2.3 2 次元光マイクロトラップアレーの均一化
4.4 リュードベリ状態間の相互作用
4.4.1 van der Waals 相互作用
ペア状態|bb⟩ = |n, L, J, mJ⟩ ⊗ |n, L, J, mJ⟩が他のペア状態と縮退していない場 合、Vˆdipを縮退のない場合の摂動として扱うことができる。ここでは、二次の摂動論 を用いてvan der Waals相互作用
VvdW = C6
R6, (4.29)
を計算した結果について述べる。状態|bb⟩における係数C6は、Vˆdipによりカップルす るペアを全て考慮した以下の式で与えられる。
C6 =−( 1 4πϵ0
)2∑
|ac⟩
⟨ac|d⃗ˆA·d⃗ˆB−3(d⃗ˆA·⃗n)(d⃗ˆB·⃗n)|bb⟩2
∆ . (4.30)
(a) (b)
図 4.13: ペ ア 状 態 の エ ネ ル ギ ー 間 隔. (a) |nS1/2;nS1/2⟩ と
|nP1/2; (n−1)P1/2⟩, |nP3/2; (n−1)P3/2⟩のエネルギー準位間隔. 全ての nにおいて∆< 0となるため、式(4.30)より定義されるvan der Waals相 互作用係数はC6 >0となる. (b)|nD5/2;nD5/2⟩と|(n+ 1)P1/2; (n−1)F⟩,
|(n+ 1)P3/2; (n−1)F⟩,|(n+ 2)P1/2; (n−2)F⟩,|(n+ 2)P3/2; (n−2)F⟩の エネルギー準位間隔. この場合、エネルギー間隔が0に近づくチャンネル が存在する.
ここで、|ac⟩=|nA, LA, JA, mJ,A⟩ ⊗ |nB, LB, JB, mJ,B⟩は|bb⟩以外のペア状態である。
∑内の分母は、|bb⟩と|ac⟩のエネルギー間隔∆ = (Ea+Ec)−2Ebである。
図4.14は、主量子数nごとにvan der Waals相互作用係数C6を計算した結果である。
なお、これらの結果は相互作用軸と量子化軸の角度がθ = 0の条件下で計算した。相互作 用の大きさや符号は、主にエネルギー間隔が小さなペア状態間のカップリングに支配さ れる。nS1/2間の相互作用の場合(図4.13(a))、|nS1/2; nS1/2⟩は|nP3/2; (n−1)P3/2⟩との カップリングにおいて最小のエネルギー間隔を持つ。そして、いずれの主量子数nにおい ても∆<0となるため、van der Waals相互作用係数はC6 >0となり、反発相互作用と なる(図4.14(a))。一方、本論文で使用する状態|nD5/2; nD5/2⟩では、エネルギー間隔が0 に近づくチャンネルが存在する(図4.13(b))。35≲n≲50では、|(n+ 2)P3/2; (n−2)F⟩ とのカップリングが最小のエネルギー間隔を持ち、|nD5/2; nD5/2⟩とのエネルギー差 はn= 43において∆<0から∆>0となる。それゆえ、この主量子数近傍の相互作 用係数の符号や大きさが急激に変化する(図4.14(c))。
(a)
(b)
(c)
図 4.14: van der Waals 相互作用係数C6の計算結果. 相互作用軸と量子 化軸との角度が等しい条件(θ = 0)において、二次の摂動論により計算さ れるvan der Waals相互作用係数の主量子数n依存性を示す. 縦軸は、ペア 状態(a) |nS1/2, mJ = 1/2⟩ ⊗ |nS1/2, mJ = 1/2⟩, (b) |nD3/2, mJ = 3/2⟩ ⊗
|nD3/2, mJ = 3/2⟩, (c)|nD5/2, mJ = 5/2⟩ ⊗ |nD5/2, mJ = 5/2⟩の相互作用 係数の絶対値である.
4.4.2 相互作用の異方性
図4.12(a)に示す配置を考えると、双極子モーメント演算子の要素dˆx, dˆy, dˆzは以下 の球テンソル演算子で表すことができる。
dˆ+ = √1 2
(dˆx+idˆy) dˆ− = √1
2
(dˆx−idˆy) dˆ0 = ˆdz
. (4.31)
(b) (a)
図4.15: van der Waals相互作用係数C6の異方性. 二次の摂動論により計 算されるvan der Waals相互作用係数の角度θ依存性を極座標で示す. なお、
θは相互作用軸と量子化軸との角度である. 青線は、(a)|55S1/2, mJ = 1/2⟩⊗
|55S1/2, mJ = 1/2⟩, (b) |55D5/2, mJ = 5/2⟩⊗|55D5/2, mJ = 5/2⟩の相互作 用係数の絶対値である.
ここで、演算子dˆ±は磁気副準位を∆mJ =±1だけ変化する状態間とカップルし、演 算子dˆ0は磁気量子数mJを保存する。また、相互作用軸方向の単位ベクトルはx, z軸 の単位ベクトル⃗ex, ⃗ezを用いると、⃗n= sinθ⃗ex+ cosθ⃗ezとなる。従って、式(4.22)の 双極子–双極子相互作用演算子Vˆdipは、
Vˆdip = 1 4πϵ0
1 R3
[1−3 cos2θ 2
(dˆA,+dˆB,−+ ˆdA,−dˆB,++ ˆdA,0dˆB,0)
+ 3
√2sinθcosθ
(dˆA,+dˆB,0−dˆA,−dˆB,0+ ˆdA,0dˆB,+−dˆA,0dˆB,−
)
−3
2sin2θ(dˆA,+dˆB,++ ˆdA,−dˆB,−)], (4.32) と展開できる。
原子Aおよび原子Bの状態をそれぞれ|ϕA⟩, |ϕB⟩、カップルする状態を|ϕ′A⟩, |ϕ′B⟩ とすると、Vˆdip内の演算子dˆA,idˆB,jは以下のように表すことができる。
⟨
ϕ′Aϕ′BdˆA,idˆB,jϕAϕB⟩=⟨ϕ′AdˆA,iϕA⟩ ⟨ϕ′BdˆB,iϕB⟩. (4.33) なお、添え字i, jは双極子の分極+, −, 0を示す。従って、トータルの磁気量子数を Mtot = mA, J +mB, J とすると、式(4.32)の第一項はMtotを保存する項となる。そし て、第二項はトータルの磁気量子数が∆Mtot =±1、第三項は∆Mtot =±2だけ変化 するペア状態とカップルする項となる。
(a) (b)
Single -a tom ener gy Tw o -at om ener gy
図 4.16: リュードベリブロッケードの原理. (a)単一原子系におけるエネル
ギー準位を示す. 励起光の離調をδ = 0、基底状態とリュードベリ状態間の ラビ周波数をΩとする. (b)二原子系におけるエネルギー準位を示す. 状態
|gg⟩, |ent⟩, |rr⟩間のカップリング強度は、⟨ent|Ωˆ|gg⟩=√
2Ω, ⟨rr|Ωˆ|ent⟩=
√2Ωとなる. 相互作用VvdWにより2原子励起状態|rr⟩がエネルギーシフ トする. 特にVvdW ≫ℏΩのとき、2つの原子が同時に励起される確率が抑 圧される.
式(4.32)の各項の角度に依存する係数に着目すると、第二項は √3
2sinθcosθと第三 項は3
2 sin2θである。よって、θ = 0の場合では、第二項と第三項が0となり第一項の
1−3 cos2θ
2 のみが残る。図4.15(a)は、ペア状態|55S1/2, mJ = 1/2⟩ ⊗ |55S1/2, mJ = 1/2⟩ のvan der Waals相互作用係数C6(θ)の角度依存性である。この場合、θ = 0◦とθ = 90◦ におけるC6(θ)の比率は、C6(θ = 90◦)/C6(θ = 0◦)≃1.02であり、大よそ等方的な相互 作用となる。一方、図4.15(b)に示す|55D5/2, mJ = 5/2⟩⊗|55D5/2, mJ = 5/2⟩の場合、
複数の磁気副準位間とのカップリングにより大きな異方性を持つ。θ = 0◦とθ = 90◦に おけるvan der Waals相互作用係数の比率は、C6(θ = 90◦)/C6(θ = 0◦)≃0.39である。