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内部統制とマネジメント・コントロール

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 73-110)

第1節 はじめに

前章においては、内部統制の制度的展開を方向づけるものとして、COSO「内部統制」

(1992)を規制哲学の視点から考察を加えた。そこでは内部統制が、組織の「内部を外部 化」することで「規制の規制」を可能とする、新しい規制のあり方として捉えられること がわかった。その意味でそれまでの内部統制とは異なる仕組みとなっていることが明らか になった。

そこで本章では、マネジメント・コントロール論から「内部統制」を検討することで、

「内部統制」とマネジメント・コントロールが重なり合う部分が多いものとなっているこ とを明らかにしたい。ここで両者が重なり合うとはどういうことかと言えば、新たな「内 部統制」概念がまさにマネジメント・プロセスから引き出されるコントロールと監査の要 素から部分的に構成されていると考えられるからなのである。もっとも重なり合う部分が 多いとはいえ、両者はまったくその出自を異にしていることは言うまでもない。

本章では、コーポレート・ガバナンスを1つの契機として生まれてきた「内部統制」が マネジメント・コントロールといかに異なり、またどのような関係にあるのかについて検 討している。少し結論を先取りして言うならば、この関係とは、株主や取締役会がマネジ メントに対する視点を強めることによって、いわゆるマネジメントに対するガバナンス機 能を果たすことを意味している。しかし、COSO「内部統制」(1992)が公表された後も、

残念ながら不正がなくなることはなかった。そこでさらに本章では、不正の原因を調査し て行われた、COSOの不正問題分析報告と公共監視審査会 (Public Oversight Board:以 下POBとする)の報告をもとに、その後求められた内部統制のあり様を示し、さらにその 後、直ちにCOSO・ERM(2004)が公表されるに至る経緯を明示している。

第2節 マネジメント・コントロールと「内部統制」との関わり 1.マネジメント・コントロールとは

マネジメント・コントロールと「内部統制」との関わりを検討する前に、本節では、マネ ジメント・コントロールの仕組みについて検討しておきたい。そこで、まず大下(2009)で 紹介されたフランスのH. Bouquinの理論に基づくマネジメント・コントロール論について 示すことにする185。Bouquinの理論を取り上げる理由としては、内部統制と親和性が高い ことと、加えて後のMoquet の理論とのつながりを意識するためである。Bouquinのコン トロール論では、マネジメント・コントロールの役割を戦略と日常的業務との一貫性をいか に保証するかというところに置いており、戦略的次元にもコントロール概念を適用してい るところに特徴がある 186。一方、内部統制は単に財務報告の信頼性および経営者の倫理・

誠実性を高めるということのみならず、戦略経営とリスク・マネジメントの展開過程を取締 役会に認識させ、経営報告に反映させるような統制システムでなければならない 187。この ように、戦略的側面においてもコントロール概念を適用し、さらにコーポレート・ガバナン スの一環としてマネジメント・コントロールを考えているBouquinのマネジメント・コン トロールと内部統制は親和性が高いと言える。

Bouquin の理論において、コントロールとは、人間個人が一定の目的を達成しようとし

て組織をつくった場合に、組織の目的を達成するためにばらばらに行動するおそれのある 個人の行動を一定の組織目的の方へ導くための仕組みである188

上記のように一定の目的をもって集まった個人の集合を組織と規定しておけば、その組 織は3つのレベル、すなわち、行動、コントロールおよび監査の各レベルをもつ3層構造

185 Bouquinのコントロール論に関する記述は大下(1996)、大下(2009) を参照した。

186 大下(1996),196頁。

187 西村(2006),225頁。

188 大下(2009),2-4頁。

として認識される 189。そしてその行動が組織の目的に沿った形で成果をもたらしたかは、

コントロールの出来次第であり、行動の評価を通したコントロールの評価が「監査」という ことになる 190。コントロールは人の行動に働きかけるだけでなく、その行動に先立つ意思 決定や行動後の成果に対しても目標を達成させるべく働きかけることができる。その意味 で、コントロールは意思決定、行動、成果といったプロセスを対象とするのである 191。さ て、コントロールを上記のように捉えるならば、マネジメント・コントロールとは組織体内 で行われるマネジメント・プロセスが全体としての企業目標の達成に結びつくようにうま くコントロールする仕組みである。また、上述したコントロールの理論で考えた場合、マネ ジメント・コントロールが機能しているかを評価するために監査が行われていると理解す ることができる。

それでは、組織体内で行われるマネジメント・システムと「内部統制」はどのような関係 にあるのだろうか。そこで、次項では、マネジメント・システムと「内部統制」との関わり について検討することにしたい。

2.「内部統制」とマネジメント・システム

前節ではフランスのマネジメント・コントロール論に基づき、コントロールとその評価を 行う監査の関係について述べた。本節では、このマネジメント・コントロールと監査、そし て「内部統制」との繋がりについて示すこととしたい。上述したように、Bouquinの理論に 基づくと、マネジメント・コントロールとは組織内のマネジメント・プロセスが企業目標の 達成に結びつくようにコントロールする仕組みであり、そのコントロールの有効性を測る

189 大下(2009),4頁。ここでの「監査」とは公認会計士が行う監査ではなく、あくまでも企業組織内のコ ントロールが有効に機能しているかどうか評価する行為を指す。

190 Bouquin(1993). 大下(2009),3頁。

191 大下(2009),2-4頁。

ために監査が行われている。

このマネジメント・コントロールと「内部統制」のもつコントロール機能、そして監査と の関係性についてより明確にするために、さらに一歩踏み込んでマネジメント・プロセスを 軸に「内部統制」の説明をしている鳥羽(2007)に依拠する形で、それらの関わりを示すこ とにしたい。そこでまず、COSOの「内部統制」の内容を簡単に見ていくことにしよう。

COSO報告書では、「内部統制」を次のように定義している。

「内部統制とは、以下の範疇に分けられる目的の達成に関して合理的な保証を提供するこ とを意図した、組織体の取締役会、経営者およびその他の構成員によって遂行されるプロセ スである 192」。ここで言われる目的とは「業務の有効性・効率性」、「財務報告の信頼性」、

「事業活動に関わる法令その他の規範の遵守」の3つである 193。そして、これらの目的を 達成するために、「内部統制」は次の 5 つの構成要素から形成されている。つまりそれは、

「統制環境」、「リスクの評価」、「統制活動」、「情報の伝達」、「監視活動」の5つの構成要素 のことである。

以下では、内部統制論の視点からマネジメント・システムを捉えた鳥羽氏の方法に依拠し ながら、マネジメント・プロセスについて見ていくことにしたい。氏によれば、マネジメン トとは、企業の事業目的を達成するために、企業の組織階層それぞれに属する経営者・経営 管理者・業務管理者が従事する行為(職務または業務の計画・調整・監視・是正措置、およ びその連鎖)に与えられた総称のことである194。日本語では最高執行責任者を中心とした経 営陣が従事するマネジメントを「経営」と称し、経営陣の下位組織に属する経営責任者(部 長・課長など)が従事するマネジメントを「経営管理」と称し、経営管理者の下位組織に属 する執行責任者(課長・係長など)が従事するマネジメントを「業務管理」と称し、ある程度

192 COSO(1992),p.3.

193 COSO(1992),p.3.

194 鳥羽(2007),114頁。

区別している195。しかし、英語ではすべて、「マネジメント」(management)である196。重 要な点は、マネジメントは、これらの行為が互いにばらばらにされるのではなく、計画 (Plan)、実行(Do)、監視(Check)、是正措置(Action)というプロセスに従って相互に調整 されなければならないという点である197

図表4-1では、内部統制と、各部門のマネジメント・プロセスとの関係を示している。こ の図では、マネジメント・システム自体がコントロール機能(C)をすでに内包していること がわかる。しかし、各組織階層の責任者が、経営、経営事業目的を達成するためには、マネ ジメント・システムの各段階を制御(コントロール)する仕組みやプロセスが不可欠となる。

それが内部統制である。「横糸としてのマネジメント・システム」に対して、内部統制を「縦 糸」と位置づけたのはそのためである198

マネジメント・システムを横糸、内部統制を縦糸と位置づける見方は、両者の関係をより 視覚的に理解させる以上に重要な視点を内包している 199。というのは、この図によって、

内部統制をマネジメント・プロセスに統合されたものと理解する立場だけでなく、内部統制 そのものをプロセス化(システム化)して考えるという立場もあるためである。

前者(COSO の内部統制)の立場に従えば、マネジメント・プロセスに統合されたものは 内部統制の構成要素であり、これらの機能状況が、結果としてマネジメント・プロセスその ものの機能状況を保証することになるのである200。そこでの基本的な視点は、なによりも、

マネジメント・プロセスの機能状況を評価する立場、つまり、内部統制を評価する者(監査 人の立場)である。図表4-1に示しているように、監査人はマネジメント・プロセスのPDCA

195 鳥羽(2007),114頁。

196 鳥羽(2007),114頁。

197 鳥羽(2007),114頁。

198 鳥羽(2007),115頁。

199 鳥羽(2007),115頁。

200 鳥羽(2007),116頁。

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