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独創的研究支援プログラム

独創的研究支援プログラム

Dirac 電子系の新奇な物性制御法の開拓

[1]研究開始当初の背景

直線的なバンド分散を有する物質群は相対論的量子 力学に従うことから、Dirac 電子系と呼ばれる。代

表的なDirac電子系としてグラフェンが挙げられる。

Dirac電子系においては、電子はあたかも質量が0

であるかのように振舞う。このことから、Dirac電 子系は優れた物性を有する。たとえば、グラフェン 中の電子のキャリア移動度や飽和速度は全物質中で 最高値を示すことから、グラフェンは実用的なゲー ト長:100nmで動作周波数1THzを超え得る唯一 のチャネル材料である。このように、優れた物性を もつことから、Dirac電子系は、有望な次世代電子・

光デバイス材料である。そのため、Dirac 電子系、

特に、グラフェンのデバイス応用が世界中で盛んに 研究されている。例として、グラフェンを用いた THzトランジスタや、ギャップレスを利用したTHz 光レーザーなどの開発が行われている。これらのデ バイスの実現により、未踏の周波数帯:THz帯で動 作する電子・光デバイスが単一物質:グラフェンに より開拓されることとなる。

しかし、例えば、チャネルの高移動度化の為のSi からグラフェンへの単なる置換は、既に技術の蓄積 があるSiからGe・GaAsに比して、不利である。そ のため、他の物質には無い特徴を活かしたDirac電 子系の有効な活用法を開拓する必要がある。

[2]研究の目的

Dirac電子系に固有な特徴「時空間対称性(積層構

造)に対する物性の高い敏感性」を活かした、Si基 板の微細加工の援用によるグラフェンの積層・物性 のナノスケール制御を狙う(図1)。このような研究 は、同一物質グラフェンを活性層とする電子・光混 載集積デバイス開発へ繋がることが期待される。

[3]研究の方法

(試料作製)Si(100)基板上で、SiO2薄膜マスクと して選択的アルカリエッチングを施すことにより、

Si(111)微斜面及び Si(100)面からなる微細加工 Si(100)基板を作成した。

この微細加工Si(100)基板上へ、モノメチルシラ ン(H3Si-CH3)を用いたガスソースMBEにより、

SiC薄膜(~100 nm)を作製した

グラフェン化には二つの方法を採用した:

a) 超高真空下で1250℃で30分程度加熱 b) 大気圧Ar雰囲気下で1600℃加熱

a)は微細加工Si基板上SiC薄膜表面のグラフェン 化、b)はSiC基板表面のグラフェン化に用いた。

(評価)グラフェンの分子振動状態及びバンド構造 を高い水平分解能(~1m)で調べる為に、Raman 顕微鏡を用いた。グラフェンのバンド構造に関し ては、通研及び高エネルギ加速器研究機構にて行 った角度分解光電子分光によっても調べた。

グラフェン及びグラフェントランジスタの微視 的な電子状態を調べる為に、SPring-8に設置され ている一括投影型光電子顕微鏡(PEEM)及び走 査型光電子顕微鏡(3D nano-ESCA)を用いた。

1

研究成果(最終年度)報告

4.1 Dirac 電子系の新奇な物性制御法の開拓

吹留 博一(固体電子物性工学研究分野)

[1]

研究費:物件費380万9千円,旅費99万円

[2]成果

(1)研究成果

本年度は,以下に示す二つの研究成果を得た。

1)エピ・グラフェンの超高品質化

2)トップゲート型グラフェン・トランジスタの オペランド顕微分光

【上記二つの研究を行った理由】前年度までに、本 研究の目標であった、「微細加工を施したSi基板上 に異なるバンド構造を有するグラフェンをナノスケ ールで作り分ける」ことが原理的に可能であること を世界に先駆けて実証した(Fukidome et al., Sci. Rep.

(Nature Publishing Group) (2014))。この研究成果に対 する評価の高さは、JST・新技術説明会や日本化学 会での計三件の招待講演や、住友電工・NEDOとの 産学連携プロジェクトでの研究項目の一つとして採 用されたことから窺える。

このようにして作製されたグラフェンのデバイス 応用には、幾つかの壁を乗り越える必要がある;

・第一に、「グラフェンの高品質化」が挙げられる。

グラフェンをチャネルとして動作させる時のデバ イス特性(例:キャリア移動度)は、グラフェン の品質と直結するからである。

・第二に「寄生抵抗(アクセス領域抵抗、コンタク ト抵抗)の影響」を抑制する必要がある。その理 由は、その極限的な薄さから、グラフェン物性は 界面に対して非常に敏感だからである。

【本年度の目的】上記の問題点を解決するために、

①SiCバルク基板上エピグラフェンの超高品質化

②動作条件下(オペランド)でのデバイス電子状態 のナノスケール観察法

の二つの目的達成の為に研究を推進した。

【結果】

①SiCバルク基板上エピグラフェンの超高品質化

(背景)その高いキャリア移動度や飽和速度から、

グラフェンは超高速トランジスタへの応用が期待さ れている。SiC基板の加熱による表面Si原子の昇華 によるグラフェンのエピタキシャル成長は、大面積 かつ高品質なグラフェンの作製を可能にするという 点で、デバイス応用に適したものである。

しかし、このグラフェンの層数には微視的な分布

があり、同一層数であるグレイン・サイズは<1μm に留まっていた。グラフェンの物性は層数に強く依 存するため、この微視的な層数分布は、デバイスの 特性のばらつきを招いてしまう。

(目的)クリーンルームの清浄な雰囲気下で成長さ せることにより、グラフェン膜の微視的な層数分布 の抑制を目的とした研究を行った(図1)。

(結果)SiC基板の前洗浄、及び、グラフェン成長 は、通研のナノスピン実験施設のスーパークリーン ルーム(クラス<10)において一貫して行った。デ ジタルな層数計測をナノスケールで行うことを可能 にする低速電子顕微鏡(LEEM)による評価から、

スーパークリーンルームの清浄な雰囲気を用いれば、

通常に比して同一層数のグレインサイズが二桁向上

(>50m)することが明らかとなった。

さらには、グラフェンの積層及びバンド構造がグ レインサイズの向上とともに大きく変化することが 明らかとなった。C終端SiC表面上では、従来は、

グラフェンはBernal積層しないことから層間相互 作用が無い為に、バンドが(エネルギー方向に)分 裂せずに、直線的なバンド構造が保たれるとされて きた。しかし、品質が向上した我々のグラフェン試

料では、Bernal積層するようになり、バンドが分裂

するようになることが明らかにされた。

(意義)上記のように、クリーンルームで作製する ことにより、グラフェン品質の大幅な向上に成功し た。更なるプロセスの清浄化により、グラフェンの 完全単結晶薄膜に向けて研究を続けているところで ある。

図1 エピグラフェンの高品質化

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[4]研究成果

A. 基板微細加工によるグラフェンのナノ物性制御 申請者は、以前に下記のような研究成果を独自に 得ていた(J. Mater. Chem. & APEX (2011));

・SiC(100)/Si(100)基板上に成長させたグラフェ ンの多層膜はBernal積層せず、単層グラフェ ンと同様の直線的なバンド構造を有する。

・それに対して、SiC(111)/Si(111)基板上に成長さ せたグラフェンのベタ膜はBernal積層し、バ ンドが非直線的になり、バンドギャップが開く。

本研究では、この研究成果と基板微細加工技術を 組合せることにより、ナノスケールのグラフェン の構造及び物性の制御を狙った。

図2に研究成果の概略を示す。微視的にSi(111) 面とSi(100)が露出したSi(100)基板上に、SiC薄 膜を形成し、更に超高真空下で加熱することによ りグラフェンを作製した。その積層構造と物性は 下記のようになった(Sci. Rep. (2014));

・SiC(100)/Si(100)上⇒非Bernal積層

⇒直線的なバンド構造 バンドギャップ→0

・SiC(111)/Si(111)上 ⇒ Bernal積層

⇒非直線的なバンド バンドギャップ≠0

以上のようにして、基板微細加工援用によりバン ド分散がナノスケール制御されたグラフェン(3D- GOS)の作製に世界に先駆けて成功した。この 3D-GOSにおいて、(100)面上の直線的なバンド分 散が保持されたグラフェンは光デバイス応用に適 しており、一方、(111)面上のバンドギャップが開 いたグラフェンは電子デバイス応用に適している。

ゆえに、3D-GOS を用いて、グラフェン・ベース

の電子・光集積回路を作製することが原理的には可 能である。

しかし、3D-GOS を用いたデバイス応用に向け

ては幾つかの壁がある;

・グラフェンの更なる高品質化

・グラフェン成長用基板の自由度

・ベタ膜の品質とデバイス特性の間のギャップ 以上三つの問題点を克服するために、下記三つの研 究をサポート研究として追加で行った。

B-1. グラフェンの超高品質化

3D-GOSのグラフェン膜質は低いことがRaman 分光測定から明らかとなっており、キャリア移動度 劣化の一因となっている。この低品質性の原因とし ては、「成膜プロセスにおける不純物の混入」及び

「SiC結晶欠陥」が挙げられる。本研究では、モデ ル基板としてSiCバルク基板を用いて、上記二点に 対する二つの解決策の有効性を検証した。

①クリーンルームの利用による超高品質化 SiC基板の前洗浄、及び、グラフェン成長は、通研 のナノスピン実験施設のスーパークリーンルーム

(クラス<10)において一貫して行った。デジタル な層数計測をナノスケールで行うことを可能にする 低速電子顕微鏡(LEEM)による評価から、スーパ ークリーンルームの清浄な雰囲気を用いれば、通常 に比して同一層数のグレインサイズが二桁向上

(>50m)することが明らかとなった(図3)。

②ホモエピ膜の利用によるグラフェンの高品質化

①において高品質化されたグラフェンにおいても、

層数分布が完全には解消されてはいない。その理由 として考えられるのが、SiC中の結晶欠陥である。

ゆえに、SiC膜をホモエピ成長させたSiC基板上 でのグラフェン化に着手した。このホモエピSiC基 板では、表面欠陥密度が0.5個/cm2と大幅に低減さ れている。この基板をスーパークリーンルーム内に てグラフェン化することにより、グラフェンの完全 単結晶を作製しようとしているところである。

B-2. 基板自由度の向上

これまで、基板としてSiを用い、その表面に直接成 長させたSiC薄膜表面上でグラフェンを成長させる 研究を行ってきた。この方法の問題点は、SiとSiC の大きな格子不整合差に起因してSiC薄膜中に沢山 の欠陥が生じることであった。この大きなSiC薄膜 中の欠陥密度はグラフェンの高品質化を妨げていた。

この課題の解決の為に、上述のSiC薄膜に比して 結晶欠陥密度が非常に低いSiCバルク基板からデバ イス用基板(poly-SiC、 Si、サファイア等)へ転写・

図2 グラフェンのバンド分散のナノ制御

図3 グラフェンの超高品質化