過程 IV) 断熱過程なので,エントロピーは変化しない.
例題 11. 2 示量変数,示強変数
内部エネルギー,温度,エントロピーそれぞれは示量変数か,示強変 数か.
同じ温度,体積,圧力にある系Aと系Bを加え合わせたとき,どうなるかを 考えればよい.内部エネルギーは倍になるので,示量変数である.温度は変わらな
いので示強変数である.エントロピーは熱量(示量変数)を温度(示強変数)でわっ +温度は気体を構成する分 子一つ当たりの運動エネル ギーなので,系を倍にしても 変化しない.
たものなので,示量変数である.実際,式(11.25)はモル数n(つまり粒子数)に 比例している.
熱力学関数 内部エネルギーの変化と与えられた熱量,外部にした仕事 の関係はエネルギーの保存則より,
∆U =Q−P∆V (11.49)
である.エントロピーの表式(11.22)Q=T∆Sより
∆U =T∆S−P∆V (11.50)
Uの変化を見るためには,エントロピーの変化を見なければいけないとい う,実際には困難なことをこの式は主張している.そこで,
F =U−T S (11.51)
を定義する.これはヘルムホルツの自由エネルギーとよばれている.この 微小変化は
∆(T S) = (T + ∆T)(S +
∆S)−T S = T ×∆S +
∆T ×S+ ∆T∆S≒T ×
∆S+ ∆T×Sを用いた.
∆F = ∆(U−T S)
= ∆U−∆(T S)
≒T∆S−P∆V −T∆S−S∆T
=−P∆V −S∆T (11.52)
となり,体積と温度の微小変化で表される.
体積でなく,圧力を変数としたものが扱いやすい場合がある.それには,
H =U+P V (11.53)
を考えればよい.Hはエンタルピーとよばれる.エンタルピーの微小変化は
∆H = ∆(U+P V)
= ∆U+ ∆(P V)
≒T∆S−P∆V +P∆V +V∆P
=T∆S+V∆P (11.54)
である.
同様にヘルムホルツの自由エネルギーFにP V を加えたものをギブスの 自由エネルギーとよび,Gで表す.
G=F+P V =U−T S+P V (11.55)
∆G= ∆(F+P V)
≒−P∆V −S∆T +P∆V +V∆P
=−S∆T+V∆P (11.56)
ギブスの自由エネルギーの微小変化は温度と圧力の変化で表される.
ここで導入した4つの熱力学関数を表にまとめておく.
11.4 熱力学関数 173
記号 定義 微小変化 変数の組
U T∆S−P∆V (S, V)
F U−T S −S∆T−P∆V (T, V) G U−T S+P V −S∆T+V∆P (T, P) H U+P V T∆S+V∆P (S, P)
自由エネルギーの性質 F, Gになぜ自由エネルギーという名前がついて いるのであろうか.
まず,熱源Tに接している状態Aと状態Bを考える.このとき,クラウ ジウスの不等式の応用(11.47)から,
T(S(B)−S(A))≥Q (11.57)
が導かれる.内部エネルギーの変化はU(B)−U(A)である.エネルギーの 保存則Q=U(B)−U(A) +Wfより,
T(S(B)−S(A))≥U(B)−U(A) +Wf (11.58) となる.これより,
F(A)−F(B)≥Wf (11.59)
となる.つまり,一定温度の熱源に接しながら状態Aから状態Bに移って +ここではAは状態Aを指 定する変数の組,VA, TAの 意味とする.
仕事をしたとき,ヘルムホルツの自由エネルギーが減ったとする.その減 り分は仕事の上限値を与えているのである.すなわち,系が一定熱源に接 しているとき,仕事として自由に取り出せるエネルギーを表しているのが,
Fである.
孤立系で外部に仕事をしない場合はWf= 0となる.すると
F(A)≥F(B) (11.60)
となるので,状態Bの自由エネルギーは状態A以下である.温度Tの熱源 にずっと接していると,自由エネルギーは必ず下がり,最小値をとって安定 するのである.よって,熱平衡状態ではヘルムホルツの自由エネルギーが 最小となっているのである.
圧力一定で仕事をしている場合,
F(A)−F(B)≥Wf=P(V(B)−V(A)) (11.61) である.
F(A) +P V(A)≥F(B) +P V(B) ∴ G(A)≥G(B) (11.62) となっている.よって圧力と温度が一定の環境に放置して置くと,ギブスの 自由エネルギーがどんどん小さくなり,最小値に落ち着く.
マクスウェルの関係式 表11.4のたとえば,内部エネルギーUの微小変 化を考えよう.すると,
∆U =T∆S−P∆V (11.63)
であるから,V を固定し,Sで偏微分すると,
(∂U
∂S )
V
=T (11.64)
この温度は(S, V)の関数である.温度をさらにV で偏微分すると ( ∂2U
∂V ∂S )
= (∂T
∂V )
S
(11.65) となる.一方,Sを固定し,UをV で偏微分すると,
(∂U
∂V )
S
=−P (11.66)
である.Pも(S, V)の関数なので,これをさらにSで偏微分すると ( ∂2U
∂S∂V )
=− (∂P
∂S )
V
(11.67) 偏微分は順序によらない.よって,
(∂T
∂V )
S
=− (∂P
∂S )
V
(11.68) が導ける.
同様に∆F,∆G,∆Hから,
(∂S
∂V )
T
= (∂P
∂T )
V
(11.69) (∂S
∂P )
T
=− (∂V
∂T )
P
(11.70) (∂V
∂S )
P
= (∂T
∂P )
S
(11.71) が得られる.これらはマクスウェルの関係式とよばれる.
たとえば,温度一定での内部エネルギーの体積変化,(∂U/∂V)T を求め たいとする.このとき,
(∂U
∂V )
T
=T ( ∂S
∂V )
T
−P (11.72)
となるが,
(∂S
∂V )
T
は簡単には測定できない.そこで式(11.69)を用いて,
(∂U
∂V )
T
=T (∂P
∂T )
V
−P (11.73)
とするのである.体積一定での圧力の温度依存性なら簡単に測定できる.
このようにマクスウェルの関係式は熱力学量の測定に役立つ.
11.4 熱力学関数 175 演習問題11
A 1. 温度が異なる物体の接触
熱容量Cの同じ物体を用意し,片方を温度T,もう片方を温度 T0(> T)にする.2つを接触させると温度は(T+T0)/2となる.こ のとき,接触前と後でエントロピーはどのように変化したか.
2. T-S面で描いたカルノーサイクル
(a) カルノーサイクルをP-V 面でなく,温度とエントロピーSを 使って,T-S面で表すとどのようになるか.
(b) 曲線で囲まれた面積は何を表すか.
3. マクスウェルの関係式
式(11.69), (11.70), (11.71)を導け.