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第 5 章 考察 53

5.1.4 演奏行為の提示と作品構成

演奏行為を観客に見せる目的のひとつは,「今,ここで演奏していること」を示し,演奏によっ て観客に感動を与えることである.電子機器の発達によって,演奏者がどこまで直接演奏してい て,どこまで自動演奏の支援を受けて演奏しているのかわかりにくい状況が生まれた.同じ,サウ ンドや映像が表現されたとしても,システムの支援を受けた演奏は,演奏としての魅力が減少す ることになる.4章6節で取り上げたオートアルペジオは,その一例である.本研究の2つのシス テムは,いずれも全ての発音を直接演奏だけで行っているわけではない.P.S.Playerでは,ターン テーブルが回転することにより,ターンテーブルを操作しなくても一定の音を出すことができる.

しかし,このことは観客に容易に理解できる.MoPHでは,グラフィックオブジェクトが物理シ ミュレーションによって移動し,衝突することにより発音する.しかし,それは映像表現として観 客に示されるとともに,直接グラフィックオブジェクトをタッチした音は持続音を用い,自動的に 発音している音は減衰音を用いて両者が区別できるように設定されている.つまり,MoPHはコ ンピュータによる自動演奏の部分と直接演奏の部分を観客に提示し,演奏による表現をアピールで きるようにデザインされている.

ピアノ,バイオリンといった多くのアコースティック楽器では,指や腕の非常に速い動きによ る 速弾き のように肉体的訓練が必要な演奏行為は,観客の評価を得やすい.一方で,ギターの ハーモニクス奏法,バイオリンの重音などの楽器固有の演奏テクニックが存在する.本研究の場合 は,P.S.Playerにおける複数のOHPによる円盤の中の一枚だけを固定するといった奏法が,それ に相当する.アコースティック楽器の場合でも,こうした楽器固有の演奏テクニックは,音だけを 聞いたのではその楽器をよく知らない観客にとっては理解が困難である.しかしながら,観客はこ れまでのその楽器の演奏と違った行為と,結果として異なる音が出ることで,それがその楽器固有 の奏法であることを知ることができる.同様に,新しいメディアパフォーマンスシステムにおいて システム固有の演奏テクニックを観客に理解してもらうには,そのシステムの特性を観客が理解し ていることが前提となる.そして,システム固有の演奏行為の結果,従来とは異なる映像やサウン ドが得られることによって,その演奏行為が演奏テクニックであることが理解できる.

演奏行為自体は,直接システムのインタフェースへの入力に直接関わる部分だけではない.ピア ノ,ギターなど既存の楽器は,打鍵や撥弦自体の動作とともに,その前後の動作も含めて演奏とし て捉えられる[67].例えば,近年注目を集めているエアギターの演奏は,ギターという楽器自体は 存在せず,音楽にあわせて演奏するまねの演技だけでエンターテインメントとして認知されてい て,発音に直接関係しない動作の重要性を示唆している.メディアパフォーマンスでも,演奏の 前後動作は重要であると考えられる.P.S.Playerの演奏では,驚き盤の操作にターンテーブル操作

5.1. メディアパフォーマンス作品制作と演奏の視点からのデザイン 59 のアクションを加え,MoPHのデモンストレーションでは,iPad用の肩掛けストラップのついた ケースを用いてギターのような演奏形態をとり,発音時にエレキギターのソロ演奏のようにオー バーアクションで演奏した.こうした演出を行ったときの観客の反応から,観客にサウンドと演奏 の関係が理解されていたと考えられる.

Stuartらは,公共のインタラクションにおける観客の体験を,操作(Manipulation)が観客に明

らかであることと,操作によって起こる効果(Effect)の2つの軸を設定して,そのインタラクショ ンが観客にどのような印象を与えるかについて図5.2のように分類している[67].Stuartらは,操

MPIxIPM

◯MoPH

Test Pattern ShowApparition

The Manual Input Sessions

P.S.Player

[Manipulations]

[Ef fects]

amplified

amplified reavealed

hidden partially revealed / hidden, transformed partially revealed /

hidden, transformed

hidden reavealed

MAGICAL EXPRESSIVE

SECRETIVE SUSPENSEFUL

*Guitar Action

図5.2: Designing the spectators’s view[67]の図より引用

作も操作による効果も隠されている状態をSECRETIVE,操作が隠されていて大きな効果が起こ

ることをMAGICAL,操作してもその効果が隠されていてわからない場合をSUSPENSFUL,そ

して操作とその効果が明らかな場合を,EXPRESSIVEと分類している.本研究システムの目標 は,Stuartの分類では,EXPRESSIVEであり.このことは,観客の評価からも達成できたと言 える.また,2章で例に挙げた Test Pattern Show は,観客から演奏の様子が隠されていたの で,左上のMAGICALに分類される.前段落のギターのオーバーアクションの例は,図5.2では 横軸のManipulations(操作)がamplified(増強)されているので,Manipulationsの軸はamplified でEffectsの軸はrevealedに位置する表現であると言える.図5.2に,2章で例に挙げた Test Pattern Show , Apparation , MPIxIPM , The Manual Input Sessions と本研究システム

のP.S.Player,MoPHのインタラクションにおける操作と効果の関係を示す.

メディアパフォーマンス作品における,操作と効果の関係は,作品の進行と共に変化していくと 考えられる.作品 SightSound -Phenakistoscope- と2章で紹介した Apparition[6] を例にそ の変化の様子を図5.3に示す. SightSound -Phenakistoscope- は,実線で Apparition は破線

60 第5章 考察 で操作と効果の関係の変化を示す.また,以下の操作と効果の関係の分析した文章の文末の番号は 図5.3の番号に対応している.

SightSound -Phenakistoscope- の冒頭では,メディアパフォーマンスシステムP.S.Playerの 操作と効果の関係は観客には未知である.そのため,たとえ演奏が見えていたとしても観客が演奏 を理解できない間は演奏と効果の関係がわからない.このときの演奏はSUSPENSEFULに分類 される表現だと考えられる(1).そして,P.S.Playerのターンテーブルが回り始めて円盤の図形が アニメーションとして見える段階では,観客やワークショップ参加者からどよめきが起こることが あったが,これはEXPRESSIVEな現象に対する反応であると考えられる(2).その後,図形音符 が特定の位置に来た時に発音するという仕組みが理解されていくに従いEXPRESSIVEな状況は より強まって行く(3).作品の後半で図形音符の数が100個以上で,その動きや発音の様子を把握 できない状況は,Effects軸の値がamplifiedに位置していてMAGICALに近い位置にあると考え られる(4).

次に,Apparition の操作と効果の関係の分析を試みる.作品の冒頭は暗転の状態で始まり,そ

の後,微かに光線の束が見えてくる.これは,操作も効果も隠された(hidden)SECRETIVEに相 当すると考えられる[1].その後,2人のパフォーマと光線が次第に見え始めるとともに,演技と 光線と音の関係が観客に明らかになっていきEXPRESSIVEの状態になったと考えられる[2].そ の後,光線がパフォーマの身体から離れて行き,パフォーマの動きと光線の関係がわかりにくく

なり,MAGICALの位置に近づいた状態になったと考えられる[3].再び,光線が2人のパフォー

マの間に戻って来て,より一層演技と光線と音の関係が明らかになることで,[2]の状態よりも EXPRESSIVEになったと考えられる[4].

(3) (4)

(2)

Appartion (1)

[2]

[3]

[4]

[1] SightSound

[Manipulations]

[Ef fects]

amplified

amplified reavealed

hidden partially revealed / hidden, transformed partially revealed /

hidden, transformed

hidden reavealed

MAGICAL EXPRESSIVE

SECRETIVE SUSPENSEFUL

図5.3: “SightSound -Phenakistoscope-”“Apparition”の操作と効果の関係の時間変化

音楽をはじめとする時間芸術の構成において,「緊張」と「弛緩」の組み合わせが重要であると

5.2. メディアインスタレーションへの応用 61

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