として 活動を行っている323。代表的なCSR活動としては、国際的専門研究機関ダノンリサーチと 協同し、人々の健康を促進するための商品を開発している324。また、2006年にグラミン銀 行と提携し、バングラデシュにグラミン・ダノン・フーズを共同で立ち上げ、2007年には 当地で小さな工場にてヨーグルトの生産を開始している325。さらに、2008年に掲げた「5 年間でグループ全体のカーボンフットプリント326を30%削減する」という目標を2012年末

323 ダノンHPHistoire Danone」(http://www.danone.com/fr/pour-tous/histoire/) (最終参照 日:20191210日)

324 Moquet(2010),p.317.

325 伊吹(2014),219頁。

326 カーボンフットプリントは、製品・サービスのライフサイクル全般で排出された温室効果ガスをCO2

相当量で表現し、製品に表示するものである。

に達成している327。このように、ダノン社は人々の健康促進や地域社会への貢献、環境保 全など様々な面からCSR活動に取り組み、経済的側面と社会的側面の双方の価値向上に努 めている。

ダノン社がCSR活動に積極的に取り組むようになった発端として、1972年にカリスマ的 経営者であるアントワーヌ・リヴーが「社会と経済の2重プロジェクト」を提唱したこと が挙げられる。このプロジェクトによって、経済的価値と社会的価値を同時に追求すると いう企業文化が生まれた。そしてダノン社は経済的価値と社会的価値の同時追求を達成す るためにCSRの目的を「従業員の価値観を統一し、従業員ロイヤルティを向上させるこ と」と定めた328

ダノン社は、企業内にCSRを浸透させるために、「ダノンウェイ」という独自の仕組みを 構築している。これは、現場でのワークショップを通してCSRのモニタリングと情報共有 化により、世界中のグループ会社にダノン社の考え方を浸透させる仕組みである。ダノン社 では、この仕組みを実施するために、まず、グループの執行委員会が持続可能な発展とCSR の方針を設置する。この方針には、3つの目的がある。

つまり、1つ目は、企業の歯車のなかにCSRを組み込むことである。2つ目は、企業の 内部で展開されるCSRに関する努力を見える化することである。最後に、ダノン社はグル ープの組織的な変化の促進を目指している。また、それぞれの目的を達成するために、対応 する次の3つの方法に取り組んでいる。まず 1つ目は環境や社会を軸として実践の改善を 目指した行動を練り上げることである。そして 2 つ目は、イントラネット上でベストプラ

327 ダノンHP「社会と環境の共存」(http://www.danone.co.jp/company/csr/)(最終参照日:2019 1210日)

328 伊吹(2014),262頁。

クティスの事例を紹介することであり、最後の3つ目は、グループの様々な実体と、企業レ ベルで責任を負う経営者間の継続的なやり取りを通して、企業の方向性を築き上げていく というものである。上記の目的とその達成方法を対応させたものが図表7-1である。

図表7-1 ダノンウェイにおけるCSRを果たすための目的とその達成方法

3つの目的 達成方法

①企業の歯車の中に社会的責任を組み込む 環境や社会を軸として実践の改善を目指した行 動計画を練り上げる

②企業の外側で、内部で展開される社会的 責任に関する努力を見える化すること

イントラネット上でベスト・プラクティスの事例を紹 介する

③グループの組織的な変化の促進を目指し ている

グループの様々な実体と、企業レベルで責任を 負う経営者間の継続的なやりとりを通して、企業 の方向性を構築していく

(出所)Moquet(2010),p.256.,pp.262-275をもとに筆者作成。

また、ダノン社の企業体制は子会社が集まった分権的な形をとっているため、様々な子 会社を通した問題のグローバルな取り組みが豊かになり、様々な地方文化を反映させたま ま、全ての経営管理スタイルを普及させることができるものとなっている。とりわけ、図 表7-2から理解されるように、プロジェクトの運営委員会を子会社ごとに配置し、本部の 社会的責任部とコミュニケーションをとることができる体制を採用しているところに特徴 をもっている329

この「ダノンウェイ」が従業員レベルにまでCSR活動に取り組む意義や企業文化を浸透 させる仕組みであることはすでに述べた。具体的に、それはまず経済、環境、社会の全て

329 Moquet(2010),p.273.

の面を覆っている基準(référentiel)を決定することから始まる。ダノンウェイの基準は、

グループが誕生してから子会社の歴史や価値や成功体験をもとにして練り上げられたもの であり、ダノン社の子会社は基準をもとに目標や行動計画を決定することになっている

330。これらの基準をもとに各子会社の従業員は自己評価を行う。

図表7-2 ダノン社の組織体制の概要

(出所)Moquet(2010),p.257.

自己評価の評価項目は「労使関係」、「食品の安全性」、「環境」、「顧客への対応・

注目」などで、事業活動がダノングループの目指すべき方向性とどの程度適合しているか 把握することができる331。すなわち、各子会社は自社の弱い点や強い点を含めた統合的ビ ジョンを得ることができ、地方の状況や自身のやり方、争点やビジネスタイプにおける主

330 Moquet(2010),p.281.

331 伊吹(2014),263頁。

張や、おかれている状況に応じて優先すべき行動を決定することができる。これらの自己 評価は各運営委員会が自己評価を互いに共有することになっており、最終的に取締役会が 基準をもとに各子会社を評価し、その取締役会の評価と子会社の自己評価との比較を行う のである332

さらに、ダノンウェイには取締役会や運営委員会と従業員との間の相互作用のプロセス が組み込まれている。例えば、マネジャーのみならず、あらゆるレベルの従業員が参加す るワークショップを開催し、事例について議論、評価し、またイントラネット上にはダノ ングループで取り組まれている多くのベストプラクティス、つまり目指すべき模範事例を 記載することで、従業員のCSRに対する自発性を促進することになっているのである。

ダノンウェイの全体の流れをまとめると図表7-3の通りである。図表7-3で示されるよう に、ダノンでは子会社の実践の軸となる基準を明確に決定したり、自己評価を行うことで 個々人の従業員レベルまでダノン社の理念を浸透させることを可能にしている。それによ って、ダノンウェイのような横断的プロジェクトが共通の価値構築を可能にしていると言 える。また、子会社は基準をもとに、地方文化に合った目標、実践、行動計画を決定して いる。さらに、職務会議やワークショップ等によって従業員とコミュニケーションをと り、経営に参加させたり、反省したことをイントラネット上で共有したりすることで、グ ループレベルでの共通価値観を形成でき、従業員にダノン社の歴史やカルチャー、CSR等 を含んだ同社のバリューを認識、理解させている。このようなCSR活動への取り組みは 2000年代に開始されたが、CSR活動を経営戦略の視点から捉えることにより、ダノン社の

332 Moquet(2010),pp.266-268.

2001年度の総売上高が144億7000万ユーロであったのに対し、2009年度の総売上高は149

億8200万ユーロへと伸びている333。その後も総売上高は伸びており、昨年度(2015年度)の 売上高は前年比6%増の224億1000万ユーロ、純利益は14.6%増の12億8000万ユーロの増 収増益を記録している334

このように、ダノン社では積極的にCSRに取り組むためのCSR戦略マネジメント・コン トロールとしてダノンウェイに取り組み、売上を伸ばしている。

図表7-3 ダノンウェイの全体図

(出所)黒岩(2017),17頁。

ダノン社におけるCSRの制度化のプロセスをまとめたものが図表7-4である。今、この 図表を説明すると次のようになる。つまり、ダノン社のCSRの制度化プロセスの発端は、

333 ダノンジャパン株式会社SSD乳性原料部(2011),4頁。

334 KMS News&Research HP「ダノン、2015年に業績改善」(http://ksm.fr/archives/494139) (最終 参照日:20191210日)

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 135-200)