第
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節にまとめられている理論的帰結をわれわれのヒアリング調査は支持するのであろうか。以上にあげた各ポイントについて検討する。
第
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節では理論とアンケート調査から得るアジア危機の影響は国別あるいは企業別に見た場合 の多様性を述べている。アジア危機の影響について、理論から推測される点として為替レートの 下落による影響、ド ルペック制の廃止、経済の混乱・景気低迷に伴う現地(および近隣諸国の)市場の縮小などをあげたうえで、アンケート調査より業種別の影響の差違については輸出比率に よりかなりの程度の説明が可能であることを見出している。
現地通貨の大幅な下落は現地生産要素価格の下落をも意味し 、したがって部品の現地調達率が 低い企業は相対的にコストが高くなる。経済危機は原材料などの現地調達の重要性を認識させた ということは、各企業とも(危機の時に立ち上げ途中であった企業でさえも)述べていたことで ある。
理論から推測される点として現地通貨の下落は輸出競争力を高めることがあげられる。した がって輸出志向型の企業はそれほど 影響を受けなかったという仮説がなりたつ。事実、第
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節で 述べた日本興行銀行によるアンケート調査によると、輸出比率の高い家電、半導体、食料品部門 はダ メージが少ないことを示している。われわれがインタビューを行なったカンヨン電機では自 社製品を日本に輸出することで、危機によるダ メージから回復したと述べている。同社は国内向けの製品を多く供給していたために甚大なダ メージを受けたことである。
JETRO
のアンケート調査によると国内市場依存型である輸送用機械、輸送用機械部品、鉄鋼は経済危 機のマイナスの影響をうけている。これらは経済の混乱・景気低迷に伴う市場の縮小が原因であ ろう。また同調査によると、自国通貨が下落したシンガポールのように輸出指向型の企業が多くある 国でもマイナスの影響を受けていると感じている。これはタイを含む、近隣諸国の市場も縮小し ているため、それらへの依存度が高いほどダ メージが大きいからと分析している。
小林
[28]
では通貨危機により日系企業は深刻な事態にありながら撤退を考えない日本企業について、
JETRO[43]
をもとにまとめている。アンケート回答企業のうち、生産拠点を撤退したと答えたのは
2
社のみであり、生産規模を縮小したのは20
社に留まっていることを報告したう えで、全体的には状況をみながら対策を考慮していることがうかがえる、と結んでいる。また、われわれがインタビューを行った企業へ撤退について聞いたところ、撤退は考えていないという 回答を得ている。1つには産業によって回復基調であることに加え、第
3
節でみたように直接投 資はその他の投資に比べて安定的であることを示しているのかもしれない。5 むすびにかえて
以上、本論文ではアジア経済危機について、マクロ経済、直接投資、そして日系企業という
3
面より主として過去の研究をサーベイするという方向から接近を試みた。第
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節で述べたように、アジア経済危機は通貨危機、金融危機、そして景気後退がほぼ同時期 に起こったものである。その背後に何らかの制度的、構造的な問題があるとすれば 、それは今回 の危機に見舞われた諸国だけの問題ではなく、バブル期以降の日本経済にも関わりのあることで ある。なぜなら、Hoshi-Kashyap[19]
が示すように、バブル期の日本は、貸出市場と預金市場にお ける非対称な自由化プロセスのもとで、優良企業の銀行借入が減少する一方、消費者からは大量 の預金が銀行へ流入している状況にあった。自由化の流れは従来型の間接金融からオープンな市 場型の直接金融への移行という銀行行動の変革を促がすものであったが 、バブル経済の発生が銀 行に対し時代の流れに逆行する行動をとらせた。すなわち、不動産バブルは格好の貸し出し増加 のチャンスとなってしまい、そこに飛びついた結果、バブル崩壊後の深刻な金融危機へとつながっ たのである。当時の問題は金融市場にのみあったのではない。Nakajima-Nakamura-Yoshioka[39]
では、バブル期における日本の製造業( 鉄鋼と輸送用機械)の生産性は決して高いものだったと はいえず、むしろインプットの増加によって成長がもたらされただけであったことが示されてい る。経済危機前夜、アジア諸国の実物経済の生産性がどのような状況であったかについて未だ確 たる実証結果は存在しない。しかし 、不動産バブルが香港やタイで生じていたことは周知の事実 であることを考えれば 、日本においてバブル崩壊前に観察された状況は経済危機前夜のアジア諸 国に共通する部分が多い。ひとつ大きく違うのは、日本は貿易黒字の持続により豊富な対外債権 と外貨準備が存在していたために、通貨投機の対象とはならなかった点である。以上述べたよう な観点から、われわれはアジア経済危機を対岸の火事として見過ごすことはできない。
加えて、われわれがアジア経済危機に注目するのは、アジア・システムとも呼ぶべき国家が国 民に代わってリスクをとるタイプの経済システムがグローバルな市場化の流れの中でどのように
対応していくべきかという大きな問題に直面しているからに他ならない。これまで行政の手厚い 保護を受けてきた金融業界を筆頭とするいわゆる国内規制産業は、グローバル市場において自ら リスクをとる新たなシステム構築へ向けてのリストラクチャリングに必死である。グローバリ ゼーションは確かに企業とって国境を意味のないものにしていくが、一方、依然として為替レー トは各国経済のパフォーマンスから影響を受け、それが企業行動に影響を与えていることも事実 である。インフレや失業という問題も国境内での経済問題であり、国家レベルで解決すべき問題 である。しかし 、資本は証券投資や直接投資という形で世界中を飛び回り、一国の経済状態を瞬 時に返るだけの力を持っているのである。中国珠江周辺における経済特区のここ
10
数年の変わ りようは自国の資本蓄積力だけでは到底達成できないものである。一方、インド ネシアやタイで 巻き起こった通貨危機と資本逃避はこれらの国の経済状態を瞬く間に暗転させるだけの威力を示 したのである。以上のことから、日本にとってアジア経済危機は単なる危機以上の意味を持つと考えるべきで
ある。
Yergin-Stanislaw[64]
がいうように、われわれは市場の力によってあらゆる経済への介入がねじ伏せられる時代を迎えようとしているのだろうか。こうした中で日本がどのような経済シ ステムをとるべきかが今問われているといえよう。
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