GDP総資本
4.5 企業規模格差および産業間格差 4.5.1 企業規模格差
4.5.2 産業間格差
日米産業別の生産性比較では、図表 17 にみら れるとおり、その生産性格差が大きい。1975 年 対比伸び率は、電気機械、化学工業の 1219%、
1105% という驚異的な伸び、自動車、精密機械、
図表 16 日米製造業生産性の規模間格差
図表 17 製造業生産性の産業間格差 出典:中小企業庁、「中小企業白書平成5年版」をもとに作成。
出典:「労働生産性の国際比較、1998 年」、社会経済生産性本部、1998 年より作成。
鉄鋼といった日本の輸出産業においては約300%
の伸びを示しているUS比較の生産性水準は鉄 鋼、化学工業を除いて劣位にある。食品、衣料と いう産業には小規模企業が多いことも、生産性 が低い要因であると考えられるが、明らかに業 種別格差は大きい。これは筆者の経営コンサル タントの経験でもいえることで、精密機械、食料 品、衣服といった業種からの生産性向上のサ ポート依頼は少なく、また生産性向上方策のセ ミナーへの参加者もほとんどなかったことから、
生産性への関心の低さの一端がうかがえる。あ るいは、生産性向上目的を新鋭機械設備投入で まかなってきたのだろう。例えば、先に紹介した GL 社(食品製造)における従来の生産性向上対 策は、設備導入とパート労働者や外国人労働者 にたよった施策が中心であり、見かけの労務費 が安い労働力に頼っており、単位労働コストの 有効性という考えは弱かったという経験がある。
それに対して鉄鋼業界は業界独自の鉄鋼IE連 盟という組織をもち、「鉄鋼のためのインダスト リアル・エンジニアリング」という専門誌を発行 して、日本の鉄鋼業界全体の生産性水準の向上 努力をしてきている。その結果USを凌ぐ明ら かに高い水準を保つに至ったのである。自動車 や電気機械業界など世界に顧客をもつ産業の生 産性向上率は大きい結果となっている。
これら二つの格差を通じていえることは、生 産性向上に取り組む体制、方法、あるいは、経営 者の生産性への関心の程度の差が、生産性向上 実績に現れているとも言える。たとえば、食品業 界はかって新製品と宣伝販売で市場を確保して きたものが、その方策に限界がみられるように なってきた。つまり、従来国際企業との競争場面 がなかったものが、最近は価格やコスト競争で 業績貢献をする施策の必要性が高まってきてい る。その結果、生産性向上への経営施策が行なわ れるようになってきている。
5.生産性試算
ここまで生産性についての一般的考察、そし て日本および日本の製造業の生産性水準の実態 について述べてきた。そして、経済規模大国日本 であっても、生産性水準は先・先進国比較では劣 位であることも言及してきた。また、筆者のコン
サルタントとしての実務経験のケースを紹介す ることによって、日本の製造業は今日なお大幅 な生産性向上余地をもっている、その結果とし ていろんな業種において大幅な生産性向上を達 成している事実も紹介してきた。
こうしたことを踏まえて一つの考察を試みた い。つまり、どのような仮定を設定すれば日本の 生産性水準は国際比較優位になれるかというこ とである。その試算を以下にまとめた。
生産性(PPP での GDP)/MH、つまり労働1時 間当 US$および JP¥・GDP の国際比較によれば、
フランス 33.06(128)、ドイツ 31.96(124)、イタリ ア 31.93(124)、US 30.64(119)などで日本 25.76 (100)で 6 位である。(図表 18)そこでアウトプッ トは同じとして、インプットを変えるという仮 定で生産性向上を試算し、その水準順位が如何 に向上するか見てみよう。
試算 1:残業0での生産性向上
残業(所定外およびサービス)の実数は、それ ぞれ月間 12.5 および 6.9 時間である。(社会生産 性本部、日経99.5.27)残業を0にすれば1MH(工 数)あたり 29.59 で順位は 5 位となる。慢性的な 残業の存在は日本の特徴的のものである。
すでに職についている労働者が残業なしで働 いた場合に約 260 万人の新規雇用創出効果が発 生する可能性があるという試算がある。1999 年 3月現在の完全失業者数は、330 万人であるか ら、その4分の3程度の雇用吸収力があること になる。(社会経済生産性本部の発表:日経、
99.5.27)その根拠は、残業をしても給与を受け取 らない形で、実際に発生しているサービス残業
(月間平均 6.9 時間)を無くして、必要な仕事を 新規採用で賄えば新たに約 90 万人の人材需要が 発生、残業が給与に反映する所定外労働時間(月 間 12.5 時間)をゼロにすれば約 170 万人となり、
合計260万人の雇用創出となっている。残業は一 人当たり労働時間の増大であり、同じ GDP アウ トプットとしてこれら残業を0にできれば、そ れだけ生産性は向上することになる。
試算 2:過剰雇用の解消での生産性向上 現在の公式統計に見られる失業率は、5% 弱で ある。また、企業がかかえている過剰雇用、つま り潜在失業を含めたとき失業率は8 % を超える という試算がある。また、欧州における最近の平
均失業率は、約8 % である。そこで、失業率 8%
での過剰雇用数は 8.12 百万人と想定することが できる。(日銀雇用判断 DI 指数より第一生命試 算。1999 年)この企業のかかえる過剰雇用を0 にするとその分インプットが低減し、同じ GDP アウトプットに対して1MH当たり 29.40 とわず かに向上するものの、順位は5と変わらない。
失業は現状の産業構造に対する余剰であり、
それは新産業の必要性、その産業への余力労働 力である。よって、企業の生産性向上活動によっ て余力労働力を創出、社会へ排出することは中・
長期的には望ましいことである。このことが極 めて短期間に、大量におこるとすれば、その対応そ ご に齟齬をきたし一時的な社会負担が生ずること になる。つまり、日常の継続的な生産性向上に よって、既存の生産対応に余剰労働力を生み出 すことは望ましいことであり、それが継続的に 健全に行われておれば、社会への排出の前に、企 業内の新規活動に充当し望ましい展開が可能と なる。バブル崩壊後の最近のリストラという名 のもとでの余剰労働力の社会へ排出の問題は、
これまでの経営者の生産性向上戦略の誤算によ るものといえる。
大幅な生産性向上余地をかかえている日本の 製造業の実体からすれば、余剰人員を企業内に 抱えて低い生産性を容認しているともいえる。
デンマークの友人の紹介で、以前、日本在住のデ ンマーク大使であった人とコペンハーゲンの自 宅で話す機会があった。「日本での経験で印象に 残ることは何ですか?」、しばらく考えられて、
「人口が多いことですね」と言われた事を思い出 す。先進国に仲間いりした国で US を除きもっと も人口の多い国である。大量生産、大量販売にあ たり、多い消費者の存在は魅力的であった。しか し、少子化が進む日本で、その価値判断は変えて 行かざるを得ないのではないか。量的な拡大を 意図した生産性活動よりも、生活の質を向上す る生産性向上とは何であるかの答えをもとめて ゆくべきである。
試算 3:上記1および2の総合低減による生 産性向上
試算結果は、33.80 となり現在トップのフラン ス(33.06)を僅かに超えてトップとなる。この 条件での試算は、筆者の経験でも明らかなよう に、欧州の工場における残業0の勤務実態およ び欧州の失業率水準においてはトップレベルの 生産性水準を達成できることとなるのである。
昨今の日本の失業率は、U S 並みの4%台
(1999 年2月、4.6%、約 310 万人が完全失業。社 会としての雇用調整の仕組みが望まれる。欧米 のレイオフ制、その問題は先任権( seniority )に よる若年齢者が優先的にレイオフ対象となる)
ということが、注目されている。US 並に憂慮す べき悪い状態になってきているというものであ る。25
一方、US の産業において、90 年代前半に人員 削減をしなかった大企業はほとんどないといっ ても過言ではない。経済は拡大しているのに失 業率は 90 年の5%から 92 年に7%に上昇。「雇 用なき回復」と呼ばれた。95 年以降は6%をき り、現在は4%代と 30 年来の低水準を維持して いる。しかし、その後も大企業の人員削減は続い ているのだが、新興企業が雇用を吸収、それが新 興企業をさらに活性化させ、新たな雇用を生む という好循環が生まれている。
生産性を向上させるのにアウトプットに対す るインプットの相対的関係を改善する方策をと る、つまり経済が後退状態にあるときに生産高 に対して投入労働量が多ければ、それをイン プットの労働量を低減するしか方策はない。短 期的には、たとえその余剰労働力の吸収場所が なかったとしても、企業が余剰を抱えたままで 健全な発展をすることは考えられない。この試 算結果は、このことの有効性を示しているので ある。
日本の生産性水準を国際比較優位にもってゆ くためには、企業がかかえる余剰労働力(潜在も 含めて)の社会への排出が必要である。日本の失 業率が低いということの裏にかくれた生産性を 下げる要因としての認知、顕在化なくして国際 水準優位の生産性には到達できないことを認識 すべきである。
USよりもイギリスおよびヨーロッパ各国の失
25[BW 99] pp.38-39
主要国の失業率(1998 年実績)の失業率は、France:11.9、Germany:9.4('99.05:10.7)、UK:6.3、Netherlands:4.1、US:4.5、JPN:4.0。
France:2000 年1月 1 日より、週 39 時間を 35 時間にする。 日本の失業率は、1994 から 1997 年度までは 3%前後であったが、
1998 年度第 2 四半期より 4%を越える水準になった。