『ライフスキルを強化する薬物乱用防止教育後の効果評価 -テ キスト マ イニングによる内容分析を通して - 』
Ⅰ 研 究方 法
1. 研 究 期 間
2012年 4月 ~5月
2. 分 析 対 象
2012 年 4月 に ,3年 課 程 看 護 師 養 成学 校 に 入 学 した 1 年次 生81名 を 対 象 と し ,教 育 後 に 提 出 さ れ た400文 字 の 記 述 レ ポー ト の う ち ,質 的 研 究 へ の 承諾 を 得 た レ ポ ート の み を 分 析 対 象 とし た .
本 研 究 の 対 象及 び 教 育 内 容 は , 研究 Ⅰ と 同 対 象 で あ る .研 究 Ⅱ で は , 構 成 さ れた 質 問 紙 項 目 以 外 から 薬 物 乱 用 防 止 教 育 受講 後 の 意 識 に つ い て 質的 分 析 を 進 め る こ と にし た .
3. 薬 物 乱 用 防 止 教 育 の 構 成 1)学習目標の設定
学習目標として,次の 4 点を目標と設定した.①ライフスキルの必要性を理解できる,
②薬物の危険性と健康被害について理解できる,③断る勇気を持つことができる,④自分 自身を大切にする重要性を理解する,と設定した.ライフスキルに関する指導及び,薬物 乱用防止教育の指導内容においては,研究Ⅰの方法に記述しているため,本章では割愛す る.
2)レポート提出(400文字)
薬物乱用防止教育後の学びを分析すること を目的に,400文字のレポート提出を課題と して提出を求めた.テーマは,『薬物乱用防止教育を受けて考えたこと』 とした.
3)回収方法
教育1週間後を締切りとして,レポート提出を求めた.分析することに対する同意の可 否は,承諾書に記入のうえ,レポートに添付し提出ボッ クスに自 由 投函方式で 回収した .
4.分析方法
解析ソフトとして,KH Coder(Ver. 2.Beta.32c, 2015 01/14) Windows版 を 使 用 し た.
KH Coderは 立 命 館 大 学 で 開 発 さ れた フ リ ー の ソ フ ト ウ ェア で あ る . ア ン ケ ー トの 自 由 記 述 ・ イ ンタ ビ ュ ー 記 録 ・ 新 聞 記事 な ど の デ ー タ を テ キス ト 分 析 す る こ と を テキ ス ト マ イ ニ ン グ とい う .
KH Coderは , テ キ ス ト 型 ( 文 章 型) デ ー タ を , 統 計 的 に計 量 的 に 分 析 す る こ とが で
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き る . 高 頻 度出 現 単 語 の カ ウ ン ト だけ で な く , 語 句 と 語 句の 共 起 や 階 層 的 ク ラ スタ ー 分 析 も で き ,非 常 に使 い や す く ,図 式 化 も可 能 で あ る た め 分析 ツ ー ル と し て 選 定 した .KH Coder に は Windows 用 バ イ ナ リ ,チ ュ ー ト リ ア ル , マ ニュ ア ル ,“ChaSen: 茶筌(ちゃ せん)”・MySQL・R が 包 含 さ れ て いる .形 態 素 解 析 エ ン ジン は ,入 力 文 を 単 語 単位 に 分 割 し 品 詞 を 付与 し , ソ フ ト に は “MeCab(めかぶ)”や“ChaSen:茶筌(ちゃせん)” がある .
前者は,京都大学情報 学研究科が ,後者は 奈 良 先 端 科 学 技 術 大 学 情 報 科 学 研 究 科 が 開 発 し て い る .フ リ ー の ソ フ ト ウ ェ アで 広 く 自 然 言 語 処 理 研究 に 資 す る た め 開 発 され た も の で あ り ,双方とも随時,更新されている.インターネットから手持ちのパソコンOSに 応じた最新のバージョンをダウンロードすると誰でも使用が可能である .テキストマイニ ングは,電子媒体の文書データをコンピュータを用いて解析するため ,品詞情報や出現頻 度を元にキーワード候補となる語を絞り込む.構造化されていないテキストデータから言 葉のパターンや規則性を発見して ,知識や情報を得る技術である44).
そ こ で 本 研 究で は ,KH Coderの “ChaSen:茶筌 ”システムを用いてレポート文章を品 詞に分解した.文書データは,テキストファイルで読み込むため,レポート内容を1語句 も変化させずにメモ帳に転記入力した45).その後,“ChaSen:茶筌 ”により分析を行い,形 態素に分解した.文章から出現頻度が高い単語を抽出し抽出後リストを作成した(表 11).
類似性の高い複合語は統合し,出現頻度別に並べ分析した.テキストデータの中から語を 自動抽出し,多頻出単語を確認した.また,語と語の結びつきは,共起ネットワーク分析 を用いた.
5.倫理的配慮
本教育は教育カリキュラム外の時間で実施しており,レポート提出の有無は成績評価に 関係しないことを説明した.不参加を選択しても何ら不利益を被らず,匿名性の保証,研 究発表や教材以外に使用しないことを文書と口頭で説明した .
教育1週間後を期限に,学生が自由に投函できる回収ボックスに提出を求めた .承諾書
が添付されたレポートのみを分析対象とした .3年課程の看護師養成学校の特性から,男
性が少なく,性別や年齢を記入すると個人が特定される恐れがある場合は ,性別及び年齢 の記入の有無も自由選択とした.形態素解析後も,個人が特定されないように配慮した . 本研究は,所属機関の研究倫理審査委員会の承認を得て実施した .
Ⅱ 結果
対象者81名のうち承諾書の提出があった 74名(91.4%)のレポートを分析対象とした.
1. 基 本 属 性
男性 2 名(2.0%),女性 72 名(96.0%)であり 74 名全員が性別を記載していた.年齢 18
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歳 58 名(80.6%),19 歳 8名(11.1%),20 歳以上 6 名(8.0%)であった.基 本 属 性 は 3年 課 程 看 護 師 養 成学 校 と い う 学 校 の 特 性か ら , 女 子 学 生 の 割 合が 多 く , 性 差 に よ る 分析 を 行 う と 個 人 が 特定 さ れ る た め 実 施 し なか っ た .
対 象 の 年 齢 構成 も 18歳 ,19歳 が 91.7%で, ほ と ん ど が 未成 年 者 で あ っ た . こ の年 代 は , 小 学 校 ,中 学 校 及 び 高 等 学 校 の学 習 指 導 要 領 改 訂 に 基づ き , 薬 物 乱 用 と 健 康に 関 す る 指 導 を 受 ける こ と が 義 務 づ け ら れ た 年 代 で あ る .ま た ,文 部 科 学 省 は ,毎 年 1回 は 必 ず 薬 物 乱 用 防止 教 室 を 開 催 す る よ う に 依 頼 し て い る . こ れら の 時 間 以 外 に も , 保健 指 導 と し て 薬 物 乱用 に 関 す る 指 導 が 実 施さ れ て い る . 看 護 師 養成 学 校 入 学 前 の 教 育 機関 に お い て , 過 去 に薬 物 乱 用 防 止 教 育 を 受け た 背 景 を も つ 学 生 であ る .
2. 形 態 素 解 析 に よ る 高 頻 度 出 現 単 語 の 抽 出
テキストマイニングによる分析結果を示した(表 11).薬物乱用が最大頻度で 52 回使用 されていた.“1度乱用してしまうと”,“たった 1度の過ちでも”,“1度の過ちで全てが変 わる”,“1度手を出してしまうと何度も,何回も使用してしまう”など,1度や 1回とい う表現が27 回で2番目に頻出していた.
3番目には,違法ドラッグや脱法ドラッグ ,ハーブやアロマなどの表現による一連の薬 物群で,こ れ ら は2014 年 以 降 か ら 政府 が 統 一 呼 称 と し て いる 危 険ドラッグのことを指し,
総数として 26 回出現していた.乱用の危険性のある覚せい剤と大麻の出現頻度は低かっ た.MDMA については薬物の形状から,“ラムネみたい”,“ラムネ菓子”という表現が用 いられており,視覚的情報から記述していた .
薬物依存,薬物依存者及び乱用者という単語が 25 回の出現数であり,これは主語とし て用いられていた.依存症・依存性は薬物による症状であると解釈し,単語を統合しなか った.乱用の危険性のある薬物や,乱用した場合の症状などの出現頻度は多かった.
薬物乱用防止啓発教育は,23回出現した.乱用や依存と同頻度でされていた言葉が,“自 分自身”であり出現数は18回であった.“自分自身の健康を守る”,“自分を守れるのは自 分自身”,“自分自身を大切にすること”など,自分自身を薬物から守ることや ,その基盤 として自分を大切にする重要性についての学びを記述して いた.
心理社会的能力・ライフスキルという単語は3回しか出現しておらず,ライフスキルに 関する学びを記述する学生は少なかった.友人関係や人間関係という単語においては,関 係性から悩み事が発生し薬物の使用に至る危険性について記述しており ,ライフスキルの 1つである人間関係スキルのことではなかった.
再犯防止や相談センター,心理カウンセラー,ダルク,施設不足や職員不足という出現 数は少ないが,薬物乱用に至る前の相談機関や,乱用者が回復するための社会復帰施設に 関する学びの記述も認められた.
40 3.形態素解析による共起ネットワーク
次に,テキストデータを共起ネットワークで分析し,図 9に示した.共起ネットワーク とは,抽 出 語 ま た は コ ー ド を 用 い て , 出 現 パ タ ー ン の 似 通 っ た も の を 線 で 結 ん だ 図 で あ り,共 起 関 係 を 線(edge)で 表 し た ネッ ト ワ ー ク を 描 く 機 能で あ る .ど の 語 と ど の語 が 一 緒 に 使 用 され て い た か と い う 「 共起 」 に 注 目 し , 語 句 が密 集 し て い る 箇 所 や 結ん だ 線 が 密 集 し て いる と こ ろ に 関 係 性 の 強さ を 見 出 す こ と が 可 能と な る 46).
乱 用 と い う 語が 最 も 共 起 し , こ の図 の 中 心 に 布 置 さ れ た . 乱 用 と い う キ ー ワ ー ドが 中 心 と な り , 周辺 に 啓 発 教 育 や 薬 物 を断 る 勇 気 が 関 連 性 を 示す 線 で 結 ば れ た . そ の上 で ,
“覚 せ い剤 ‐ 大 麻”や“ 違 法 ‐ ド ラ ッグ ”,“ た く さ ん - 種 類”,“ 手 - 出 す”,“ 断 る - 勇 気 ” な ど 学 生 の 記述 内 容 に 応 じ て , ク ラス タ ー ( 円 ) を 書 き 加え た . そ れ ぞ れ に 結 びつ き が 認 め ら れ た が ,薬物 乱 用 防 止 教 育 の外 側 の 周 囲 に 布 置 さ れ ,“ 覚 せ い 剤-大 麻 ”と“ 違 法-ド ラ ッ グ ” は凝 集 性 が 認 め ら れ な かっ た .
図 9 の 中 心 に,“ 薬 物 ‐ 乱 用”,“ 乱用 - 防 止 ”,“ 防 止 - 教 育”,“ 防 止 - 啓 発”,“ 薬物
- 勧 め る”,“乱 用 - 断 る”,“ 断 る -勇 気 ”,“ 薬 物 - 恐 ろ しい ”,“ 自 分 - で き る ”な ど , 乱 用 防 止 教 育に よ る 語 句 が 布 置 さ れ , 結 び つ き と 凝 集 性 及び ク ラ ス タ ー が 認 め られ た . 断 る 勇 気 と して 共 起 す る こ と が 認 めら れ た た め , 断 る 勇 気を も つ こ と に 学 生 は 理解 を 示 し て い た .
“ 乱 用 - 防 止” の 結 び つ き が 最 も 強か っ た こ と は , 表 11 に よ る 薬 物 乱 用 の 頻 出の 高 さ か ら も 整 合性 が あ っ た .ま た,“ 覚 醒 剤 - 大 麻”,“ 違 法 ド ラ ッ グ ”な ど は ,周 辺 に 布 置 さ れ て い る だけ で , 線 で 結 ば れ て いな か っ た . 薬 物 を 勧 めら れ て も 断 る こ と を 重視 し た 一 次 予 防 教 育と , 薬 物 の 種 類 に つ いて の 学 び は , 別 次 元 の分 布 に な っ た .
Ⅲ 考察
今回,ライフスキルについて,20 分間の講義形式で教育を実践した.そのため,学生
は,ライフスキルの意味を知るのみで,スキルを育成する実践的な教育ではなかった.ト レーニングなしでは,スキル育成が困難で,記憶に残る可能性も低いことも示唆された . ライフスキルを活用し,断るスキルをトレーニングを教育プログラムに組み込み,再考し なければならないと考える.
ライフスキルは,自分自身を大切にするという自尊感情が基盤となっている.薬物乱用 防止指導のなかで,薬物を使用しないことが ,健康を守るだけでなく自分自身を大切する 重要性に繋がることを指導していたことが記憶に残すことができていた .“自分を大切に すること,これは薬物だけでなく ,これから出会うさまざまな問題や危険な出来事から , 自分自身を守る重要な言葉と考える”という記述から,セルフエスティームについての学 びが確認できた.“自分自身を大切にする意義”についても学び考察することができてお り,教育目標は達成できたと考える.