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物流コスト管理の基礎となる管理会計の発展

第1節 問題の所在

物流は製造や販売とともに管理会計の対象として定着している。これまで企業活動とし ての物流は前章において検討したように、企業環境の変化に応じて発展してきた。管理対 象として高度化する一方で、主要な管理手法である管理会計の進化によっても一定の影響 を受けるなど、企業の物流活動と管理会計は相互に影響を及ぼしてきたことも考えられる。

しかしながら、物流と管理会計は個別の検討対象とされても、相互の関連性については十 分な検討が行われていない。以下ではこのような関連性も考慮しながら、物流コスト管理 の基礎となる管理会計の発展を整理する。

物流は、輸送、保管、および包装などの関連機能を包括する概念として知られている。

物流概念が提唱される以前では、各機能や関連費目が個別に管理対象であったと想定され る。特に物流の主要機能であり、相対的に金額も大きい輸送に注目が集まったものと考え られる。経済成長や企業発展を背景に企業活動が拡大すれば、生産量や販売量の増加によ り輸送量は確実に増加し、製造原価や販売費とともに輸送費も上昇する。さらに、輸送量 の増加に伴い輸送費とともに、保管費や包装費などが上昇して物流関連コストが全体とし て増加したものと考えられる。物流や物流コストという概念の認識がない状況では、これ らは最終的に当時の上位概念である製造原価や販売費の一部として計上されるため、輸送 量の増加は各項目の増加原因の一部とみなされていた。たしかに、物流関連活動は製造原 価や販売費の増加原因であるが、物流関連費を個別に見れば金額の重要性が低いため、算 定の必要性が認識されなかった状況が考えられる。

その後に物流概念が提唱されると、物流コスト概念も確立されるに至った。個別の物流 関連費では重要性が低い場合でもこれらを合計すれば相当な金額となろう。各企業では関 連機能を統合するか、関連付けて把握することを試みるとともに、大手企業を中心に輸送 部門を改組するか、製造部門や販売部門から独立させて物流部門を新たに設置するに至っ た。物流部門やその管理者は予算などを通じて業績評価の対象となり、個別の活動ととも に部門全体が管理対象とされた。物流は、関連機能を包括した概念であるため、物流部門 と言えば、従来の輸送部門などよりも複数機能間にわたる業務を行うことが想定される。

だが、実際には各機能をすべて自社で実施することは稀で、その必要性も低い。業務の一

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部を物流事業者に委託した方が効率的な場合もあるため、各機能について自家物流と委託 物流の選択に関する意思決定が必要となり、その後の状況を踏まえて両者の構成比に対す る見直しが定期的に行われたであろう。定期的な物流コストの算定に加えて、特定の意思 決定に関連したコスト情報が必要とされる。つまり、輸送、保管および包装などの関連費 目の包括的な算定に加えて、自家物流費と委託物流費に区分した上での算定が物流コスト 管理の特徴と言える。

さらに、1990年代以降からは経済環境の変化により、物流に限らず企業活動全体につい て、中核業務以外は原則として外部委託が一般的な状況となった(1)。物流を中核業務とみ なす企業は現時点では少数にとどまることに加えて、物流分野の規制緩和が行われ、物流 事業者のサービス内容や実施水準も向上したため、製造や販売よりも物流では相対的に委 託を中心とする傾向が見られる(2)。これに伴い物流部門の役割も物流実施を中心とするも のから物流事業者の選定や交渉などの物流管理を中心とするものへと移行した。このため、

サービス利用を主な対象とする物流コスト管理と活動実施を主な対象とする製造コストや 販売コストでは同じコスト管理であっても性格が異なる。

物流関連コストはその一部が損益計算書上の販売費および一般管理費に計上されてきた が、実態を示すものではなく、管理目的には十分でなかった。アメリカでは管理会計の一 環としての営業費会計が 1950 年代に注目され、物流関連コストもその一部として関心が 持たれ、新たな視点から算定が試みられた。その後、日本では物流コストの上昇という事 態を踏まえて、営業費のなかから物流コストを単独に集計して管理対象とする物流会計や 物流原価計算が 1970 年代に考案された。高度経済成長に伴う物流量の急増により物流コ ストが上昇し、物流事業者と荷主企業の双方において対応が困難な状況であった。製品の 製造および販売には物流を要するため、物流コストの上昇は製品価格の全般的な上昇とな り、物価上昇原因とみなされ、社会的な関心が持たれたことでも物流会計が必要とされた。

物流効率化を実現して物流コストが削減されれば、物価上昇の抑制に貢献するとともに、

公害防止や交通渋滞緩和などの社会的コストの削減につながることも期待された。その後、

物流の高度化と管理手法の発展という状況から物流会計は物流管理会計として確立して現 在に至っている。

また、原価管理と言えば、製造が主要な企業職能であったため、かつては製造原価管理 を意味していた。その後、企業活動の高度化や複雑化により非製造原価の割合が増加して、

管理対象として注目されている。物流コストに加えて、企業活動の高度化に伴い研究開発

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費や広告宣伝費などの費目も個別に算定して管理対象とする必要性が認識された。このう ち、物流ではその社会的性格が特に考慮されたため、1970年代より関係省庁から物流コス ト算定のためのガイドラインが何度か公表され、企業への普及が試みられている。その結 果として、大手荷主企業を中心としているが、管理目的のための共通の算定方法が認識さ れ、一定程度まで普及して現在に至っている。外部報告目的ならともかく、特定の費目を 経営管理目的から共通の手法によって算定するという状況は、現在に至るまで環境コスト などを除けば実施されていないものと考えられる(3)

その後、企業環境の変化を踏まえて、戦略の策定や実施における管理会計の役割への関 心が高まり、長期的な視点から企業環境の変化に対応を試みる戦略管理会計が 1980 年代 頃から提唱され現在に至っている。従来の管理会計においても長期経営計画や設備投資の 経済性計算において長期的な視点は採用されていたが、当時の管理会計では短期利益計画 や予算管理などの年次別の管理手法が重視され、全体から見れば長期的な視点は部分的な ものにとどまっていた。このような状況を改善するために、戦略管理会計では長期的な視 点や企業環境という要因を積極的に導入して、戦略の策定や実施に必要な管理会計情報を 重視している。

これまでの経営学における戦略に関する文献等からも明らかなように、戦略には実施レ ベルや対象に応じてさまざまなものが提唱され、基本的な考え方、適用範囲、および管理 手法には相違が見られる。戦略において物流を考慮する場合には独立した機能戦略として 物流戦略を策定するのか、または機能戦略の一つである製造戦略や販売戦略の一部として 関心が持たれている。物流は独立した企業職能という見方がある一方で、生産や販売の補 助職能という見方も強く、物流戦略を単独に管理対象とするよりも生産や販売などの各戦 略において考慮すべき要因の一つとして位置付けられることも多い。

1980年代頃には物流分野では物流からロジスティクスへの発展が注目されている。両者 の関係を巡っては議論があり、現在に至っても確定的な見解は示されていない。しかしな がら、物流は輸送や保管といった関連機能を包括した概念であるのに対して、ロジスティ クスでは物流と生産や販売との関連性を重視する、または生産や販売を含むより包括的な 上位概念という理解がある。かつてロジスティクスが提唱された頃には「戦略物流」とい う訳語があてられたことからも明らかなように、物流に長期的な視点からの戦略性を付与 する点では共通の理解が持たれていた。当時、物流に限らず、経営分野全体にわたり戦略 性が特に重視されていたこともあり、これまでロジスティクスと戦略管理会計の関連性に

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