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事故後初期における飲食物の I- 131 濃度の検討

石井伸昌 1 * 田上恵子 1 内海弘美 1 内田滋夫 1

1) 国立研究開発法人 放射線医学総合研究所 千葉市稲毛区穴川4丁目9−1

* [email protected]

水道水をつくる過程で発生する土(浄水発生土)は、これまで園芸用土やグラウンド土として有効に再利 用されてきた。ところが、2011年3月に発生した東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故で環境中 に放出された放射性核種により浄水発生土が汚染されたため、事故以降、厚生労働省は再利用の自粛を 要請してきた。そして2013年3月、厚生労働省は、浄水場からの搬出時点において放射性セシウムの濃度

が400 Bq/kg以下であれば出荷可能との考えを示した。浄水発生土の有効利用を再開することは重要であ

るが、再利用によるヒトの被ばくにも注意する必要がある。特に汚染された浄水発生土は園芸用土資材とし てとして利用されることがあり、この土で野菜等が栽培された場合、放射性セシウムが野菜に移行することが 考えられる。そこで、本研究では放射性セシウムで汚染された浄水発生土を含む土で葉菜類を栽培し、収 穫時における放射性セシウムの濃度及び土壌-農作物移行係数を取得した。さらに、浄水発生土から葉菜 類への放射性セシウムの移行を抑制する方法についても検討した。ここでは、得られたデータを基に放射 性セシウムで汚染された浄水発生土が園芸用土として再利用可能か報告する。

キーワード 浄水発生土,放射性セシウム,農作物,移行係数

1. はじめに

浄水場において原水から水道水を得る過程で生じる土 は、浄水発生土と呼ばれている。浄水発生土は原水中 の懸濁物質を凝集剤より沈澱分離し脱水した特殊な土 であり、各浄水場において一日当たり数トンから数十トン 発生する。

福島第一原子力発電所(FDNPP)事故以降、環境中 に飛散した放射性物質により原水中の懸濁物質が汚染 され、そのため浄水発生土も汚染された。特に放射性セ シウム(134Cs と 137Cs)よる汚染は深刻で、各浄水場にお いて現在も継続して濃度が測定されており、ホームペー ジ等で値が公表されている。FDNPP 事故以前、浄水発 生土は園芸用土やグラウンド土として有効利用されてい たために保管に困ることはなかったが、汚染された浄水 発生土は有効利用の目処が立たず、処分先も決まらず、

浄水場での保管量が増大し続けた。例えば埼玉県にお ける発生浄水土の保管量は、事故から半年経った平成 23年9月の時点で1.7×104トンを超えた1)。浄水場にお ける保管許容量にも限りがあるため、汚染された浄水発 生土の減量は、当時、喫緊の課題であった。

保管されている浄水発生土の汚染レベルも様々である。

厚生労働省は汚染を4つのレベル(10 万Bq/kg以上、8 千-10万Bq/kg、百-8 千Bq/kg、百Bq/kg以下)に分割 し、それぞれのレベルの浄水発生土の取り扱いについて 各都道府県に通知を行った。東北、関東地方の浄水場 において最も多い汚染レベルは百-8千Bq/kgの浄水発 生土で、全体の 66%を占めた。次に多いのは百 Bq/kg 以下の浄水発生土で、全体の 32%を占めた。百 Bq/kg 以下の浄水発生土だけでも有効利用できれば、保管量 が軽減できる。浄水発生土を利用した園芸用土は、鹿沼

土やパーライトなど浄水発生土以外の原料と体積率 5-20%程度の配合率で浄水発生土が混合されるので、百

Bq/kg 以下の汚染であれば事故以前の環境中濃度(平

均20 Bq/kg、最大140 Bq/kg)程度になると考えられる。

農林水産省は放射性セシウムの濃度が 200 Bq/kg以下 の汚泥であれば、これを肥料として利用することを許可し ている2)。一方、平成25年3月以前まで、厚生労働省は

例え100 Bq/kg以下の汚染でも園芸用土として出荷する

ことを自粛するよう事業者に対して求めていた3)。 浄水発生土の有効利用を再開し、浄水場における保 管量を減量することは重要であるが、そのためには有効 利用による影響を考慮する必要がある。特に、人の被ば く評価は重要である。浄水発生土を園芸用土として有効 利用した場合、その用土で野菜を栽培する可能性があ る。そのため、浄水発生土を含む園芸用土から野菜への 放射性セシウムの移行、そして収穫した野菜を食べるこ とによる内部被ばくが懸念される。さらに、浄水発生土の 有効利用を総合的に評価するためには、浄水発生土を 再利用する利点、例えば野菜の栄養素的付加価値や、

栽培した野菜の摂取による内部被ばくを抑制するために、

放射性セシウムの野菜への移行を抑制する方法などに ついても検討する必要がある。以上のことを踏まえ、汚染 発生浄水土が園芸用土として有効利用可能かどうか判 断する基礎データを国民に提供することを目的に試験を 行った。

2. 材料と方法 (1) 浄水発生土

浄水発生土は埼玉県内の浄水場から 2011 年と 2013 年に譲渡して頂いた。浄水発生土は河川水の成分や、

使用した処理薬品により元素組成が異なる。そこで、そ

れぞれの年の浄水発生土の元素組成を表 1 に示す。こ れら元素の測定は、ICP 発光分光分析装置(Vista-Pro, Seiko Instruments製)を用いて行った4, 5)

(2) 葉菜類の栽培土壌と栽培条件

浄水発生土からコマツナへの放射性セシウムの移行を 調べるために、浄水発生土の含量が異なる3種類の土 壌を用いた。浄水発生土を含まないベースとなる土壌は、

5:3:2 の容積比で赤玉土、腐葉土、黒土を混合し、この

混合土壌30 Lに対し200 g化成肥料を加えて作成した。

この土壌をベースに、浄水発生土を体積率で 10%およ び30%加えた土壌を準備した。ベースの土壌を含む3種 類の土壌はそれぞれ0%土壌、10%土壌、および30%土 壌とする。

準備したそれぞれの土壌にコマツナを播種し、33 日間 の栽培後、収穫した。収穫したコマツナについて、水分 含量、乾燥重量、および放射性セシウム量を求めた。収 穫後の土壌についても放射性セシウム量を求めた。

放射性セシウムの植物への移行を制御する園芸資材 についても調査した。始めに、赤玉土、黒土、腐葉土、

牛糞堆肥、および化成肥料を混合した土壌(混合土壌)

を作成し、この混合土壌をベースに4種類の土壌を準備 した。各土壌の構成要素は次の通り:1)2 L 混合土壌に

対し 0.5 Lの未処理浄水発生土を添加(土壌 S)、2)土

壌Sと構成要素は同じであるが粉砕した浄水発生土を添 加(土壌PS)、3)1.5 L混合土壌に対し0.5 Lの未処理 浄水発生土と0.5 Lのバーミキュライトを添加(土壌V)、

そして4)土壌 V と構成要素は同じであるが粉砕したバ ーミキュライトを添加(土壌PV)。

準備したそれぞれの土壌にコマツナを播種し、28 日間、

栽培し。収穫後、コマツナの水分含量、乾燥重量、およ び放射性セシウム量を求めた。

(3) 土壌-植物移行係数

土壌からコマツナへの 137Cs 移行パラメータとして移行 係数(TF)を次式より求めた:移行係数(TF)=葉菜類可 食部中137Cs濃度(Bq/kg-dry)/土壌中137Cs濃度( Bq/kg-dry)。

(4) 分析

放射性セシウム測定試料は、いずれも乾燥、粉砕した 後、Ge 半導体検出器で分析した。Ge 半導体検出器の

効率校正は放射能標準ガンマ体積線源(MX033U8PP; 日本アイソトープ協会)で行い、測定の精度は放射能分 析用土壌認証標準物質(JSAC0471;日本分析化学会)

で確認した。半減期補正は収穫時を基準に行った。

収穫したコマツナの無機成分は ICP-OESおよび ICP-MS で測定した。コマツナは収穫後、乾燥粉砕し酸で溶 解した、これをドライアップし、希硝酸液に溶解し、測定 試料とした。

(5) 預託実効線量

30%土壌で栽培したコマツナをベースに預託実効線量 を求めた。プランター当たり500 gのコマツナが収穫でき るとし、収穫は年3回行い、収穫したコマツナは一人で消 費することとした。実効線量係数はICRP Publ.726)の値を 用いた。また、市場希釈および調理等による減衰は無い ものとして計算した。

3. 結果と考察

(1) 浄水発生土の利点

放射性セシウムで汚染された可能性のある浄水発生土 を再利用する場合、浄水発生土を利用する利点を明確 にすることは重要である。そこで、葉菜類の生長(草丈)

および収量(新鮮重)、そしてコマツナ可食部中の無機 元素濃度から浄水発生土の再利用の利点について整 理した。

収穫直前、浄水発生土を含まない土壌よりも含む土壌 で栽培したコマツナの草丈が高くなることを目視で確認 した(図1)。また、収量は 0%土壌で 164 g、10%土壌で 234 g、そして30%土壌で207 gであった。これらの結果 は、本試験の栽培条件において浄水発生土がコマツナ の生長を促進したことを意味する。青山らは、マサ土に 対して浄水発生土を容積比で 25%以上の混合した土壌 でコマツナを栽培したところ、マサ土のみで栽培したコマ ツナと比較して収量が約 8 割に減少したことを報告して いる 7)。そして、その原因としてリン欠乏の可能性を示唆 した。リン欠による生理障害が発生すれば、上位葉の暗 色化、下位葉の黄化、葉柄部における紫色の沈着、生 育不良などの症状が現れるが、本試験のコマツナでは、

これらの症状は観察されなかった。本実験条件下におい て、浄水発生土によるコマツナの生理障害は起こらなか ったと考えられる。

表1 浄水発生土の主な元素濃度

元素

濃度 (mg/g)

2011年 2013年

Al 95.24 ± 5.43 124.16 ± 2.93 Ca 2.67 ± 0.36 3.92 ± 0.18 Fe 38.91 ± 0.54 42.60 ± 0.11 K 6.85 ± 0.32 8.21 ± 0.02 Mg 1.84 ± 0.42 2.83 ± 0.13 Mn 3.05 ± 0.17 3.52 ± 0.05 Na 6.12 ± 0.27 6.34 ± 0.01 Zn 0.30 ± 0.01 0.31 ± 0.00

図1 栽培26日目におけるコマツナの草丈。左から 10%土壌、0%土壌、そして30%土壌での栽培。栽培 直前においても、浄水発生土を含む土壌で栽培し たコマツナの草丈の方が高かった。