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作製した試料の熱電特性を室温から1000

°C

の間で測定した.Figure 4-3(a)に作製した試 料の電気伝導率の温度依存性を示す.室温から 700

°C

の間では温度の上昇とともに酸化 を12時間行ったSiナノ粒子を用いた試料以外の試料の電気伝導率は減少した.これは金属 や縮退半導体に見られる傾向で,温度の上昇とともにキャリア-フォノン散乱の確率が増加 するために生じる.一方,700

°C

以上では温度とともに電気伝導率は増加した.これは 一般的にはバイポーラ効果38を用いて説明される.バイポーラ効果とは温度の上昇によ りホールが伝導帯に熱励起しキャリア濃度が増加する現象である.しかしバイポーラ効 果はバンドギャップが

0.15 eV

と小さい

Bi

2

Te

3のような材料に見られる現象69であり,

バンドギャップが

1.1 eV

70と大きい

Si

ではバイポーラ効果が生じると考えられない.こ のような高温での電気伝導率の増加は先行研究 44でも見られている現象であり,Si 中 の

P

の固溶度の変化に伴う

P

の移動を用いて説明されている.温度の上昇により

Si

中 の

P

の固溶度が増加し析出していた

P

が可逆的に

Si

結晶内に取り込まれるためにキャ リア濃度および電気伝導率が増加する.

一方,酸化を

12

時間行った

Si

ナノ粒子を用いた試料に関しては

Fig. 4-3(b)に示すよ

うに測定した全温度域で温度の上昇とともに電気伝導率は増加した.これはアモルファ スのように構造が不規則な物質に見られる現象で,ホッピング伝導71と呼ばれる.ホッ ピング伝導は

Fig. 4-4

のように特定の原子の周りにトラップされた電子が熱エネルギー によって局在化された準位間を不連続に移動もしくは伝導帯に移動することによって 伝導する現象で,電子が熱エネルギーにより移動するため温度の増加とともに電気伝導 率は増加する.また,電子が特定の原子にトラップされるため平均自由行程が原子間距

20 40 60 80 100

0 10 20 30 40

Grain size [nm]

L

[W m

−1

K

−1

]

Undoped Si

Highly doped Si

36 離程度と自由電子に比べ短くなり電気伝導率が一般的なバンド伝導に比べ小さいこと も特徴であり,酸化を

12

時間行った

Si

ナノ粒子を用いた試料の電気伝導率も他の試料 に比べ

3

桁以上小さくなっている.酸化時間が長い試料がホッピング伝導を示した理由 は,他の試料に比べアモルファス酸化物相の量が増加しナノ結晶相の幾何学的つながり がなくなったためと考えられる.

電気伝導についてさらに詳しく分析するために酸化を行っていない

Si

ナノ粒子およ び酸化をそれぞれ

2

時間,4時間行ったナノ粒子を用いた試料の室温でのキャリア濃度 nをホール測定により計測し,さらにキャリア移動度

を算出した.各試料およびプラズ マ CVD によって作製した Si ナノ粒子と同じキャリア濃度をもつバルクシリコンの電気伝 導率,キャリア濃度およびキャリア移動度をTable 4-2に示す.キャリア濃度は全ての試料 においてバルクシリコンより80 %以上低下していた.これはEDS成分分析の結果よりナノ 結晶内の粒界面にPが多く存在しており,これらのP は電気的に不活性であるためと考え られる.また,キャリア移動度が低下した主な原因は各試料に対して2つずつ考えられる.

共通した原因として,粒界面にトラップされた P によって作られるポテンシャル障壁によ ってキャリアが粒界面で散乱されることが考えられる.それに加え,酸化を行っていないSi ナノ粒子を用いた試料の場合は,ナノ結晶相内に存在するナノ粒子由来の塩素やそれによ って形成されるダングリングボンドにキャリアがトラップされるためキャリア移動度が低

Fig. 4-3 (a)作製した試料の電気伝導率の温度依存性.

(b)酸化を12時間行ったSiナノ粒子を用いた試料の電気伝導率の温度依存性.

Fig. 4-4 ホッピング伝導の概略図.

0 200 400 600 800 1000 0

0.2 0.4 0.6 0.8 1

 ( × 10

5

−1

m

−1

)

Temperature (

o

C) without oxidation 2−hour oxidation 4−hour oxidation 12−hour oxidation (a)

0 200 400 600 800 1000 0

0.1 0.2 0.3

 ( × 10

3

−1

m

−1

)

Temperature (

o

C)

12−hour oxidation

(b)

37 下していると考えられる.一方,酸化を2時間,4時間行ったSiナノ粒子を用いた試料の 場合は,粒界面でのポテンシャル障壁に加え,ナノ結晶相内に存在する酸素が多い析出体や アモルファス酸化物相の混成によってキャリア移動度が低下していると考えられる.この ような意図しない不純物の混入によるキャリア移動度の大幅な低下は先行研究でも生じて いる.例えば,Claudioら45によって作製された不純物をほとんど含まない試料のキャリア

移動度は61 cm2V-1s-1であるのに対して,Buxら44やSchierningら47によって作製さいれた

10 %以下の少量の不純物が混入した試料のキャリア移動度は15 cm2V-1s-1程度と,少量であ

っても不純物の混入によりキャリア移動度が大幅に低下することが分かる.酸化を2時間,

4 時間行った Si ナノ粒子を用いた試料のキャリア移動度も同様にキャリア移動度がバルク シリコンに比べ低下しているが,その値は最適化されたBuxら44の先行研究の試料のキャ リア移動度と同程度である.このことから,アモルファス酸化物相の割合が30 %程度と大 きいにもかかわらずナノ結晶相の幾何学的につながりにより比較的高いキャリア移動度を 維持できるということが分かった.

Figure 4-5 に作製した試料のゼーベック係数とパワーファクターの温度依存性を示す.

Figure 4-5(a)に示すように測定した全ての温度域において全試料のゼーベック係数は負を示 し,N型半導体であることを示した.また室温から700

°C

の間では温度の上昇とともに全 試料のゼーベック係数の絶対値は増加し,700

°C

以上では減少した.これは前述の電気伝 導率の温度依存性と反対の傾向となっている.また,ゼーベック係数の絶対値に関しては,

酸化を2時間行ったSiナノ粒子を用いた試料に比べ酸化を行っていないおよび酸化を4時 間行ったナノ粒子を用いた試料の方が大きく,これはキャリア濃度の大小関係と反対であ る.Figure 4-5(b)に示すようにパワーファクターは酸化を12時間行ったSiナノ粒子を用い た試料以外は比較的高く,特に酸化を4時間行った試料が最も高くなった.

Table 4-2 作製した試料の室温での電気伝導率,キャリア濃度およびキャリア移動度.

酸化時間 なし 2時間 4時間 ナノ粒子(バルク) 電気伝導率

(×105-1m-1) 0.32 0.79 0.25 2.92

キャリア濃度

(×1020 cm-3) 1.48 2.50 1.20 2.50

キャリア移動度

(cm2V-1s-1) 9.9 19.7 18.5 72.8

38 Figure 4-6(a)に作製した各試料の熱伝導率の温度依存性を示す.全ての試料において室温 での熱伝導率が5-6 Wm-1K-1程度となり,ドープされていないバルクシリコンに比べ95 %以 上低減した.加えて,温度の上昇とともに熱伝導率は減少し,酸化を4時間行ったSiナノ 粒子を用いた試料の熱伝導率は1000

°C

4.8 Wm

-1

K

-1となった.これらの値はバルク

SiGe

の熱伝導率42に匹敵する値である.また,式(4.1)で表されるヴィーデマン-フラ

ンツ則より得られた各試料の格子熱伝導率Lの温度依存性を

Fig. 4-6(b)に示す.

T L

e  (4.1)

e

L  

   (4.2)

ここでeは電子による熱伝導率への寄与,L = 2.2×10-8 J2K-2C-2はローレンツ数をそれぞれ 表す.熱伝導率同様,格子熱伝導率も温度の上昇とともに減少し,酸化を 4 時間行った Si ナノ粒子を用いた試料の格子熱伝導率は室温で

5.5 Wm

-1

K

-1,890

°C

4.0 Wm

-1

K

-1となっ

Fig. 4-5 作製した試料の(a)ゼーベック係数および(b)パワーファクターの温度依存性.

Fig. 4-6 作製した試料およびバルクSiGe42,ナノ構造化バルクSiGe42

(a)熱伝導率および(b)格子熱伝導率の温度依存性.

0 200 400 600 800 1000

−400

−300

−200

−100 0

Temperature (

o

C) S (  VK

−1

)

Without oxidation 2−hour oxidation 4−hour oxidation 12−hour oxidation (a)

0 200 400 600 800 1000 0

1 2 3

Temperature (

o

C) S

2

 (mW m

−1

K

−2

)

Without oxidation 2−hour oxidation 4−hour oxidation 12−hour oxidation (b)

0 200 400 600 800 1000 0

2 4 6 8 10

Temperature (

o

C)

 (Wm−1 K−1 )

(a) Without oxidation 2−hour oxidation 4−hour oxidation 12−hour oxidation Bulk SiGe (Ref.42) Nano SiGe (Ref.42)

0 200 400 600 800 1000 0

2 4 6 8 10

Temperature (

o

C)

L (Wm−1 K−1 )

(b) Without oxidation

2−hour oxidation

4−hour oxidation

12−hour oxidation

39 た.Figure 4-7に各試料の室温での格子熱伝導率および理論モデル計算により算出され た試料の熱伝導率の粒径依存性を示す.Figure 4-7 に示している緑線はアモルファス相

を30 %含むドープされた試料の熱伝導率を表しており,式(4.3)のような複合材料の物性を

算出する際に一般的に用いられるEffective medium theory72を用いて算出した.

] ) 1 ( [ 2 ) 2 1 (

] ) 1 ( [ 2 2 ) 2 1 (

Si SiO

Si SiO

Si SiO

Si SiO

Si eff

x x

x x

  (4.3)

ここでeffは有効的な試料の熱伝導率,Siは各粒径でのナノ結晶シリコンの格子熱伝導率,

a-SiOxはアモルファス酸化シリコンの格子熱伝導率,はナノ結晶シリコン相の割合,R = 2.5

×10-9 m2KW-1をSiとSiOxとの界面熱抵抗73としてrTBR = RSi,dをアモルファス酸化物相 の大きさとして = rTBR/(d/2)とそれぞれ表す.ただしa-SiOx = 1.32 Wm-1K-1と粒径によらず一 定とした68.Figure 4-7に示すように各試料の室温での格子熱伝導率と理論モデル計算によ り算出した値はよく一致した.これより作製した試料の熱伝導率の低減は,高濃度ドーピン グに加え,ナノ構造化およびアモルファス酸化物相の混成の影響が大きいと考えられる.

Fig. 4-7 作製した試料の室温での格子熱伝導率および理論モデル計算により算出された

試料の室温での熱伝導率の粒径依存性.黒線がドープされていないシリコン,

赤線がプラズマCVDで作製したSiナノ粒子と同程度のドープがされているシリコン,

緑線がアモルファス相を30 %含むドープされたシリコンの熱伝導率をそれぞれ表す.

20 40 60 80 100

0 10 20 30 40

Grain size [nm]

L

[W m

−1

K

−1

]

Undoped Si

Highly doped Si

Highly doped Si with amorphous region 2−hours−oxidation

4−hours−oxidation

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