窒化物半導体によるミリ波用トランジスタの研究
�� ��(極�高速電子デバイス研究��)
1.はじめに
情報通信の大容量化・高度化に伴い,ミリ波,更 にはサブミリ波帯で動作する電子デバイスには動作 周波数と共に,高耐圧への要求も大きくなっている。
一般にこれらの周波数帯に応用されているインジウ ム燐(InP)系デバイスは,耐圧が低いという欠点 がある。この現状を打破する手段として,高耐圧特 性に優れ,かつマイクロ波帯への応用が既に進んで いる窒化物(GaN)系半導体を用いた高電子移動度 トランジスタ(HEMT: High Electron Mobility
Transistor)をミリ波等,更なる高周波帯域へ拡張
することが考えられる。
GaN系材料は電子の飽和速度が高いため,材料特 性の見地から高周波特性にとって有利であることが 知られている。反面,電子移動度が1500cm2/V.s程 度とGaAsに比べて低いため,効果的に電子を加速 させるためのデバイス構造が他の材料系以上に求め られる。これまでGaN系HEMTでは,トランジ スタの遮断周波数は約200GHzにとどまっている。
ミリ波帯の中でも今後の研究領域として重要になっ てくるであろう 100GHz 以上の帯域への応用を考 えると,最大発振周波数で300GHz以上を実現する ことが望まれる。
以上の背景から,本研究ではGaN系HEMTに おいて最大発振周波数(fmax)で300GHz 以上を実現 し,また,トランジスタのオフ状態耐圧(BVoff)との 積,fmax・BVoffにおいてInP系HEMTを上回る特 性を実現することを目的とする。
図1.AlGaN/GaN HEMTのドレイン電流(Id)-ドレイン電 圧(Vds)特性(DC Id-Vds,及び,パルスId-Vds特性)
2.実験
2.1.SiCN絶縁膜を用いたAlGaN/GaN MIS HEMT 構造の検討
昨年度の研究により,AlGaN/GaNヘテロ構造を 用いたHEMTの基本プロセスは確立した。しかし 同時に,トランジスタ特性において2つの大きな問 題を確認した。ひとつは,ゲート電極における漏れ 電流が大きいことである。これは図1において電流
−電圧曲線が原点からずれていることで確認でき,特 にゲート電圧が大きくなるほど顕著となる。これは ゲート電極がショットキー接合のため,順方向電流 が流れるためである。もうひとつの問題は,ゲート 入力をオフからオンにした直後のドレイン電流が,
静特性から予測される電流値より大幅に低下する問 題(電流コラプス)である。これは図1 において,
ゲートにパルス電圧を入力した場合の電流−電圧特 性(Pulse)を静特性(DC)を比較することによっ て確認できる。電流コラプス現象はGaN系HEMT においてしばしば観測される問題で,半導体表面や ゲート電極との界面における深い準位が関係してい ると言われている。
これらの問題を解決するために,ゲートに MIS
(Metal Insulator Semiconductor)構造を用いた AlGaN/GaN HEMT(図2)を検討した。GaN系 HEMTにおけるMISゲート用絶縁体薄膜としては,
一般にはSiNあるいはSiO2が用いられるが,半導 体との良好な界面を形成するためには,O2プラズマ 処理や N2O ラジカル処理などの前処理が必要であ ることが報告されている。
図2.SiCNを用いたAlGaN/GaN MIS HEMT
本研究ではゲート絶縁膜として HMDS(ヘキサ メチルジシラザン)を気化導入したプラズマCVD 法によって堆積したSiCNを用いた。この堆積法で は,350℃に加熱したステージ上に試料を設置して,
水素ガスをベースとしてHMDS蒸気を添加して反 応室に導入し,RF 電力を印加してプラズマを発生 させ,厚さ10nmのSiCNをAlGaN/GaN HEMT 基板上に堆積する[5]。本手法の利点は,水素ガス による試料表面の清浄化効果が期待されることから,
他の前処理無しでも良好なMIS 界面が実現できる 点である。
2.2.SiCN鋳型を用いたT型ゲート電極の形成 ミリ波帯等の高周波領域では,ゲート抵抗が HEMT の最大発振周波数の律速要因となる。この ためゲートを微細化に伴うゲート抵抗の増加を抑え る手法としてT型ゲート電極を用いることが一般に 行われている。一方でゲート長の微細化に伴い,T 型電極頭部が作る寄生容量がトランジスタの遮断周 波数を律速する要因となることを,我々は確認して いる。このため,より細やかにT型ゲート電極の断 面形状を制御することを目的として,SiCN薄膜を 鋳型として用いる新たな電極形成プロセス技術を提 案した。具体的には,試料上にエッチング特性が異 なるSiCNを連続的に堆積してゲート断面形状に加 工した「鋳型」を作製して電極金属を流し込む(図 3)。SiCNの堆積は,水素とアンモニアの混合ガス をベースとしてHMDS蒸気を添加したガスを用い たプラズマCVD法により行う。この水素とアンモ ニアの混合比によって成膜されるSiCNへの炭素の 含有率が変わってくるため,エッチング特性が異な る薄膜が生成できる。
図3. SiCN鋳型を用いたT型ゲート形成の流れ
図4.AlGaN/GaN MIS HEMTのId-Vds特性
3.結果
3.1.AlGaN/GaN MIS HEMTの特性
図4に試作したAlGaN/GaN MIS HEMTの電気 特性の評価結果を示す。図1に示したショットキー ゲート型のHEMTと比較して,電流−電圧特性の曲 線が原点を通っており,ゲート漏れ電流の低減が確 認できた。また,ドレイン電流密度や伝達コンダク タンスが増加しており,それらのパルス測定下にお ける劣化も抑制されている。これらの結果は,SiCN 絶縁膜の堆積により,ショットキーゲートに比べて 良好な界面が実現され,ゲート入力によるドレイン 電流の制御性が向上したと考えられる。その原因と してはSiCN堆積時の水素ガスによる表面清浄化効 果が考えられることから,ショットキーゲートの形 成においても,水素アニール等の前処理によって同 様の効果が期待できることを示唆している。
ゲート長100nmのHEMTにおける電流利得の
周波数特性を評価した結果を図5に示す。電流利得 遮断周波数は37GHzである。これは同じゲート長 のショットキーゲート型HEMTと比較してSiCN MIS構造の導入によって約30%向上した。この遮 断周波数とゲート長から見積もられる電子速度は約 0.3×107 cm/sと,予想される最大電子速度より一桁 小さく,今後の更なる向上が期待される。
図5.AlGaN/GaN MIS HEMTの電流利得の周波数特性
形状1 形状2
図6.SiCN鋳型の構成と断面形状,及び,ゲート電極形 状
3.2.SiCN鋳型によるT型ゲート電極
平成22年度は,提案したT型ゲート電極形成手 法の効果を実証すべく,3層のSiCNによって校正 される鋳型を作製し,InP系HEMTに適用した。
その結果,SiCN 鋳型によるゲート電極断面形状の 違いと,それに伴うトランジスタ特性への効果を確 認することが出来た。しかし,完成したゲート電極 の断面は,ほとんど矩形に近いものと従来の工法に よって形成される形状とほぼ変わらないものであり
(図6),より緻密な鋳型の形状制御が必要であるこ とが分かった。そこで,鋳型となるSiCN薄膜の堆 積において,水素・アンモニアで構成されるベース ガスの混合比を10段階に変化させて,組成の異な る10層のSiCNからなる鋳型を形成し,エッチン グによる加工を行った。新たに作製した鋳型の断面 SEM写真を図7に示す。昨年度の3層SiCNと比 較して,より理想に近いゲート断面構造を反映した 鋳型が形成できることを確認した。また,本意多賀 を用いて作製したゲート電極の断面を図8 に示す。
従来の工法と比較して,よりなめらかな曲線形状を 持つ電極を形成することが可能となった。
4.まとめ
窒化物半導体によるミリ波トランジスタの実現に 向けて,SiCNを用いたAlGaN/GaN MIS HEMT を検討した。その結果,昨年度と比較してゲート漏 れ電流の低減とドレイン電流密度の向上を確認する ことが出来た。またT型ゲート電極の形成プロセス
については,SiCN 鋳型を用いてより緻密に電極断 面構造を制御することが可能であることを確認した。
図7.多層SiCN鋳型の断面形状
図8.多層SiCN鋳型によるT型ゲート電極の断面
謝辞
窒化物系半導体プロセス用装置を使用させて頂い た東北大学金属材料研究所の松岡隆志教授はじめ研 究室の方々に感謝する。また本研究の一部は,ナノ・ スピン実験施設の設備を用いて行われた。
関連成果
査読付き学術論文(1件)
1. T. Yoshida, K. Akagawa, T. Otsuji, T. Suemitsu, “InGaAs HEMTs with T-gate electrodes fabricated using HMDS SiN mold,” Phys. Status Solidi C, 9, pp. 354-356 (2012).
国際会議発表(1件)
2. T. Yoshida, K. Akagawa, T. Otsuji, and T. Suemitsu, “InGaAs HEMTs with T-gate electrodes fabricated using HMDS-SiN mold,” 38th Int. Symp. on Compound Semiconductors (ISCS), Berlin, Germany, May 22-26, pp. 473-474 (2011).
国内学会発表(3件)
3. 吉田智洋, 赤川啓介, 尾辻泰一,末光哲也, “HMDS-SiN鋳
型により作製したT型ゲート電極InGaAs HEMTのゲート 遅延解析,” 第 72 回応用物理学会学術講演会, 山形, 31a-A-3, Aug. 30-Sep. 2, (2011).
4. 吉田智洋, 鹿野優毅,尾辻泰一,末光哲也, “多層SiCN鋳型 を用いたT型ゲート電極の断面形状制御,” 第59回応用物 理学関係連合講演会,東京, 18p-E2-3, Mar. 15-18, (2012). 5. 鹿野優毅, 小林健悟, 吉田智洋, 尾辻泰一, 片山竜二, 松
岡隆志, 末光哲也, “SiCNをゲート絶縁膜として用いた
AlGaN/GaN HEMT,” 第59回応用物理学関係連合講演会,
東京, 18a-GP7-3, Mar. 15-18, (2012). 著書(1件)
6. T. Suemitsu, “Chapter 5.03: GaAs- and InP-based high-electron-mobility transistors,” in “Compre- hensive Semiconductor Science and Technology,”Elsevier, pp. 84-112 (2011).
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