1 会計監査の必要性
会社は、毎決算期に会社の財務内容を明らかにする年度決算報告書を作成 し、株主総会に提出しなければならない(株式法171条2項)。当該報告書の 作成は、会社の取締役会の任務である。しかし、これは、取締役会が自分の 経営業績の報告をするものであるから、株主と投資者の利益を保護する観点 から、会社内部の独立機関である監査役会の会計監査は不可欠である。した がって、監査役会は、年度決算報告書(
Jahresabschluß
)、132)を監査しなけれ ばならない(株式法171条1項1文)。132) 本稿の検討対象は、年度決算報告書のみとする。年度決算書は、会社が過去1会計年度の 営利したおよび損失した金額を反映する書類である。当該書類は、賃借対照表(Verwendung des Bilanzgewinns)および損益決算書に構成される。状況報告書は、会社が過去1会計年度の 経営状況を反映する書類である。
2 会計監査における監査役・監査役会および決算監査人・監査法人との関係 会社内部 会社外部 取締役会による年度財務報告書などの作成133) ① 134) 決算監査人・監査法人 (専門的監査)
① ② (監査意見報告書を作成する)
監査役会135) ②(決算監査人・監査法人による意見136)) (監査委員会)
(法律・定款による規定で監査)
監査役会会議
(決算監査人・監査法人による監査意見報告書にコメントする137))③
(異議がなければ、当該意見報告書を株主総会に提出する(株式法171条2項1文))
①取締役会は、作成した年度財務報告書を監査役会および決算監査人・監 査法人に提出する。その後、監査役会の監査委員会(会計知識・経験を有す る監査役によって構成される委員会)は、取締役会が提出した計算書類を法 律で規定されている項目に記載しているか否かを監査しなければならない
(以下「形式監査」という)。決算監査人・監査法人は、当該決算書の内容が 合理的であるか否かを監査する。②監査役会の監査委員会は、当該年度財務 報告書を監査する際に、決算監査人・監査法人は意見を提出することができ る。また、監査役会の監査委員会は、取締役会による報告書について疑問点 があると判断する場合は、取締役会に質問をすることができる(株式法109 条1項)。③監査役会は、監査委員会および決算監査人・監査法人が行った
133) 取締役会は、年度決算報告書および状況報告書を作成しなければならない(株式法170条1 項1文前段)。
134) 資本会社の法律上の代表者(取締役会)は、決算監査人に対して年度決算報告書および状 況報告書を提出しなければならない(ドイツ商法典320条1項1文)。
135) 取締役会による年度決算報告書および状況報告書を監査役会に提出しなければならない(株 式法170条1項1文後段)。
136) 監査役会(監査委員会)が取締役会による年度決算報告書および状況報告書を監査する場合、
決算監査人は、監査役会(監査委員会)に参加し、会社の年度決算における内部統制システム およびリスク管理についての意見を提出することができる(株式法171条1項2文)。
137) 監査役会は、決算監査人・監査法人による監査意見報告書にコメントを付記する(株式法 171条2項3文)。
会計監査報告書に対し意見報告書を作成する。④監査役会は、その意見報告 書とともに、監査委員会および決算監査人・監査法人が作成した監査意見報 告書を株主総会に書面で提出しなければならい(株式法171条2項)。その報 告の目的は、監査役会による監査を通じて、株主が会社の状況をより把握で きるようにすることである138)。
3 監査役・監査役会の会計監査の内容
会計監査の対象は、年度財務報告書である。監査は、ドイツ商法典および 国際会計基準139)に定められている方法により行われなければならない140)。 両者の規定には相違点がある。ドイツ商法典では、監査委員会が年度決算報 告書を監査する際に、注意しなければならない項目が詳細に規定されている。
たとえば、監査委員会は、取締役会が作成した賃借対照表における項目区分 ごとに記載しているかどうかを監査しなければならない(ドイツ商法典266 条)。これに対し、国際会計基準では、このような詳細な規定が定められて いない141)。
4 監査役・監査役会は会社の決算監査人・監査法人の独立性への影響 会社の決算書類の監査は、会社外部の決算監査人・監査法人が行うため、
当該決算監査人・監査法人の会社からの独立性の確保が重要である。そのた め、決算監査人・監査法人の候補者の提案権、(会社に選任された決算監査人・
138) Vetter, in Großkommentar Aktiengesetz 5. Aufl. Band 8, (2018), §171, Rdn. 204.
139) ドイツの上場会社は1990年代後半から、国際会計基準を自主的に採用してきた。その後、
EUでは、各加盟国の上場会社が国際市場に進出する際に、年度決算報告書の透明性が不可欠 であるものの認識から2005年以後、各加盟国の上場会社に強制的に適用させることとした。
Joachim Gassen・Thorsten, Applying IFRS in Germany-Determinants and Consequences, (2006), p3.pdfs.semanticscholer.org/abd2/e81fc20e2b9f4c9481428d5e8bf0d.pdf?
140) Vetter, Fn (139), Rdn.42.
141) Florian Leister, The Difference between IFRS and HGB Financial Statements- A critical discussion about two differing accounting standards and their philosophy-, (2015), p2. https://
www.researchgate.net/publication/313860313.
監査法人)の報酬の決定権については、監査役会が有するものとされてい る142)。
第4節 監査役の責任
監査役は、自己の義務に違反し、会社に損害を与えた場合には、会社に対 し損害賠償責任を負う(株式法117条2項1文)。当該監査役の義務について は、株式法93条による取締役の注意義務が準用される(株式法116条1項1 文)。監査役の注意義務を具体化したものが、上記の監督・監査権限であ る143)。また、監査役は、監督・監査を怠った場合に、株主代表訴訟により 責任追及を受ける可能性がある(株式法147条)。これらの規定は、監査役に 法規定を遵守させ、積極的に監査権限を行わせる機能を果たしている。