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非定常熱回路網には大きく分けて 2 種類の表現方法がある.本節では,まず最初にそれらの熱回路網 について説明し,3.2 節で導出した熱回路網を拡張した,非定常解析向け熱回路網を導出する.続いて,

前節で得られた熱抵抗に関する知見,モデル化手法を用いて,熱回路網による非定常温度予測を実施し,

その結果について考察する.

3.6.1 非定常状態を表現するCauerモデルとFosterモデル

非定常状態を熱回路網で表現するには,熱容量の効果を取り込む必要がある.熱抵抗と電気抵抗の関 係と同様に,熱容量も電気回路における電気容量との相似性があり,非定常熱回路網には,熱容量の入 れ方によりCauerモデルとFosterモデルの2つが存在する(図3.39) [3-44~3-48].

非定常状態では,熱容量の影響を分布定数として適切に扱う必要がある.つまり,非定常状態におけ るエネルギーバランス式は,3.2節で示した式(3.4)とは異なり,各部材ごとではなく,より薄い層ごと に成り立つものとして扱うべきである.つまり,非定常状態におけるエネルギーバランス式は以下のよ うになる [3-49,3-50].

) T T l (

A ) k T T l (

A Q k

t Q V T

c k k

k k k k k k

k k out in k k k

k 1 1

1 1 1

  

 

 

(3.36) ここで,c,ρ,V,T,k,A,l はそれぞれ分割した層の比熱,密度,体積,平均温度,熱伝導率,断面 積,厚みである.QinQoutはそれぞれ流入及び流出する伝熱量である.各記号の添え字は部材ではなく,

層を表す.式(3.36)を熱回路網として表現すると図3.40 (a)のようになる.これは図3.39 (a)の表現,つ

まりCauerモデルと等価である.なお,拡大熱抵抗が生じる場合についても同様に,エネルギーバランス

式は,

) T T l (

A ) k T T l (

A Q k

t Q V T

c k k

k k k kp k k

k k out in k k k

k 1 1

1 1 1

  

 

  

(3.37) となる [3-49,3-50].これを熱回路網として表現すると図3.40 (b)のようになる.

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(a) Cauer Thermal Network.

(b) Foster Thermal Network.

Figure 3.39 Transient Thermal Network Models.

Figure 3.40 Thermal Network Nodes for Transient Analysis.

電子機器の分野では,特に,パワー系半導体の非定常温度予測に古くから Foster モデルが使われてき た [3-44~3-48].Cauerモデルと Foster モデルは数学的に相互に変換可能なことが知られている.Foster モデルでは,熱抵抗と熱容量の組による温度遷移の重ね合わせにより,回路全体としての温度遷移が決 まるため,数学的には取り扱いが容易である.しかし,個々の熱容量には物理的な意味はなく,フィッ ティングにより,その値を求める必要がある.また,伝熱経路の構成が一部でも変更された場合には,

フィッティングで得られた熱容量の値も変化するため,Fosterモデルでは,通常,伝熱経路の構成が変わ (a) Standard Node. (b) Nodes with Thermal

Spreading Resistance.

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るたびに熱回路網内のすべての熱容量の値を求め直す必要がある.そのため,本研究では,物理的意味 を有し,かつ伝熱経路の構成を変更するケースを扱う際の利便性を考慮し,Cauerモデルを用いて非定常 熱回路網を構成することとする.

3.6.2 マイクロプロセッサシステムの非定常熱回路網

Cauerモデルを用いてマイクロプロセッサシステムの非定常熱回路網を構成すると,図3.41のようにな

る [3-49,3-50].3.2節で示した図3.10の定常熱回路網と比較すると,各部材の熱抵抗が複数の熱抵抗に 分割され,その間に設けられた各ノードに1つずつ熱容量が配置される.また,図3.41には明示してい ないが,拡大熱抵抗及び局所熱抵抗は非定常状態において値が変動するため,必要に応じて,3.5節で示 した手法を適用し,可変抵抗として扱う必要がある.

Figure 3.41 Thermal Network of Microprocessor System for Transient Analysis.

- 58 - 3.6.2.1 各部材に配置すべきノード数

非定常熱回路網では,定常熱回路網とは異なり,分布定数である熱容量の影響を適切に織り込む必要 があるため,前項で述べた通り,各部材を薄い層に分割して各層に 1 つずつノードを設定する必要があ る.ノード数の増加は計算時間の増加につながるため,各部材に設定するノード数は慎重に検討する必 要がある.式(3.36)を変形すると,

) T T l ( c ) k T T l ( c

k

) T T l ( V c

A ) k

T T l ( V c

A k t T

k k k k k

k k

k k k k

k

k k k k k k

k k k

k k k k k

k k k

2 1 2 1

1 1

1 1

1 1 1

 

   

(3.38)

式(3.38)の両辺を時間tで積分すると,

) T T l ( c

t ) k T T l ( c

t T k

T k k

k k k

k k

k k k k

k t,

k

k 2 1 2 1

1 1

0

  

  

(3.39)

となり,右辺の2つの項にかかる係数は各層の厚みを代表長さとするフーリエ数となる.ここで,Tkt,0は 時刻ゼロにおけるTkの値である.フーリエ数は熱伝導で伝わる熱エネルギーと熱容量に蓄えられる熱エ ネルギーの比であるため,値が大きいほど熱伝導による影響が支配的になり,熱容量による影響を無視 できるようになることを意味する.つまり,採るべき各層の厚みlは,満たすべきフーリエ数Foに対し て,使用する部材の熱伝導率k,比熱c,密度ρ,ターゲットとする時間tから,以下の式で求められる.

Fo c l kt

(3.40) 例えば,0.1 秒単位における熱伝導に対する熱容量による影響を 5%以内に抑えたい(つまり,熱伝導 による影響を熱容量による影響の20倍以上に設定したい)場合には,式(3.40)に部材の熱伝導率,比 熱,密度とともにt = 0.1,Fo = 20を代入すれば良い.各部材を等分してノードを設ける場合には,式(3.40)

で得られた厚みよりも薄くなるように各部材を等分する.

3.6.3 非定常熱回路網によるマイクロプロセッサシステムの非定常温度予測

前節で提案した拡大熱抵抗の非定常モデル化手法を非定常熱回路網に適用し,マイクロプロセッサシ ステムの温度予測を実施する.

3.6.3.1 対象とするマイクロプロセッサシステム

図3.1に示すマイクロプロセッサシステムを対象として,マイクロプロセッサのシリコンダイ温度(TJ) 予測を実施する.解析領域には,マザーボード(150 × 150 × 1.6mm),マイクロプロセッサ,TIM(マイ クロプロセッサのダイサイズ × 20μm),ヒートシンクベース部(50 × 50 × 5.0mm)が含まれる.なお,

実測との比較を行うため,本項では,マイクロプロセッサにFT1 プロセッサ [3-22]を用いる.FT1 プロ セッサはマルチコアx86 CPU,GPU及びI/Oを混載したAPU(Accelerated Processing Unit)であり,本章

で用いたGeneric Microprocessor Package Modelと寸法は異なるが,同形状のマイクロプロセッサパッケー

ジを採用しており,伝熱経路についても放熱機構を介する上方の伝熱経路とマザーボードを介する下方 の伝熱経路が存在する.

- 59 - 3.6.3.2 非定常熱回路網の構築

熱回路網を用いて温度予測を実施するには,各所の熱抵抗,熱容量を決定する必要がある.部材の熱 抵抗及び熱容量は,それらの熱物性値を用いて式(3.8)及び式(3.31)から求める.ただし,TIMには,

事前に実施したマイクロプロセッサシステム上の定常状態における実測結果から接触熱抵抗を加味した 有効値を設定する.放熱機構及びマザーボード表面に設定する熱伝達率についても同様に,実測温度結 果から有効値を求め,熱抵抗を算出する.

ファン付きヒートシンクの非定常挙動については,A.1.1 項に示すモデル化手法を用いて,θHS内部を モデル化する.

拡大熱抵抗の非定常挙動については,3.5.3 項で示したモデル化手法を適用する.一方,局所熱抵抗

θDie-localについては,3.5.4項の検証結果からその非定常挙動が1秒未満と短いことが分かったため,本項

では固定値として扱うこととする.定常状態における拡大熱抵抗及び局所熱抵抗の値は事前に有限体積 法による3次元定常熱伝導シミュレーション [3-3]を実施し,その結果から値を算出した.

本項では,計算負荷を低減することを重視し,全体で 55 ノードを有する非定常熱回路網を構築する.

また,上記の非定常熱回路網に加えて,各拡大熱抵抗の非定常値を算出するため,拡大熱抵抗ごとに3.5 節で提案した図3.33に示す熱回路網を構築する.θHS-spreading及びθPkg-spreadingについては3ノード,θBrd-spreading

については 5 ノードを有する熱回路網を構築することとした,本非定常熱経路網は,少ないノード数で 構成されているため,ほぼ実時間で計算を完了できる.

3.6.3.3 マイクロプロセッサの発熱条件

FT1 プロセッサのシリコンダイにおける発熱密度は,回路の種類やその回路に加わる負荷によって異 なる.その結果,局所熱抵抗値も発熱分布により変化する.本項では,まずCPUにのみ高負荷がかかっ ている状態で定常状態に達した後,時刻ゼロ以降,CPU,GPU の双方に高負荷がかかるケースについて 温度予測を実施する.マイクロプロセッサの消費電力は,第 2 章で述べた通り,温度依存性を有するた め,消費電力推定式を用いて各時刻における発熱量を算出する.

3.6.3.4 温度予測結果及びその考察

図3.42に熱回路網におけるTJと代表的なノードの温度遷移(“1D TN”)を実測値(“Measured”)とと もに示す.各温度は周囲温度からの上昇値として示している.FT1 プロセッサは,CPU にのみ高負荷が かかった状態で8.29Wを消費して定常状態に至り,時刻ゼロ以降,CPU,GPUの双方に高負荷がかかっ た状態で約11.6Wを消費する.

TJについては,熱回路網による結果は実測結果と同じ傾向を示すものの,最初の60秒間はやや高めの 値を示している.両者の最大差は初期の3秒間において約3.1℃,その後の100秒間では2.1℃未満であ った.

熱回路網における主要なノードの温度遷移については,TDiebottom及びTDietopが他のノードよりも高い値 を採り,TJとほぼ同じ傾向で推移する.続いて,TPkgtopが高い温度を示すが,時刻ゼロ近傍における立ち 上がりは遅くなっている.THSbottom及びTBrdtopはさらに低い値を採り,その傾きは時刻ゼロからほぼ一定 である.これは下方の伝熱経路では,熱容量の影響により,上方の伝熱経路より温度上昇が遅く,伝熱 量が滑らかに変化しているためである.