小型電子機器における放熱では,熱伝導が支配的であり,熱伝導経路のモデル化の良否が温度予測に 大きな影響を及ぼす.前節で示した通り,拡大熱抵抗や局所熱抵抗は部材境界の状態によって値が変動 するため,どのような条件でそれらの熱抵抗値がどの程度変動するか把握しておくことは非常に重要で ある. また,JEDECのCTM(Compact Thermal Model) [3-32]の1つであり,古くから電子機器の熱設計 において広く使用されている 2 抵抗モデル [3-33]では温度予測に誤差が生じることが知られており,伝熱 経路の一部としてのマイクロプロセッサパッケージに関して,詳細な検証が必要と考えられる.一方,近 年のマイクロプロセッサは単一のシリコンダイにCPU(Central Processing Unit),GPU(Graphics Processing
Unit),I/O(Input Output)を混載しており,シリコンダイ回路面における発熱は均一ではない [3-18, 3-19].
しかし,多くの熱解析では今もなおシリコンダイを均一発熱として扱っており,シリコンダイ回路面にお ける発熱が均一でない場合について,その予測温度への影響や評価方法が十分であるとは言い難い.そこ で,本節では,小型電子機器筐体内の伝熱経路における放熱機構,マザーボードサイズの違い,シリコン ダイの発熱分布の違いによるホットスポット温度への影響を熱抵抗の変動を通して検証,考察することを 目的として,マイクロプロセッサパッケージを対象領域として3次元定常熱伝導シミュレーションを実施 し,拡大熱抵抗,局所熱抵抗の変動について検証,考察する.なお,2抵抗モデルの温度予測誤差要因に ついては,A.3節で別途議論する.
3.3.1 熱抵抗値の変動
部材の熱抵抗は,式(3.8)より,熱伝導率が一様であれば伝熱経路の構成によらず一定の値を採るが,
拡大熱抵抗や局所熱抵抗は,式(3.12)及び式(3.14)より,分子の温度差及び分母の伝熱量のバランス により値が変化する.例えば,図3.11に示すアルミニウム合金ブロック(209W/mK,50mm × 50mm × 5.0mm)
の底面の中央に10mm角の均一発熱エリアが存在し,上面全体が第3種境界条件,つまり,ニュートンの 冷却法則
T TAmbient
hA Q
(3.15)
で冷却され,それ以外の表面は断熱である場合,アルミニウム合金ブロックの底面における発熱部から底 面全体への拡大熱抵抗は図3.12に示すように熱伝達率によって値が変動する.ここでhは冷却面における 熱伝達率,Aは冷却面の面積,TAmbientは周囲温度である.熱抵抗値は,熱伝達率がゼロ近傍と無限大でそ れぞれ異なる値に収束しており,上面に設定する熱伝達率の値によって,その間の値を採っている.つ まり,この両極の値に有意な差がある場合には,拡大熱抵抗は境界条件によって変動する値として扱う べきである.
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Figure 3.11 Cross-Sectional View of Aluminum Alloy Block.
Figure 3.12 Thermal Spreading Resistance Variation with Heat Transfer Coefficient.
3.3.2 シミュレーション条件
本節では,図3.13に示すマイクロプロセッサパッケージを対象として以下の3次元熱伝導方程式を有 限体積法を用いて離散化し,3次元定常熱伝導シミュレーション [3-3]を実施する.
0
z k T z y k T y x k T
x x y z
(3.16)
ここで,kx,ky,kzはそれぞれx,y,z方向の熱伝導率,Tは温度である.
実際の半導体製品のモデルは寸法や熱伝導率などが一般公開されている例は少なく,詳細な議論を行 うことが難しい.そこで,本節では,表3.1に示すように,特定の製品とは直接関連しないマイクロプロ セッサパッケージモデルを定義し,それを用いて詳細な議論を行うこととする.
実際のマイクロプロセッサを採用するシステムでは,シリコンダイ上面にはサーマルグリース等の TIM が塗布され,その上に放熱機構が装着される.また,マイクロプロセッサパッケージは半田ボール でマザーボード上に実装される.本節では,マイクロプロセッサのこれらの境界面の状態を定量的に示
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Figure 3.13 Side View of Microprocessor Package Model Region.
Table 3.1 Dimension and Thermal Conductivity of Generic Microprocessor Package Model.
(a) Uniform Heat Distribution. (b) Non-uniform Heat Distribution.
Figure 3.14 Heat Distribution along Silicon Die Circuit.
すため,放熱機構やマザーボードをモデル領域に含めるのではなく,シリコンダイ上面及び半田ボール 層底面において式(3.15)のニュートンの冷却法則が成り立つものとして,それぞれ一様な熱伝達率を設 定することとした.シリコンダイ上面にはヒートスプレッダを用いた自然空冷からファン付きヒートシ ンクや RHE といった放熱機構による強制空冷を想定して,500W/m2K,1000W/m2K,5000W/m2K,
10000W/m2Kの4種類の熱伝達率を設定する.一方,半田ボール層底面に設定する熱伝達率は100W/m2K
からシリコンダイ上面に設定した熱伝達率まで変化させる.なお,シリコンダイ上面,半田ボール層底
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面における周囲温度は同一の値を用いる.それ以外の部材表面はすべて断熱とする.
マイクロプロセッサは,シリコンダイ底面において面発熱するものとし,まず最初に均一発熱の場合 について,次に均一発熱でない場合について議論を進める.均一発熱の場合には,図3.14 (a)に示す通り,
シリコンダイ底面中心をホットスポットとしてジャンクション温度を定義する.一方,均一発熱でない 場合については,図 3.14 (b)に示す通り,シリコンダイのうち,1/4のエリアを高発熱密度エリア,それ 以外を低発熱密度エリアとして異なる発熱密度を設定する.高発熱密度エリアと低発熱密度エリアの発 熱量が半分ずつ(50% / 50%ケース)と3:1(75% / 25%ケース)の場合について,3次元定常熱伝導シミ ュレーションを実施する.なお,均一発熱でない場合,高発熱密度エリア中心をホットスポットとして ジャンクション温度TJを定義する.
図3.9の熱回路網に示す熱抵抗のうち,マイクロプロセッサパッケージの境界の状態によって値が変動 するのはパッケージサブストレート上面における拡大熱抵抗 θPkg-spreading 及びシリコンダイ底面における 局所熱抵抗θDie-localである.そのため,シミュレーション結果として得られる温度及び伝熱量からこれら の熱抵抗値を算出し,境界の状態の違いによる値の変動について確認する.
3.3.3 シリコンダイ底面おける発熱が均一である場合の熱抵抗値の変動
拡大熱抵抗θPkg-spreadingはシリコンダイ上面に設定する熱伝達率による値の変動が軽微であり,半田ボー ル層底面に設定する熱伝達率によってのみ有意に値が変動する.この結果は,シリコンダイ底面におけ る発熱が均一である場合には,拡大熱抵抗θPkg-spreadingは,シリコンダイ上に装着する放熱機構の違いによ る値の変動が軽微で,主にマザーボードサイズ等下方の伝熱経路の状態によって値が変動することを示 唆している.シリコンダイ底面における発熱が一様である場合には,その温度勾配も相対的に小さいた め,上方の伝熱経路における冷却の影響が下方の伝熱経路にほとんど影響を与えていないためであると 考えられる.シリコンダイ上面に 10000W/m2K を設定し,半田ボール層底面に設定する熱伝達率を変化 させた際の拡大熱抵抗θPkg-spreadingの変動を図3.15に示す.
Figure 3.15 Thermal Spreading Resistance Variation with Heat Transfer Coefficient along Solder Ball Layer Bottom.
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シリコンダイ上面に設定する熱伝達率を固定し,半田ボール層底面に設定する熱伝達率を変化させた 際の局所熱抵抗 θDie-localの変動を図 3.16に示す.局所熱抵抗θDie-localは絶対値は小さいものの,シリコン ダイ上面及び半田ボール層底面に設定する熱伝達率によって値が変動する.局所熱抵抗θDie-localが,半田 ボール層底面に設定する熱伝達率だけでなくシリコンダイ上面に設定する熱伝達率によっても値が変動 するのは,上方の伝熱経路の状態によって,シリコンダイ底面の発熱面における温度勾配が影響を受け るためである.
3.3.4 シリコンダイ底面における発熱が均一でない場合の熱抵抗値の変動
シリコンダイ上面に設定する熱伝達率を固定し,半田ボール層底面に設定する熱伝達率を変化させた 際の50% / 50%ケース,75% / 25%ケースにおける拡大熱抵抗θPkg-spreadingの変動を図3.17及び図3.18に示 す.均一発熱の場合とは異なり,拡大熱抵抗θPkg-spreadingは,半田ボール層底面に設定する熱伝達率だけで
Figure 3.16 Thermal Local Resistance Variation with Heat Transfer Coefficient.
Figure 3.17 Thermal Spreading Resistance Variation for 50% / 50% Case with Heat Transfer Coefficient.
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Figure 3.18 Thermal Spreading Resistance Variation for 75% / 25% Case with Heat Transfer Coefficient.
なく,シリコンダイ上面に設定する熱伝達率によっても変動する.シリコンダイ上面に設定する熱伝達 率が大きいほど,拡大熱抵抗θPkg-spreadingは小さくなる.また,図3.15,図3.17,図3.18を比較すると,
発熱分布に偏りが出るほど,拡大熱抵抗θPkg-spreadingは相対的に小さくなることが分かる.なお,図3.17,
図 3.18 では,シリコンダイ上面に設定する熱伝達率が 5000W/m2K,10000W/m2K の場合に拡大熱抵抗
θPkg-spreadingは上に凸の形状をとる.これは上方及び下方の伝熱経路に流れる伝熱量の割合が変化するため
に生じるもので,上記の条件では,半田ボール層底面に設定する熱伝達率が小さいと,下方の伝熱経路 に流れる伝熱量が極端に少なく,シリコンダイ上面に設定した熱伝達率による冷却効果が強く出るのに 対して,半田ボール層底面に設定する熱伝達率が大きくなるにつれて,その影響が薄まり,半田ボール 層底面に設定する熱伝達率による冷却効果が強くなるためである.
シリコンダイ上面に設定する熱伝達率を固定し,半田ボール層底面に設定する熱伝達率を変化させた 際の50% / 50%ケース,75% / 25%ケースにおける局所熱抵抗θDie-localの変動を図3.19及び図3.20に示す.
局所熱抵抗θDie-localは半田ボール層底面に設定する熱伝達率による影響は軽微であり,主にシリコンダイ 上面に設定する熱伝達率によって変動することが分かる.また,図3.16,図3.19,図3.20を比較すると,
発熱分布に偏りが出るほど,局所熱抵抗θDie-localは大きくなることが分かる.
3.3.5 定常状態における熱抵抗値の変動に関する検証のまとめ
本節では,マイクロプロセッサパッケージの上下面における境界の状態,マイクロプロセッサのシリ コンダイ底面における発熱分布の違いによる熱抵抗値への影響について検証,考察した.検証の結果,
マイクロプロセッサパッケージの上下面における境界の状態やシリコンダイ底面における発熱分布が変 化すると,パッケージサブストレート上面における拡大熱抵抗及びシリコンダイ底面における局所熱抵 抗の値が変動することが明らかとなった.得られた知見は以下の通りである.
- 均一発熱である場合,パッケージサブストレート上面における拡大熱抵抗はシリコンダイ上面に設 定する熱伝達率によらずほぼ一定であり,半田ボール層底面に設定する熱伝達率によってのみ値が 変動する.