6.1
石油化学の技術体系と特徴図 6.1 石油化学の技術体系 石油化学技術
石油化学基礎製品製造技術
有機工業薬品製造技術
高分子製造技術
図 6.2 石油化学基礎製品の技術体系 石油化学基礎
製品製造技術
合成ガス製造技術
オレフィン製造技術
芳香族炭化水素製造技術
部分燃焼水蒸気改質法 水蒸気接触改質法
オレフィン製造技術は、図 6.3 に示すように低級オ レフィン製造技術、高級オレフィン製造技術から成 る。前者はさらに炭素数 2 のオレフィンであるエチレ ン、炭素数 3 のプロピレン、炭素数 4 で共役二重結合 を持つブタジエン、炭素数 4 で二重結合ひとつのブチ レン類の製造技術からなる。低級オレフィン製造技術 は、元来、石油精製技術であったものが、石油化学に 流れ込んで発展したものが多い。後者の高級オレフィ ン製造技術は、直鎖高級オレフィン製造技術と分岐鎖 高級オレフィン製造技術から成る。
(1)エチレン製造技術
すでに第 4 章で述べたように、石油化学誕生以前か ら世界各地では、そこで入手できる原料を使って有機 工業薬品、高分子の生産が始まっていた。その際のエ チレン製造技術を図 6.4 に整理した。
副生品としてのエチレンの回収法として、コークス 炉ガスからのエチレンの低温分離法がある。ドイツで よく行われた。またアーク法によって天然ガスからア セチレンを製造する際に副生するエチレンの回収も欧 州で少量行われた。一方、エチレンの生産を目的に触 媒を使う製法も行われた。発酵法エタノールを原料 に、酸性白土などを触媒にして気相脱水反応によるエ チレン生産は世界各地で行われた。この製法は、他の
図 6.3 オレフィン製造の技術体系 オレフィン
製造技術
低級オレフィン 製造技術
高級オレフィン 製造技術
エチレン製造技術 プロピレン製造技術
ブタジエン製造技術
ブチレン類製造技術 直鎖高級オレフィン製造技術
分岐鎖高級オレフィン製造技術
図 6.4 石油化学誕生以前からのエチレン製造の技術
エチレン製造 石化以前の技術
非触媒法
触媒法
コークス炉ガスからの低温分離
アーク法アセチレンからの副生品分離
発酵法エタノールの脱水
アセチレンの部分水素化
製法に比べて高純度のエチレンが容易に得られること から、初期のポリエチレンの生産には不可欠であっ た。アセチレンの部分水素化によるエチレン生産は、
第 2 次世界大戦中にドイツで行われた。これも触媒開 発が鍵であった。このように、石炭化学の森、発酵化 学の森の中でもエチレン製造技術は生まれていた。
一方、石油を原料とする低級オレフィン製造技術の 中で、最初に発展したのは重質油の熱分解法(図 6.5)
であった。重質油の熱分解の際に、エチレンをはじめ とする低級オレフィンを含んだ廃ガスが発生する。こ のエチレンやプロピレンが利用された。重質油の熱分 解法は、ガソリン留分を得ることを目的に、重質油を 高温高圧下、無触媒で熱分解する方法であり、純粋に 石油精製技術である。1913 年に開発されたバートン 法は、最初の石油熱分解法であり、1913 年にスタン ダード石油(インディアナ)社で工業化された。1914 年に開発されたダブス法は、重質油の部分燃焼による 石油分解法であった。その後、1910 年代~20 年代に 多くの石油熱分解法が開発されたが、これらはガソリ ンを得るための石油精製技術であって、石油化学技術 でないので詳細は省略する。
水蒸気分解法は、石油の熱分解技術の延長線上に生 まれた。1920 年に米国のカーバイド&カーボンケミ カル社がエタンの水蒸気分解によってエチレンの生産 を開始したことに始まる。その後、米国のスタンダー ド石油(NJ)社が、1920 年代前半にプロパンの水蒸 気分解、さらに 1941 年にはナフサの水蒸気分解によ り、エチレンの生産を工業化した。水蒸気分解法の概 要については、3.3.3 ですでに述べた。水蒸気添加の 目的は、原料のナフサやエタンの分圧を低下させるこ とによって、熱分解の平衡反応を分解側に進めて転化 率を向上させること、反応管内壁への炭素析出を抑制 すること、熱分解に伴う温度低下を水蒸気の大顕熱で 抑制することであった。
米国で石油の熱分解の延長で生まれた管式水蒸気分
解法以外にも、第 2 次大戦後に突然に様々なエチレン 生産を主目的とする製法が、表 5.3 に示したように、
1940 年代後半から 1960 年頃までに開発、工業化され、
競合した。銅―鉄触媒を用いるカタロール法(1947 年シェル化学社)、砂を媒体とする移動床式分解法
(TPC 法;1947 年ソコニーバキューム石油社、サン ドクラッキング法;1955 年ルルギ社)、アセチレンと の併産を狙う高温水蒸気分解法(1960 年 BASF 法、
1960 年ヘキスト法など)などである。
その競争の中から、結局、1970 年代には外熱管式 水蒸気分解法だけが生き残った。分解炉形式、石油化 学基礎製品の分離精製方式の違いによって外熱管式水 蒸気分解法の中でも多くの製法が生まれ競合してい る。 現 在 で は ス ト ー ン & ウ ェ ブ ス タ ー(Stone &
Webster)法、ルーマス(Lummus)法などが、広く 世界で採用されている。外熱管式水蒸気分解法には、
次のような技術発展、改良があった。1960 年代前半 に管内の滞留時間が 0.7~1.5 秒から 0.2~0.4 秒に短縮 された。これは、管壁へのコークス付着の原理が解明 されたためである。この結果、エチレン収率が高まっ た。また管の配置も 1960 年代に水平式から垂直式に 変わった。1960 年代には急冷熱交換器(TLE)が導 入されるとともに、遠心圧縮機が導入され、省エネル ギーと設備の大型化につながった。
1950 年代~1960 年代には、ナフサの水蒸気分解に よるオレフィンのうち、プロピレンが余剰気味であっ た。このため固体触媒を使ったプロピレンの不均化に よってエチレンと n- ブチレンを生産するトリオレ フィンプロセス(triolefin process)が 1960 年にフィ リップス社により開発された。この製法は世界で唯 一、カナダで 1966 年に工業化された。しかし、その 後、プロピレン需要が伸びてプロピレン余剰が解消さ れたため、10 年未満で稼働停止となった。反応機構 が当初わからなかったが、その後カルベン金属錯体を 経由するメタセシス反応であることが解明された。こ
図 6.5 石油化学におけるエチレンの製造技術体系
エチレン製造技術
副生法
主目的法
重質油の熱分解法
(Burton法、Dubbs法、Cross法、
触媒法
非触媒法
C2~常圧ガスオイルのCatarole法 プロピレン不均化法
C2~常圧ガスオイルの管式水蒸気分解法
(Kellog法、ESSO法、Stone & Webster法、
C2~常圧ガスオイルの移動床式分解法
(TPC法、Sand Cracker法)
ナフサ~原油の高温水蒸気分解法
(BASF法、Hochest法、SBA法、呉羽原油分解法、ゼオン法)
(すべて非触媒法)
Tube & Tank法、Gyro式気相熱分解法)
Lummus法、Linde法など多数)
の逆反応が、プロピレンの需給環境の変化によって、
6.2 で述べるように、メタセシス法プロピレン製造技 術として 1990 年代に復活した。
(2)プロピレン製造技術
プロピレンの製造技術体系を図 6.6 に整理した。プ ロピレンもエチレンとともに、重質油の熱分解法の廃 ガスから得られる。しかし、重質油からガソリン留分 を得る石油精製技術は無触媒熱分解法ではなく、接触 分解法の方向に発展した。フードリー(フランス)は、
シリカ・アルミナを触媒とした固定床接触分解法を 1927 年に開発し、これを米国サン石油社が 1938 年に 工業化した。ケロッグ社は流動床触媒による接触分解 法を 1938 年に開発した。スタンダード石油(NJ)は、
ケロッグ社との共同研究によって、その技術をさらに 発展させ、1940 年に流動床接触分解法(FCC 法)を 開発し、1942 年に工業化した。一方、ソコニーバ キューム石油社は、フードリー法を発展させた移動床 式の TCC 法を開発し、1943 年に工業化した。
重質油を接触分解した際には、熱分解よりも大量の 廃ガスが得られる。その廃ガスには、エチレンはあま り含まれず、プロピレン、ブチレン類が大量に含まれ るので、プロピレンの大きな供給源となった。熱分解 がラジカル反応であるのに対して、接触分解がイオン 反応のためである。
エチレンを得る目的で炭素数 3 や 4 のガス原料やナ フサなどの液体原料を水蒸気分解すると、エチレンの 約半分の量のプロピレンが一緒に生成する。これはプ ロピレンの主要な供給源である。特に日本・アジア、
欧州のようなナフサを原料に水蒸気分解法によってエ チレンを生産している国々では、水蒸気分解法がプロ ピレンの第 1 の供給源であり、FCC 廃ガスは補完的 な位置づけの第 2 の供給源に過ぎない。ただし、エタ ンを原料とする水蒸気分解では、エチレンは生成する
が、プロピレンの生成量が非常に少ない。このため、
エチレン原料としてエタンの割合が高い米国では、
FCC プラントは重要なプロピレン供給源である。
一方、1990 年代になって、上述した 2 つの副生法
(ナフサの水蒸気分解法、FCC 法)によるプロピレン 供給では不足するようになってきた。このため、プロ ピレンの生産を主目的とする製法が開発され、工業化 されるようになった。強化流動床接触分解法、プロパ ン脱水素法、メタセシス法である。これらについては 6.2 石油化学技術の新潮流で述べる。
なお、プロピレンは、エチレンと異なって、石油化 学誕生以前に石油以外の原料から合成されて、プロピ レン系製品がつくられるという歴史を持っていない。
(3)ブタジエン製造技術
第 2 次世界大戦中に合成ゴムの生産は、欧米とも国 を挙げての重要課題となったので、ブタジエンの生産 は重要であった。しかし、欧州や日本へのナフサの水 蒸気分解法の普及は大戦後であり、欧州や日本では図 6.7 に示す製法でブタジエンは生産された。石炭化学 の森、発酵化学の森の技術である。
第 1 は、アセトアルデヒドの縮合法である。アセト アルデヒドは、アセチレンまたは発酵法エタノールか 図 6.7 欧州、日本の石油化学誕生以前からのブタジ
エンの製造技術 石化以前の ブタジエン 製造技術
アセトアルデヒド縮合法
(1,3-ブタンジオール経由)
アセチレン二量化法(常圧)
(モノビニルアセチレン経由)
アセチレンのエチニル化法(加圧)
(1,4-ブタンジオール経由)
エタノールの脱水・脱水素法
図 6.6 プロピレンの製造技術体系(石油化学誕生以前のプロピレン製造技術はない)
プロピレン製造技術
副生法
主目的法
C3~常圧ガスオイルの熱分解法
減圧ガスオイルの接触分解法
(固定床法、移動床法、流動床法)
C2/C3混合~常圧ガスオイルの水蒸気分解法
減圧ガスオイルの強化流動床接触分解法
(DCC法ほか)
プロパン脱水素法
エチレン+n-ブチレンのメタセシス法 非触媒法
触媒法
(すべて触媒法)