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第3章 配置転換・在籍出向事案

第4節 事例紹介

12 派遣労働者の撤回要求

(1) 個人属性と職場実態

Pさんは、男性の派遣労働者であり、特定派遣社員として入社した。派遣会社の規模は1万 2000人を超える。給与は月30万円程度であった。派遣先へは6か月~1 年程度の契約で、同 じ派遣先へは最長1年8か月程度継続勤務していた。

(2) 紛争の発生

P さんは、向かいの席で仕事をしていた者(加害者)が咳をしていたため、昼食時に食堂 で注意したところ、マスクをするということで加害者は了解したという。しかし、加害者は

「昼から帰りたい、気分が悪い」と派遣元へ電話をし、間もなく派遣元所長から「何があっ たのか」といった内容の電話がPさんにあり、その電話対応中に加害者がPさんの顔面を殴 り、その上後頭部を蹴るなどした。

本社において懲罰委員会(社長、常務、組員代表2 名で構成)にかけられ、P さんと加害 者も出席した。事件後、社長自ら派遣先へ謝罪に行ったが、派遣先からの信用は失墜し、さ

らに1人あたり1千万円の利益を損失することになったとPさんは言われた。その後、加害 者は退職している。

顛末書を派遣元に提出し、その後病院へ治療にむかう了解をえていたのにもかかわらず、

P さんは、急に休業届を提出するよう要請され、また、ブロック長から「言葉遣いが悪い」

「言葉の教育を受けるか」など言われ続け、治療に行くことを妨害されたという。そして、

部長から他県への転勤を命じられた。その際、転勤しても仕事がすぐあるかどうかはわから ないと言われている。P さんは、勤務地域を変更される契約ではないと思っていたことと、

他県へ行っても仕事があるかどうかわからないと言われたことから、他県へ行く気にはなれ ないので拒否したところ、業務命令に従わないという理由で、解雇を通告された。

P さんは、労働組合を通じて社長に連絡をとり、配置転換の撤回を求めた。だが、聞き入 れてもらえなかった。P さんは何ら落ち度もないのに解雇されたことは納得できなかった。

不当解雇であるので、解雇の撤回と配置転換の撤回も求めるあっせん申請を行った。

(3) 打ち切り

会社側として、P さんは「各支店においてトラブルを起こしている上、噂も広まり現在の 地域で P さんを派遣することはできない」ことから他県への転勤を命じたという。そして、

「今回で暴力事件は2回目であるが、今回についてはPさんは被害者であると思う。しかし、

原因はPさんにある(乱暴な話し方をする)」こと、「会社の業績が悪化していることもあり、

転勤命令時点で、P さんの担当する仕事がすぐにあるわけではなかったが、業績悪化を受け て、会社としてリストラ、或いは退職勧奨に踏み切らざるをえない状況にあるため、P さん についても、リストラ対象となるところだった」と主張していた。そのため、業務命令に従 わないことから解雇を通告したという。会社側は配置転換撤回、解雇撤回、いずれについて も応じられないとしている。

あっせんにおいて、P さんは「既に派遣会社との信頼関係はないので、解決金の支払いを 求める気持ちもあるが、退職前に補償を求めても拒否された経緯があることから、この場で 解決できないと考えている」とした。これに対して、会社側は「解雇は正当であり、撤回す るつもりはないが、解決金ということであれば、社内で検討して本人に連絡する」とした。

あっせん委員は調整を試みたが、紛争当事者双方の主張に隔たりがあり、あっせんは打ち切 られることとなった。

第5節 まとめ

以上から、配置転換・在籍出向をめぐる個別労使紛争は、正社員に限らず非正規社員にお いても発生していること、中小零細企業だけでなく従業員300人以上の大企業においても発 生していること、労働組合があると答えている案件が4局全あっせんと比して多いことが明

らかとなった。

また、4局全あっせんと比して、合意率は低い。「正社員」に関しては、企業のあっせんへ の参加する割合が高くなるものの、紛争が解決しない可能性も高いこと、「直用非正規」によ るあっせん申請に対して、会社側は参加しない傾向にあること、「派遣」に至っては合意に至 ったケースがないことがわかった。

紛争内容の特徴については、正社員は(1)撤回要求、(2)労働条件の不利益変更、(3)

解雇・退職勧奨、(4)自主退職、(5)異動要求、(6)その他に分類でき、直用非正規は、(1)

解雇、(2)自主退職、(3)撤回要求、(4)賃金減少分の補償、(5)説明要求、(6)正社員化 要求、(7)その他に分類できる。派遣労働者は、件数自体少ないが、派遣先の変更に不服を 抱いたものが主となっている。

詳細に紹介した 12 の事例から浮かび上がる配置転換・在籍出向事案の特徴は、その多く が元の職場で働きたいため、撤回を求めてあっせん申請をしていることである。だが、現状 復帰を求める事案の場合、労働者の望むとおりに解決することが極めて少ないことが明らか となった。また、配置転換により退職せざるをえなくなった、あるいは配置転換を拒否した ら解雇されたというケースでは、退職しているため、経済的損失などにより金銭の要求をし ており、その場合は一定の解決をみることができる。その他、異動の要求、異動の説明要求、

直用非正規の転勤に伴う正社員化要求、派遣労働者の転勤撤回要求など、多岐にわたるケー スがある。

これらの紛争はあっせんにより合意に至ったものが4局全あっせんと比べて少ないことは すでに指摘したが、合意に至った事案は原状復帰が叶わず結果として金銭解決に至るケース がほとんどである。