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省略について

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第 5 章 考察

5.2 省略について

ために学習者によって取り入れられたインプットを「インテイク」と呼ぶ。そして、

インプットがインテイクになるために気づきが必要である。つまり、習得が起こるに は意味がわかるだけではなく、そこで使われた言語形式に学習者が気づかなければな らないということである。

「たら」「ば」言いさし文の場合でも同様のことが言える。つまり、JSL の学習者が

「たら」「ば」言いさし文のインプットに接しながらも、条件文であると考え、言い さし文であることに気づかないこともあり得る。そうした気づきが起こらなければ、

「たら」「ば」言いさし文についての理解が進まないと推察される。

表 16 教科書に提示している「~ばいい」の例文

例文 数

①ところで、文化劇場まで何で行けばいいでしょうか。

②まず十八番のバスに乗って、それから、二十四番のトロリーバスに乗り換 えればいいのですが、元旦は大変な人出で、バスがきっと込むでしょう。

③交通信号は中国も日本も同じで、赤は「止まれ」、黄色は「注意しろ」、青 は「進め」ですから、規則を守ればいいでしょう。

④しゃ、あさっては何時に出発すればいいですか。

⑤肉じゃがの作り方はそれほど難しくありません。肉とじゃがいもを油でい ためてから煮ればいいのです。

⑥そこで二十一番に乗ってから橋の前で十七番に乗り換えればいいです ね。

⑦文化劇場まで何で行けばいいですか。

⑧A:テープを早送りする時はどうすればいいですか。

B:早送りボタンを押します。

⑨ほかにどんなことに注意すればいいですか。

⑩静安寺でまた五十七番バスに乗り換えればいいです。

⑪アルバイトなんかしないで、勉強だけしていればいいの。

⑫自分さえ得すればいいと考えている人が少なくない。

⑬ところが、働き蜂たちはそのような楽しいことを、どうやって手に入れれ ばいいのかさっぱり分からない。

⑭面倒くさかったら結論だけ伝えればいいよ。

⑮それで、家来は自分の職務に忠実でありさえすればいい。

⑯しかし、日本では指示されたことを実行できる能力がありさえすればい いのではない。

⑰失敗したときは、それを踏み台にしてもう一度挑戦すればいい。

⑱分かりました。時と場合を考えて適切な方法を取ればいいのですね。

⑲どこからでも電話をかけられる時代になっても、用件だけを伝えればいい というものではありません。

24 例

⑳人に話すように書けばいいが、その話すように書くことが大変難しい。

㉑でも結婚式のやり方は国によって違うと思うんですが、式に出るとき何 を着て行ったらいいんでしょうか。

㉒お金だったら、いくらぐらい入れたらいいんでしょう。

㉓また夏休みにでも遊びに来たらいいわ。

㉔父はネクタイなんて1本あればいいと言っています。

表 16 に示す通り、「~ばいい」の形式が多く、24 例も提示されている。ここから学 習者にとって、「~ばいい」がなじみがあるため、「いい」を選択する可能性があると 考えられる。

しかし、「願望」の言いさし文の省略されている主節は、「放任」と同じように「い い」になるはずであるが、なぜ「願望」の正答率が低いのか。この原因は「願望」に 挙げている 3 問をそれぞれ見ながら考えていきたい。

図 9 問題ごとに「願望」における学習者の「いい」の選択率

図 9 をみると、まず、問題④「康子が死んでくれればな」において、JFL の上位群 と下位、JSL の下位群ともに「いい」の選択率が低い。その原因は「まずい/困る」を 選択した人が多いからで、JFL の上位群と下位群ともに 4 人、JSL の下位群は 3 人で あった。それは「死ぬ」という言葉に引っ張られた可能性があると思われる。さらに、

「てくれれば」が「願望」の機能を表出する手がかりだとわかっていないからかもし れない。

次に、問題⑤「そのことを理解していただければ」において、JSL の上位群でも「い い」の選択率が低い。それは母語話者と同様に「ありがたいです」、「助かります」、「嬉 しいです」などより自然な言葉と回答した人が多いからである。それに対し、JSL 上 位群以外の各グループの学習者では、誤りが多くみられた。これらのグループの学習 者は「ていただければ」が「願望」の機能を表出する手がかりだとわかっていないか らだと推測される。

問題⑥「将来、映画や小説の翻訳をしていただけたらって思って」において、「授 受動詞+ば」のパターンがないため、正答率が高くなったと思われる。以上の 3 問を 総合的に見ると、「願望」の省略部分が JFL の上位群、下位群、JSL の下位群の学習者 にとって理解が困難な原因は「てくれれば」、「ていただければ」に対する理解度が低 いからだと推測される。また、教科書調査では、「てくれれば」の例文は 1 例しかみ られなかった。

JSL の上位群は「願望」の理解度が高い原因はインプットの量が多いと考えられる。

しかし、Pica(1983)は第二言語習得者は言語能力が低い段階では、インプットに基 づき自分の仮説を構築するため、周囲からのインプットに敏感であることを指摘して いる。では、なぜ JSL の下位群の理解度が進んでいないのか。Brecht, Davidson &

Ginsberg(1995)は、上級の学習者は確実な文法知識を持つため、外界からのインプ ットをより容易に吸収し身につけるとし、目標言語能力の高低によって学習環境から 受ける影響が異なることを指摘している。そのことから、JSL の学習環境においても、

下位群の学習者の理解度が進んでいないと解釈できるだろう。

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