( 7 0 )
参照︶︑そうした評価の重複が起こらない場合も事案によっては当然存在する
︒
また
︑
1
で述ぺた点で仮の義 務付け・仮の差止め制度と仮命令制度の間に共通性が認められると言っても︑それはあくまでも具体的事例における 現象面の一致に過ぎないとも考えられる︒さらに︑要件の構造について︑両制度の間でなお比較すべき問題があるこ
とも
考え
ると
︑
1
で示した共通性から直ちに︑仮の義務付け・仮の差止め制度と仮命令制度は同質であるとの結論を そこで次に︑本案勝訴の見込みと申立人の利益や公益に対する影響を︑
のかという問題を考察したい
︒
より具体的に言えば︑本案勝訴の見込みが高い場合︑仮命令制度においては命令の根 拠の要件に関する審理を︑仮の義務付け・仮の差止め制度にあっては損害要件の審理を︑それぞれ緩和することがで この問題に関して︑はじめに仮命令制度の場合から見ると︑勝訴見込み要件と命令の根拠の要件に関する審理
は法ドグマ的には区別されなければならないとする見解が有力に主張されている︒この見解によると︑命令の根拠の
行政事件訴訟法における仮の義務付け・仮の差止め制度の研究(
‑)
(1)
2
要件の相関的判断の可能性
なる影響を及ぼすのかという点についても考えるべきであろう
︒
(10
= ︱ ‑ ︶
一般に連関させて審理することが許される
め制度における要件審理のあり方を検討するに当たっては︑ある
一っの要件の審理のあり方が他の要件の審理にいか
ので
ある
︒
第 五 九 巻 五 号
( 1 0
三 二
︶
要件は仮命令自体による権利保護の必要性を問うものであって︑勝訴見込み要件との関係では独自の意義を有し︑本
案勝訴の見込みの程度によってその存否が決まるわけではない︒ゆえに︑本案勝訴の見込みが高い場合であっても︑
それによって命令の根拠の要件が充足されるわけではなく︑当該要件の存否は別途審理されなければならないと言う
他方で︑仮の義務付け・仮の差止め制度の場合について考えるとき︑まず注目されるのが︑仮の義務付け・仮の差
止め制度と共通の構造をもって要件を規定している執行停止制度において︑旧行訴法の時代から要件の相関的判断が
説かれてきたことである︒すなわち︑旧行訴法の下では︑本案勝訴の見込みと申立人の利益との関係で言えば︑﹁処
分が違法であることの疎明が高いときは︑申立人が違法に損害を被る可能性が高いから︑これにより損害回避の必要
( 7 4 )
つまり執行停止の必要も高くなる﹂と説かれることがあった︒また︑本案勝訴の見込みと公益との関係においても︑
﹁処分の違法性の疎明の程度が高い場合は︑処分を維持する公共の福祉の重大性は低下する﹂と繰り返し述べられて
(7 5
) きたのである︒
そのような状況の中︑改正行訴法は二五条三項を追加し︑同条二項に規定する﹁重大な損害﹂を生ずるか否かを判
断するに当たって︑﹁損害の性質及び程度﹂や﹁処分の内容及び性質﹂を勘案するものとすると定めた︒これらの勘
案事項は︑検討会第二六回会合の配布資料﹁執行停止の要件︵検討参考資料︶﹂の中で︑行訴法
二五
条二項本文が定
める執行停止の要件︵ただし︑検討参考資料では﹁回復の困難な損害﹂という文言を維持することが前提とされてい
た︶は﹁処分の執行によって原告の受けるべき損害の性質・程度と⁝⁝処分の内容・性質上執行の停止によって生ず
べき公共の福祉への影響の程度との比較衡量を通じて判断がされるべきではないか﹂との理由から提案され︑改正行 関法
(3)
と言うことができる ︒
訴法二五条三項に定められたものである
︒
従って︑そのような経緯からすると︑行訴法二五条二項に規定する﹁重大 な損害﹂を生ずるか否かを判断する際には︑同条三項により︑処分によって得られる公益と失われる申立人の利益が
(7 6
)
比較衡量されることになるが︑さらに︑先に挙げた勘案事項のうち︑﹁損害の性質及び程度
﹂の中に申立人が違法に
損害を被る可能性の大きさを︑また︑﹁処分の内容及び性質
﹂
の中に違法に公益が実現される可能性の大きさを︑そ
(7 7
)
れぞれ読み込むことが考えられる︒そのように考えた場合︑執行停止制度において︑本案勝訴の見込みが高いときに
は︑行訴法二
五条三項の規定により﹁重大な損害を避けるため緊急の必要がある﹂ことの要件が認められやすくなる 右のことを踏まえて︑仮の義務付け・仮の差止め制度における要件の相関的判断の可能性について考えるとき︑執
行停止制度の場合に相関的判断が認められる直接の根拠が行訴法二五条三項にあることからすると︑ポイントになる のは︑当該規定を仮の義務付け・仮の差止め制度にも準用できるか否かである
︒
そして︑この点に関しては︑立案関 係者が︑仮の義務付け・仮の差止めの損害要件は執行停止の﹁重大な損害を避けるため緊急の必要がある﹂ことの要
( 7 8
) (
7 9 )
件と相対的に異なるに過ぎないと説明していることもあって︑準用を認める見解が有力である︒それゆえ︑かかる見 解に従えば︑仮の義務付け・仮の差止め制度にあっても︑本案勝訴の見込みが高い場合には損害要件の審理を緩和で
(8 0
)︵
きると考えられる︒ 8 1 )
以上述べたことを比較すれば︑要件の相関的判断の可否という点で︑仮の義務付け・仮の差止め制度と仮命令 制度の間には違いがあるように見受けられる︒それでは︑そのような違いを前提にすると︑仮の義務付け・仮の差止 め制度は︑仮命令制度との関係でどのような特質を有していると言えるのであろうか
︒
それに関しては︑要件の相関
行政
事件
訴訟
法に
おけ
る仮
の義
務付
け・
仮の
差止
め制
度の
研究
( ‑ )
(1
0三
三 ︶
の相互関係の面では見出すことができなかった︒だが︑そのことから直ちに︑要件の構造の点で両制度の間に何ら性
質の違いは存在しないと結論付けることはできない︒本節の冒頭で留保していたように︑要件の構造については︑そ
(1)
ーと
2
の考察からすると︑仮命令制度と比較した場合における仮の義務付け・仮の差止め制度の特質を︑要件3
公共の福祉要件の存在 やはりできないと考えられるのである︒第 五 九 巻 五 号
的判断が次のような思考過程を経て導き出されるものと考えられる点に︑着目すべきである︒
(1 三0 四
︶
すなわち︑仮の救済を行わなければ申立人に看過できない損害が生ずる︑という状況が存在しない場合には︑
たと
え本案勝訴の見込みが高くても仮の救済を行う必要はない︑と理論的には言えるかもしれない︒だが︑その場合には︑
申立
人が本案で勝訴する可能性が高いにも拘らず︑違法と考えられる状態が本案判決の確定まで存続することになる
︒
それに対して︑かような事態を妥当でないと評価するのであれば︑違法状態の早期是正を行うぺく︑本案勝訴の見込
( 8 2 )
みが高いときには可能な限り仮の救済を認める方向で解釈することが考えられるのである︒
このように考えると︑要件の相関的判断の可否に関する相違から︑仮の義務付け・仮の差止め制度は仮命令制度と
違って︑違法状態の早期是正の目的も備えていると言えそうである︒しかしながら︑その点に関しては︑仮命令制度
に関する裁判例の中にも︑本案勝訴の見込みが高い場合には︑命令の根拠の要件に関する審理を緩和することができ
( 8 3 )
ると述ぺるものがあることを指摘しておかなければならない︒つまり︑仮命令制度に違法状態の早期是正の目的を持
たせることも否定されないのであって︑かかる目的の有無に仮の義務付け・仮の差止め制度との違いを見出すことは︑
関法三四
を設けることにより︑執行停止の要件の定め方が整合性を欠くことになるのではないかとの意見も述ぺられていた
︒
行訴法二五条
二
項本文が定める執行停止の要件の存否を判断する際に︑﹁処分の内容及び性質﹂という勘案事項を通
じて執行停止による公益への影響も考慮されるとすると︑公共の福祉要件も同じく公益への影響を問題にするもので 述べた
(2)
行訴法二五条
三
項の考慮.勘案
事
項の定めが︑検討会第二六回会合において提案されたものであることは先に
︵本節
2
②参照
︶
︒
ただ︑その会合の中では︑公共の福祉要件を維持するのであれば︑考慮・勘案事項の定め
行政
事件
訴
訟法
にお
ける
仮の
義務
付け
・仮
の
差止め制度
の研
究
(‑)
か︑という点を踏まえておくことにしよう
︒ からである ︒
三五
れぞれの制度で規定されている個々の要件の意味内容を考察するという課題が残されているのである
︒
そのような見地から︑仮の義務付け・仮の差止め制度と仮命令制度の個々の要件を改めて照らし合わせてみたとき︑
注目されるのは︑仮の義務付け・仮の差止め制度における公共の福祉要件の存在である
︒
とい
うの
も︑
2
で述べたように︑行訴法二五条三
項を仮の義務付け・仮の差止め制度に準用できるとすれば︑損害要件の枠内でも申
立人の利益
( 8 4 )
と公益の比較衡量が行われることになり︑この要件が仮命令制度における命令の根拠の要件に対応することになる
︒
そうすると︑公共の福祉要件に関しては︑仮命令制度ではそれに相当する要件が設けられていないように考えられる そこで次に問題になるのは︑公共の福祉要件はいかなる意味を持つものなのか︑また︑かかる要件の存在からして︑
仮の義務付け・仮の差止め制度が仮命令制度と比較した場合にどのような特質を持っていると
言えるのか︑というこ
とである ︒
そして︑この問題を考えるに当たっては︑執行停止制度における公共の福祉要件の位置付けをめぐ
って ︑
検討会の中で議論がなされたという経緯もあるので︑まずは執行停止制度の場合には問題がどのように考えられるの
(1 01︱一五︶