第 4 章 コーシーの積分公式とその応用 32
4.5 無限遠点とリーマン球面
4.5.1 無限遠点の導入
一方、ベータ関数の定義式
B(p, q) =
∫ 1
0
xp−1(1−x)q−1dx において、x=t/(1 +t) と変数変換すると
(4.27) B(p, q) =
∫ ∞
0
tp−1 (1 +t)p+qdt が得られる。これから ∫ ∞
0
xq−1
1 +xpdx= 1 pB
(q p,1−q
p )
が得られる。
稠密性の議論によって、∀x∈(0,1)に対して
Γ(x)Γ(1−x) = π sin(πx). 解析接続によって C全体で成立する。
Γ(z) = e−γz z
∏∞ k=1
ez/k
1 +z/k (γ はEuler の定数) より、
Γ(z)Γ(−z) =−e−γzeγz z2
∏∞ k=1
ez/k 1 +z/k
∏∞ k=1
e−z/k
1−z/k =−1 z2
∏∞ k=1
1 1−(z/k)2. ゆえに
sinπz= π
Γ(z)Γ(−z) =−πz2
∏∞ k=1
(1−(z/k)2)
=−πz
∏∞ k=0
(1−(z/k)2) .
実数世界と複素数世界の無限大の違い
実数の世界の∞ (+∞),−∞と、複素数の世界の ∞は違う。本当は同じ記号を使うのがマズイく らいである。ここでは区別を強調するため、実数世界の∞ は+∞ と書くことにする。
実数の世界には、数直線で言うと、右の果て+∞ と、左の果て −∞ がある。
−∞= (−1)·(+∞)̸= +∞ が成り立つ。
複素数の世界には、原点から果てしなく遠い点∞ が1個あるだけ。
(−1)· ∞=∞ である。
lim と ∞
実関数の場合 f を実関数 f:I →R (I ⊂R),a∈I,A∈R とする。
xlim→af(x) =A def.⇔ ∀ε >0 ∃δ >0 ∀x∈I |x−a|< δ=⇒ |f(x)−A|< ε.
xlim→af(x) = +∞ def.⇔ ∀U ∈R ∃δ >0 ∀x∈I |x−a|< δ=⇒f(x)> U.
x→+∞lim f(x) =A def.⇔ ∀ε >0 ∃R∈R ∀x∈I x > R=⇒ |f(x)−A|< ε.
問 lim
x→+∞f(x) = +∞ はどういうことか?
問 →+∞の代りに → −∞とすると?
複素関数の場合 f を複素関数f: Ω→C(Ω⊂C), a∈Ω, A∈Cとする。
zlim→af(z) =A def.⇔ ∀ε >0 ∃δ >0 ∀z∈Ω |z−a|< δ=⇒ |f(z)−A|< ε.
zlim→af(z) =∞ def.⇔ ∀U ∈R ∃δ >0 ∀z∈Ω |z−a|< δ=⇒ |f(z)|> U.
zlim→∞f(z) =A def.⇔ ∀ε >0 ∃R ∈R ∀z∈Ω |z|> R=⇒ |f(z)−A|< ε.
問 lim
z→∞f(z) =∞ はどういうことか?
例 4.5.1 実関数の場合、
xlim→0
1 x は発散する。lim
x→0
1
x = +∞ ではないことに注意する。
xlim→+0
1
x = +∞, lim
x→−0
1
x =−∞
が成り立つ。一方、複素関数の場合、
zlim→0
1 z =∞ が成り立つ。
問 これを証明せよ。
例 4.5.2 (もう少し詳しく実関数の極限との相違点) 対応する実関数の極限との微妙な違いに注意する こと。これは関数のせいというよりも、∞ と+∞,−∞の違いによるところが大きい。
n∈Nに対して lim
z→∞zn=∞. (Cf. lim
x→+∞xn= +∞, lim
x→−∞xn=±∞ (nが偶数のとき+,n が奇数 のとき −))
より一般に次数が1以上の多項式 (定数でない多項式) P(z) に対して、lim
z→∞P(z) =∞. n∈Nに対して lim
z→0
1
zn =∞. (Cf. n が偶数ならば、lim
x→0
1
xn = +∞. n が奇数ならば、 lim
x→+0
1 xn = +∞, lim
x→−0
1
xn =−∞ であるから、lim
x→0
1
xn は存在しない。)
zlim→∞expz は存在しない。(Cf. lim
x→+∞ex= +∞, lim
x→−∞ex = 0.) もちろん lim
z→0sinz= 0. ゆえに lim
z→0
1
sinz =∞. 同様に lim
z→π/2cosz= 0, lim
z→π/2tanz=∞. 対数の主値 Logz について、 lim
z∈C\(−∞,0) z→∞
Logz = ∞, lim
z∈C\(−∞,0) z→0
Logz = ∞. logz は多価であるが、
Re logz = log|z| (右辺の log は実関数としての log) なので、実は主値に限定しなくても、やはり
z→∞lim logz=∞, lim
z∈C\{0} z→0
logz=∞.
冪乗C\ {0} ∋z7→zα も一般には多価関数であるが、α∈Rの場合は|zα|=|z|α (右辺は実関数と しての冪乗) であるから、
(i) α >0 のとき、lim
z→∞zα =∞, lim
z̸=0 z→0
zα = 0.
(ii) α <0 のとき、lim
z→∞zα = 0, lim
z̸=0 z→0
zα=∞.
ここに書いてある式を覚えようと努力することはお勧めしない。むしろ、自分でどうなるか確かめら れる (計算できる) ようにしておくべきである。この辺は三角関数にからむ公式をどこまで覚えるかと いう話と似ている。確実に覚えておける公式 (それは人によって異なる20) から、他の公式をどうやっ て導くかを体得するのが望ましい。
∞ をモノに格上げしよう
前項に出て来る ∞ は独立した意味を持つモノではない(∞ 単独で出て来るわけでなくて、必ず
“→ ∞”あるいは lim =の右辺という形で現れ、それは絶対値が+∞ に近付くという意味であった)。
∞を新しい点 (∞ ∈C) として、Cにそれをつけ加えて拡張したものをCb あるいはP1 と書く: Cb =P1 =P1(C) :=C∪ {∞}.
(これ(特に P1(C) と書いたとき) は、1次元複素射影空間と呼ばれるものであるが、ここでは後で正 式に紹介する「リーマン球」と呼び名を使うことを推奨する。)
20筆者の場合は、sin, cosの加法定理は高校生のとき以来正確に覚えていられるようなので (ちなみにtanは ダメです)、いつもそこからスタートするが、人によっては、オイラーの公式eiθ = cosθ+isinθ (と指数法則) や、原点のまわりの回転を表す行列
(cosθ −sinθ sinθ cosθ
)
(と行列の積の定義) からスタートするかもしれない。一
方もっとたくさんの公式を苦労なく覚えておける、という人もいるだろう。
∞ の四則 limと「合う」ように次のように定めることがある。
∀a∈C a+∞=∞+a=∞.
∀b∈C\ {0} b· ∞=∞ ·b=∞.
∞ · ∞=∞.
∀a∈C\ {0} a 0 =∞.
∀b∈C b
∞ = 0.
しかし、∞+∞や 0· ∞, 0 0, ∞
∞ は定義しない。
Cb =C∪ {∞} は体ではなく、移項や消去などは気軽に出来ない。
何の役に立つ?例えば1 次分数変換 f(z) = az+b
cz+d (a,b,c,dは ad−bc̸= 0 を満たす複素数の定数)
は、Cの範囲で考えると、定義できない点もあるし、結構煩わしいことが起きる。f:Cb →Cb が、全 単射かつ両連続になるように出来る。
例 4.5.3 f(z) = z+ 2
3z+ 4 は、“普通に”考えると、z̸=−4
3 に対して定義できる。つまりf:C\ {
−4 3
}
→ Cである。これは単射(z1 ̸=z2 =⇒ f(z1)̸=f(z2))であるが、全射ではない。実際、f(z) = 1
3 を 満たす z は存在しない( z+ 2
3z+ 4 = 1
3 は 3(z+ 2) = 3z+ 4と同値で、これは解を持たないことは明ら か)。ところで
zlim→∞f(z) = lim
z→∞
1 + 2/z 3 + 4/z = 1
3, lim
z̸=−4/3 z→−4/3
f(z) =∞ であることに注目しよう。そこで
fe(z) :=
z+ 2
3z+ 4 (z∈C\ {
−4 3
} )
∞ (z=−4 3) 1
3 (z=∞)
とおくと、fe:Cb →Cb で、feは全単射になる。また
z→−lim4/3
fe(z) =fe (
−4 3
)
, lim
z→∞fe(z) =fe(∞)
であるので、後で Cb に(このlimと整合する) 位相を定めると feは連続になる。実はfe−1 も同様の1 次変換になるので連続で、fe:Cb →Cb は同相写像になる。
幾何学的イメージ — リーマン球面
S :={(x1, x2, x3)∈R3;x21+x22+x23 = 1}, N := (0,0,1)
とおく。また x1x2 平面 (x3= 0) をH で表し、複素平面Cと同一視する。すなわち (x1, x2,0)∈H にx1+ix2 ∈Cを対応させる。
∀P ∈S\ {N}に対して、N とP を通る直線と、H との交点P′ がただ一つ定まる。P にP′ を対 応させる写像φ:S\ {N} ∋P 7→P′ ∈H =Cを、N からの立体射影 (stereographic projection) と呼ぶ。
P′ = (x, y,0) =x+iy とすると、簡単な計算 (与えられた2点を通る直線と、与えられた平面との 交点を求める計算) により
x= x1 1−x3
, y= x2 1−x3
, x+iy= x1+ix2 1−x3
. 問 このことを確かめよ。
φ:S\{N} →Hは全単射である。このことは幾何学的に考えても明らかであるが、z=φ(x1, x2, x3) が次のように具体的にx1,x2,x3 について解けることからも分かる21。
|z|2= 1 +x3 1−x3
, x3= |z|2−1
|z|2+ 1, x1= z+z
|z|2+ 1, x2 = −i(z−z)
|z|2+ 1 .
φ(北半球) = {z ∈ C;|z| > 1}, φ(赤道) = {z ∈ C;|z| = 1}, φ(南半球) = {z ∈ C;|z| < 1}, φ(南極) = 0 が成り立つ。
このφ:S\ {N} →Cの拡張 φ:S →Cb =C∪ {∞}を φ(N) :=∞
で定義する(拡張した写像を同じ文字φ を用いて表している)。このφ はやはり全単射である。
こうして、Cb =C∪ {∞}と対応づけた球面S のことをリーマン球面(Riemann sphere)と呼ぶ。
もともとP →N のとき、φ(P)→ ∞ であるから、Cb の位相を適切に定義すれば、φはN で連続 となると期待できる。
注意 4.5.1 実は、リーマン球面の定義は、本によって異なる。S はξ2+η2+ (ζ−1/2)2 = (1/2)2 で あるとしたり、南極からの立体射影を用いたり (おっと教科書はこっちでしたか…)、色々なバリエー ションがある。
Cb の位相 良く知られているように、a∈Cとするとき、{D(a;ε)}ε>0 はaの基本近傍系になる。
定義 4.5.1 X を位相空間、a∈X とする。X の部分集合族 U が、aの基本近傍系とは、次の2 条件が成り立つことを言う。
(i) U の任意の元U はaの近傍である(U はaを含むある開集合を含む)。 (ii) (∀V: V はaの近傍) ∃U ∈ U s.t. U ⊂V.
Cに∞ を加えた Cb =C∪ {∞} に位相空間の構造を与えるには、各点の基本近傍系を定めれば良 い(これは一般論からの帰結)。ここでは次のようにする。
21念のため、少し書いておく。x21+x22+x23= 1であるから、|z|2=x2+y2= x21+x22
(1−x3)2 = 1−x23
(1−x3)2 = 1 +x3 1−x3
. これを x3 について解いて、x3 = |z|2−1
|z|2+ 1. これから 1−x3 = 2
|z|2+ 1 が導かれるので、x1 = x(1−x3) = z+z
2 · 2
|z|2+ 1 = z+z
|z|2+ 1. 同様にx2=y(1−x3) =z−z 2i · 2
|z|2+ 1 = −i(z−z)
|z|2+ 1 .
(a) a∈Cに対しては、(Cのときと同様) {D(a;ε)}ε>0 をaの基本近傍系とする。
(b) ∞ に対しては、{UR}R>0 を ∞ の基本近傍系とする。ただし UR := {z ∈ C;|z| > R} ∪ {∞}. (∥∞∥= +∞とみなして、UR={z∈C;b R <|z| ≤+∞}と書いたりする。)
(部分集合族がある位相に関するaの基本近傍系となるための条件というのを書いておく必要がある。
)
すると、複素数aに対して、Cb でaに収束というのは、これまでと同じ意味 (Cでaに収束) で、
Cb で ∞に収束というのは、これまで z→ ∞(無限大に発散) と言ってきたことに相当する。
例 4.5.1 f(z) = 1
z は、z= 0 で連続である。実際、上の規約によりf(0) = 1 0 =∞, limz̸=0
z→0
f(z) =∞ であるから、lim
z→0f(z) =f(0) が成り立つ。同様にf はz=∞ でも連続である。
Cb =C∪ {∞} は、次式で定義される dを距離として距離空間になる: (4.28) d(z, z′) :=φ−1(z)−φ−1(z′)= √ 2|z−z′|
(1 +|z|2) (1 +|z′|2) (z, z′∈Cの場合).
これは要するに、リーマン球面 S をR3 の部分距離空間として考えていることになる。この距離から 定まる Cb の位相は、上の基本近傍系の定める位相と同じであることが分かる (証明は略する)。