第四章 電気光学サンプリングによるテラヘルツ電磁波計測
4.2 電気光学サンプリング (EOS)
4.2.3 測定感度
電気光学サンプリングの測定感度は、電気光学結晶の特性(電気光学係数)、屈折率、結晶 の厚みによって決まる。EOSにおける測定感度の向上は結晶の厚みを変えることにより容 易に実現できる。しかし、REOS では結晶表面で光を反射させて計測するため、結晶の厚 みによる測定感度の向上は不可能である。REOS の測定感度は電気光学結晶の特性に強く 依存する。今回EOセンサーに用いるCdTe(テルル化カドミウム)は一般的な電気光学結晶 の中で、優れた電気光学定数を有する。
REOS にCdTe を用いた場合の測定感度について検討する。REOS の測定感度はプロー ブ光の反射率の変化に依存する。プローブ光を電気光学結晶に対して垂直入射した場合に ついて考える。このとき、電界は電気光学結晶の表面に存在しているとする。プローブ光 を垂直入射した場合の反射率R(吸収係数を無視)は以下のように表される。
2 0
2 0
) 1 (
) 1 (
+
= − n
R n
(4.2)電気光学効果による結晶の屈折率の変化をΔneoとすると、電気光学効果による反射率の変 化ΔRは以下のように表される。
( ) R n neo
R = ∂ ∂ Δ
Δ ( )
( n ) n
eon Δ
+
= −
30 0
1 1
4
(4.3)よって、REOSによる信号の変化量はΔR/R0によって表される。
n
eoR n
R Δ
= −
Δ 1
4
2 0 0
(4.4) ここで、CdTe結晶を用いたREOSにおける信号変化量ΔR/R0について検討する。プローブ 光を結晶軸に対して偏光軸を 45 度ずらして入射した場合のΔneoは式(3.5)となる。詳細は 3.3.1に示す。
3 0 41
1
eo
2
yn n r
Δ = − E
(4.5)レーザ光の強度比ΔR/R0
3 0 2 41
0 0
2
1
yR R n n r E
Δ = −
−
(4.6)式(4.6)よ り 、 屈 折 率 n0=2.84, 電 気 光 学 定 数 r41=4.50 [10-12m/V], PWT の 電 界 応 答 Ex=100[V/m]のとき、ΔR/R0=2.92×10-9となる。ここで、参考にした[17]の文献ではΔR/R0
~10-7で電界応答の観測に成功している。PWTの電界応答はこれまでのプラズモン共鳴観 測の実験の結果から推測される値である。計測対象であるフォトミキサーの放射電磁波は PWTの電界応答よりも一桁以上強いことが予想される。ゆえに、CdTe結晶を用いたREOS において、フォトミキサーの放射電磁波を計測可能な測定感度が期待できる。
REOS の測定感度について、高感度の検出が可能な透過型EOSと比較検討する。まず、
EOSの測定感度について以下に示す。EOS では電気光学効果による屈折率変化によって、
レーザ光の位相変化が生じる。このレーザの偏光軸が受ける光学的位相差をリターデイシ ョン
ΔΓ
と呼び、式(4.7)で表される。2
eo
L n π
ΔΓ = λ Δ
(4.7)CdTe結晶におけるリターデイション
ΔΓ
は(4.7)に(4.5)を代入することで得られる。3
(
0 41 yL n r E π
ΔΓ = − λ )
(4.8) このレーザ光の位相変化は強度比T(平均出力強度I/平均入力強度I0)として式(4.9) のよう に置き換えることができる[18]。
2 0 0
2
I = E
、⎟
⎠
⎜ ⎞
⎝
= ⎛ Γ
= ∫ E
2dt E 2
02sin
22
I
out[
2
0 0
sin 1 1 cos( )
2 2
T I I
⎛ ⎞Γ
= = ⎜ ⎟= − Γ + ΔΓ
⎝ ⎠
]
(4.9)式(4.9)をT‐
ΔΓ
について図示すると図4.5となる。図4.5 透過度とリターデイション
ΔΓ
の関係図4.4より分かるように、強度比Tは
ΔΓ
に関する周期関数となる。また、スタティック・リターデイション により、電界Eがなくても透過光量が存在する。検光子の前に補償板
(波長板)をおくことで を調節できる。T=0.5となるA点に持っていくと電界Eの変化に
対してTの変化量は最大となる。測定感度として、REOSの強度比ΔR/R0と透過型EOSの 強度比T を比較する。透過型EOSの結晶厚はL=100μm、1mmとする。測定感度の比較を 表4.1に示す。EOSの強度比は最大となるように式(3.8)の
Γ
0Γ
0Γ
0=π/2とした場合のT=0.5か らの変化量である。表4.1 測定感度の比較①
計算式 強度比
REOS
3 0 2 41
0 0
2
1
yR R n n r E
Δ =
−
2.92×10-9透過型EOS
(結晶厚L:100μm) 1.04×10-6
透過型EOS (結晶厚L:1mm)
3
(
0 41)
1 1 cos( L n r E
y) 0.5
T ⎡ π π ⎤
= ⎢ − + ⎥ −
2 ⎢ ⎣ 2 λ ⎥ ⎦
1.04×10-5
0 41
n r
[10-12m/V]E
y[V/m]λ
[nm]パラメータ
2.84 4.5 100 1550 REOSの測定感度を1としたときの透過型EOSの測定感度を表4.2に示す。
表4.2 測定感度の比較②
REOS 透過型EOS
(結晶厚L:100μm)
透過型EOS (結晶厚L:1mm) 測定感度
1 358 3580
表4.2より、REOSの測定感度は透過型EOSにおける結晶厚が100μm の場合と比べて、2 桁以下の感度である。また、透過型EOSは結晶厚を大きくすることによって、感度は線形 に増加していく。一方、REOS では結晶厚による感度の向上は望めないことから、高い測 定感度を得ることは難しい。REOS において測定感度の向上を図るには、電気光学結晶に
は屈折率n、電気光学定数rが大きなものが望ましい。