2.3 2 次元光マイクロトラップアレーの均一化
2.4 任意の配置の 2 次元光マイクロトラップアレー
我々は、節2.1で述べた手法でホログラムを計算し、前節2.3.1および本節2.3.2で 開発した手法を用いてホログラムの最適化を行った。これらの手法により、任意の配 置においても単一原子の検出効率が高く、かつ、均一度の高いアレーの実現が可能と なった。これまでに作成した2次元光マイクロトラップアレーの一例を図2.20に示す。
各画像の上図はCMOSカメラで測定した強度分布、下図はEMCCDカメラで測定し た単一原子の平均蛍光画像である。最大トラップ数はN ∼ 60個まで拡張でき、最小 トラップ間距離はd∼3µmとなっている。トラップ間距離を3µm未満にすると近傍 のガウシアンスポットの裾部分の干渉が起こり、トラップ形状の悪化が見られた。
本章で述べた最適化手法は、N ≥10で非常に安定かつ収束速度が速いフィードバッ クとなる。N < 10では、平均値⟨Im, i(n)⟩の統計誤差が大きいことが要因でピーク強度 の発振が起こる。そのため、4≤N <10ではゲインαを調整することで発振を抑え、
ループサイクルを増やしてフィードバックを行う必要がある。なお、最適なゲインα はトラップ配置や個数に依存する。2≤ N < 4では、2通りの方法でホログラムを生 成している。1つ目は、フィードバックは行わず、各It, iの値を変えたターゲット強度 でホログラムを何パターンか作っておき、実際の強度分布や単一原子の蛍光が均一と なるホログラムを選ぶ方法である。2つ目は、ターゲットとするトラップを中心に配 置し、その他のトラップをリュードベリ状態間の相互作用が働かない領域に配置して N ≥10のアレーを構成する手法である(図2.20(b))。後者の方法を用いることで、目 的とするトラップ数が少なくても安定かつ収束速度が速い領域でフィードバックを実 現できる。
2.5 まとめ
本章では、空間光位相変調器を用いて光マイクロトラップアレーを生成する手法を 確立し、様々な配置の二次元光マイクロトラップアレーを実現した。光マイクロトラッ プアレーのトラップ数はN ∼60まで向上し、最小サイト間隔∼3µmで∼60×60µm2 の領域までアレーサイズを拡張することが可能である。現状における最大トラップ数 は、SLMに入射しているトラップ光(波長850 nm)の光パワーに制約されている。
空間光位相変調器を制御するホログラムの計算手法では、基本となるGerchberg–
SaxtonアルゴリズムやWeighted Gerchberg–Saxtonアルゴリズムの原理をまとめ、ま た、将来の実験でより高精度にトラップ位置や形状を作成するために有望なMixed–
Region Amplitude Freedomアルゴリズムも紹介した。
我々は、原子のトラップ平面において高い均一度のトラップアレーを生成すること を目的としたフィードバックアルゴリズムを開発した。そのフィードバック手法は、次 の2つのステップから構成した。1つ目は、光マイクロトラップアレーの光強度分布の 測定結果を用いたフィードバックである。フィードバックにより最適化された位相パ ターンを用いることで、ローディングされないサイトや蛍光観測が困難なサイトが無 くすことが可能となる。2つ目は、ローディングされた単一原子からの蛍光信号を用 いたフィードバックである。蛍光信号を用いることで、実際のトラップ平面における ピーク強度のばらつきを抑えることが可能となる。トラップ光強度、すなわち光シフ トが均一化されたことにより、蛍光観測中の散乱レートも均一化することがされ、単 一原子の観測エラーを大幅に低減させることに成功した。
将来、ラマンサイドバンド冷却[Kaufman et al. 2012]を用いて原子の温度をさらに 冷やし、リュードベリ状態の観測効率などを向上させる必要がある。光マイクロトラッ プアレー内の原子をグローバルに冷却するためには、トラップ周波数のばらつきを抑 える必要がある。本章で開発した手法は、フィードバック対象を蛍光強度から各サイ トの光シフトやトラップ周波数に変更することで、特定のトラップ特性の均一化に応 用可能であることが考えられる。
3
単一原子ローディングと単一原子の内部状態操作
第2章では、空間光位相変調器によりトラップ光に位相を印加し、任意の配置の光マ イクロトラップアレーを実現した。光強度の測定結果や各サイトに捕獲された単一原 子からの蛍光強度を用いてフィードバックループを組むことで、実際のトラップ平面 におけるピーク強度のばらつきを抑え、高い効率で単一原子の検出を可能にした。
スピン系量子シミュレータを実現するためには、光マイクロトラップアレーの各サ イト内にスピン素子に対応する単一原子をローディングすることが必要となる。光マ イクロトラップ内へ単一原子を充填する手法として、赤方離調光による光誘起衝突を 用いる手法が挙げられる[Kuppens et al. 2000; Schlosser et al. 2002]。しかしながら、
この手法では単一サイトにおけるローディング確率は約0.5となるため、N個のトラッ プ全てにローディンできる確率は0.5Nとなり、トラップ数が増加するにつれ指数関数 的に減少することが大きな問題となっている。この問題を解決するため、リュードベ リブロッケード効果を用いた手法[Ebert et al. 2014]やランダムにロードされた原子を 再配置する手法[Kim et al. 2016; Barredo et al. 2016; Endres et al. 2016]、青方離調 光による光誘起衝突を用いた手法[Fung and Andersen 2015;Lester et al. 2015]が既に 提案・実証されている。我々は、将来的に後者2つを組合わせることにより任意の配 置のトラップアレーへの単一原子ローディングを確立する予定である。そして、スピ ン系量子シミュレータを実現するための次のステップとして、量子スピンの状態に対 応する単一原子の内部状態の初期化が挙げられる。N 原子系における初期化効率は、
観測効率と同様に原子数N の増加に対して指数関数的に減少するため、精度の高いシ ミュレータ開発のためには高い初期化効率が望まれる。
本章では、光マイクロトラップアレーへの単一原子ローディングおよび単一原子の
内部状態の初期化について議論する。初めに節3.1では、青方離調光による光誘起衝 突による単一原子ローディングの予備実験や現段階のローディング手法について述べ る。節3.2では、実際にローディングされた単一原子を用いて、光マイクロトラップア レーのトラップ特性評価を行った結果についてまとめる。節3.3では、オプティカルパ ンプ光を用いた内部状態の初期化方法について述べる。ここでは、トラップ内の単一 原子を用いてオプティカルパンプ光の偏光やオプティカルパンプ光照射中の磁場等の 最適化手法を確立し、初期化効率の向上を図った。そして節3.4では、単一原子の内 部状態をラマン遷移を用いて操作し、初期化効率の評価を行った結果について述べる。