第 3 章 剛性を持つ無質量粒子のツイスター形式 33
3.7 補遺
3.7.2 無質量粒子のツイスター量子化
ここでは,ツイスター変数で表現された作用積分(3.5.4)に基づく正準形式を展 開し,その後,無質量粒子の正準量子化を行う.
正準形式
作用積分(3.5.4)から,ツイスター変数で表現されたヘリシティーkを持つ無質
量粒子のラグランジアンは L= i
2
,Z¯AZ˙A−ZAZ˙¯A
-+e"Z¯AZA−2k#
. (3.7.2)
と与えられる.この節では,ラグランジアン(3.7.2)に基づく正準形式を展開する.
ラグランジアン(3.7.2)における一般化座標は(ZA,Z¯A, e)であり,これらに対応 する一般化速度は( ˙ZA,Z˙¯A,e)˙ である.このとき,ラグランジアン(3.7.2)から導か
れる正準運動量は次式となる:
PA:= ∂L
∂Z˙A = i
2Z¯A, (3.7.3a)
P¯A:= ∂L
∂Z˙¯A
=−i
2ZA, (3.7.3b)
P(e) := ∂L
∂e˙ = 0, (3.7.3c)
式(3.7.3)と式(3.7.2)を用いると,正準ハミルトニアンHCは HC := ˙ZAPA+ ˙¯ZAP¯A+ ˙eP(e)−L=−e"Z¯AZA−2k#
(3.7.4) と与えられる.いま,正準座標(ZA,Z¯A, e)とそれに対応する正準運動量(PA,P¯A, P(e)) を用いて,ポアソン括弧を次のように定義する:
{A, B}:=
&
∂A
∂ZA
∂B
∂PA − ∂A
∂PA
∂B
∂ZA '
+
&
∂A
∂Z¯A
∂B
∂P¯A − ∂A
∂P¯A
∂B
∂Z¯A
'
+
&
∂A
∂e
∂B
∂P(e) − ∂A
∂P(e)
∂B
∂e '
. (3.7.5)
式(3.7.5)から,正準座標と正準運動量の間のポアソン括弧は次のようになる:
)ZA, PB
+=δAB, )Z¯A,P¯B+
=δAB, (3.7.6a)
)e, P(e)+
= 1. (3.7.6b)
正準座標と正準運動量の間のその他のポアソン括弧は0になる.
式(3.7.3)から,第一次拘束条件は次のようになることがわかる:
φA :=PA− i
2Z¯A≈0, (3.7.7a)
φ¯A := ¯PA+ i
2ZA ≈0, (3.7.7b)
φ(e) :=P(e)≈0. (3.7.7c)
ここで,≈は弱い等号を表している.これ以降,φA,φ¯A,φ(e) を一次の拘束量と呼 ぶ.ここからDiracによる特異系の正準形式を展開する方法 [54–56]に従って,ラ グランジアン(3.7.2)に基づく正準形式を展開していく.そのためにまず式(3.7.6) を用いて一次の拘束量の間のポアソン括弧を計算すると,
)φA,φ¯B+
=−iδBA (3.7.8)
が得られる.一次の拘束量の間のその他のポアソン括弧は0となる.また,一次 の拘束量と正準ハミルトニアン(3.7.4)の間のポアソン括弧は次のようになる:
{φA, HC}=eZ¯A, (3.7.9a) )φ¯A, HC
+ =eZA, (3.7.9b)
)φ(e), HC
+ = ¯ZAZA−2k . (3.7.9c) いま,正準ハミルトニアン(3.7.4)と一次の拘束量(3.7.7)から全ハミルトニアンを HT :=HC+uAφA+ ¯uAφ¯A+u(e)φ(e) (3.7.10) と定義する.ここで,uA,u¯A, u(e) はそれぞれの拘束条件に対応するラグランジュ 未定係数であり,一般にパラメーターτ に依存する.正準変数の関数Fに対する 時間発展の方程式は,全ハミルトニアン(3.7.10)を用いて,
F˙ ={F, HT} (3.7.11)
と与えられる.式(3.7.11)とポアソン括弧の結果(3.7.8)と(3.7.9)を用いると,一 次の拘束量に対する時間発展は次のように求まる:
φ˙A={φA, HT}≈eZ¯A−i¯uA, (3.7.12a) φ˙¯A=)φ¯A, HT
+ ≈eZA+iuA, (3.7.12b) φ˙(e) =)
φ(e), HT
+ ≈Z¯AZA−2k . (3.7.12c)
さらに式(3.7.12)は,一次の拘束量が時間発展で変化しないという要請(整合性の
条件)から,次のように書かれる:
φ˙A =eZ¯A−i¯uA≈0, (3.7.13a) φ˙¯A =eZA+iuA≈0, (3.7.13b) φ˙(e) = ¯ZAZA−2k ≈0. (3.7.13c) 式(3.7.13)に対しては次の2つの場合が考えられる: (1)ラグランジュ未定係数uを 決める場合,(2)ラグランジュ未定係数uを含まず新たな拘束条件を決める場合.
式(3.7.13a)と式(3.7.13b)は(1)の場合になっていて,¯uAとuAは
¯
uA =−ieZ¯A, (3.7.14a)
uA =ieZA (3.7.14b)
と定まる.式(3.7.13c)は(2)の場合になっていて,
Z¯AZA−2k= 0 (3.7.15)
が成り立つことがわかる.したがって,最後まで定まらないラグランジュ未定係 数はu(e)である.このことは,式(3.7.13c)が第一類拘束条件であることを示唆し ている.
式(3.7.15)から,第二次拘束条件は
χ(e) := ¯ZAZA−2k≈0 (3.7.16) と与えられる.これ以降,χ(e)を二次の拘束量と呼ぶ.二次の拘束量χ(e)と一次の 拘束量の間のポアソン括弧は,次のように得られる:
)χ(e),φA+
= ¯ZA, (3.7.17a)
)χ(e),φ¯A+
=ZA. (3.7.17b)
二次の拘束量χ(e)と一次の拘束量の間のその他のポアソン括弧は0となる.また,
二次の拘束量χ(e)と正準ハミルトニアン(3.7.4)とのポアソン括弧は )χ(e), HC
+ = 0 (3.7.18)
となる.いま,χ(e)の時間発展は,式(3.7.11),式(3.7.17),式(3.7.18)を用いると,
˙
χ(e) =)
χ(e), HT
+ ≈uAZ¯A+ ¯uAZA (3.7.19) と求まる.式(3.7.19)から,式(3.7.14a)と式(3.7.14b)を用いて,ラグランジュ未 定係数uA,u¯Aを消去すると,χ˙(e)は
˙
χ(e) ≈0 (3.7.20)
となる.この式は,χ˙(e)が恒等的に0となり式(3.7.19)から新たな拘束条件が現れ ないことを意味している.以上のことから,ラグランジアン(3.7.2)から得られる 拘束条件をすべて導くことができた.
すべての拘束量間のポアソン括弧を計算して,式(3.7.8)と式(3.7.17)が得られ た.しかしながら,これらの結果を基に拘束条件を第一類拘束条件か第二類拘束 条件かに分類することは難しい.そこで,拘束量間のポアソン括弧がより簡単に なるように,次の一次結合を考える [61]:
˜
χ(e) :=χ(e)+iZ¯Aφ¯A−iφAZA. (3.7.21)
このとき,新しい拘束条件の全体"
φA,φ¯A,φ(e),χ˜(e)#
≈ 0 は元の拘束条件の全体
"
φA,φ¯A,φ(e),χ(e)#
≈ 0 に等しいので,式(3.7.21)はχ(e) ≈ 0に代わる拘束条件と して採用される.新しい拘束量の間のポアソン括弧は,
)φA,φ¯B+
=−iδAB, (3.7.22)
を除いてすべて0になることを示すことができる.こうして,˜χ(e)を用いて拘束量 間のポアソン括弧を簡単にすることができたので,拘束量間のポアソン括弧を行 列にまとめると次のようになる:
φB φ¯B φ(e) χ˜(e) φA 0 −iδBA 0 0 φ¯A iδAB 0 0 0
φ(e) 0 0 0 0
˜
χ(e) 0 0 0 0
. (3.7.23)
この行列から,φ(e) ≈ 0, χ˜(e) ≈ 0 は第一類拘束条件に分類され,一方,φA ≈ 0, φ¯A≈0 は第二類拘束条件に分類される.
ここで,ディラックの方法に従って,第二類拘束条件を処理できるように,ディ ラック括弧を定義する.まず,第二類拘束条件からなる行列Cを行列(3.7.23)の 部分行列として次のように与える:
C =
. 0 −iδBA iδBA 0
/
. (3.7.24)
この行列Cには逆行列C−1が存在して,C−1はCに等しいことがわかる.このこ とより,正準変数の任意関数FとGに対するディラック括弧は次のように定義さ れる:
{F,G}D :={F,G}+i{F,φA})φ¯A,G+
−i)
F,φ¯A+
{φA,G} . (3.7.25) 第二類拘束条件はすべて,このディラック括弧を用いる限り,強い等号(=)で0に おくことができる: φA= 0, φ¯A= 0.この第二類拘束条件から次の式が導かれる:
PA = i
2Z¯A, P¯A=−i
2ZA, (3.7.26a)
したがって,PA, P¯Aは式(3.7.26)によって定まる従属変数で,残りのZ¯A, ZA, e, P(e) は独立な正準変数であることがわかる.正準変数Z¯A, ZA, e, P(e) の間のディ ラック括弧は,式(3.7.25)と式(3.7.6)を用いると,次のよう求まる:
)ZA,Z¯B+
D=−iδAB, (3.7.27a)
)ZA, ZB+
D= 0, )Z¯A,Z¯B
+
D= 0, (3.7.27b) )e, P(e)+
D= 1. (3.7.27c)
正準変数間のその他のディラック括弧は0となる.また,第二類拘束条件はすべて 強い等号(=)で0になるので,式(3.7.21)はχ˜(e) =χ(e)に帰着する.したがって,
第一類拘束条件は次のようになる:
φ(e) ≈0, (3.7.28a)
χ(e) ≈0. (3.7.28b)
正準量子化
ここでは,ディラック括弧(3.7.27)を基に無質量粒子の正準量子化を実行する.
量子力学に移行するために,関数FとGをそれぞれ対応する演算子FˆとGˆに置 き換えて正準交換関係
[ ˆF,Gˆ] =i{F",G}D (3.7.29) を設定する.ここで,{F",G}Dはディラック括弧{F,G}Dに対応する演算子を表し ている.式(3.7.29)と式(3.7.27)から,次の正準交換関係が定まる:
8ZˆA,Zˆ¯B
9=δBA, (3.7.30a)
8ZˆA,ZˆB9
= 0, 8
Zˆ¯A,Zˆ¯B
9
= 0, (3.7.30b)
8 ˆ e,Pˆ(e)9
=i . (3.7.30c)
正準変数間のその他の正準交換関係は0である.式(3.7.30a)と式(3.7.30b)の正準 交換関係は,いわゆるツイスター量子化 [41, 42, 45, 46]に一致している.
量子化の手続きにおいて,第一類拘束条件(3.7.28)は,第一類の拘束量を対応す る演算子に置き換えた後,物理的状態|F(を定義する条件式として読み替えるこ
とで処理される:
φˆ(e)|F(= ˆP(e)|F(= 0, (3.7.31a) ˆ
χ(e)|F(=
@1 2
,ZˆAZˆ¯A+ ˆ¯ZAZˆA
-−2k A
|F(
=,
ZˆAZˆ¯A−2k−2
-|F(= 0, (3.7.31b) ここで,χˆ(e)に関してはワイル順序(Weyl order)がとられていて,その後,交換 関係(3.7.30a)を用いて簡潔な形に書き換えられている.演算子φˆ(e)とχˆ(e)は互い に可換である.このため,物理的状態|F(は演算子φˆ(e)とχˆ(e)の同時固有状態で あり,さらなる条件式は発生しないことが言える.
いま,ブラベクター)Z, e|を
)Z, e|:=)0|exp,
−ZˆAZˆ¯A+iePˆ(e)
-(3.7.32) と定義する.ただし,)0|は
)0|ZˆA=)0|ˆe= 0 (3.7.33) を満たすとする.さて,交換関係(3.7.30)を用いると,次の式が求まる:
)Z, e|ZˆA=ZA)Z, e|, (3.7.34a) )Z, e|ˆe=e)Ze|. (3.7.34b) 式(3.7.34a)は
)Z, e|ωˆα =ωα)Z, e|, (3.7.35a) )Z, e|πˆα˙ =πα˙)Z, e| (3.7.35b) と分けて表すこともできる.また,次の式もすぐに求まる:
)Z, e|Zˆ¯A=− ∂
∂ZA)Z, e|, (3.7.36a) )Z, e|Pˆ(e)=−i ∂
∂e)Z, e|. (3.7.36b)
式(3.7.36a)もまた
)Z, e|πˆ¯α =− ∂
∂ωα)Z, e|, (3.7.37a) )Z, e|ωˆ¯α˙ =− ∂
∂πα˙)Z, e| (3.7.37b)
と分けて表すことができる.式(3.7.31a)–(3.7.31b)のそれぞれに左から)Z, e|を乗 じ,式(3.7.34)–(3.7.37)を用いると,関数F(Z, e) :=)Z, e|F(に対する連立微分方 程式が次のように得られる:
∂
∂eF = 0, (3.7.38a)
&
−ZA ∂
∂ZA −2k−2 '
F = 0. (3.7.38b)
式(3.7.38a)は,関数F がeに依らないことを示している.したがって,関数F は
ツイスター変数ZAのみに依存した関数になり,F =F(ZA)と表せる.このよう なZAの正則関数はツイスター関数と呼ばれている.また,式(3.7.38b)は,ツイ スター関数F(ZA)がZAについて次数−2k−2の斉次関数であることを示してい る.いま,ツイスター関数F は量子論における波動関数に相当しており,F に1 価性を課すことは自然である.実際にこの条件を課すと,次数−2k−2は整数で なければならないので,ヘリシティーkの値は整数値または半整数値に制限され る.これ以降,次数−2k−2のツイスター関数をFkと表す.
ペンローズ変換
ここでは,ツイスター関数Fk(Z)のペンローズ変換を行い,一般化されたワイ ル方程式を満たすスピナー場を求める.
まず,p+q階のスピナー場Ψα1...αp; ˙α1...α˙qを得るために,ツイスター関数Fk(Z) のペンローズ変換
Ψα1...αp; ˙α1...α˙q(x) = 1 (2πi)2
<
Σ
πα˙1· · ·πα˙q
∂
∂ωα1 · · · ∂
∂ωαpFk(Z)d2π (3.7.39) を考える.ここで,積分測度d2π:=dπ˙0∧dπ˙1 を定義した.式(3.7.39)は,ミンコ フスキー空間M上のp+q階のスピナー場である.今後Ψα1...αp; ˙α1...α˙q をΨと略記 する場合もある.式(3.7.39)は適切な積分路Σに沿って周回積分を行うことを表 していて,その積分はπ˙0, π˙1 に関する2重の周回積分である.
さて,適切な積分路Σに沿って,式(3.7.39)における積分を実行する.すると,
この積分は,Fk(Z)がZAについて次数−2k−2の斉次関数であることから,
k = 1
2(q−p) (3.7.40)
のときだけ0にならないことを示すことができる.式(3.7.40)は,ヘリシティーk とスピナー場Ψ の階数p+qの間に成り立つ関係式である.
スピナー場Ψ は一般化されたワイル方程式を満たしていることを示す.いま,
∂
∂xββ˙
Fk(Z) = 9βα9β˙α˙ ∂ωγ
∂xαα˙
∂
∂ωγFk(Z) =iπβ˙9βγ ∂
∂ωγFk(Z) (3.7.41) と計算できる.式(3.7.41)と式(3.7.39)を用いると,Ψのxββ˙に関する微分が次の ように求まる:
∂
∂xββ˙
Ψα1...αp; ˙α1...α˙q(x)
= 1
(2πi)2
<
Σ
πα˙1· · ·πα˙q ∂
∂ωα1 · · · ∂
∂ωαp
∂
∂xββ˙
Fk(Z)d2π
= i
(2πi)2
<
Σ
πα˙1πβ˙πα˙2· · ·πα˙q
∂
∂ωα2 · · · ∂
∂ωαp9βγ ∂
∂ωα1
∂
∂ωγFk(Z)d2π. (3.7.42) 式(3.7.42)において,添字β˙とα˙1の縮約をとり2成分スピナーの性質πβ˙πβ˙ = 0を 用いると,次の式が導かれる:
∂
∂xββ˙
Ψα1...αp; ˙βα˙2...α˙q(x) = 0. (3.7.43) 同様に,式(3.7.42)において,添字βとα1の縮約をとり
9βγ ∂
∂ωβ
∂
∂ωγFk(Z) = 0 (3.7.44)
が成り立つことを用いると,次の式が得られる:
∂
∂xββ˙
Ψβα2...αp; ˙α1...α˙q(x) = 0. (3.7.45)
式(3.7.43)と式(3.7.45)は,スピナー場Ψが一般化されたワイル方程式を満たして
いることを意味している.いま,式(3.7.43)と式(3.7.45)および
∂
∂xαβ˙
∂
∂xββ˙
= 1 2δαβ ∂
∂xγγ˙
∂
∂xγγ˙
(3.7.46) が成り立つことを用いると,クライン・ゴルドン方程式
∂
∂xββ˙
∂
∂xββ˙
Ψα1...αp; ˙α1...α˙q(x) = 0 (3.7.47) が得られる.この式は,スピナー場Ψ が無質量場であることを示している.した がって,p+q階の無質量スピナー場Ψをペンローズ変換(3.7.39)として求めるこ とができた.