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表2に炭化水素の化学式,常温での状態を示す.表3に石油製品の成分比率を示す.表4に石 油の元素含有量を示す.

表2. 燃料の化学式と常温における状態

名称 化学式 状態 名称 化学式 状態

メタン CH4 エチレン C2H4

エタン C2H6 プロピレン C3H6

プロパン C3H8 ブテン1 C4H8

ブタン C4H10 1ペンテン C5H10

ペンタン C5H12 1ヘキセン C6H12

ヘキサン C6H14 1ヘプテン C7H14

ヘプタン C7H16 1オクテン C8H16

オクタン C8H18 1ノネン C9H18

ノナン C9H20 デカン C10H22 ウンデカン C11H24

ドデカン C12H26 名称 化学式 状態

テトラデカン C14H30 ベンゼン C6H6

ペンタデカン C15H32 トルエン C7H8 ヘキサデカン C16H34 エチルベンゼン C8H10

オクタデカン C18H38 プ ロ ピ ル ベ ン ゼC9H12 アイコサン C20H42 ブチルベンゼン C10H14

気体

液体

液体 オレフィン系

液化石油ガス

(LPG)

気 体

天然ガス

液 体

灯油 ガソリン

n-パラフィン系 芳香族系

固 体 状

表3. 石油製品の炭化水素成分比率 表4. 石油の元素含有量

文献2. 小川勝,燃料油及び燃焼,海文堂 文献3. 小西誠一,燃料工学概論,裳華房 9.1.2 発熱量

燃料が燃焼する際に発生する熱量を発熱量(calorific value)という.水素の燃焼では燃焼生成

物として H2O(水蒸気)が得られる.水蒸気(気体)は水(液体)より蒸発潜熱(気化熱)に相

当する分だけエンタルピーが大きい.そこで,水の蒸発潜熱分を含まない発熱量を低位発熱量,

含む発熱量を高位発熱量という.燃焼によって発生する熱(燃焼熱 = 発熱量)を動力に変換する 際,排気ガスの温度は 100℃以上であるから,H2O は水蒸気のまま排出され,蒸発潜熱分は利用 されずに捨てられることになる(図3).動力に変換できるのは,低位発熱量の方である.

注意: 高位と低位の区別は水素および水素を含む燃料の場合に問題となるのであり.水素 を含まない場合には関係ない.

元素 文献2 文献3

C 79~88% 82~87%

H 9.5~14% 11.7~14.7%

S 0~4% 0.1~3.0%

O 0~3.3% 0~1.0%

N 0~1.1% 0~1.0%

金属 0~0.1%

ガソリン 灯油 軽油 重油 潤滑 nパラフィン 25%   ←  ←  ←  10%

iso パラフィン 25%   ←  ←  ←  10%

ナフテン 50%   ←  ←  ←  30%

芳香族 無(微少) 少  ←  ←  50%

純粋燃料の発熱量の値は多くの文献に記載されている.ここでは,混合燃料の発熱量の計算方 法を解説する.燃料成分 Aiの体積分率m3/m3を [Ai] ,高位発熱量をHu,Ai,低位発熱量をHl,Ai, とすると,混合燃料の発熱量は次式で計算できる.

高位発熱量 uAi

n

i i

u H

H ,

1

] A

[

=

=

低位発熱量 lAi

n

i i

l H

H ,

1

] A

[

=

=

・計算例,天然ガス(メタン0.900,エタン0.090,プロパン0.010 m3/m3)の高位発熱量および低 位発熱量は次の通り.

高位発熱量Hu =39.72×0.900+69.64×0.090+99.00×0.010=43.0MJ/ m3 低位発熱量Hl =35.79×0.900+63.76×0.090+91.15×0.010=38.9MJ/ m3

9.1.3 反応熱(heat of reaction)・標準生成熱(standard heat of formation) (1) 総括反応式(化学量論式)

燃料が酸素と反応した結果,生成される物質は総括反応式(化学量論式 stoichiometric equation)で表す.この式は反応の始めと終わりの状態を等号で結んだだけで,反応途中の現象 は無視しているが,実際には何十種類もの反応(素反応 elementary reaction)が同時にあるい は連鎖的に発生している.図4に総括反応と素反応の比較を示す.

総括反応の例

反応1 2H2+O2=2H2O 水素の燃焼(酸水素反応)

反応2 C+O2=CO2 炭素の燃焼 反応3 aCmHn+bO2=cCO2+dH2O 炭化水素の燃焼

(2) 素反応

反応前の エンタルピー

反応後(H2+½O2=H2Oのエンタルピーを含む)

混合気のエンタルピー

高位発熱量

時間 低位発熱量

蒸発潜熱 燃焼

排気ガスのエンタルピー 動力に変換

廃熱分(排気)

図3. 混合気のエンタルピー変化

反応前物質

(化学種A, B) 完全燃焼 反応後物質

(化学種C, D)

総括反応式(化学量論式)

反応前物質

(化学種A, B)

素反応1 素反応2 素反応3

:

反応後物質

(化学種A, B,C, D, E,・・・)

図4. 総括反応と素反応

素反応には単分子反応,2分子反応,3分子反応などがある.等号の変わりに矢印を用いて表す.

たとえば,酸水素反応2H2 + O2 = 2H2Oにおける代表的な素反応は次の5種類である.矢印の向き は順反応,矢印の逆の向きは逆反応で,高温状態では順反応と逆反応は同時に存在する.

素反応1 OH + H2 → H2O + H 反応熱ΔH=-63.2J/mol 発熱

素反応2 H + O2 → OH + O 反応熱ΔH=70.7J/mol 吸熱

素反応3 O + H2 → OH + H 反応熱ΔH=8.4J/mol 吸熱

素反応4 H + O2 + M → HO2 + M 反応熱ΔH=-197J/mol 発熱

素反応5 H, O, OH → 安定分子(H2,O2)へ (3) 反応速度

化学反応は瞬間的に生じるのではなく,時間とともに反応物質が生成物質へと変化していく.

反応の速さは反応物質の組合せや反応場の温度によって異なる.生成物のモル濃度の変化率を反 応速度(reaction velocity)という.反応速度は以下のように定義される.

単分子反応 A → B (例H2O2→2OH)

2分子反応 A + B → C +・・・ (例OH + H2 → H2O + H)

3分子反応 A + B + C → D +・・・

これら3種類の素反応において,反応速度[mol/(m3s)]は,kを反応速度定数(単位は素反応の種類 によって異なる),[A]は化学種Aのモル濃度[mol/m3]とすると,次式となる.

単分子反応 [B] [A] k1

dt

d = k1 [1/s]

2分子反応 [C] [A][B] k2

dt

d = k2 [m3/(mol s)]

3分子反応 [D] [A][B][C] k3

dt

d = k3 [m6/(mol2 s)]

(4) アレニウスの反応速度式

反応速度は温度のみに依存し,次式で表される.これをアレニウスの反応速度式という.



 

−

= RT

fT E k nexp

f:頻度因子,E:活性化エネルギー,R:一般ガス定数=8.314J/(molK),T:絶対温度[K]

n:定数(-2から2の範囲)

活性化エネルギー(activation energy)とは,反応が完結するのに必要なエネルギーであり,図 5 の反応プロセスに示すように反応前のポテンシャルエネルギーとの差となる.(エンタルピー とは異なる)

反応前のエネルギー=反応後のエネルギー―生成熱

図5. 反応プロセスにおけるポテンシャルエネルギーの変化

(図3のエンタルピー変化とは異なる)

一般に反応熱を

Hとして,酸水素反応の反応式であれば

H

=

+(1/2)O (g) H O( ) (g)

H2 2 2

反応前

ポテンシャルエネルギー 反応後

時間 反応前

ΔH<0 発熱 活性化エネルギー

活性化エネルギー

時間

ポテンシャルエネルギー

ΔH>0 吸熱 反応後

と表す決まりがある.このように,反応熱を記入した化学反応式は熱化学方程式(thermochemical equation)という.また,A+B→Cの反応において,熱化学方程式はA+B=C−∆Hと表わされ る.

この場合,反応熱は 286.03

=

∆H kJ/mol

となる.発熱反応(燃焼)では,反応熱

H < 0

,吸熱反応では,反応熱

H > 0

となる.図5で 発熱しているにもかかわらず反応前より反応後の方が,エネルギレベルが下がることは一見不思 議に思えるが,これは熱化学反応式を考えれば容易に理解できる.たとえば,酸水素反応の反応 式を書くと

(

286.03

)

H O() 286.03 )

O(

H (g) (1/2)O (g)

H2 + 2 = 2 l − − = 2 l +

は,25℃,1atmで1molのH2(g)が1/2molのO2(g)と燃焼して,1molのH2O(l)を生成したとき,286.03kJ の熱量が発生することを示すが,25℃におけるH2と O2のポテンシャルエネルギーは,25℃にお

けるH2O(l)のポテンシャルエネルギーより286.03kJ多い(発熱するだけのエネルギーを持ってい

る)という意味でもある.反応プロセス図は反応前と反応後の物質の同温度・同圧力でのポテン シャルエネルギーのレベルを表すため,発熱反応の場合,反応後は反応前よりレベルが低くなる.

(5) 石油の基本反応

① 主要元素の熱化学方程式

石油中には各種の炭化水素や硫黄,窒素などが含まれるが,燃焼によって生じる高温雰囲気下 で種々の物質に分解され,さらに酸素との反応が起こる.燃焼反応の基本となる元素はC,H,S であり,それらの素反応は石油の燃焼における基本反応となる.反応生成熱(反応熱)は発熱量

(燃焼熱)とも呼ばれる.

C + O2 = CO2 + 407 kJ/mol 発熱反応 C + ½O2 = CO + 123 kJ/mol 発熱反応 CO + ½O2 = CO2 + 284 kJ/mol 発熱反応 H2 + ½O2 = H2O + 286 kJ/mol 発熱反応 S + O2 = SO2 + 297 kJ/mol 発熱反応

② 炭化水素燃料の燃焼反応

酸素との反応: H O

CO 2 4 O

H

C 2 2 n 2

n m

n m

m  → +

 

 +

+ 発熱反応

空気との反応: 2 2 N2

4 21 O 79 2H 4 CO

21 H 100

C 

 

 + +

+

 →

 

 +

+ n

n m m

n Air

n m

m 発熱反応

ただし, 2 O2 100 N 21 100

79 +

Air= とする

例,プロパンと酸素との反応

O 2H CO 8 3 4 O

3 8 H

C3 822+ 2

 

 + + すなわち

O H 4 CO 3 O 5 H

C3 8+ 22+ 2

③ 熱解離反応

1400℃以上の雰囲気下では燃焼反応と熱解離(thermal dissociation)反応が同時に起きる.燃 焼反応と熱解離反応の比率は雰囲気の温度で異なり,高温になるほど熱解離反応の割合が増加す る.熱解離反応は吸熱反応であるため,場の温度を下げる働きがある.

熱解離反応: 2→ + O2− 2 CO 1

CO 282940kJ (67580kcal) 吸熱反応

熱解離反応: 22+ O2− 2 H 1 O

H 241990kJ (57750kcal) 吸熱反応

(6) 標準生成熱

反応前後の状態を1,2とすれば,熱力学第1法則から dL

dU dQ= + 積分すれば

L U U

Q= 21+

この場合,Q は反応によって生じる反応熱であり,L は反応に伴う体積変化(膨張または収縮)

によって発生する仕事(正もしくは負)となる.

等圧燃焼(等圧変化)の場合,仕事は

(

2 1

)

0V V

p

L= −

また,熱力学の第1基礎式から,H =U +PV だから,

(

)

= + −

(

+

)

= − =∆ °

+

=U2 U1 p0 V2 V1 U2 p0V2 U1 p0V1 H2 H1 H298 Q

°

H298 を298.15Kにおける標準反応熱(standard heat of reaction)という.

p0=0.1013MPa,298.15Kにおける標準反応熱は標準生成熱(standard heat of formation)といい,

°298

Hf で表す.

注意:N2,O2,H2などの標準物質の標準生成熱は0である.

(7) ヘスの法則

化学反応によって生成される熱は,反応経路に関係なく,反応前後における物質の標準生成熱 の差によって決定される.これをヘスの法則(Hess's law)という.反応後をp,反応前をrで表す と

生成熱 反応後

反応前

f r f p

f p

f r H H H H H

H °298 =∆ °298 −∆ 298° ∴∆ 298°=∆ °298 −∆ °298

種々の物質の標準生成熱が,化学系の便覧に記載されているので,反応に関与する物質が自明の 場合は,標準反応熱の計算が可能となる.

例1.標準物質 H2 →H2

反応前∆Hf°298

( )

H2 r =0,反応後∆Hf°298

( )

H2 p =0より,生成熱の式は

( )

=∆ °

( )

−∆ °

°

Hf 298 H2 r Hf 298 H2 p H298 よって,標準反応熱は

( )

H2 298

( )

H2 0 0 0

298

298°=∆ ° −∆ ° = − =

H Hf p Hf r

例2.酸水素反応 O H O(g) 2

H2 +1 22

反応前∆Hf°298

( )

H2 r =0,Hf°298

( )

O2 r =0,反応後∆Hf°298

(

H2O

)

p =−241.99kJ/mol より,

生成熱の式は

( )

+ ∆ °

( )

=∆ °

( )

−∆ °

°

298 2 298 O2 298 H2O 298

2

H 1 H H H

Hf r f r f p kJ/mol

よって,標準反応熱は

( ) ( ) ( )

O 241.99

2 H 1 O

H2 298 2 298 2

298

298 =−





∆ ° + ∆ °

°

=

°

H Hf p Hf r Hf r kJ/mol

298°<0

∆H なので,発熱反応となる.

9.2 燃焼に必要な空気量と燃焼ガス量

9.2.1 理論酸素量と理論空気量

(1) 理論酸素量(化学量論酸素量)Ost

理論酸素量(theoretical amount of oxygen)とは1kgの燃料が完全燃 焼するのに必要な酸素量のことである.通常の燃料に含まれる元素はC

(炭素:原子量12.01),H(水素:1.01),S(硫黄:32.06),O(酸

2

2 CO

O

C+ =

O H 2 1 O 4 1

H+ 2 = 2

2

2 SO

O

S+ =

0 O 2 1

O− 2 =

0 N 2 1

N− 2 =

図6 元素の反応

素:16.00),N(窒素:14.01),灰分であり,各元素の反応式は図6となる.燃料1kg中の質量 分率[kg/kg]をそれぞれc,h,s,o,n,aとすると,たとえばCの係数は質量に対して

664 . 2 01 . 12 / 2 00 .

16 × = ,体積に対して,2.664×103/32×22.41×103 =1.866であるから,理論酸素 量は次の通りとなる.

質量に対して,Ost,m=2.664c+7.921h+0.9981so [kg/kg]

体積に対して,

o s

h c

o s

h Ostv c

7003 . 0 6990 . 0 547 . 5 866 . 1

2 16 06 . 32 4 01 . 1 01 . 41 12 .

, 22

− +

+

=



 

− ×

× + +

×

= [m3/kg,標準状態]

・質量分率の計算例

① 水素ガスH2h=1, c=s=o=n=a=0

② 炭化水素CmHnc=12.01m/

(

12.01m+1.01n

)

, h=1−c, s=o=n=a=0

・理論酸素量の計算例

ベンゼンC6H6 c=0.9224, h=0.0776, s=o=n=a=0 072 . 3 0776 . 0 921 . 7 9224 . 0 664 .

,m=2 × + × =

Ost kg/kg

(2) 理論空気量(化学量論空気量)Ast

理論空気量(theoretical amount of air)とは1kgの燃料が完全燃焼するのに必要な空気量のこ とである.標準乾き空気中の酸素の割合を質量分率0.2320kg/kg,体積分率を0.2099m3/m3とする と,

質量に対して,Ast,m =Ost,m/0.2320=11.48c+34.14h+4.302s−4.310o [kg/kg]

体積に対して,Ast,v =Ost,v/0.2099=8.890c+26.43h+3.330s−3.336o [m3/kg,標準状態]

・理論空気量の計算例

ベンゼンC6H6 Ast,m=11.48×0.9224+34.14×0.0776=13.24 kg/kg (3) 混合比

気体燃料と空気の混合比率を表すパラメータには下記のものがある.

① 空燃比,燃空比

空気と燃料の質量比を空燃比(air fuel ratio)と呼び,その逆を燃空比(fuel air ratio)と呼 ぶ.

② 理論空気量,理論混合比

燃料が過不足なく完全燃焼するだけの酸素を含む空気量を理論空気量(theoretical amount of air)という.また,その場合,燃料と空気の混合気を理論混合気stoichiometric mixture(化学 量論混合気 stoichiometric mixture)という.さらに,理論混合気の混合比を理論混合比 theoretical mixture ratio(化 学 量 論 混 合 比 stoichiometric mixture ratio,化 学 量 論 比 stoichiometric ratio)という.ただし,理論混合比だけでは何と何の比率か,定義が不明確に なるため,理論燃空比もしくは理論空燃比の用語を使用することが望ましい.

例 水素ガスH2 の場合,質量分率はh=1, c=s=o=n=a=0,理論空気量は 14

. 34 0 310 . 4 0 302 . 4 1 14 . 34 0 48 .

,m=11 × + × + × − × =

Ast kg/kg

理論空燃比

(

A/F

)

st =Ast,m =34.14

理論燃空比

(

F/A

)

st =1/

(

A/F

)

st =1/34.14=0.02923

③ 当量比,空気過剰率

当量比(equivalent ratio) φは燃料の濃さを表す数値として用いられ,次式で定義される.当 量 比 の 逆 数 は空 気 過 剰 率(excess air ratio) λ と 呼 ば れ る .φ <1

(

λ>1

)

は 希 薄 燃 焼 ,

(

1

)

1 =

= λ

φ は化学量論燃焼,φ>1

(

λ<1

)

は過濃燃焼である.

重量 完全燃焼できる燃料の

料の重量 実際の混合気が含む燃

実際の混合気の空燃比 理論空燃比 理論燃空比

実際の混合気の燃空比

=

= φ=

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