150mM vs 50mM NaCl
PS 30 % SUV
a The data were from two or three independent experiments.
b Free energy was calculated according to G = -RT ln 55.5(1/Kd).
c The entropy of binding was calculated from G = H - TS
Table 2-3 アポ A-I 8-33/G26R の SUV 結合における熱力学的パラメータ. Thermodynamic parameters of binding of apoA-I 8-33/G26R to SUVs at 25℃.a(参考文献48より転載)
Figure 2-13 アポA-I 10-27残基領域のヘリカルホイール図
40
2. 4 部位特異的蛍光プローブ標識アポA-Iを用いた脂質結合局所構造の評価
これまでの結果から、PSはアポA-IとSUVとの静電的な相互作用により、へリックス構造を安定 化させている可能性が示唆された。そこで、さらに詳細にアポA-IとSUVとの相互作用様式につい て評価を行うため、N末端側の線維形成領域(14-31残基領域)中の22番目のロイシン(L)残基を システイン(C、Cys)残基に置換したL22C変異体に加え、中央部の線維形成領域(46-59残基領域)
中の58番目のセリン(S)残基をC残基に置換したS58C変異体を作製した73,74。1. 4と同様に、作 製したシステイン置換変異体にチオール基特異的な蛍光色素アクリロダン(Ac)を標識し、各SUV 結合時の蛍光特性を比較した。Figure 2-14AにはアポA-I 1-83/L22C-Ac/G26RのAc蛍光スペクトル を、Figure 2-14Bには両線維化領域について各SUV結合時のAc蛍光の最大蛍光波長(WFM)を示 す。WMFの比較により、PSの存在によりN末端側の線維化領域(L22C)のWMFが長波長側にシ フトし、親水的環境に移行しているが、中央部の線維化領域(S58C)には影響がないことが分かっ た。一方、コレステロールの存在は、両線維化領域を疎水的環境に移行させた。Figure 2-11 に示す
アポA-I 8-33/G26RペプチドおよびアポA-I 44-65ペプチドを用いたCD測定の結果から、アポA-I
1-83/G26RフラグメントとPS含有SUVとの相互作用にはN末端側線維化領域が重要であるという
可能性が示唆されていたが、この考察をアポA-I 1-83フラグメント中においても適応するためには、
ペプチドではなくアポA-I 1-83フラグメントを用いた検討が必要であった。そして、Figure 2-14Bに 示すCys置換変異体を用いた評価から、実際にフラグメント中においてもアポA-I 1-83/G26RとPS との相互作用にはN末端側線維化領域が重要であるという考察を支持する結果が得られた。
さらに、Iowa(G26R)変異を有さないアポA-I 1-83フラグメントについてもL22C変異を導入し てAc標識を行い、各SUV結合時のAc蛍光WMFを比較した(Figure 2-15)。すると興味深いこと に、Iowa変異体のN末端側線維化領域(L22C)では見られていたPSによる親水的環境への移行が 見られないことが分かった。
この結果から、アポA-I 1-83/G26RはPSの存在によってN末端側の線維化領域が親水的環境に露 出した状態でSUVと相互作用していること、および、アポA-IとPSとの相互作用にはIowa(G26R)
変異が重要であることが示された。アポA-I 1-83 /G26RフラグメントおよびアポA-I 8-33/G26Rペプ チドのITC測定の結果と併せて、アポA-IとPS含有SUVとの相互作用は、26番目のR残基を含む アポA-IのN末端側線維化領域の正電荷アミノ酸と、PS頭部の負電荷との静電的な相互作用である ことが示唆された。
アポA-Iと脂質膜との相互作用は、アポA-Iの両親媒性ヘリックスの疎水面がリン脂質の疎水性尾 部(アシル鎖)に埋め込まれてヘリックス構造を安定化させることにより起こると考えられている。
アポA-Iの正電荷アミノ酸とPS頭部の負電荷が静電的に相互作用することにより、アポA-Iの脂質 膜への結合の深さが浅くなると予想される。これにより、SUV表面に占めるアポA-Iの面積が小さ くなるため、Table 2-2に示すような最大結合量(Bmax)の増大につながると考えられる。
Figure 2-14 (A) Ac蛍光スペクトル変化、(B) 最大蛍光波長の比較. (A) Fluorescence emission spectra of acrylodan in apoA-I 1‒83/L22C-Ac/G26R in the absence or presence of PC or PS 30 % SUVs. (B) Changes in WMF of apoA-I 1‒83/G26R variants labeled with acrylodan by binding to various SUVs.(参考論文48より転載)
Figure 2-15 アポA-I 1-83/L22C-Acの最大蛍光波 長の比較(参考文献48より転載)
WMF (1-83/L22C-Ac)
in solution
PC PS
15 % PS
30 %
Chol 33 % 440
460 480 500
WMF (nm)
440 460 480 500
1-83/G26R L22C-Ac
in solution PC
PS 15%
PS 30%
Chol 33%
1-83/G26R S58C-Ac
WMF (nm)
ApoA-I 1-83/L22C-Ac/G26R Acrylodan spectra
400 450 500 550 600
0 1000 2000 3000
in solution PC
PS 30 %
Wavelength (nm)
Fluorescence intensity (a.u.)
A B
42
2. 5 膜蛍光プローブを用いた脂質膜構造変化の評価
PS によるアポ A-Iの最大結合量(Bmax)の増大が、膜構造の変化によるものかどうか評価を行う ため75、リン脂質膜界面付近の流動性を評価する蛍光色素であるProdanおよびLaurdanを用いた76,77。
Laurdanの方が脂質膜境界面のより深い領域を評価する。Figure 2-16Aには代表的なProdan蛍光のス
ペクトルを示す。それぞれの蛍光スペクトルから流動性の指標となる GP(Generalized polarization)
値を算出し、Figure 2-16Bに示す。GP値の比較から、PSの存在はPCのみのSUVと比較して脂質膜 のパッキング状態には影響を及ぼさないことが示された。一方コレステロールはGP値の増大を示し、
脂質分子のパッキングを密にし、膜を固くしていることが確認できた。この結果から、PSはリン脂 質のパッキング状態および脂質膜の流動性には影響を及ぼしておらず、PS 含有 SUV 上でアポ A-I
1-83/G26Rの線維形成が阻害されることは、アポA-Iの結合様式の違いによるものであることが示さ
れた。また、コレステロールの存在により固くなった膜上では、アポA-I 1-83/G26Rの運動が容易に なることが予想される。以上の結果から、コレステロールは、膜を固くし、アポA-I 1-83/G26Rの結 合親和性を低下させることにより(Table 2-2)、アポA-I 1-83/G26R分子間の衝突を起こりやすくし、
線維化の核形成を促進するのではないかと考えられる。
Figure 2-16 (A) Prodanの蛍光スペクトル変化、(B) GP値の比較. (A) Fluorescence emission spectra of prodan in PC or Chol 33 % SUVs. (B) GP of prodan and laurdan in various SUVs.(参考 論文48より転載)
Prodan (25degC)
380 430 480 530 580
0 1000 2000 3000
PC Chol 33 %
Wavelength (nm)
Fluorescence intensity (a.u.)
A B
Prodan GP
-0.4 -0.2 0.0 0.2 0.4 0.6
Prodan Laurdan
PC PS 15%
PS 30%
Chol 33%
GP
2. 6 小括
脂質膜上でのアポA-I 1-83/G26Rの線維形成において、脂質膜組成が与える影響を評価するため、
中性リン脂質である PC に加え、酸性リン脂質であるホスファチジルセリン(PS)もしくはコレス テロールを用いて SUV を作製し、線維形成性を評価した。その結果、PS は濃度依存的にアポ A-I
1-83/G26Rの線維形成を阻害したが、コレステロールは線維形成を促進した。
脂質結合特性を等温滴定型カロリメトリー(ITC)測定および円偏光二色性(CD)測定により評 価したところ、PSはアポA-I 1-83/G26R との静電的相互作用によりヘリックス構造を安定化させる ことが示された。さらに、環境感受性蛍光プローブであるアクリロダンを利用した部位特異的な脂 質結合特性の評価を行ったところ、PS とアポ A-Iとの静電的相互作用には Iowa(G26R)変異周辺 の領域が関与することが示された。一方、コレステロールは脂質結合親和性を低下させることがITC 測定により示された。コレステロールは、脂質のパッキングを密にし、膜を固くするため、アポA-I
1-83/G26Rが脂質膜上で動きやすくなり、それにより線維形成が促進されると考えられる。このよう
に、脂質膜組成はアポ A-I と脂質膜との結合様式に影響を与えることで、線維形成性に違いをもた らしていることが示された。
アポ A-I アミロイドーシスは、遺伝子変異の違いによりアミロイド線維の沈着する臓器・組織が 異なることが知られている78,79。脂質組成の違いにより線維形成性が影響を受けることは、アポA-I アミロイドの臓器・組織選択的沈着のメカニズムを解明する上で重要な知見であると言える。
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