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第 6 章 自由体積変化に基づく非弾性応答則 73

6.3 非弾性応答則の定式化

微 視 的 降 伏 機 構 を 特 定 し な い Eyling の 反 応 速 度 論 へ 活 性 化 エ ネ ル ギ ー の 確 率 分 布 を 導 入 し た

Hasan-Boyce(64) による非弾性応答則を第2 章および第3章で述べた非晶性ポリマに対する結晶塑性論的

分子鎖塑性モデルへ適用すれば,非弾性せん断ひずみ速度γ˙(α)は次式のように表される.

Fig. 6.2 Schematic representation of relationship between local free volume and

rotation of kink in molecular chain

6.3 非弾性応答則の定式化 77

γ˙(α) = γ˙rsgn(ˆτ(α)) Z

0

φ(α)(∆F0)

"

exp −∆F0{1− |τˆ(α)0|1/u}1/v kB θ

!

−exp −∆F0{1+|τˆ(α)0|1/u}1/v +S(α) kB θ

!#

dF0. . . (6.3) ここで,γ˙rは参照ひずみ速度,kBはBoltzmann定数,∆F0は活性化エネルギー,S(α)は局所貯蔵ひずみエネ ルギー,τˆ(α)は有効分解せん断応力,τ0は参照応力に相当する限界強度,uおよびvは材料依存のパラメータ

であり,Argonの硬化則やPan-Rice形硬化則(72)と比較すれば,これらはひずみ速度感度指数としての役割

をもつと予想される.Hasan-Boyceはu=v=1として定式化しているが,本研究ではひずみ速度依存性の強 さを制御するため,これらを変数のまま式(6.3)に導入している.また,φ(α)(∆F0)は図6.3に示すような活性 化エネルギーの確率密度関数であり,次式で与えられる.

φ(α)(∆F0) =















 1

2A(1α) exp ∆F0a(α) α(α)

!

sin ∆F0a(α) α(α)

!

a(α) ≤ ∆F0a(α)+3πα(α) 4

!

1

2A(2α) exp −∆F0a(α) α(α)

!

sin ∆F0a(α) α(α)

!

a(α)+3πα(α)

4 ≤ ∆F0a(α)+3πα(α) 2

!

0 (otherwise)















. . . (6.4)

ここで,a(α)およびα(α)はそれぞれ活性化エネルギー∆F0の確率分布の最小値および標準偏差を表し,A(1α)A(2α)およびa(α)はそれぞれ次のように表される.

A(1α) = α(α) 2

"

1 + √

2 exp (3π

4 )#

= eπA(2α) . . . (6.5)

Probabilitydensityfunction

Activation energy

a a +(1.5 p a )

Fig. 6.3 Probability density function with respect to activation energy

a(α) = a(α) + πα(α)

2 . . . (6.6)

式(6.4)におけるφ(α)(∆F0)および図6.3は,ある活性化エネルギーをもつ局所的な部分の体積率を表してい

る.すなわち,式(6.4)を0≤∆F0 <∞の範囲でF0について積分して図6.3の曲線と横軸で囲まれた面積 を求めると1となる.このφ(α)(∆F0)に,図6.4に示した局所せん断変形が起こる確率exp[−∆F0/(kBθ)]を乗 ずることで,ある活性化エネルギーの値に対して,実際に変形が起こる部分の体積率を求めることができる.

すなわち,これが次式(6.7)および図6.5に示す確率分布関数Ξ(α)(∆F0, θ)である.

Ξ(α)(∆F0, θ) = φ(α)(∆F0) exp (

−∆F0 kBθ )

. . . (6.7) 確率分布関数Ξ(α)(∆F0, θ)を0≤∆F0 <∞の範囲で∆F0について積分すると,局所せん断変形を起こす体積 率(局所せん断変形を起こす期待値)を求めることができる.すなわち,図6.5の曲線と横軸で囲まれた面積 R

0 Ξ(α)(∆F0, θ) dF0の増減は,Hasan-Boyceモデルにおける高自由体積領域の増減と一致しているといえる ため,本研究ではR

0 Ξ(α)(∆F0, θ) dF0の値を「自由体積率」と呼ぶことにする.

また,式(6.3)および式(6.4)における3つの内部変数a(α),α(α) ならびにS(α) の発展式はそれぞれ次の

式(6.8)〜(6.10)にて与えられる(64)[補足F.1].

˙a(α) =−(a(α)aeq) exp [−ζexp(−ζγa)]X

β

ϖ(β) . . . (6.8) α˙(α) =−(α(α)−αeq)X

β

ϖ(β). . . (6.9) S˙(α) = β1[1 + β2exp(−β3γa)] ˆτa

X

β

|γ˙(β)| − S(α) X

β

ϖ(β). . . (6.10)

ここで,aeqおよびαeqはそれぞれa(α)およびα(α)の平衡値,ζβ1,β2,β3は材料定数,γa=P

αγ(α)τˆa=P

α τˆ(α) であり,ϖ(α)は頻度因子ϖ0を用いて次のように表される.

ϖ(α) = ϖ0

Z

0

φ(α)(∆F0)

exp −∆F0{1− |τˆ(α)0|1/u}1/v kBθ

!

−exp −∆F0{1+|τˆ(α)0|1/u}1/v +S(α) kBθ

!dF0. . . (6.11)

Fig. 6.4 Probability of local shear deformation with respect to activation energy

6.3 非弾性応答則の定式化 79

式(6.3)と式(6.11)を比較すれば,次の関係が得られる.

ϖ(α) = ϖ0

γ˙r |γ˙(α)|. . . (6.12) 本硬化則では,通常の結晶塑性論における流れ応力に相当するτ0の発展式は存在せず,τ0の値は変化しない.

その代わりに,発展式(6.8)〜(6.10)により3つの内部変数a(α),α(α)およびS(α)が変化することで粘弾性応答 およびひずみ軟化現象が再現される.また,式(6.8)〜(6.10)においては,|γ˙(β)|あるいはϖ(β)を各すべり系に ついて合計した値として導入している.いま,式(6.8)〜(6.10)を従来の金属の結晶塑性論における流れ応力 g(α)の発展式

˙g(α) = X

β

h(αβ)|γ˙(β)|. . . (6.13) と比較すると,本モデルでは,すべり系間の相互作用を表す硬化係数行列h(αβ)における対角成分(自己硬化) と非対角成分(潜在硬化)の値を等しくおいていることがわかる.これは,ポリマにおいては主すべり系の活 動ではもちろん,2次すべり系の活動によっても自由体積が生じるので,いずれか一方が活動すれば,活性化 エネルギーは減少すると考えられるからである.

次に,内部変数a(α)およびα(α)がどのように確率分布関数Ξ(α)(∆F0, θ)に関与するかについて述べる.図6.6 に示すように,内部変数の発展式(6.8)および式(6.9)により,変形とともにまずα(α) が増加し,少し遅れて

3

2

1

0

1.0 1.1 1.2

Activation energy [eV]

15 20 25 30 35 10 5 3 2.5 0%

X ( ,=296K)[1/eV] F

0

D q

Strain

Fig. 6.5 Probability distribution function of local free volume with respect to

activation energy

Fig. 6.6 Evolution of internal variables of probability density function with increase of true strain

a(α)が減少し始めている.変数α(α)は,図6.3における活性化エネルギー分布の標準偏差であるから,その増 加は図6.3の分布のばらつきをより大きくする働きをもつ.関数φ(α)(∆F0)の積分値は常に1となるはずであ るが,確率分布関数Ξ(α)(∆F0, θ)には局所せん断変形が起こる確率が乗じてあるため,α(α)が増加しφ(α)(∆F0) の分布がばらつくと,Ξ(α)(∆F0, θ)の積分値は減少していくことになる(図6.5の0〜5%ひずみ).すなわち,

高自由体積領域が減少し,ついにはほぼ零に等しくなる.これが弾性変形から降伏へ向かう過程を表現してい る.一方,a(α)は図6.3における活性化エネルギー(横軸)の最小値を表すことから,a(α)の減少は図6.3の分 布を左に平行移動させる働きがある.分布の移動によってφ(α)(∆F0)の分布形状は変わらないが,局所せん断 変形の起こる確率がより高くなるため,Ξ(α)(∆F0, θ)の積分値は増加する.すなわち,高自由体積領域が再び 形成され増加することになる.これが初期降伏からひずみ軟化へ向かう過程を表現している(図6.5の10〜 35%ひずみ).以上のように,α(α)の進展は降伏前の自由体積の減少を意味し,非線形粘弾性変形を支配して いる.一方,a(α)の進展は初期降伏および降伏後の新たな高自由体積領域の形成ならびに増加を意味し,降伏 とひずみ軟化を支配している.このα(α) およびa(α)の進展を組み合わせることにより変形に伴う活性化エネ ルギー分布の変化,すなわち局所自由体積の増減・分布形状の変化を表現できる.

一方,式(6.10)で表されるS(α)の進展は変形による局所貯蔵ひずみエネルギーの増減および除荷時のエネ

ルギー散逸による非弾性的なひずみ回復現象を表している.

以上のような式(6.3)〜(6.11)で表される非弾性応答則を,第2章および第3章で述べた非晶性ポリマに対 する結晶塑性論的分子鎖塑性モデルへ適用することにより,ポリマの微視的内部情報と塑性変形の素過程とが 関係づけられ,微視的情報に基づく非晶性ポリマに対する新たな塑性論を構築することが可能となる.