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図5.3 中国東北地域の高速道路網(2016年現在)

出所:衛星地図(http://316e.com/gaosu/)をもとに加筆. アクセス日:2018年8月19日.

第Ⅱ節 一帯一路構想と経済回廊

この小節では、まず、中国政府が推進している一帯一路構想の概要とその背景について 明らかにし、その「一帯」に含まれている六大経済回廊について概観する。次に、東北地 域の交通インフラと関連して中・モ・ロ経済回廊について検討する。

5.2.1 一帯一路構想とその背景

(1) 一帯一路構想

中国は2013年以来、広域経済圏構想として一帯一路戦略を示し、その構築を進めてきた。

この構想は、2015年3月、国家発展改革委員会(NDRC)、外交部、商務部が共同で「シルク ロ-ド経済ベルトと21世紀の海上シルクロ-ドの共同建設推進のビジョンと行動」(以下:

「行動計画」)を公表したことにより具体化された134。一帯一路構想とは、中国と中央アジ

134 国家发展改革委・外交部・商务部(http://www.ndrc.gov.cn/gzdt/201503/t20150328_669091.html) アクセス日:2018918日.

1級物流拠点 2級物流拠点

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ア、南アジア、西アジア、東南アジア、中東、欧州とを陸路と海路で繋げて一大経済圏を 構築しようとする壮大な構想である。自ら主導してアジア諸国をインフラや貿易・投資で つなぎ、各国の経済発展を促そうとするものである。

「行動計画」の第4節では1)各国政府との政策面での意思疎通(政策沟通)、2)インフラ整 備と連携(设施联通)、3)貿易の円滑化(贸易畅通)、4)資金の融通(资金融通)、5)民間交流、

といった五つの重点協力分野が提示されている。そのうち、2)インフラの整備と連携では、

当該分野が一帯一路のなかでの最優先分野であると明言されていた。その内容をみると、

一帯一路の一環として沿線都市や主要港を中心とした効率的なネットワ-クを作り、未開 発区間やボトルネックの解消、陸・海上複合輸送路確保のための建設加速に注力するとい う。これには基盤施設の連携に加え、鉄道、高速道路、通信、石油、天然ガスのパイプラ イン、港湾も含まれており、結果的には、アジアの沿線地域とアジアのその他地域、ヨ-

ロッパ、アフリカを接続するインフラを構築する意図としてみることができる。

表5.4 一帯一路における地域別沿線国家

出所:新华丝路(http://silkroad.news.cn/2017/1225/76186.shtml). アクセス日:2018年8月27日.

「行動計画」に基づいて、一帯一路のいくつかの特徴を以下のようにまとめることがで きる。まず、協力の範囲と事業対象地域等に制限を設けておらず、開放協力の原則が強調 されている。このことは、すべての国が一帯一路のプロジェクトへの参加が可能であるこ とを意味している。そのため、地域的範囲を限定することは容易ではないと思われる。し かし、表5.4が示すように一帯一路の沿線国として一般的には67ヵ国をあげられる。ただ、

一帯一路の協力原則からすると、必ずしもこの67ヵ国に限定されるものではなく、一帯一

地域 国家

北東アジア(1) モンゴル

ASEAN(12) シンガポール、マレーシア、インドネシア、ミャンマー、タイ、ラオス、カンボジア、ベトナム、ブル

ネイ、フィリピン 西アジア(18)

イラン、イラク、トルコ、シリア、ヨルダン、レバノン、イスラエル、パレスチナ、サウジアラビア、

イエメン、オマーン、UAE、カタール、クウェート、バーレーン、ギリシャ、キプロス、エジプトのシ ナイ半島

南アジア(8) インド、パキスタン、バングラデシュ、アフガニスタン、スリランカ、モルディブ、ネパール、ブータ ン

中央アジア(5) カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、タジキスタン、キルギスタン 独立国家共同体

(7) ロシア、ウクライナ、ベラルーシ、グルジア、アゼルバイジャン、アルメニア、モルドバ 中・東欧(16)

ポーランド、リトアニア、エストニア、ラトビア、チェコ、スロバキア、ハンガリー、スロベニア、ク ロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モンテネグロ、セルビア、アルバニア、ルーマニア、ブルガリ ア、マケドニア

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路構想に含まれるすべての国が今後の協力対象国となるとみることができる。しかも、一 帯一路構想の進捗状況によっては関連国の数も流動的になるとみられ、陸・海上ルートの 拠点地域と重点協力国も限定されていない特徴がある。従って、今後の関連沿線国はさら に拡大するとみられ、中国政府の計画通りに一帯一路の関連プロジェクトが進行されれば

「世界最長の経済回廊」となると同時に、発展する可能性が最も高い経済圏が形成される とみられる。

(2) 一帯一路構想の背景と国際社会

では、なぜ一帯一路の構想が提起されたのか。またその構想の推進に伴い、国際社会か らはどのような点が指摘されているのか。

第一に、構想の背景に挙げられるのが、景気対策と成長戦略としての一帯一路である。

伊藤(2015)によれば、中国は鉄鋼をはじめとする過剰生産能力と過剰な外貨準備高への対 応という「二つの過剰」に直面しており、一帯一路による海外での紐つきのインフラ建設 でこの「二つの過剰」を解消しようとする狙いがみられる135

第二に指摘された構想の背景は、地域格差問題である。近年、中国ではこれまでの目覚 ましい経済成長による副作用ともいえる様々な問題が目立つようになった。そのなかでも 地域間格差が深刻な問題となっており、同じ地域でも都市と農村では生活水準の格差がみ られる。特に辺境地域は人口も少なく、独自の成長動力も不足しており、成長を遂げるに は中央政府の政策的な取り組みが必要であるとみられる。周辺国とのインフラ連携を通じ て対外開放を進めようとする一帯一路構想は、取り残された国内地域の発展を促進するた めにも有効であろう。

第三の観点は、一帯一路構想は、中国のエネルギー安全保障を強化するために、不可欠 との指摘がみられる136。中国は1970年代から石油輸出国として外貨を獲得してきたが、急 速な経済成長により、1993年から石油の純輸入国となった。今日では石油を輸入に依存し ている。特に、輸入される石油の約8割はマラッカ海峡やロンボク海峡経由の海上輸送で ある。そのため、中国が石油・天然ガス資源が豊富な中央アジアとの関係を強化し、パイ プラインの建設によって陸路による中央アジア諸国からの石油・天然ガスの輸入を増やす ことができれば、輸入元・ルートの多元化と海上輸送のリスクの軽減につながる。中国が 中央アジア諸国でエネルギー関連施設やインフラを建設することは、中国にとってエネル ギー資源の安定供給に直結するものとみられる。

このような国内事情があるなかで、短期的には景気刺激策として一帯一路上の沿線国、

135 伊藤(2015),p.34.

136 渡辺(2015),pp.83-84.

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特に隣接する地域へのインフラ投資を急ぐ必要があるとみられる。リーマンショック以降、

中国政府は高速鉄道や高速道路などのインフラ部門に対して積極的な投資計画を立て、そ れを実行してきているが、すでに飽和状態になりつつある(第Ⅰ節を参照)。これらの国内 の需要不振の問題を解決するには、海外へ市場を拡大することが効果的とみられる。例え ば、雲南省の最南端まで接続された道路と鉄道網は、ミャンマ-に伸びていくことに意味 を持ち、琿春まで到達した高速鉄道はロシアのザルビノ港とウラジオストク港、そして北 朝鮮の羅津港までつなげることでより活性化されるとみられる。後述するが、これらの ルートはいずれもヨーロッパのバルト海まで、そして日本海横断航路を直結するなど、海 外のみならず、上海、寧波といった中国南部地域との国内貿易も活性化されるものとみら れる。

中国は、減速した経済を一帯一路上の沿線国での交通インフラの建設や機械・装置など を提供すること、さらに長期的には新しい貿易ルートを利用したそれらの国々と地域への 製品を輸出することで「二つの過剰」問題などを解消することを目指しているとみられる。

一方で、こうした一帯一路構想に対して、国際社会では一帯一路を中国の戦略的拡張の 一つの手段と見做す人も少なくない。例えば、一帯一路を「中国版マーシャル・プラン」、

開発途上国で展開する「新植民地主義」、中国周辺地域で構築が企図される「新時代」の

「朝貢システム」とみなすことなどである137。実際、中国は一帯一路沿線国とともに、経 済回廊やグリーン・シルクロードなどのプラットフォームを通じて、正の外部経済効果を 有する協力メカニズムの構築を模索しているが、開発途上国にとって、自力では困難なイ ンフラ整備が可能になるという利点もある。しかし、一方では、経常収支の悪化や対外債 務拡大というリスクを抱え込む恐れもある。2017年に中国の融資で港を建設し、返済に窮 したスリランカが、港の使用権を中国国有企業に委譲せざるを得なくなった例もあり、一 帯一路は周辺国への影響力拡大を狙う中国の罠だという指摘が多い。また、その他東南ア ジアでも最近、各地で中国の投資に対する反発が相次いている。ベトナムでは2018年6月、

経済特区の土地を外国企業に貸し出す政府の計画に大規模な抗議デモが起きた。市民は中 国企業への優遇策だと感じ取っている。インドネシアでは中国と進める総工費55億ドルの 首都ジャカルタとバンドンを結ぶ高速鉄道建設が滞ったままとなり、土地収用が進まず、

費用の妥当性に疑問符がついた138。今後、国際社会からの懸念と沿線国の不安などにどう 応えるのか、一帯一路の実践はますます注目されるものとみられる。

137 日経ビジネス(201857日),「一帯一路は中国が世界に提供する公共財だ」

(https://business.nikkei.com/atcl/report/16/111400180/050200004/?P=1), アクセス日:2018 827.

138 日本経済新聞,201872日.