6.1. 相続税
6.1.1. 遺産税と遺産取得税
なぜ相続という制度があるのか?
――機会平等の考え方を推し進めれば、金持ち(A)の子供(B)と貧乏人(C)の子供(D)とは同 じ機会を有するべきである。相続は不平等の根であり、金持ちの子供は金持ち、貧乏人の子供は貧乏人 という階層化が生まれてしまう。機会平等のためには相続税率は100%であるべきである。
相続を禁じても贈与が禁じられていなければ、相続禁止は徹底されない。また、首尾よく生前贈与す ることができた親子と、生前贈与する前に(例えば交通事故などで)親が死んでしまった親子との比較 で、後者があまりに不憫である。生前贈与する前に死んでしまうことを恐れれば、親は稼ぐそばから子 に生前贈与することとなろう。
では、相続禁止を徹底するために生前贈与も禁ずるべきであろうか。これは、Aの有するはずの資産 処分の自由を侵害する。(Cf. 憲法29条)
結局、自由主義と機会平等の両方を貫徹することは不可能である。機会平等が自由主義の前提条件で あるという考え方が存在するが、この考え方は矛盾に直面する。
機会平等の観点から見れば相続は悪であるが、自由主義に配慮すれば、相続は必要悪として残さざる をえない。
参考:橘木俊詔『日本の経済格差―所得と資産から考える』(岩波新書、1998)、石川経夫『日本の所 得と富の分配』(東京大学出版会、1994)
Cf. 制限的所得概念や消費型所得概念によれば、贈与・相続を受けてもそれは所得として課税される べきではないし、相続税・贈与税も廃止されるべきである。しかし、その結果として生ずる階層化・機 会不平等を容認するかについては、様々な議論があろう。基本的に、消費型所得概念などは、人の一生 における消費行動を念頭において議論されるものであり、相続による階層化などの影響はとりあえず除 いて議論されることが多い。
現実的な側面――日本だけ相続税が極端に高いと、資本が外国に逃げていく恐れがある。
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遺産動機
:なぜ親は子に財産を遺すのか?○予防貯蓄:いつ死ぬか正確に予見できないので、大抵は貯蓄を使い果たす前に死ぬ (→年金の必要 性に繋がる)
○交換:子に老後の面倒を見てもらうための戦略 (←生前贈与はできない)
○利他:子の喜びが親の喜びでもある (→効用の最大化を租税政策の基本とするならば、むしろ相続 には課税すべきでない、ということとなる)
参考:増井良啓「遺産動機と消費税: Barbara H. Fried, Who Gets Utility from Bequests? The Distribution and Welfare Implications for a Consumption Tax, 51 Stan. L. Rev. 641-81 (1999)」アメ リカ法2000年100頁
§ 500.01 遺産税と遺産取得税
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遺産税
:遺産に着目。財産税。主に英米。3
遺産取得税
:相続人の富の増加に着目。所得税の補完。主に独仏。ただしどちらも理念型にすぎない。日本は遺産取得税の体系に属すとされているが、後述するように 遺産税の考え方も取り入れられている。
相続による資産増加は包括的所得概念によれば所得であるので、4
所得課税の補完
ともいわれ る。が、所得税法を適用するとなると低所得階層にとって税負担が重過ぎることとなりがちなので、所 得税を免じ(所得税法9条1項15号)相続税法を適用することによって実際の税負担が軽くなる。5
富の再分配
という政策もあるので、高所得階層にとっては税負担が軽くなるとは限らない。なお、「被相続人の生前所得について6
清算課税
」という件は[浅妻]言ってはならないことである と考える。真っ当に納税してきた被相続人との関係で説明がつかない。また、被相続人段階で譲渡所得 課税がなされなかった部分について、相続税課税により相続人段階での譲渡所得課税がなくなる仕組み でもない。「7
資産の引継ぎの社会化
」…本来は被相続人への社会保障給付の分(のうち、保険の論 理では給付が正当化されない部分)、相続を否定するべき。NOTE 2. 贈与税の場合に何税がかかるか、贈与者・受贈者がそれぞれ個人か法人かで異なってくる。
再確認すべし。
NOTE 3. 日本の相続税の現状
税収は小さい。課税割合は約5%。しかし他国と比べるとそれでも高い。近年、相続税を廃止する国 も目立ち始めている。(税収が少ないということの他に、相続税が企業承継を妨げるという政治運動が 成功した〔その真偽は怪しいにもかかわらず〕、という面もあるそうである)
相続税については8
物納
も認められうる、ということも特徴の一つである。§ 511.01 9
法定相続分課税方式
イ 基礎控除=10
5000 万円+ 1000 万円×相続人数
(相続税法15条)ロ 遺産取得税→各相続人ごとに相続によって取得した財産のみが課税対象となる筈のところ、遺産税 的に修正。
「民法所定の各相続人が民法所定の相続分に応じて被相続人の財産を相続したと仮定した場合の総税 額を計算し、それを各相続人および受遺者に、その者が相続または遺贈によって得た財産の価額に応じ て按分することとしている」(金子租税法464頁、相続税法11条以下)
「相続税の総額は、遺産がどのように分割されてもほぼ等しいことになる」
○相続税の負担を減少させるために実際の遺産の分割を隠蔽して均分相続を行なったように仮装する 傾向があり、それを阻止する。NOTE 3.参照
○一人の子供が遺産の大部分を相続する場合に税負担が過重になることを防ぐ。
税率は10%、15%、20%、30%、40%、50%の6段階超過累進税率(相続税法16条)(かつての最高税
率は70%であった)
ハ 相続税の総額×各相続人の課税価格/各相続人等の課税価格の合計額
……一回の相続の中で、多く相続した者と少なく相続した者が直面する税率は同じである。
ニ 配偶者等への考慮
配偶者に対する特別の軽減負担(相続税法19条の2)……配偶者が遺産の半分以下を受け取っている 限りは課税されない。
相続税法34条:11
連帯納付義務
1項:同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得したすべての者は、その相続又は遺贈により 取得した財産に係る相続税について、当該相続又は遺贈により受けた利益の価額に相当する金額を限度 として、互いに連帯納付の責めに任ずる。
6.1.2. 納税義務者
省略
6.1.3. 課税物件
財産の価額は相続時の「時価」(相続税法22条)で評価されるのが原則である。が、
土地は相続税財産評価に関する基本通達により実勢価格より著しく低い価額で評価されがちである。低 く評価しておけば納税者による裁判が提起されにくい、という課税実務上の利点がある。
§§ 513.01, 513.02 農地売主/買主相続事件・最判昭和61年12月5日訟月33巻8号2149頁/2154頁 農地の売主が死亡した場合、「土地の所有権は…相続税の課税財産を構成しない」。「課税財産となるの は、売買代金債権2939万7000円」。
農地の買主が死亡した場合、「相続税の課税財産は…所有権移転請求権等の債権的権利」であり、その
「価額は右売買契約による当該農地の取得価額に相当する1965万1470円」。
NOTE 1.
①所有権移転時……民法の原則に従えば意思の合致があった時、即ち契約時。しかし土地については 様々な考慮があるし、契約の解釈として、所有権移転時は売買残代金が支払われた時とする旨の特約が 存在したという推認もありうる。
②所有権移転前の売主相続……土地所有権、売買残代金請求権、土地引渡義務を相続する。
所有権移転前の買主相続……土地所有権移転請求権、売買残代金支払義務を相続する。
③買主相続事案の「本件相続税の課税財産は…債権的権利であって…農地自体と同様に取扱うことはで きない」について
通達に従った土地の評価は299万円、債権的権利を売買契約による取得価額で評価すると1965万円。
裁判所はこのギャップによって納税者が得をすることを認めたくなかった。
(もしも所有権移転後に相続が発生した事案であれば、課税財産は土地所有権であるといわざるを得 ず、通達による低い価額の評価を認めざるを得なかったであろう)
翻って、なぜ売主相続事案では土地所有権を課税財産に含めていないのか?
土地所有権を課税財産に含めるとその評価は低くならざるを得ない(2018万円)。他方、土地引渡義 務を買主相続事案と同様に評価するとなると、売買契約で定められた代金額(4539万円)で評価しな ければならない。これはいかにもおかしい、として、土地引渡義務も2018万円であるとするならば、
両者は相殺されるので売主相続事案について不都合は生じないが、買主相続事案における債権的権利の 評価も土地所有権の評価と合わせねばならなくなってしまう。
土地所有権が売主に残っていながら課税財産に含めないなどというでたらめなことを最高裁が言い 出したのは、結局、評価ギャップによる利益を納税者に認めたくなかったからである。
以下、3 行、講義では割愛
みなし相続財産(相続税法3条)…ケースブックに幾つか例。講義では割愛。
同族会社の行為・計算の否認(同64条1項)、組織再編の行為・計算の否認(同3項)
公益法人等の特別の法人を経由した受益について(同65条)
6.1.4. 課税標準と税額
相続税法13条:12
債務控除
14条「確実と認められるものに限る」がしばしば問題となる。
相続当時、或る債務が確実と認められなかったために課税財産に含まれなかった(課税財産が減少し なかった)が、当該債務について後に相続人が弁済した、という場合であっても、相続税が事後的に調 整されることは制度上予定されていない。立法論としては大変疑問の残る部分である。
§ 514.01 殖産堂株式事件・東京高判昭和55年9月18日行集2巻9号1902頁
事実・争点 Aの相続財産に属する有限会社Sの出資の価額を、純資産価額方式により評価するに際し て、将来の退職金相当額が、純資産価額から控除すべき負債に含まれるか否か。(退職金引当勘定を設 定していれば問題なく控除できる)
判旨 確実と認められる債務に当たらないとした。