46
本章は旅行者の移動パターン研究の視点を取り入れ、対象データにおける訪日外国人旅 行者の日本国内における市町村間の移動、および市町村への訪問の概況を説明する。まず、
第
1
節では2
時間以上滞在した市町村が1
つしか記録されなかった1,973
人を単一目的地 型の旅行者とし、それらの訪問市町村の傾向を明らかにする。第
2
節以降では2
時間以上滞在した市町村が2
つ以上記録された3,142
人を対象に、各 市町村についてOppermann(1992)が整理した旅行者の移動の動的要素および静的要素
の傾向を明らかにする。まず、第2
節では動的要素として、市町村間移動の傾向を従来の 集計的な手法により把握する。その際、第2
章第3
節で説明したように移動を全ての移動 と宿泊地間の移動に区分し、両移動傾向の違いも明らかにする。第
3
節では市町村の静的要素のうち、出入国地の解明を行う。ただし、本研究データは 必ずしもアプリを空港でダウンロードしているとは限らないため、最初と最後の2
時間以 上の滞在地点を集計した。また、最初と最後の宿泊地も集計することにより、最初・最後 の非宿泊地と最初・最後の宿泊地との関係も考察する。第
4
節では、旅行者が宿泊した市町村、および非宿泊地での滞在傾向を明らかにする。宿泊市町村については各市町村での宿泊者数と延べ宿泊者数、宿泊率、平均宿泊日数を、
各市町村での非宿泊滞在については滞在時間を算出し、それらの傾向を解明する。
第
1
節 単一目的地型の目的地単一目的地型の目的地は全
137
市町村あり、表2
は単一目的地型の訪問者が5
人以上あ る21
市町村を示したものである。全体の傾向として、都市が上位に位置していることが 分かる。表 2 単一目的地型の市町村の訪問傾向
市町村 単一目的地型 訪問者数(人)
2時間以上 滞在者数
(人)
単一目的地型の 旅行者割合(%)
東京23区 1274 3533 36.1
大阪市 128 964 13.3
京都市 119 1085 11.0
成田市 47 559 8.4
横浜市 36 416 8.7
福岡市 28 106 26.4
名古屋市 28 196 14.3
札幌市 14 83 16.9
箱根町 13 292 4.5
横須賀市 10 26 38.5
千葉市 10 89 11.2
広島市 10 183 5.5
浦安市 10 321 3.1
泉佐野市 9 160 5.6
富士河口湖町 9 240 3.8
神戸市 8 202 4.0
奈良市 8 251 3.2
函館市 7 37 18.9
高山市 6 119 5.0
彦根市 5 17 29.4
川崎市 5 155 3.2
単一目的地型の訪問者数が最も多いのは東京
23
区(1,274人)であり、東京23
区で2
時間以上滞在した3,533
人に対する割合は36.06%であった。
東京23
区は羽田空港があり、また成田空港が鉄道で
1
時間圏内に立地していることから、単独の目的地として訪問され たと考えられる。東京23
区から大きく数を減少させて、大阪市(128人)と京都市(119 人)が位置する。両市とも各地域訪問者の全体に占める単一目的地型の旅行者の割合がそれぞれ
13.28%と 10.97%しかいない。大阪市は関西国際空港に隣接しているにもかかわら
ず、単一目的地型の旅行者の割合が少ない。これは大阪市と京都市が近接しているために 両地域を訪問する旅行者が多いためであると考えられる。
上記以外の地域は訪問者数が
50
人を下回っている。しかし、福岡市は単一目的地型の48
旅行者は
28
人しかいないものの、福岡市訪問者全体に占める割合は26.4%と京都市、大
阪市よりも高い値となった。同様に国際便が多く就航する空港に隣接する名古屋市や札幌 市もその割合がそれぞれ14.3%と 16.9%であり、大阪市と京都市よりも高い割合であった。
これらの地域は国際便が就航している空港が周辺地域に立地しているという共通点がある ため、空港の存在が単一目的地型の行動を可能にしていると考えられる。ただし、その中 でも大阪市は京都市が比較的近くに存在しているため、単一目的地型のパターンとはなり にくかったと考えられる。また、広島市は広島空港が三原市に立地しているにもかかわら ず、単一目的地型の旅行者数が
10
人、割合も5.5%しかなかった。観光庁(2015a)によ
ると、広島県は西欧諸国の訪問率が高い傾向にあるが、2015 年4
月の国際便では中国や 韓国、台湾の空港との直行便が就航しているのみである。したがって、中国や韓国、台湾 からの旅行者は広島市へ訪問していない可能性があるとともに、広島市はそれらの国から の旅行者のニーズを完全に満たすとは限らないため、ほかの地域へも訪問するパターンを とったと考えられる。横須賀市は単一目的地型の旅行者数が10
人と広島市と同数である が、その割合が38.5%もある。これは横須賀市の米軍関係者が記録された可能性がある。
このように単一目的地型の旅行者の訪問市町村は国際便が多く就航している空港に近 接した地域が中心となっている。これは単一目的地型の旅行者の日本滞在日数が少ないこ とや、国際便の乗り換えで日本を訪れた旅行者がわずかな時間に空港に近い都市へ訪問し たことが考えられる。
第
2
節 市町村間移動の概況(1)全移動による市町村間移動
図
8
は全移動による市町村間移動を移動量に応じて示したものである。延べ移動量は12,383
人、リンケージ数は3,005、市町村数は 488
である。これをみると、上位の移動量を示す移動はゴールデンルートとそれを構成する市町村で確認され、その移動軸の外縁に ある地方は移動量が少ない傾向にある。
具体的に移動量別に移動傾向をみると、100人以上の延べ移動量を示した移動には、京 都市―大阪市(322、
304)
19や東京23
区―京都市(188、131)、東京 23
区→大阪市(108)が存在し、ゴールデンルートを形成する重要都市間の移動が確認される。そのほかには東 京
23
区と大阪市を移動の拠点として訪問された周囲の地域との移動がある。たとえば、東京
23
区―成田市(299、163)や東京23
区―浦安市(262、239)、東京23
区―横浜市(251、
253)
、東京23
区―川崎市(147、145)が該当する。成田市は成田空港が立地し、
東京
23
区滞在者の出入国の移動線となっており、川崎市も羽田空港の立地する大田区に 隣接し、羽田空港出入国者が記録されたことも考えられる。そのほかに、浦安市は東京デ ィズニーリゾート、横浜市はみなとみらい地区や横浜中華街などの観光資源や観光施設が 多くの旅行者を惹きつけたため高い移動量を示したと推測される。そのほかには東京23
区―富士河口湖町(107、100)や東京23
区→箱根町(114)と富士箱根地域へ/からの 移動も頻繁に行われている。両町はゴールデンルート上の富士山観光を形成するのみなら ず、富士河口湖町は芝桜がSNS
により知られるようになってきている(日本政府観光局(JNTO)インバウンド戦略部調査・コンサルティンググループ、2016)ことも高い移動 量を示したと推測される。
50
人以上100
人未満の延べ移動量の範囲でも、東京23
区―武蔵野市(72、88)、東京23
区―鎌倉市(89、78)のように東京都隣接県内の市と東京 23
区との移動が確認される。三鷹市にはジブリ美術館が、武蔵野市には外国人旅行者に人気があると思われる吉祥寺が あることが、上位に位置した要因であると考えられる。
また、大阪市と京都市が拠点となる移動も確認され、京都市―奈良市(87、68)、大阪 市―奈良市(72、94)のように、両市はともに奈良市とも高い移動量を示すほかに、大阪 市―神戸市(62、80)や大阪市→泉佐野市(96)と大阪市を拠点とした周囲の都市との移
19 「A―B(a、b)」と記載されている場合には、A地域からB地域への流動量がa、B地域からA地域 への流動量がbであることを示している。
50
図 8 市町村間移動(全移動)
注:延べ移動量は12,383人、リンケージ数は3,005、市町村数は488である。
動がされている。
ゴールデンルートの外縁では広島市―廿日市市(60、71)が唯一
50
以上の移動量を示 す。広島市は原爆ドーム、廿日市市は厳島神社の世界遺産がそれぞれ立地していることが、両市間の高い移動量となったと考えらえる。また、杜(2017)が広島県へも訪問するパタ ーンを「ゴールデンルート延長型」としたように、広島県は重要な訪日観光移動ルートで あることも、その形成に重要な役割を果たしている広島市と廿日市市間の移動量が多くな ったことにつながったと考えらえる。
10
人以上50
人未満の延べ移動量を示した市町村間移動も、移動量50
以上のものと同 様に、東京23
区と京都市、大阪市が移動結節点となる移動が確認され、東京23
区が結節 点となる移動では、東京23
区―さいたま市(44、42)や日光市→東京23
区(42)、東京23
区―小田原市(30、22)・軽井沢町(30、25)などが、京都市のそれは京都市―大津市(35、28)などが、大阪市のそれは大阪市―姫路市(28、15)・豊中市(21、18)などが 確認される。この中には、世界遺産「日光の社寺」が立地する日光市や、「古都京都の文化 財」を構成する比叡山延暦寺の立地する大津市、「姫路城」のある姫路市が移動に関わって おり、世界遺産の存在が市町村間移動において重要であることが見出せる。
この範囲の移動量の特徴の一つとして、東京
23
区と移動ルートを形成した市町村間の 移動がみられることがある。たとえば、三鷹市―武蔵野市(35、21)や横浜市―川崎市(43、
42)、箱根町―御殿場市(35、14)・小田原市(35、26)、鎌倉市―横浜市(32、17)、富
士河口湖町―富士吉田市(18、14)である。三鷹市と武蔵野市は井の頭公園が両市にまた がって立地するとともに、ジブリ美術館が三鷹市に立地し、両観光施設を巡ったことが高 い移動量につながったと考えられる。また、箱根町と御殿場市、小田原市、富士河口湖町、富士吉田市は富士箱根観光を形成する重要な市町であり、富士吉田市は新倉山浅間公園が 立地し、そこから撮影された富士山と桜、五重塔がセットになった写真は、日本の桜風景 を代表する写真として有名であることから、富士箱根地域内の高い移動量に現われたので はないか。この点に関しては、データが
4
月のものであるという、季節が関係していると 考えられる。また、東京
23
区と大阪市、京都市とは関わらない移動、とくに地方の移動がみられる ようにもなる。たとえば、北海道では札幌市―小樽市(26、24)登別市→札幌市(11)、東北地方では弘前市→青森市(10)も確認される。東北地方での弘前市から青森市への移 動が確認されるのは、弘前公園には日本有数の桜祭りが開催されるほど、桜の名所となっ