は、熱力学第一法則の対象のうち、化学反応や溶解、あるいは融解・蒸発・昇華などの状態 熱化学
変化(=相変化、相転移)等に伴う熱効果(それぞれ反応熱、溶解熱、転移熱という)を取り扱う 。反*1 応熱等は温度一定の条件で測定し(一般的には 298.15K 25( ℃)で測定される 、さらに圧力一定か体積) 一定の条件を課す。普通は実験が容易なので圧力一定のもとで熱測定は行われる。従ってこのとき測 定されるのは、反応エンタルピー、溶解エンタルピー、転移エンタルピーといったエンタルピー変化
H q H H
Δ である。系から熱が出ていくとき <0とするので、発熱過程ではΔ < 、吸熱過程ではΔ0
> 0 である。熱量測定を実際に行うための装置については、アトキンス ・ ( )、 ・ ( )を見よ。以下2 4 a 2 5 b では特に断らない限り、定温定圧条件下での熱効果である。
・ エンタルピー変化 3 1
(アトキンス ・ )
3 1 1・ ・ 標準エンタルピー変化 2 7
とは圧力が (= )の状態である。各温度で標準状態が定義される。そ
標準状態 10 Pa5 1 bar
して、最初と最後の物質がそれぞれ標準状態にあるような過程に対するエンタルピー変化 を標準エンタルピー変化という。これはΔ H ○のように書き、上付きの ○ は標準状態で あることを表している。標準エンタルピーは1 mol当たりのエンタルピー変化なので、そ の単位はJ mol-1である。温度については、文献に載っている標準エンタルピー変化等の
データは 25.00 ℃= 298.15 Kで測定されたものが一般的であり、この温度をアトキンス
では約束温度と呼んでいる(が、一般的な言葉ではない 。)
(アトキンス ・ ( ))
3 1 2・ ・ 反応エンタルピー 2 7 b
反応式の書き方:*2
( ) + ( ) → ( ) =- ( ) H g2 1/2O g2 H O l2 ΔrH○(298 K) 285.83 kJ mol-1 1 各反応物、生成物の状態を、すなわち固体( )、液体( )、気体( )のいずれであるかを明s l g
。 、 、 。
示する 必要であれば 同じ固体でも 例えばグラファイトあるいはダイヤモンドと書く
、 。
ΔrH○(298 K) は標準反応エンタルピーで*3 括弧の中の298 Kは測定温度を表している 約束温度で測定したときは測定温度を書く必要はない。反応エンタルピーとしては反応の 種類によって、燃焼エンタルピーΔcH、中和エンタルピーΔnH等がある。
ここで注意したいことは、例えばA+B→C+Dという反応のΔr H○とは、温度 、T
圧力1 barの下で熱平衡状態(標準状態)にあるAとBが別々に存在している状態から、
同温同圧下で熱平衡状態(標準状態)にある C と D が別々に存在している状態までのエ ンタルピー変化である。このとき、反応が1 barのもとで進行する必要はない。エンタル ピーは状態関数なので、経路に依存せず、最初と最後が決まれば、そのエンタルピー変化 も一義的に決まる。
(アトキンス ・ )
3 1 3・ ・ 反応エンタルピーの温度依存性 2 9
熱容量を用いると、ある温度で既知の反応エンタルピーから、測定データのない他の温 度における反応エンタルピーの値を求めることができる。例えば、次のような反応を考え てみよう。
+ → + ( )
aA bB cC dD 2
このときこの反応のエンタルピー変化ΔrHは
ΔrH = cHm( ) +C dHm( ) -[D aHm( ) +A bHm( )]B ( )3 で与えられる。ここでこれを次のように略記することにする。
ΔrH = ∑ νJ JHm( )J ( )4 ここでν は(J 化学 量論数) と呼ばれ、 、 、 、 等の係数を表し、反応物の係数についてa b c d
J 1 3 b は負号が付くこととする 例えば ν =。 、 D dであるが ν =- である そして は ・、 A a 。 で導入した化学種を表す記号で、反応物と生成物、 、 、 、A B C D 等を表すこととする。
したがって、反応式を一般的に、
= ∑ ν ( ・ )( )
0 J JJ 7 9 5
と書くことができる(アトキンス数値例 7 1・ 参照)。反応エンタルピーの式( )を温度で微分4 して圧力一定の条件を課す。
(∂ΔrH/∂ ) = ∑ ν (∂T P J J Hm( ) ∂ )J / T P ( )6 右辺の偏導関数は物質 のモル定圧熱容量なので、上式はJ
(∂ΔrH/∂ ) =ΔT P CP ( = ∑ νJ JCP m, ( )) (定圧、非膨張仕事なし)J ( )7a と書き直すことができる。ここで、ΔCPは
ΔCP=(生成系の熱容量の和)-(反応系の熱容量の和) [ ・2 37]( )8a である。( )は7a Kirchhoff(キルヒホッフ)の式(の微分形)と呼ばれている。これを積分する
と Kirchhoff の式の積分形が得られる(あるいは第 2 章式(35h)から直接導くこともでき
る 。)
ΔrH T( ) = Δ2 rH T( ) +1 ∫T1 ΔC TP ( ・ )( )
T2 d 2 36 7b
この式を前章の式(35h)と比較せよ。具体例としてアトキンス例題 ・ を見てみよう。2 6 の式は化学反応だけではなく、相転移に伴うエンタルピー変化Δ 等の任意
Kirchhoff H
の状態変化に伴うΔ H の温度変化に対しても適用する事ができる。この場合、Δ CP は例 えば融解の場合
ΔCP(融解)=CP(液体)-CP(固体) (8b) である。
種類以上の異なる粉粒体、気体または液体どうしを混ぜ合わせて、均質な粉粒体、気体または液
*1 2
体(溶液)にする操作。液体に気体、液体、固体が混合して均一な液相を形成する現象を溶解という。
希硫酸を作るとき、冷却しながら水に濃硫酸を加えなければいけないのは、硫酸の水への溶解エン
*2
タルピーが大きいからである。
実測されるのは有限温度におけるエンタルピー変化であ
*3(エネルギーとエンタルピーの違い)
る。これに対して、熱エネルギーの効果を削除した、言い換えれば絶対零度におけるものがエネルギ ー変化である。例えば、イオン化エンタルピーとイオン化エネルギー、結合解離エンタルピーと結合 エネルギー。アトキンス式(10 34・ )、(10 35・ )、根拠10 7・ を参照せよ。
(アトキンス ・ ( ))
3 1 4・ ・ 転移エンタルピー 2 7 a
転移エンタルピーΔtrsHとしては、蒸発エンタルピーΔvapH、融解エンタルピーΔfusH、 Δ 等がある。例えば、 気圧で氷を加熱していくと、 ℃で氷から
昇華エンタルピー subH 1 0
水に相転移する。この氷から水への融解に要した熱エネルギーが融解エンタルピーΔ fusH である。さらに加熱を続けると100℃でお湯から水蒸気に相転移する。このお湯から水蒸 気への蒸発に要した熱エネルギーが蒸発エンタルピーΔvapHである。
アトキンスの表 ・ を見ると、Δ2 3 vapHはΔfusHの3~7倍もあることが分かる。固体か ら液体に変わるには、固体の緊密で規則正しい分子配列がゆるめられて、流体特有の運動 の自由度が許されるようにならなければならない。しかし、両者のモル体積がほとんど同 一であることは、液体中においても、分子がなおかなり密に詰まっていて強く保持されて いることを示している。他方、気相では分子が離れ離れになっているから、分子間にはご く僅かの力しか働かない。そこで、固体をゆるめて液体にするよりも、液体の分子を気相 に脱出させる方がずっと多くのエネルギーを消費しなくてはならないのである。
(アトキンス表 ・ 参照)
3 1 5・ ・ その他のエンタルピー変化 2 4
(Δ :混合 に際し、系に出入りする熱。
混合エンタルピー mixH) *1
(Δ :溶質が溶媒に溶けるときに発生または吸収される熱量 。混
溶解エンタルピー solH ) *2
合エンタルピーの一種である。積分溶解エンタルピーとは溶質1 molを溶媒に溶解し、無 限希釈するときの熱量変化。微分溶解エンタルピーとは溶液に微少量の溶質を加えたとき の熱量変化。
(Δ :ある濃度の溶液に溶媒を加え希釈する際、発生または吸収さ 希釈エンタルピー dilH)
れる溶質1 mol当たりの熱量変化。
( ) 。
水和エンタルピー ΔhydH :溶質を溶媒である水で無限に希釈した際に生じる熱量変化
(Δ :吸着に伴って発生する熱をいう。
吸着エンタルピー adsH)
(Δ ) (アトキンスデータ部表 ・ :気体中の基底状態にあ イオン化エネルギー ion H *3 10 3)
る原子または分子から 1 個の電子を無限遠に引き離して、 個の陽イオンと自由電子とに1 原子では、中性原子 解離させるために必要なエネルギー。イオン化ポテンシャルともいう。
から 1 個の電子を引き離すとき第1 イオン化エネルギー、一価の陽イオンからさらに 1 個の電子を引 き離すとき第 2イオン化エネルギーというように呼ぶ。第 2 イオン化エネルギーは第 1 イオン化エネ ルギーよりも常に大きい。これに対して、分子では中性分子から 1 個の最も高いエネルギーを持つ電 子を引き離すとき第 1 イオン化エネルギー、次のエネルギーの電子を引き離すとき第 2 イオン化エネ
アトキンスではこれを と呼んでいるが、一般的な言葉ではない。
*1 基準状態
ルギーと呼ぶ。
(Δ (アトキンスデータ部表 ・ :真空中で無限に離れていた中性原子 電子親和力 egH) 10 4)
と電子とが接近して結合し、陰イオンが生成する際に放出されるエネルギーであって、陰 イオンから電子を引き離すのに要する仕事に等しい。その値は原子が電子を受け取って陰 イオンとなる傾向の大小を表す。電子親和力が正であれば陰イオンは真空中で安定、負で あれば真空中では不安定であるが、溶液あるいは結晶中ではそうとは限らない。原子団や 分子に対しても同様に電子親和力が定義される。
( (アトキンスデータ部表 ・ :結合 が の理想気 結合解離エンタルピー D) 11 3a) A-B 10 Pa5
体状態で等温的に原子あるいは原子団(イオンではない) 、A B に解離するときのエンタ ルピー変化。
例) HF g( ) → H g( ) + F g( ) (H g+( )とF -( )に分離するのではない)g ( )9
(アトキンス ・ )
3 2 ・ 標準生成エンタルピー
2 8多くの反応は直接的な熱量測定に適さない(、ができない 。しかし、反応エンタルピ) ーを間接的に決定することができる(Hess(ヘス)の法則)。これは、エンタルピーは状態 関数なので、任意の物質の持つエンタルピーはその温度、体積、物質量等が同じならば、
どのような過程を経てその状態に至ろうとも同じだからである。
例として、炭素がグラファイトからダイヤモンドに変わる相転移を見てみよう。
( ) → ( ) Δ (炭素)=? ( )
C グラファイト C ダイヤモンド trsH○ 10 この転移は非常に大きな圧力をかけることによって起こるので、直接転移熱を測定するこ とは非常に困難である。これに対してグラファイトとダイヤモンドの燃焼反応は熱量計の 中で行うことができるので、反応熱の測定は比較的容易である。
( )+ ( ) → ( ) ( )
C グラファイト O g2 CO g2 ΔcH○(298 K)=-393.51 kJ mol-1 11
( )+ ( ) → ( ) ( )
C ダイヤモンド O g2 CO g2 ΔcH○(298 K)=-395.40 kJ mol-1 12 グラファイトを直接ダイヤモンドに変えたときのΔtrs H ○と、グラファイトを燃焼させて 二酸化炭素にし、次にその二酸化炭素からダイヤモンドを作ったときのΔ H ○は同じなの で、
ΔtrsH○(炭素)=-393.51-(-395.40) kJ mol-1 =+1.89 kJ mol-1 (13) である(アトキンスの例題 ・ も参照せよ2 5 )。
任意の物質の持つエンタルピーが分っていれば、任意の反応のエンタルピー変化を直接 測定しなくても、計算で求めることができるので大変便利である。しかし、エネルギーの 値は基準次第で種々の値を取りうるので そのためには基準を定めなければならない、 。「指 定された温度と10 Pa5 (=1 bar)の圧力のもとで、任意の元素の最も安定な状態 のエン*1 タルピーを零にとり(=基準とし)、任意の化合物を(基準状態にある)構成元素から合成す る(これを標準生成反応と呼ぶことにする)ときの標準反応エンタルピー」を、その化合物 の標準生成エンタルピー ΔfH ○ と定義する。例としてCH g4( )の標準生成エンタルピー