第1節 分析のフレームワークに関する先行研究
1970年代の日本で考案された物流コスト管理は、その後、物流管理、管理会計、および
環境マネジメントにおける理論と実務の影響を受けて発展し、現在に至っている。考案当 時の物流コスト管理では、物流管理と管理会計の両分野から大きな影響を受けていた。物 流管理では、当初からコスト管理が一定の地位を占めている。管理会計では、物流コスト が営業費の一部として関心が持たれた後、経済成長や企業発展に伴う上昇により、独立し た管理対象として注目された。両分野はその後も発展を続け、一方における他方の位置付 けや重点は異なるものの、領域の拡張や新手法の導入が試みられ、物流コスト管理は高度 化してきた。
これに対して環境マネジメントの発展は1990年代から生じたため、上記の2分野に比 べると新しいものと言える。たしかに物流分野では車両の排気ガス抑制など公害対策が以 前から実施されてきたが、規制遵守が主目的なため、追加コストが発生してもやむを得な いものとして物流コスト管理上では十分な関心を持たれていない。環境マネジメントの対 象としての物流が注目されたのは、上述した環境経営などの自主的な取組みが実施される 1990年代以降である。一般的に環境マネジメントは、通常のマネジメントが十分に機能し て企業活動が効率的に行われているという前提で実施される。企業活動が非効率な状況で 環境の取組みを実施しても十分な効果が期待できない。物流を対象とする環境マネジメン トでは物流管理と管理会計の効率的な実施が前提と言える。
この点については、企業の環境戦略に関する議論が参考となる。環境戦略は環境問題に 対する関心の高まりから経営戦略の一環として発展してきた。環境の取組みでは規制遵守 を目的に着手するが、先進企業では規制を超えた自主基準の設定へと取組みを高度化させ た。規制遵守では一般にコストを要する。規制遵守の追加分である自主基準ではコスト増 は極力回避され、環境の取組みや取組みの原因となる企業活動自体を効率化してコスト削 減が試みられてきた。つまり、環境の取組みは通常の企業活動に追加して行うものから企 業活動と一体化させて効率的に行うものへと発展している。環境負荷削減とともに、追加 コストの発生を抑制するためには一体化は必然的である。
これまで各種の環境戦略が主張されてきたが、鶴田(2001)では、①ISO14000シリーズ
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に関連して総合的品質管理の考え方に基づいて実施する環境戦略、②環境パフォーマンス の改善と消費者への情報開示を重視するグリーン戦略、および③環境保全への積極的で価 値的な対応を目的とするプロアクティブ環境戦略に整理して、特徴を明らかにしている。
①では、環境の取組みの初期に見られるものであり、個別企業内部における資源面での 最適化を目指している。現在の企業活動を原因とする環境への影響を主な対象とするが、
企業外部の視点や将来の視点が十分とは言えない。②では、個別企業の枠を超えた広範囲 なものを対象とする特徴がある反面、環境面のみを対象とするため、本来の企業活動との 関連性を明確にする必要がある。さらに、③では、環境面と経済面を同時に考慮するため、
以下の利点がある。つまり、(a)政府規制よりも厳しい自主基準を設定することで、将来の 規制強化に対応するためのコストが削減可能である。(b)コスト削減のための意識が向上し て、削減の可能性が高まる。(c)消費者の不買行動、訴訟問題のような潜在リスクを回避・
低減する。(d)新しい事業機会が獲得できる。他方で実施に必要な組織上の能力が明らかで ないなどの課題も指摘している。
このように環境戦略には種類が指摘されているが、米国管理会計人協会(Institute of Management Accountants)(以下、IMAと略称)(1995)、Hart(1997)、およびPiasecki他
(1999)でも段階的な実施に関する見解が示された(1)。以下ではコスト管理との関連性が高
いIMA(1995)と環境戦略のフレームワークを示したHart(1997)を検討する。
まず、IMAでは、カナダ管理会計人協会と共同研究プロジェクトを行い、報告書「企業 環境戦略の実施」を公表した(2)。管理会計の視点から環境戦略に検討を加えたものである。
同報告書では、環境戦略について「環境上の関心を企業の全階層における意思決定に統合 するもの」と規定して以下の目的を示している(1995,p.3)。
① 地球環境問題を早期に認識して企業の経営計画を修正する。
② ステークホールダの満足と信頼を向上させる。
③ 長期的な収益性を改善する。
④ 製品、包装、および工程の設計を改善し、環境への影響を最小化することで競争優 位を追求する。
⑤ エコロジカルな挑戦に対する順応的で創造的なアプローチを全社的に採用する。
⑥ 環境配慮型技術の採用によりエネルギーや資源を保全してコストを削減する。
⑦ 製品の環境負荷削減、規制の強化、環境志向を強化した消費者に適切に対応する。
⑧ 環境規制を遵守して日常的な注意を怠らない。
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環境戦略では環境目標と企業目標を関連付けて最終的な統合が目標であるが、それ以前 には多様な目標を有する諸活動を必要とする。これらに関連して企業の管理会計担当者に は環境コストの算定および管理を中心に貢献が期待されるが、IMAでは、環境戦略を以下 の3段階に区分して論じている(1995,pp.5-6)。
① 環境規制遵守のための管理 ② 競争優位の達成 ③ 環境統合の完了
①では、まず環境問題が企業経営に及ぼす財務的な影響を明らかにする。現在の企業活 動を原因として発生が予想される訴訟や浄化義務など環境上のリスクを認識してから、全 社的な環境方針を明らかにする。環境問題に対処するために環境マネジメントシステムを 構築するとともに、環境監査プログラムを作成して実施する。
②では、環境規制を遵守する段階から資源の効率的な活用を通じて競争優位が獲得でき るという段階に至る。コスト削減は製造段階にとどまらず、製品ライフサイクル全体や設 計段階を考慮して実施する。さらに、ステークホールダに対する環境報告を戦略的に実施 する。
③では、業績評価システムにおいて環境項目を設定し、企業経営において環境配慮を徹 底する。環境効率的な製品を積極的に開発して、環境的に持続可能でないと長期的な企業 成長も困難という認識に至る。
このようにIMAでは企業経営において環境配慮に着手してから徐々に取組みを高度化 させる各段階を環境戦略上の相違として示している。①では、規制遵守を徹底する段階が 完了すれば、同じ取組みを効率的に実施する段階へと移行する。規制遵守のための実施方 法が詳細に規定されている場合はともかく、取組みの成果が同じであれば、低コストで実 施する方が合理的である。環境配慮をさらに徹底すれば、長期的な視点から①では十分で ないという認識に至る。②では、環境配慮のみを重視するのではなく、環境配慮を通じた 競争優位の獲得が目的とされる。効率化によるコスト削減のみでなく、取組みが評価され た結果としての増収も考えられる。その後に③に至ることが想定されるが、環境配慮のた めに実行可能な手段は基本的にすべて講じるというものであろう。財務パフォーマンスと 環境パフォーマンスの両立可能性や同時達成が主張されてきた。理念的な主張にとどまる ことなく、具体的な手法や枠組みを開発する必要がある。
特に、企業が環境配慮を徹底して成果をあげても、それがステークホールダから評価さ