第 5 章 ローレンツ・ディラック方程式のラグランジュ形式 111
5.4 減衰項を持つラグランジアン
この節では,第5.2節での議論を考慮し,第5.3節で導入した力学変数を用いて,
ローレンツ・ディラック方程式を与えるラグランジアンを構成する.その後,実際 にそのラグランジアンからローレンツ・ディラック方程式が導かれることを示す.
力学変数としてxµ, qµi,λiµ,ξµを採用し,次のラグランジアンを与える:
LD= e−kl (q21q22)1/4
$1 2
&
˙ q21⊥
q12 −q˙2⊥2 q22
'
−λ1µ(qµ1 −x˙µ) +λ2µ(q2µ−x˙µ) +ξµ(q1µ−q2µ)− 3
2eFµν(x)qµ1q2ν
%
. (5.4.1)
ここで,k := 3m/2e2,q˙i2⊥ := ˙qi⊥µq˙µi⊥である.また,Fµν(= −Fνµ)は外部電磁場 を表している.ラグランジアン(5.4.1)には,第5.2節での議論が考慮され,q˙2i⊥/qi2 が含まれている.式(5.4.1)における固有時lはτの関数として
l(τ) =
! τ τ0
d˜τ
;
˙
xµ(˜τ) ˙xµ(˜τ) (5.4.2) と表すことができる.この式のxµ(˜τ)は,後で得られるxµに関する運動方程式の 解である.したがって,xµ(˜τ)は,作用積分
SD=
! τ1
τ0
dτLD (5.4.3)
の変分に対して変化するような力学変数ではない.いま,ラグランジアンLDは減 衰因子e−klを通してパラメーターτにあらわに依存している.固有時lは幾何学 的には粒子が描く世界線の長さを表しているので,lはパラメーターの付け替えの もとで不変である4.このことと変換則(5.3.2),(5.3.3),(5.3.4),(5.3.5),(5.3.7) を用いると,作用積分SDはパラメーターの付け替えのもとで不変であることを示 すことができる.また,ラグランジアンLDはゲージ変換
λ1µ →λ!1µ=λ1µ+θµ, λ2µ →λ!2µ =λ2µ+θµ, ξµ →ξµ! =ξµ+θµ (5.4.4) のもとで不変であることを示すことができる.ここで,θµ = θµ(τ)は実ゲージ関 数である.さらに,ラグランジアンLDは
LD(q1µ,q˙1µ,λ1µ;q2µ,q˙2µ,λ2µ) =−LD(q2µ,q˙2µ,λ2µ;qµ1,q˙1µ,λ1µ) (5.4.5) という反対称性を持つ関数である.
ラグランジアンLDの各力学変数に関するオイラー・ラグランジュ方程式を導出 するために
Ki := q˙i2⊥
qi2 = q2iq˙i2−(qiq˙i)2
(qi2)2 (5.4.6)
を定義し,ラグランジアン(5.4.1)を LD= e−kl
(q12q22)1/4
$1
2(K1−K2)
−λ1µ(qµ1 −x˙µ) +λ2µ(q2µ−x˙µ) +ξµ(q1µ−q2µ)− 3
2eFµν(x)qµ1q2ν
%
(5.4.7)
4固有時l(τ)は,厳密にはτだけでなくτ0とxµの関数であり,l(τ,τ0;xµ)と表すべきである.
したがって,l(τ)のパラメーターの付け替えのもとでの不変性は,正確に書くと,次のようになる:
l(τ",τ0";x"µ) =l(τ,τ0;xµ).
と書き換える.まず,xµに関するオイラー・ラグランジュ方程式を求める.先に 述べたように,固有時l(τ)の中に含まれているxµ(˜τ)は変分に対して変化するよ うな力学変数ではないので,l(τ)は変分に対して不変である.このことに注意す ると,xµに関するオイラー・ラグランジュ方程式は
d dτ
G e−kl
(q12q22)1/4 (λ1µ−λ2µ) H
+ 3e−kl
2e(q21q22)1/4∂µFνρ(x)q1νq2ρ= 0 (5.4.8) と求まる.式(5.4.8)にはラグランジアンLDが持つゲージ不変性に伴って,ゲー ジ不変な量λ1µ−λ2µが含まれている.このため,λ1µとλ2µは一意的に定まらな い.次に,q1µに関するオイラー・ラグランジュ方程式は
e−kl (q12q22)1/4
$1 2
&
d dτ
∂K1
∂q˙1µ − ∂K1
∂qµ1 '
+λ1µ−ξµ+ 3
2eFµν(x)q2ν
%
+ . d
dτ
e−kl (q21q22)1/4
/1 2
∂K1
∂q˙1µ + q1µ
2q21LD = 0 (5.4.9)
となる.式(5.4.9)を部分ごとに計算すると次の式が得られる:
1 2
∂K1
∂q˙1µ = q˙1⊥µ q12 = 1
:q12 d dτ
q1µ
:q21 , (5.4.10)
d dτ
∂K1
∂q˙1µ −∂K1
∂q1µ = 2 q21
&
¨
q1⊥µ− 2q1q˙1
q21 q˙1⊥µ
'
, (5.4.11)
d dτ
1
(q21q22)1/4 =− 1 2 (q12q22)1/4
&
q1q˙1
q21 + q2q˙2
q22 '
. (5.4.12)
式(5.4.10)–(5.4.12)を式(5.4.9)に代入すると,式(5.4.9)は次のようになる:
kdl dτ
:1 q12
d dτ
q1µ
:q12 = 3
2eFµν(x)q2ν +(q21q22)1/4q1µ
2q21e−kl LD
+q¨1⊥µ
q12 −
&
5q1q˙1
q12 + q2q˙2
q22
'q˙1⊥µ
2q12 +λ1µ−ξµ. (5.4.13) ここで,q¨1⊥µとq¨2⊥µを
¨
qi⊥µ:= ¨qiµ−qiµ
qiq¨i
qi2 (5.4.14)
と定義した.また,¨qiµ:=d2qiµ/dτ2, qiq¨i :=qiµq¨µi である(添字iについては和をと らない).式(5.4.13)を得たのと同様の手順を行うことで,qµ2 に関するオイラー・
ラグランジュ方程式は kdl
dτ :1
q22 d dτ
q2µ :q22 = 3
2eFµν(x)q1ν −(q12q22)1/4q2µ 2q22e−kl LD +q¨2⊥µ
q22 −
&
q1q˙1
q12 +5q2q˙2
q22
'q˙2⊥µ
2q22 +λ2µ−ξµ (5.4.15) と求まる.さらに,λ1µ, λ2µ, ξµに関するオイラー・ラグランジュ方程式はそれぞ れ次のようになる:
q1µ= ˙xµ, (5.4.16)
q2µ= ˙xµ, (5.4.17)
q1µ=q2µ. (5.4.18)
式(5.4.18)は,式(5.4.16)と式(5.4.17)からも求められる.
式(5.4.16)と式(5.4.17)を式(5.4.13)に代入し,
LD(qµ1,q˙1µ,λ1µ;qµ2,q˙2µ,λ2µ) = LD( ˙xµ,x¨µ,λ1µ; ˙xµ,x¨µ,λ2µ) = 0 (5.4.19) が成り立つことを用いると,
kdl dτ
√1
˙ x2
d dτ
˙ xµ
√x˙2 = 3
2eFµν(x) ˙xν+ ...xµ⊥
˙
x2 − 3( ˙x¨x)¨xµ⊥
( ˙x2)2 +λµ1 −ξµ (5.4.20) が得られる.同様に,式(5.4.16)と式(5.4.17)を式(5.4.15)に代入し,式(5.4.19) を用いると,
kdl dτ
√1
˙ x2
d dτ
˙ xµ
√x˙2 = 3
2eFµν(x) ˙xν+ ...xµ⊥
˙
x2 − 3( ˙x¨x)¨xµ⊥
( ˙x2)2 +λµ2 −ξµ (5.4.21) が求まる.式(5.4.21)と式(5.4.20)を比較すると,
λµ1 =λµ2 (5.4.22)
が導かれる.式(5.4.22)はゲージ変換(5.4.4)に対して共変的である.式(5.4.22)
から,式(5.4.8)は恒等的に満たされることがわかる.なぜなら,式(5.4.16)と式
(5.4.17)を用いると,∂µFνρ(x)qν1qρ2 =∂µFνρ(x) ˙xνx˙ρ= 0 が計算できるからである.
いま,式(5.4.22)を考慮して,λµ1 とλµ2 をλµと書くと,式(5.4.20)と式(5.4.21)は 次の1つの式に帰着する:
kdl dτ
√1
˙ x2
d dτ
˙ xµ
√x˙2 = 3
2eFµν(x) ˙xν + ...xµ⊥
˙
x2 − 3( ˙x¨x)¨xµ⊥
( ˙x2)2 +Λµ. (5.4.23)
ここで,Λµ:=λµ−ξµを定義した.このΛµは,明らかに,ゲージ変換(5.4.4)のも とで不変である.式(5.4.23)は,式(5.4.2)の下で述べたxµについての運動方程式 である.固有時lの中のxµは式(5.4.23)の解に等しいので,式(5.4.2)のτ微分は
dl(τ) dτ =
;
˙
xµ(τ) ˙xµ(τ) (5.4.24) と求まる.式(5.4.24)を式(5.4.23)に代入し,k = 3m/2e2を代入すると,
m d dτ
˙ xµ
√x˙2 =eFµν(x) ˙xν + 2 3e2
&...
xµ⊥
˙
x2 − 3( ˙x¨x)¨xµ⊥ ( ˙x2)2
' + 2
3e2Λµ (5.4.25) が得られる.この式は,ローレンツ・ディラック方程式にソース項2e2Λµ/3を加 えた式になっている.実際に式(5.4.25)でΛµ= 0とおくと,その式は世界線上の 任意のパラメーターτ を用いて書かれたローレンツ・ディラック方程式そのもの であることがわかる(式(5.7.8)参照).このことより,式(5.4.25)をソース項を持 つローレンツ・ディラック方程式と呼ぶことができる.このようにして,ラグラ ンジアンLDからソース項を持つローレンツ・ディラック方程式が導出された.
いま,固有時ゲージτ = lを採用する.すると,x˙µ =uµ,x˙2 = 1, x¨˙x = 0 が成 り立つので,式(5.4.25)は
mduµ
dl =eFµν(x)uν + 2
3e2(δµν −uµuν)d2uν dl2 + 2
3e2Λµ (5.4.26) となる.この式は(本来の)ローレンツ・ディラック方程式(5.1.2)にソース項2e2Λµ/3 を加えた式である.