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渡辺 5 章へのコメント

ドキュメント内 game notes1509 最近の更新履歴 H Reiju Mihara (ページ 38-41)

第 4 章 少し高度なゲーム理論の戦略的思考法 26

5.1 渡辺 5 章へのコメント

• 第5章.この章の例はインセンティブ契約,賃金格差,労働市場におけるシグナリングなど,労働経済 学からのものが多い.経営や教育を学ぶ学生や就職が気になる学生は,労働経済学に興味を持てるので はないだろうか.ただしこの授業の方が,学部レベルの労働経済学科目よりも深い分析を提供している 可能性が高い.学部の労働経済学の授業ではゲーム理論の知識を前提としないことが普通だから.

• 170頁下から6行目.「金額を上げていくと」

• 170頁.100万円が 1/2 の確率で当たるくじよりも確実な50万円を好むようなリスク回避的な選好 は,経済学から見てまったく不合理ではない.それなのに経済学批判者のなかには,リスク回避的な選 好やリスク選好的(リスク愛好的)な選好を経済学的に不合理なものと勘違いして「経済学ではそのよ うな選好をうまく扱えない」といったウソを吹聴する人がときどきいる.経済学が想定する「合理性」

はそこまで不寛容ではない.騙されないように.

• 170頁.「くじ」(lottery) は専門用語であり,起こりうる結果とその確率を列挙した選択対象を表す.

「抽選券」という言葉を使う人もいるようだ.授業ではツリーでくじを表現する.

• 170頁.ある個人のあるくじにたいするリスク態度(選好がリスク回避的かリスク選好的かリスク中立 的か)は,その人のそのくじにたいする確実性同値額とそのくじの期待金額の大小関係で理解した方が 分かりやすいかもしれない.確実性同値額が期待金額より低い選好はリスク回避的(そのくじを引くこ とをそのくじの期待金額を確実にもらうことより低く評価)で,確実性同値額が期待金額より高い選好 はリスク選好的(リスク愛好的)で,両者が等しい選好はリスク中立的ということになる.

• 172–173頁.やや議論が分かりにくいかもしれない.以下のように理解するといいだろう.いまあるひ

とにとって,

(i) あるくじ(リスクをふくむ選択対象)と確実な現金32万円が等価(無差別;同等の利得を持つこと) である

ことが前提だった.ここで仮説により

(ii) このくじの利得は,結果にたいする利得(この場合100万円の利得1 と0万円の利得0) の期待値 (1/2)である

と仮定する.すると (i), (ii)から

(iii) 確実な現金32万円の利得は(このくじの利得に等しい) 1/2となる.

項目 (ii) で,くじにたいする利得が(結果にたいする) 利得の期待値であると仮定することを疑問に 思った人もいるだろう.この仮定が成立するためにはくじにたいする選好 (どのくじをより好むか)が ある一定の条件を満たしている必要がある.背後に「期待効用定理」と呼ばれる定理があるのだが,詳 述は避ける (学部上級以上のミクロ経済学で学べる).関連する導入的議論が伊藤[11, 第5章]や神取 [15, 6.6節]に載っている.

• 176頁.大学生を対象とする保険はモラルハザードの例としてはあまりよくない.むしろ逆選択の例と 考えられる.188頁を参照.

• 183頁.上のゲームの木で上から3番目の著者の利得を計算する式は(0.8×50 + 0.2×40)−rではな くて, (0.8×50 + 0.2×10)−rが正しい.

• 183頁.上のゲームの木における著者の数字は期待利得そのものではなくて,期待利得による大小関係 を保つような数値—具体的には確実性同値額—である.仮にx万円の利得をu(x)と書いて,0 万円の 利得を 0と,50万円の利得を50と決めたとする(すなわちu(0) = 0,u(50) = 50).するとxが0と 50 のあいだのとき,リスク回避の仮定よりx万円の利得u(x)はxよりも大きくなるはずである(上 に凸なグラフを考えよ).ところがこの図では本来u(5), u(35), u(40)などと書くべきところを5, 35, 40 などと書いている.つまりこれらの数値は特定の期待利得u(x)を与えるような金額 xを書いたも の(金額やくじの期待利得をuの逆関数で写像した確実性同値の額)である.

どうしてこれで問題ないかと言えば,要するに比較したいものは 5, 10, 35, 40, 42, 50 万円,そ して「確率0.8で50万円,確率0.2で10万円となるくじL」であり,それらを順序づけること ができればよい.金額にかんする順序付けはもちろん明らかなので,けっきょくはくじ L がど こに来るかを明らかにすればよい.テキストではくじ L の利得は (42−r)万円の利得と等しく なっている.(u が上に凸であることから,くじ L の期待利得 u(L) = 0.8u(50) + 0.2u(10)は,

u(10)< u(L)< u(0.8×50 + 0.2×10) =u(42)を満たすことが分かっている.したがって [中 間値の定理から] 期待利得 u(L) = u(42−r)となるような r [ただし10<42−r <42] を見つ けることができる.板書を再現したノート babygames-notes.pdf のpage 3 参照.) したがって

42−r <40のとき,くじの利得は40万円の利得より低くなっている.

• 188頁.逆選択(逆淘汰,アドバースセレクション,adverse selection)とモラルハザードは,情報の非 対称性が引き起こす2つの代表的な問題である.逆選択はエージェントがもともと持っていた情報で ある属性をプリンシパルが観察できないことから起きる問題であり,(雇用者と被雇用者間の労働契約 や保険契約など)契約締結前の情報の非対称性がもたらす「隠された知識」の問題であると言える.一 方,モラルハザードは契約を結んだ後のエージェントの行動(努力)が観察できないことから起きる問 題であり,契約締結後の情報の非対称性がもたらす「隠された行動」の問題であると言える.これらの 問題とそれらへの対処法は,伊藤秀史『ひたすら読むエコノミクス』第7章と第6章で詳細に議論され ている.

• 192-193頁.英語力が高いか低いかといった,プレーヤー(ここでは金太郎)の属性は「タイプ」(type)

と呼ばれる.実際のプレーヤーは自分がどのタイプであるかを知っているはずなのに,なんで不完備情 報ゲームでは自分と異なるタイプを想定したり,そのタイプの行動まで考える必要があるのか?  (こ こで言えば,英語力が高い金太郎がなぜ自分が英語力が低かったときに取る行動まで考える必要があ るのか?) 一般論としては以下のような回答ができる.プレーヤーi は自分の行動を選ぶとき,他のプ レーヤーの行動を予測しなければならない.彼らの行動は彼らが想定するこちらi の行動に依存する.

しかも彼らはこちらのタイプをいくつか想定しているので,彼らの行動はこちらの各タイプti ごとのi の行動に依存するはずである.したがって自分のタイプが決まったあとでどう行動するかを決めるとき であっても,プレーヤー iは自分と異なるタイプが何をしたであろうかを考えなければならないことに なる.

高度な思考方法ではあるけど,恋愛なんかでは,より高度な思考を巡らせていることは多いんじゃ ないか.たとえばある男性がある女性を好きだとしても,相手には無関心であると思われたい状況 はあるだろう.(余計な警戒心を抱かせたくないなどの理由で.)そのようなときは,単に自分がそ の女性にたいして無関心だったときの行動を考えるだけでなく,それとまったく同様の行動を(自 分はその女性が好きであるにもかかわらずに)取ることによって,自分の本当のタイプを相手に気 づかれないようにしたりするかもしれない.それとは逆に(恋愛の進行段階によっては),自分が相

手を好きであることをはっきりとシグナリングしたい場合もあるだろう.そういう場合は,その女 性に無関心であったらできないような行動を取ったりするだろう.

• 193頁.このゲームでは,金太郎はホヤに移ったときの賃金を知らずに移るかどうかを決めることに なっている.移ったという前提の情報集合では,(金太郎が辞める可能性を考えないならば)ホヤにとっ て安い賃金を提示するのがマシなのは当たり前であり,つまらないゲームになっている.もちろんホヤ が先に金太郎に賃金を提示し,その後に金太郎 が移るかどうかを決めるゲームを考えることはできる.

しかしそのゲームは (ホヤの情報集合における信念が金太郎の行動の影響を受けないなどのため)ベイ ジアン均衡の説明には適さないものになってしまう.よって,この授業では渡辺にしたがって,ホヤに 移ったときの賃金を知らずに金太郎が移るかどうかを 決めることとして分析を続ける.202頁の最後 の段落括弧内も参照.

• 194頁.情報集合内の点にかんする「信念」というのは“belief”を訳した専門用語であり,確率の「見 積もり」といったていどの意味を持つ.日本語の通常の用法では,「信念」の背後に何らかの重大な決 意や価値観が含意されていることがある.(たとえば女風呂に入って捕まった男性が,「自分は男女差別 は許せないという信念を持って女風呂に入ったのだ!」などと自己主張する場面.)ここでいう術語と しての「信念」には,そういった意味は込められていない.言葉から受ける印象に惑わされないこと.

• 197頁.ゲームの木で金太郎のいちばん下の利得が700とあるかもしれないが,正しくは800 である.

また青丸はその上の数値900 を囲むべき.

• 198頁.ここでいう「ベイジアンナッシュ均衡」は武藤の本では「完全ベイジアン均衡」にあたる.授 業では「完全ベイジアン均衡」あるいは「完全ベイズ均衡」と呼ぶことにする.

• 198頁.「ホヤ商事は,高い賃金を払っても高い能力の者を雇いたいという希望が満たされない」とあ

る.1,100万円を払ってでも能力の高い金太郎を雇った方が雇わないよりはホヤ商事にとって望ましい

という意味だろう.能力が高い金太郎を900万円で雇えた方がもっと望ましいことには変わりない.

• (蛇足) 200頁.この項に関連する,英語の勉強法,資格の意味,そして大学教員の能力については,「大

学新入生へ(リンク)」という記事で平凡助教授がアドバイスしている.その記事はあらゆる大学生に熟 読してもらいたい.

– この項ではホヤ商事が金太郎に期待するような英語能力を判定できる資格が存在すると仮定して議 論している.それほど的外れな仮定ではないだろうが,ホヤ商事の期待する内容によっては適切な 資格が存在しないことは十分考えられる.たとえばある種の英語試験である人物の英語力が日本人 受験者のトップ1から5パーセントのあいだに入ると判定されたする. これはネイティブスピー カーの自然な英語を完全には聴き取れないレベルだろう.もしその人が聴き取れない英語について きちんと相手に確認せずに,適当に“Yes” と答えてしまうような性格だとすると会社に損害を与 える可能性が高いので,多くの職種で「仕事上の英語力」は低いことになるだろう.あるいは専門 的知識が要求されるため適当な通訳を見つけられないような職種だと,単に英語力だけでなく通訳 力も求められるかもしれない.英語ができても通訳を上手にこなせない人は,その仕事に求められ る英語力が低いことになるだろう.この英語試験の判定結果だけでは,このような仕事に求められ る英語力は分からないわけである.

– 次に英語の勉強について(独断を混ぜつつ)補足しておく.

高卒レベルの英語をマスターしたら,あとは自分の専門(仕事)にかんする英語を勉強することが,

英語上達への近道である.(厳密に言えば専門分野にもよるだろう.)自分の専門を英語で勉強す る,あるいは勉強し直す感じで専門書を読み進め,専門分野と英語をいっぺんにマスターしよう.

(経済学分野などの大学教育は,もともとそれに近かった.)英語教師にありがちなアドバイスに従 うと英語ばかりを追うことになり,「一兎を追う者は一兎も得ず」とでも言えそうな失敗を起こし がち.具体的には,小説やニュース記事など教養性とか社会性の高い読みもの,あるいは滅多に使 わない単語の習得,はたまた和訳などに多大な時間を費やしてしまい,その割には自分にとって必 要な英語力が身に付かない結果になりがちという意味.

もう一点.英語が出来るようになりたければ,なんらかの分野で一流を目指すといい.たいていの 分野では一流に近づくほど英語が必要になって来る.だから一流を目指すことで英語を勉強するイ ンセンティブも高まることになる.

• 203頁.資格を取得してもホヤ商事にとっての価値は変わっていないことに注意.つまり資格取得は 能力(生産性)を高めないと仮定している.この仮定は資格のシグナリングやスクリーニングの機能に 絞って分析するための仮定であり,資格が本当に能力を高めないのかどうかはここでは問題にしていな い.このように経済学では分析の目的によってはやや不自然な仮定を置くことがある.

ちなみにシグナリングの理論を提唱したスペンスは,大学の卒業資格を例としてもちいた.シグナ ルが効果を持つのは,卒業するためのコストが能力の高低によって異なるという点にのみ依存し,

大学でなにを学んだかには依存しない.卒業できない者も多い米国大学で言えば,大学での教育が 能力を高めたかどうかは関係なく,落ちこぼれずに卒業できたという事実がシグナルとして機能す るということ.容易に卒業できてしまう日本の大学でいえば,大学での教育内容に関係なく,潜在 能力のある人間が入学試験で選別できてさえいれば,その大学へ入学できたという事実がシグナル として機能するということ.なんだか米国大学よりも日本の一流大学文系のほうが当てはまりそう な感じがする.

経済学者がドライなものの見方をすることにうすうす気づいている学生は少なくないだろう.たと えば個人に能力の違いが存在することを当然の前提にすることでさえ,(教育に能力を高める効果 がないという仮定ほどでないにしても)一部教育関係者には不評な見方かもしれない.

• 208 頁.このページにある2個の主張の導出は演習に回す.緻密な議論が要求されるので,他の「課 題」で慣れた上で取り組むといい.

• 210頁8行目.「リスクなどの目に見えないもの」を「リスク削減など目に見えないもの」に修正.

• 210頁下から10–9行目.「論理的を明らかにしてくれます」でなくて,「論理的に明らかにしてくれ ます」

ドキュメント内 game notes1509 最近の更新履歴 H Reiju Mihara (ページ 38-41)

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