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大きく広がるゲーム理論 — 最新研究トピックス 48

ドキュメント内 game notes1509 最近の更新履歴 H Reiju Mihara (ページ 48-52)

6.1 渡辺 6 章へのコメント

• 214-215頁.「むかで」の利得構造に注意.奇数段階でプレイヤー1はゲームを降りることができるが,

そのときの利得は1, 8, 15, 100, 200と増えている.一方,相手は偶数段階でゲームを降りることがで きるが,そのときのプレイヤー1の利得は0, 5, 7, 10となっており,直前の奇数段階にプレイヤー1 が降りたときの利得よりも低い (1>0, 8>5, 15>7, 100>10).つまり自分が協力した直後に相手 が降りたら自分は損する.同様のことはプレイヤー2の利得にも当てはまる.

– 仮に第1段階でプレイヤー1がCを選んだら,「プレイヤー1は逆向き帰納法の意味での合理性に 従っていない」ということがプレイヤー2に伝わるから,「その意味の合理性から自分も離れてみ よう」とプレイヤー2が考えても不思議ではない.

– このゲームでは合理性を離れることで互いに利益になるが,別のゲームでは自分が合理性を離れる ことで相手を混乱させることができることがある.合理的なプレーヤを相手にしていてこちらに勝 ち目がないようなとき,敢えておかしな行動を取ることで相手の合理的思考を遮断するのは,一種 の「高等戦術」といえるだろう.どういう結果に落ち着くのか予想するのは困難になるが,そうい う高等戦術を使った方がいい場面もときにはあるだろう.

• 216頁.完全合理的アプローチの背景には,ゲームのプレーヤーはゲームの分析者(ゲーム理論家)と 同じくらい合理的で賢いという想定がある.経済学以外の多くの社会科学理論ではむしろ分析者は超越 した存在になっており,分析者から見て明らかに愚かなことをプレーヤー自身は気づかないことになっ ていたりする.

• 217頁.最後の行の右半分にある「模擬と学習」はおそらく「模倣と学習」.

7 おわりに

この科目と同等の科目でカバーすべき内容をカバーし終えた時点で以下の文章は書かれた.きちんと構成さ れていないが,掲載しておく.

シラバスに書いたことを振り返って,思いつくことをいくつか書いてみる.

この科目は数学として開講したが,経済学として教えた.つまり単に与えられた問題が解けるというだけで なく,解いている問題とその解の意味もじゅうぶん説明するようにした.それらの問題のもととなった現実世 界についての説明は十分とは言わないが,現実を単純化しモデル化したものの意味は十分に説明するようにし た.数学がリアルな世界と結びついていることを感じてもらいたかったからだ.他の数学科目でも「数学は 社会の理解や変革に役立つ」といった主張をするかもしれないが,どう役立つのか具体的にしめすことはほ とんどないだろう.この科目では具体的にいろいろな場面を取り上げて,ゲーム理論という数学で解明して 行った.

この科目をマスターできたひとは一定の自信を持っていい.経済学大学院のミクロ経済学のゲーム理論にか んする試験問題で合格点を取れるレベルにほぼ到達したと言えるだろう.

ただしあくまで応用分野の経済学大学院生に求められるレベルに近づいたという意味であり,経済理

論を専門とする大学院生のレベルには,数学的にはおよばない.理論を専門とする者にとって欠かせな い「証明」を,この科目ではほとんどスキップしたためだ.

講師もこの科目に適任だったと言えよう.非協力ゲーム理論を専門にばりばり研究してる (高校時代 に数学オリンピックで優勝したような)若手理論家には及ばないところがあるだろうけど,三原も大 学院時代から非協力ゲームにはかなり真剣に取り組んで来たひとりだ.(大学院はミネソタだが,経済 学では有力校であり,べつに辺境ではない.たとえば三原の指導教授のひとりで長年ミネソタにいた

Leonid Hurwiczは,ゲーム理論の重要な応用理論であるメカニズム・デザインでノーベル経済学賞を

受賞している.どうでもいいが,Hurwiczはうちの祖父によく似てた.)香川大学の学生のレベルも把 握できている.大部分の受講者にとって,テキストも自分で選択して完全に独学するよりは,この授業 に参加した方が効果的にゲーム理論を学べたことと思う.

この授業でやったことを知っているだけでも,応用分野にかかわるゲーム理論文献のかなりを利用できるよ うになったはずだ.別の言い方をすれば,大学教授でもこのていどの勉強さえしたがらない人が多く,そのた め自分の専門分野にかかわるゲーム理論文献を利用できないでいる.

経済学の話題についてもオークション,割引,リスク,逆選択などいろいろ学んだ.

特定の研究対象に関する知識を獲得することだけでなく,ゲーム理論や統計学(理論および統計解析プログ ラム)のような研究方法をマスターすることが大学生にとって大事だとシラバスに書いた.ゲーム理論は,理 論をつくって現象を説明する方法を提供し,統計学は事実を明らかにする方法を提供する.「自分は学者には ならないから関係ない」と思うかもしれないが,MBA (経営学修士) プログラムではゲーム理論や統計学が ひじょうに重視されていることを思い起こして欲しい.じつはビジネスや公共団体をめざすひとにとっても,

意思決定のために論理的に考えたり他人に説得的に説明したり事実を明らかにしたりといったスキルが大切な のはまちがいなく,それらの学問に触れて頭を使うことは,そういったスキルを高めるのに役立つと考える.

ただし他人を説得するときには,その相手にとって有利になる点を強調すべきであり,必要におうじ て自分自身にとっても不利にならないと付け加えることにより信頼性を高めるのがいいだろう.相手に とって不利益なことであれば,自分にとって有利で合理的だと強調すると逆効果なので注意.また,自 分がいくらゲーム理論的に合理的に行動できていても,それを他人に言明しない方がいいことも多い.

相手の弱点を適格に把握することにより勝てたスポーツ選手にとって,勝因を正直に語ることは通常は 合理的でないだろう.

ゲーム理論のひとつのおもしろさは思考する対象をあつかうところにある.「このプレーヤーの立場から見 て最適なのは?」と絶えず考える.ところが統計学では自然現象だけでなく社会現象もあつかっているのに,

人間が出て来ない.いや,まったく出て来ないわけではないが,あくまでも過去の行動などがデータとして出 て来るのみであり,人間の思考には立ち入らない.そのデータが未来の予測にどうつながるかは,人間の思考 に立ち入らなければ分からないはずなのに,その重要な部分をスキップしている.

7.1 最後の読書案内

最後に,ゲーム理論の重要な応用分野であるメカニズム・デザインあるいはマーケット・デザインについて 授業でほとんど触れることができなかったのは残念.ここに申しわけ程度に触れておく.

• メカニズム・デザインあるいはマーケット・デザインでよく研究されている具体的問題としては,望ま

しいオークションの設計がある.たとえばこの科目で学んだように,セカンドプライス・オークション

(Vickrey auction)は「各入札者が自分の評価額をそのまま提出するのが最適」という望ましい性質を

持つ.(このオークションを考案したヴィックリーは,ノーベル賞受賞発表[にびっくりして? ]数日後 に心臓発作で亡くなった.ちなみにメカニズム・デザインで受賞したミネソタのハーヴィッツはノーベ ル賞受賞の翌年に亡くなった.二人ともぎりぎりで受賞したことになる.)オークション設計は,コン ピュータ・サイエンティストによる研究の盛んな分野でもある.

• ある財(モノ)を,それをいちばん高く評価する者に,金銭の支払いを要求することなしに配分するメ カニズムも存在する.そのもっとも簡単なものとして,セカンドプライス・オークションをもとにした 三原による配分メカニズムがある.(著者自身の解説(リンク)あり.)このメカニズムの10分間解説 ビデオ (リンク)も存在する.

• この分野の概要を手ごろに知るには伊藤『ひたすら読むエコノミクス』 [11, 8章]を読むといい.一般 向けの読み物としては坂井『マーケットデザイン: 最先端の実用的な経済学』[17]と川越『マーケッ ト・デザイン: オークションとマッチングの経済学』[16]がある.川越の3章末コラムでは上記の三原 メカニズムが丁寧に解説されている.

• メカニズムデザインは大学院レベルのミクロ経済学では標準的な内容なので,そのレベルのテキスト を読めばきちんと学べる.Tadelis [4, Part IV], Jehle and Reny [1, Chapter 9], そしてMas-Colell,

Whinston, and Green [2, Chaper 23] を挙げておこう.ただし,これらの書籍の別の章で不完備情報

ゲームをきちんと理解した上で学ぶべきである.これらの一歩手前として,不完備情報ゲームの知識を 要求しない三原の「メカニズム・デザイン: レクチャー・ノート(リンク)」が参考になるかもしれない.

• 日本語で書かれた本格的なテキストあるいは研究書としては坂井,藤中,若山『メカニズムデザイン: 資源配分制度の設計とインセンティブ』[20]が有用である.三原メカニズムも最初の方に登場する.た だしこの本は学部レベルのミクロ経済学とゲーム理論をマスターした上でないと読みづらいだろう.

(英語力不足で大学院テキストが読みこなせないようないちぶの日本人大学院生にとっては最初の方の 章はありがたいだろうが,普通の学部生なら通常は読む必要がない本.)著者のひとり若山琢磨は香川 大学経済学部出身で,ゼミナールをふくむ三原の授業の多くに参加していた.現在はメカニズムデザイ ンの分野で国際的な業績を積み上げている.*28

メカニズム・デザインでは,プレーヤーがなんらかの均衡概念にしたがって行動したときの結果が望ましい ものになるようにルールを設計する.一方で,プレーヤーの行動にかならずしも仮定を置かなくとも,ルール が満たすべき望ましい性質を考えることはできる.社会選択理論とは,投票制度や資源配分メカニズムをふく む意思決定ルールがそういった性質を満たすかどうかを考察することにより,ルールの良し悪しやその限界を 数学的に分析する(抉り出す)分野である.(プレーヤーの行動に仮定を置かないこともあるので,ゲーム理論 を使わない論文も少なくない.)特定の一つのルールを取り上げて分析することよりも,一定範囲のあらゆる ルールを同時に分析することが多い.たとえば望ましい性質を何個か列挙した上で,一定範囲のルールのなか にそれらを同時に満たすものがなければ「不可能性定理」を得るし,一定範囲のルールのなかでそれらを同時 に満たすものが特定のものに絞られるならば「特徴付け定理」を得る.三原麗珠の専門分野でもある社会選択 理論の紹介になりそうな情報源をいくつか挙げておく:

*28香川大学経済学部出身者で,ゼミナールをふくむ三原の授業の多くに参加した学生は限られる.その中にはゲーム理論や経済理論 の研究者になった宇野浩司もいる.

ドキュメント内 game notes1509 最近の更新履歴 H Reiju Mihara (ページ 48-52)

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