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琉球弧の島々―その文化と産業

牧 洋一郎

<目次>

第一部 奄美と沖縄を比較して はじめに

1.奄美群島と沖縄

(1)奄美群島

① 奄美群島の概要

② 奄美の入会地

③ 奄美の産業

(2)沖縄

① 沖縄の概要

② 沖縄の入会地

③ 沖縄の産業 2.今後の課題と展望

(1)流通と輸送コスト

(2)入会地

(3)砂糖制度―世界情勢の中で

(4)平和論 結び

第二部 種子島・屋久島に望む はじめに

1.種子島

(1)種子島の概要

(2)種子島の産業と文化

(3)種子島の入会地 2.屋久島

(1)屋久島の概要

(2)屋久島の産業と文化

(3)屋久島の入会地 3.熊毛地域の今日 4.提言

(1)産業

(2)入会地 結び

第一部

奄美と沖縄を比較して

はじめに

トビウオの島として有名な馬毛島を抱える種子島、藩政期以前から屋久杉の産地として有名な 屋久島(以上、大和文化圏)そして琉球文化圏に属する奄美群島とそれぞれに鹿児島県の琉球 弧の島々は、特異的な歴史を有する島々である。現在、西之表市の馬毛島や奄美大島は沖縄の 米軍基地問題と関連し、米軍FCLP(空母艦載機陸上離着陸訓練)基地候補地問題や自衛隊 基地誘致問題という重大な政治問題を抱えている状況にある。また、2012 年の沖縄県・尖閣諸島 の国有化以降、日中両国の緊張関係が続いている。そして最近になって、奄美大島への陸上自 衛隊警備・ミサイル部隊配備に反対する住民らが、奄美市名瀬と瀬戸内町の駐屯地施設の建設 差止を求める仮処分を申し立てている。つまり、馬毛島、奄美群島そして沖縄諸島といった琉 球弧の島々は、軍事基地問題あるいは米軍基地移転候補地問題に翻弄されているのである。

しかし、琉球弧の島々は台風の常襲地帯でその被害を受けやすい地域ではあるが、砂糖きび やパインアップルなどの生い茂る豊かな農業の島々でもある。他方、熱帯地域からの輸入品と 競合するなどの問題点が指摘されているが、殊に奄美群島では花卉や肉用牛生産なども成長し てきており、また奄美も沖縄も気象条件や地理的条件が他の都道府県とは異なり、本土よりも 早い時期に野菜などを出荷できるという特色を有している。

それから、琉球弧の島々でも入会地を巡る紛争が少なくない今日ではあるが、入会地は村落 や地域と密接に結びついており、入会権(民法 263 条、294 条)と地場産業の相互関係を検討す ることも必要といえる。そこで本論第一部では、琉球弧の島々とりわけ奄美と沖縄の産業は将 来どうあるべきか、を入会権問題をも射程に入れて考察する。なお、奄美・沖縄の産業を語るに は水産業及び漁業問題(糸満や久高島の漁業など)は避けて通れぬ問題ではあるが、今回は現 地未調査により取り上げず、別稿にて改めて論ずることにしたい。

1.奄美群島と沖縄

(1)奄美群島

① 奄美群島の概要

奄美群島は、鹿児島市の西南約370~560キロメートルの範囲(北緯27度、東経129度の海域)

に位置し奄美大島(属島加計 島、請ウ ケジ マ、与ジ マを含む)・徳之島・沖永良部島・喜界島・

与論島の有人8島などからなり、総面積は約1200平方キロメートルで、亜熱帯性気候の島々で、

四季を通じて温暖・多雨な地域である。なお、殊に奄美本島は全島の約85%が森林原野に覆わ れ(耕地面積は約3%)、特別天然記念物に国によって指定されている「アマミノクロウサギ」を はじめ、野生動植物の宝庫でもある。

奄美群島の総人口は約12万人で、行政・経済の中心は、奄美本島(面積約712平方キロメート ル)内の北部に位置する奄美市(人口約4万人、2006年3月に名瀬市、住用村そして笠利町が合 併)で、伝統的産業は沖縄に次ぐ生産量を誇る砂糖きび農業であり、他にバナナ・マンゴー・パ インアップルなどの果樹栽培も盛んである。また、我が国染色織物の最も古い伝統を持つとい われる紬織業(久米島絣に由来するという大島紬)も奄美を代表する産業である。なお、その 染料の原材料シャリンバイは、集落有林野すなわち入会林野から採収・調達する。しかし現在、

砂糖きび農家の後継者不足や紬織業界の構造的不況に直面している。それから、群島は自然の 漁場にも恵まれているものの、消費地が遠いという原因にもより近海漁業は不振である。

明治以前の奄美群島は、原始時代から8・9世紀頃までの階級社会以前の血縁共同体(マキヨ)

の奄美世(アマンユ)、按司という首長たちの支配割拠する階級社会にさしかかる按司世(ア ジユ)、15世紀半ばからの琉球王府支配の那覇世(ナハンユ)そして藩政期からの薩摩藩支配の

大和世(ヤマトユ)、の四つに概ね時代区分される。慶長14(1609)年の薩摩藩の琉球侵略に より、琉球王府尚氏から薩摩藩島津氏へ支配が移行し、その後明治に至るまで約260年間、島津氏 が直接支配したが、行政区画は琉球王府支配時代の間切制度を引き継ぎそれが基礎であった。

ここで特筆すべきことは、延享2(1745)年に年貢上納が米から黒糖に変わったことである(換 糖上納令)。また、第二次大戦直後から昭和28(1953)年まで、支配が米軍統治下に置かれた 特異的な歴史を有する地域である。

② 奄美の入会地

奄美では開発につき入会地を巡る紛争は然程多くはない。しかし平成に入ってから、奄美本 島のやや北部に位置する龍郷町の市イ チバ ル山のゴルフ場建設問題を巡る入会紛争で、開発反対派 住民約100名が開発業者に対し共有入会権(予備的に地役入会権)及び慣行農業水利権による妨 害排除(開発工事の差止)を求め対立した。平成10(1998)年に、業者は建設工事を時の経済情 勢(各地でのゴルフ場経営破たん)により取りやめ一方的に撤退し、よって原告住民らは訴え を取り下げた。この時、土地の登記簿を拝見したが、殆どの係争地盤の所有名義が町の所有名義 となっていた。このことは、島嶼町村制による歪みと推断されるものである。つまり、奄美群 島における新町村有林は、町村の側から集落に働きかけたものではなく、鹿児島県令により強制 的に旧村落有林野を新町村に移させたものである。このこと(真の所有権者は誰か)は史実を 踏まえいずれ明らかにすべき問題といえよう。

また、奄美本島の南部に位置する瀬戸内町の塵芥処理(一般廃棄物)施設建設を巡る入会紛 争(原告は網野子ア ミ ノ コ集落住民9名、被告は瀬戸内町)では、海抜400メートルの網野子峠が建設 候補地に選定された。その理由として、町内の他の地域は殆どが(当時)国定公園に指定され ているため、町が塵芥処理施設の建設予定地を他に探すのは、困難であるというものであっ た。町への林地貸付に対するこの事件は、入会権者の賛否(賛成50、反対9世帯)すなわち多数 決決議が有効か否か(入会地の処分については権利者全員の同意を要する)を巡って、最高裁 まで上りつめたが、平成19(2007)年11月に最高裁で憲法違反・判例違反には該当しないと判断 され、入会権者全員一致の原則を主張する環境保全派住民(原告)が敗訴となった事件である

(一般廃棄物処理施設建設差止請求事件)。

結果として、上記の各土地には、ゴルフ場も塵芥処理場も建設されなかった。このことは環 境保全(建設反対)派住民の事実上の勝訴といえるが、廃棄物処理場建設や開発には比較的広 大な入会地が狙われやすいことを意味するものである。

③ 奄美の産業

現在、砂糖きび農業(年間生産量:徳之島220千トン、喜界島88千トン、沖永良部島80千ト ン、与論島29トン)の他に、徳之島では馬鈴薯・里芋等の栽培、沖永良部や与論島ではキク・ユ

リ・ソリダコ(キク科の多年草)等の花卉栽培、そして奄美大島や徳之島のタンカン・ポンカ ン・マンゴーなどの果樹栽培の成長が顕著である。なお、タンカン・ポンカンは島内需要に回る が、マンゴーは多くが島外に出荷される。奄美諸島の年間農業生産額は294億円であり、その内 砂糖きび(94億円)が最大で32%を占め、次いで野菜77億円(馬鈴薯49億円)、花卉50億円、肉 牛47億円、その他26億円である10。馬鈴薯、里芋といった輸送野菜やキクに代表される切花の栽 培が本格化し、現在では奄美経済を支える重要な生産物に成長している。

そして、黒糖焼酎製造業が盛んな地域でもあり、この黒糖焼酎は、奄美大島酒造協同組合の地 域団体商標である。

(2)沖縄11

① 沖縄の概要

沖縄県は北緯24度~27度に位置し、大小約160の島嶼群から成り総人口は約140万人で、総面積 は2272平方キロメートルである。行政・経済の中心は、沖縄本島(面積約1204平方キロメート ル)の南部に位置する那覇市(人口約32万人)である。

多数の島々から成り立つ沖縄県は、島と海を背景に、生活単位として集落(行政単位としては、

かつての間切制度が基礎)を形成し、砂糖きび栽培などの盛んな島でもある。また、沖縄は一般 に多雨・多湿で亜熱帯性気候に属し、年平均気温は22.7度の地域で、石灰岩台地が多く保水機能 の貧弱な地域である。そうではあるが、砂糖きび、バナナ・マンゴー・パインアップルなどの 熱帯性植物はよく育ち、また県木琉球松やガジュマル・フクギなどの立木も県の代表的林木であ る12。奄美と同様、離島というハンディを抱えながらも野菜や花卉の生産も盛んな地域である。

② 沖縄の入会地

琉球王府時代以来の杣山制度13に因む入会林野は顕著であるが、沖縄県における入会林野の基 地編入は、内地の多くの例のように入会林野である土地を米軍が接収する、というのではなく、

戦闘によって米軍が占拠し、しかも戦火の為入会林野であるかどうかも不明になったような土 地をそのまま軍事基地とする、という過程によるものが多い14

沖縄県特有の事情として、軍用地面積の占める割合が高く、日本全土の約70%の基地が集中し ている県である。行政との関係では、米軍の占領下(1945~1972年)で苦しめられた沖縄県民 に対する国家的支援義務があり、また入会林野利用にとっての最大の障害は軍事基地である15。 しかしながら現在、軍用地の貸地(入会地)収入などに頼っている部分は大きいが、基地依存の 収入よりも観光収入の方が上回ってきた16ことは注視すべき事象である。

③ 沖縄の産業

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