• 検索結果がありません。

研究 2:TAF と思考抑制が強迫傾向に及ぼす影響について

ドキュメント内 研究題目 (ページ 30-51)

第1節 問題と目的

研究1の結果では,「確認強迫」はTAFの影響が見られたが,「洗浄強迫」では見られず,強 迫症状の違いによりTAFを介さないプロセスがあることが示唆された。TAFという認知バイア スが強迫症状に直接影響を及ぼさないこともあるという可能性が考えられ,他の変数の影響に より洗浄強迫が起きていることが考えられる。確認強迫と洗浄強迫では,強迫行為に至るメカ ニズムに違いがある可能性もうかがわれた。

これまで,TAFと強迫症状(Rachman et al., 1995),思考抑制と強迫症状(Rachman, 1998)と の関連はいくつかの実証研究から示されているが,この3変数の関連を検討した研究はあまり 見られない。第1章で述べたように,この3変数の関連を検討した研究には,Rassin et al.(2000), Altin& Gençöz(2011)などがある。

Rassin et al.(2000)は,健常者で見られる強迫観念・行為という現象が,臨床の現象へどの ように発展するのかを調査することを目的とした。そして,強迫症状が侵入思考の機能である ことに注目し,侵入思考を強める要因としてTAFと思考抑制に着目した。大学生を対象に質問 紙調査を行い,モデルを作成,検証を行った。Rassin et al.(2000)の複数のモデルをFigure 3-1

(モデル 1, 2, 3, 4, 5)に示す。この結果から,モデル2,4,5の適合度が高かった。以上より,

思考抑制はTAFの先行要因であり,TAFは思考抑制よりも強迫に対する根本的要因であること が示唆された。しかし,このモデルは理論や今までの知見を基に作成されたモデルではない。

Rassin et al.(2000)では,Model 2の適合度が高かったが,このモデルは彼らが指摘しているよ うに,直観的な妥当性に基づいて“見込み”から思考抑制へパスを引いたモデルである。「見込 み」バイアスを持つ人は,自分と他者の危険性を高く評価してしまうが,他者の危険を回避す るために取る対処行動は,個人の認知方略である思考抑制という方法はとらずに,より他者を 危険から遠ざけるような具体的な行動をとるだろうという考えから作成したモデルである。し かし,これまでの実証研究の知見を踏まえると,“見込み”と思考抑制の関連が示されており

(Clark, Purdon, & Byers, 2000; Altin & Gençöz, 2011),“見込み”から思考抑制へパスを引くこと が適切である可能性もある。

また,Altin& Gençöz(2011)は,TAFと強迫症状の間の責任と思考抑制の媒介的な役割を調 査することを目的とし,大学生に質問紙調査を行い,媒介分析を用いて検証した。Altin & Gençöz

(2011)の複数のモデルをFigure 3-2に示す。その結果から,「TAF-道徳」,「TAF-見込み」は強 迫傾向へ異なるパスに続くことが示され,「TAF-道徳」は責任性と,「TAF-見込み」は思考抑制 とつながり,強迫傾向を増加させていることが示された。

以上の2つの結果から,TAFの種類によっては強迫傾向へのパスに違いが見られることが示 唆された。しかし,2 つの結果では,「思考抑制」につながるものとして「道徳」「見込み」と 違いが見られ結果は一貫していない。

また,Altin& Gençöz(2011)では,TAFを責任感覚の前提としてモデルに組み込んでいる。

しかし,TAFは責任性という信念の下位概念である認知バイアスであり,責任性の前提として TAFをモデルに組み込むのかは検討の余地がある点である。

29 モデル1

モデル2

モデル3

モデル4

モデル5

Figure 3-1 Rassin et al.(2000)のモデル(Rassin et al., 2000, p.893,895より作成)

TAF

思考抑制

強迫症状

TAF 思考抑制 強迫症状

TAF 強迫症状 思考抑制

見込み

道徳

強迫症状 思考抑制

見込み

道徳 思考抑制 強迫症状 .12

.39

.24 .41

.21 .38

.17 .11

.41

.21 .38 .17

χ2=9.77, p=0.00 AASR=0.12 AIC=7.77 CFI=0.78

χ2=2.54, p=0.11 AASR=0.04 AIC=0.54 CFI=0.96

χ2=7.69, p=0.02 AASR=0.05 AIC=3.69 CFI=0.86

χ2=5.73, p=0.06 AASR=0.04 AIC=1.73 CFI=0.94

χ2=1.87, p=0.39 AASR=0.03 AIC=-2.13 CFI=1.00

30

Figure 3-2 Altin& Gençöz(2011)の媒介分析の結果 (Altin& Gençöz, 2011, p.106, 108より作成)

TAF-道徳 強迫症状

責任感覚の増大 .24, p<.001

.52, p<.001 .40, p<.001 .02, p>.05, n.s.

TAF-見込み 強迫症状

思考抑制 .14, p<.001

.16, p<.001 .31, p<.001 .07, p>.05, n.s.

Reduced model F(3,279)=28.43, p<.001 R2=.23

Full model

F(4,278)=35.48, p<.001 R2=.34

Reduced model F(3,279)=28.43, p<.001 R2=.23

Full model

F(4,278)=30.48, p<.001 R2=.30

31

そもそも,責任性とはどのようなものなのだろうか。Rheaume, Ladouceur, Freeston & Letarte

(1995)は,責任の重要性について,責任の評価における決定的な影響という側面があること を述べている。つまり,強迫症状を喚起しうる状況への評価には,責任の評価という点の他に,

自分がある事態に対して決定的な影響を持つと考える態度があるとした。つまり,責任には重 大な決定的影響を持つと考える態度と,実際に責任感覚を増大させるような信念を持ち合わせ るという 2 つがあると考えられる。Salkovskis, Wroe, Gledhill, Morrison, Forrester, Richards, Reynolds, & Thorpe(2000)は,責任性を,本人があらかじめ持っている責任的な態度(assumptions)

と,責任の増大感覚を高める評価(appraisals)の2つの側面に分けている。そのため,責任性 という言葉は一概に捉えるのではなく,2つの側面をふまえて検討していく必要があるだろう。

TAFは責任性の概念の中でも,ある出来事を重要だとみなす際の評価に関わる認知バイアスで あった。そのため,appraisalに相当するだろう。本研究の目的として,第一に,Rassin et al.(2000)

の追試的検討を行う。第二にassumptionsとしての責任性とappraisalとしてのTAFとの関連を 検討したうえで,研究1の結果をふまえ,TAFから強迫症状へ至るモデルが症状によって異な ることを想定し,責任性とTAFとの関連や,これまでの実証研究をふまえて,探索的にモデル を作成し症状ごとに検証することを目的とする。

なお,研究1では,井出他(1995)の強迫傾向尺度を用いたが,研究2ではHodgson & Rachman

(1977)の Mausley Obsessive Complusive Inventory の日本語版である Mausley Obsessive- Complusive Inventory(MOCI)邦訳版を用いた。その理由としては,TAF,思考抑制,強迫傾向 の3変数間の関連を検討した研究では,MOCI尺度が用いられていたためであり,直接的に比 較は検討することが出来ないが,モデルの適合の比較を行うために,尺度を同様のものとし検 討を行う。

第2節 方法

(1) 調査対象者

大学生148名(男性47名,女性101名)を対象とした。平均年齢は20.35(SD=0.95)歳で あった。

(2) 質問紙構成

質問紙は,フェイスシート(年齢,性別,学年の記入を求めた),MOCI邦訳版とTAFS翻訳 版,非機能的思考体験質問紙,Responsibility Attitude Scale翻訳版,WBSIから構成された。

強迫傾向を測定する尺度

MOCI邦訳版(吉田・切池・永田・松永・山上, 1995)を用いた。項目内容は,「毎日のよう にいやな考えが意思に反して湧き上がってきて困っています」,「日常のなんでもないことをし ていても,これでいいのかひどく疑問に思ってしまいます」など30項目から成り,「はい」,「い いえ」の2件法で回答してもらった。吉田他(1995)では,「確認(Checking)」,「清潔(Cleaning)」,

「優柔不断(Slowness)」,「疑惑(Doubting)」の4つの因子に分かれることが示されている。

思考と行為の混同(TAF)を測定する尺度

鈴木・代田(2004)によるTAFS翻訳版を用いた。項目内容は,「もし私が友達について冷た い考え方をしたら,それは冷たい行動をとるのと同じくらい不誠実だ」,「もし自分が病気にな

32

ることを想像したら,実際に自分が病気になる危険性が高まる」などの16項目からなり,「0: ま ったくあてはまらない」から「4: 完全にあてはまる」までの5件法で回答してもらった。

思考抑制を測定する尺度

White Bear Suppression Inventory邦訳版(以下WBSI; 松本, 2008)を用いた。項目内容は,「自 分には考えたくないことがある」,「ときどき,自分は,なぜそのような考えを持っているのか と思う」などの15項目からなり,「0: まったくあてはまらない」から「4: 完全にあてはまる」

までの5件法で回答してもらった。

自動思考を測定する尺度

非機能的思考体験質問紙(杉浦・丹野, 1998)を用いた。項目内容は,「人前でひんしゅくを 買うようなことを起こすのではないかという考え」,「仕事などで何か重大なミスを犯す/あるい は犯したのではないかという考え」など55項目からなり,「全くない」から「いつもある」の 4件法で回答してもらった。杉浦・丹野(1998)では,「危険」,「衝動」,「自己像」の3因子に 分かれることが示されている。ただし本研究では,この尺度得点は分析では用いなかった。

責任性の信念を測定する尺度

Responsibility Attitude Scale翻訳版(以下,RAS; 杉浦・杉浦・丹野, 2007)を用いた。項目内 容は,「何かがうまくいかないと,自分の責任があると感じることがしばしばある」,「危険が起 こるかもしれないのを予見できたにもかかわらず,何もしなかったら,いかなる結果も私のせ いである」など26項目からなり,「0: 全く当てはまらない」から「5: とてもよくあてはまる」

までの5件法で回答してもらった。

(3) 手続き

心理学系の講義終了後,その場で回答および回収を行った。

第3節 結果

(1) 尺度の検討

MOCIの探索的因子分析及び確認的因子分析

MOCI30 項目に関して,探索的因子分析(最尤法,バリマックス回転)を行った。1 度目の

分析の後,吉田他(1995)を参考に,固有値の変化の仕方,解釈のしやすさから因子数は4因 子解が適切であると判断し,因子数を4に設定して2度目の因子分析を行った。次に,因子負 荷量が.30以下の項目を削除し,3度目の因子分析を行った。その結果,固有値1以上の因子か らなる18項目4因子構造が得られた。第一因子は,「細かいことまで,あれこれ考えすぎて困 っています」,「日常のなんでもないことをしていても,これでいいのかひどく疑問に思ってし まいます」など,疑惑に関連する項目であり,吉田他(1995)に倣い“疑惑”とした。第二因 子は,「ガスの元栓や,水道の蛇口,ドアの鍵などを閉めたかどうか何度も確認しないと気がす みません」など,確認行動についての項目であり,“確認強迫”因子とした。第三因子では,「多 量に消毒剤を使うことはありません」,「私はそれほど潔癖症ではありません」など,清潔,汚 染などに関する項目であり,“洗浄強迫”因子とした。第四因子は,「バイ菌や病気などのこと は特に気になません」,「お金に触れると手が汚くなるとは思いません」など,清潔に関する項 目が多かったため,“清潔”因子とした。

ドキュメント内 研究題目 (ページ 30-51)

関連したドキュメント