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特許権の効力 第1款 意義

第4章  わが国における特許発明の保護法理

第2節  特許権の効力 第1款 意義

 特許権は、産業上利用することができる新規で進歩性のある発明(特29条)を最も 早く(特39条)開示して特許を請求した者に対し、発明公開の代償として付与された 権利であり、特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する(特68条本 文)。ここで特許発明の「実施をする権利を専有する」とは、特許権者が特許発明を独 占的に実施する効力、すなわち、積極的効力を有すると共に、特許の共有権(特73条)、

専用実施権(特77条)、許諾による通常実施権(特78条)、法定通常実施権(特79 条乃至82条)、裁定による通常実施権(特83、92、93条)等の正当な権原を有する 者、又は実施権者の機関としての行為等の正当な事由を有する者を除き、第三者が当 該特許権者に無断で業としてその特許発明を実施することを排除する効力、すなわち、

消極的効力を有することを明確にしたものである。規定中の「特許発明」とは、特許 を受けている発明(特2条2項)をいい、特許権の効力が及ぶべき客体を意味してい る。また、「実施」については、物の発明と方法の発明に大別し、更に、方法の発明に ついては、物を生産(製造)する方法の発明と、それ以外の方法(例えば、測定方法、

通信方法等)とに分けて定義している(特2条3項各号)。

 本条において、「物」の概念には「プログラム」等を含むもの(特2条3項1号)と して定義されている。これは、近年のビジネス関連発明を意識して、平成14年に改正 導入されたものである。以下の説明において、「物」とは前記「プログラム等」を含む 意味において使用している。

第2款 特許発明の内容  第1項 特許発明とは

 特許法2条2項において、特許発明とは、「特許を受けている発明」をいうと定義さ れている。特許発明の構成は、原則として、複数の技術的要素、すなわち、構成要件

の有機的結合から成り立っている。そして、特許発明は、特許法により一体として保 護されるものであり、たとえ、その構成要件の中に特許出願したならば、特許される 可能性のあるような発明を含んでいても、保護されるものは一体としての発明であっ て、個々の構成要件ではない。

 一方特許法36条5項前段において、クレームには、請求項に区分して、各請求項ご とに「特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項の すべて」を記載しなければならないと規定されている。すなわち、クレームの記載は、

特許権の客体たる特許発明の範囲、換言すれば前記構成要件の有機的結合がこれによ って画定されるという点において重要な意義を有するものであり、一の請求項からは、

必ず特許を受けようとする「発明」が明確に把握されることが必要である(特36条6 項2号)。平成6年の特許法一部改正前においては、こうした機能は、「発明の構成に 欠くことができない事項のみ」を記載させることにより担保していたものであるが、

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前記5項前段に加え、6項に2号及び3号の規定を設けることにより引き続き同様の

担保をし、併せて国際調和を図ることにしたものである1)。

 第2項 特許発明の確定

 前記「特許発明」としての発明成立性の要件、すなわち、物的範囲は、全て特許庁 における審査(特許付与処分)によって確定されており (特47条以下)、侵害訴訟に おいて、基本的には裁判所の審理において特許発明を構成する必須要件そのものにつ いての取捨選択は及ばない、ということになる2)。結局、侵害訴訟におけるクレームの 問題は、「請求項」記載の発明が明細書記載の発明に裏付けられ、正確に記載されてい

るかどうかを前提にしているものであると解される(特36条6項1号)。

 したがって、「特許発明」とは、クレームに記載された発明であると解釈すべきであ って、クレームに記載された請求項ごとに特定された発明の構成要件の合理的な「文 理解釈」によって画定される特許発明の技術的範囲に、均等論の適用によって解釈拡 張される技術又は技術的領域が含まれると解することはできないというべきであろ

う。

 しかし、特許出願された請求項に係る発明を特許法29条各号所定の発明と対比した 場合、両者間に構成上の相違点があっても、それが課題解決のための具体的手段にお ける微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏する ものでないもの。設計上の微差ともいう)である場合については、実質的同一として 判断され、クレームに包含される発明として特許されることになっている3)。

 すなわち、特許発明には、特許庁の審査における合理的な文理解釈を経て認定され た実質的同一の範囲に属する発明が含まれるものとして解釈されるものである。した がって、前記実質的同一の範囲に属する発明については、特許発明の技術的範囲に属 するものとして権利主張をすることができるものであると解釈することができる。

 なお、この点に関連し、平成10年最高裁判決は、「特許発明の特許出願時において 公知であった技術及び当業者がこれから右出願時に容易に推考することができた技術 については、そもそも何人も特許を受けることができなかったものであるから(特許 法第29条参照)、特許発明の技術的範囲に属するものということができない」と判示 しており、本来万民が使用し得る共有財産でもある公知技術にっいて均等論を適用し、

特許発明の技術的範囲を解釈して保護範囲を拡大し、権利主張(排他的効力)を認め

1)特許庁編『工業所有権法逐条解説』 〔第16版〕115頁。

2)東京地判昭和51年5月26日(昭和44年(ワ)12615号「アクリルアミド事件」)取消集昭和51  年度版319頁は、特許法36条5項の必須要件事項をそのまま侵害訴訟における必須要件としてみるべ  き旨を判示している。これは、特許庁の審査において予め保護範囲が確定されている、とするもので  あるが、特許権の専用権の範囲内における反射効としての意味合いにおいては妥当するもののである  が、元来裁判所において、特許権の保護範囲として認定すべき部分についての判断としては、特許法  の理論の上から疑問なしとしない。

3)特許庁編『改定審査基準(平成5年6月)』請求項に係る発明が引用発明と同一か否かの判断につい  て。参考審判決:昭58年(行ケ)95号、昭60年(行ケ)43号、昭61年(行ケ)176号等。

ることはできないとしている。ただ,ここでいう「公知であった技術」については、

前記実質的同一の範囲に属する発明を含ましめる意味はないと解すべきであろう。

 第3項 特許発明の実施

 特許法2条3項には、特許発明の実施行為を、「物の発明」と「方法の発明」に分け、

次のような行為を包含するものとして規定されている。

(1)物の発明の実施

 物の発明の実施には次のような多くの行為がある(特2条3項1号)

①その物を生産(製造)する行為

②その物を使用する行為

③その物を譲渡(譲渡又は貸渡しをいい、その物がプログラムである場合には、電  気通信回線を通じた提供を含む)する行為

④その物を輸入する行為

⑤譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む)をする行為

(2)方法の発明の実施

 方法には、「単純方法」と「物を生産する方法」の二つがある。

①その方法の使用をする行為(特2条3項2号)

②物を生産する方法(特2条3項3号)

  その方法の使用をする行為の他に、その方法によって生産した物(生産物)を使  用し、譲渡し、若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為

 なお、「譲渡等の申出」に関する規定は、TRIPS協定28条により、特許に与えられ る排他的権利としての販売の申出が規定されたことを受けて平成6年の一部改正によ

り追加されたものである。

 「実施」行為で特に問題になるのは、前記各行為について、特許権の効力上、各行 為がそれぞれ独立のものとして解釈され、一つの行為が適法であるからといって、他 の行為が適法になるとは限らないことである。通常「実施行為独立の原則」と称する。

ただ、特許に係る製品を適法に入手した後において、自らが使用したり、転売したと しても、その行為が「実施」行為として特許権を侵害することにはならないとされて いる。この点にっいての法律上の説明として、「所有権移転説1他人が適法に特許品の 所有権を取得した以上、特許権者の権利範囲から離脱したものであるとする説」、「黙 示実施権許諾説:特許権者は特許品を売るときに買主に黙示の実施許諾を与えたもの

(implied license)であるとする説」、「用尽説(消耗理論):販売が正当に行われた後 は、特許権は用い尽くされたものとなり、もはや同一物につき再び特許権を主張する ことができないとする説」等がある4)。用尽説は、ベルリン大学教授であったコーラ ー(1849−1919)の唱道後広く支持され、現在では、国際的にも通説になっている。用 尽説において問題になるのは、「国際的用尽説(worldwide exhaustion)」である。国

4)吉藤幸朔(熊谷健一補訂) 『特許法概説』 〔第13版〕431頁。

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