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日本における気候変動法政策の萌芽

ドキュメント内 気候変動法政策の国内実施 (ページ 136-182)

第 5 章 日本における気候変動法政策の立法と国内実施

5.3 日本における気候変動法政策の国内実施

5.3.1 日本における気候変動法政策の萌芽

気候変動法政策の分野においては、1992年のリオ地球サミット(UNCED)での気候変動枠 組条約の採択に備え、1990年には地球温暖化防止行動計画が策定された573。1994年の気候 変動枠組条約の発効をうけて同年、条約を批准した。国内法についても、1993年に制定さ れた環境基本法、1994年に閣議決定された環境基本計画の中に温暖化対策が置づけられる ものの、関係省庁が種々の施策を寄せ集めた程度で、本格的な対応は京都議定書採択を待 つことになる574

5.3.2京都議定書の採択

京都議定書採択の直前に「2010年度に産業部門およびエネルギー転換部門からのCO排 出量を1990年レベルに抑制するよう努力する」との経団連環境自主行動計画が公表され、

地球温暖化対策推進本部が設置された。1997年の京都議定書の採択をうけ、翌1998年に は地球温暖化防止行動計画にかわるものとして温暖化対策推進大綱575が採択され、オイル ショック時の1979年に制定された「エネルギーの使用の合理化に関する法律(以下、省エ ネ法)」を改正して、有力な温暖化対策の一つと位置付け576、第1種エネルギー管理指定工 場および第2種エネルギー管理指定工場を指定し、大規模事業所に1年に1%のエネルギ ー効率の改善を目標とするとともに、現在商品化されている製品のうち最もエネルギー効 率の優れたものを基準とするトップランナー方式が導入された。また、1998年には、京都 議定書の国内実施法と位置付けられる地球温暖化の枠組法として「地球温暖化対策の推進

572 Hitomi Kimura. 2013. Climate Change Law and Policy in Japan. In Erkki J. Hollo, Kati Kulovesi and Michael Mehling (eds.). Climate Change and the law. Springer. pp.585-595.

573 環境省「地球温暖化防止行動計画」(1990年)

http://www.env.go.jp/hourei/syousai.php?id=03000015(2014年12月1日最終アクセス)

574 大塚『前掲書』(注13)156-157頁。

575 地 球 温 暖 化 対 策 推 進 本 部 「 地 球 温 暖 化 対 策 推 進 大 綱 」 (2002 年 ) http://www.env.go.jp/earth/ondanka/taiko/all.pdf (2014年12月1日最終アクセス)

576 京都議定書採択後の日本の温暖化政策については省エネ法の改正が中心的役割を担う ことが目指された。竹内『前掲書』(注32)204頁。

に関する法律577(以下、温暖化対策推進法)」が制定された578

自治体については、温暖化対策推進法第27条により地球温暖化対策計画の策定が義務づ けられ、東京都公害防止条例を全面改正して2000年に制定した環境確保条例の中で中小の 事業所を対象とする温暖化対策計画所制度が創設され、2005年には京都市で全国初となる 地球温暖化対策条例が制定された579

5.3.3 マラケシュ合意(COP決定)を受けた国内法制定

2001年のマラケシュ合意(COP7)に伴い、2002年には「改正地球温暖化対策推進大綱(新 大綱)」580の採択により対策のパッケージがまとめられ、部門別の目標が決定された。大 綱は115の政策措置を列挙するが、旧大綱と比較して抜本的な対策の導入はなされなかった。

2002年には京都議定書が批准されるとともに温暖化対策推進法の改正が行われた。また、

民生・業務部門の温暖化対策強化のため省エネ法の改正が行われた。日本の省エネ法は世 界でも珍しい規制的手法を採用する。2004年には第1回気候政策の見直しの一環として新大 綱の見直しが行われたが、経済産業省の産業構造審議会および総合エネルギー調査会が、

増税なき遵守、既存政策措置の強化(省エネの強化、自主行動計画の透明性改善、京都メ カニズム利用の促進)を主張する一方、環境省の中央環境審議会は、追加的施策の導入(環 境税、GHGの義務的報告制度、排出量取引、京都メカニズムの活用)を主張し、6%削減目 標達成のために更なる対策を講じる必要がある点では両者の見解は一致するも、具体的な 政策措置の中身について意見が分かれたままとなった。両者の温暖化政策が統合されたの は2007年の第2回気候政策の見直しであり、環境省の中央環境審議会(中環審)および経済 産業省の産業構造審議会(産構審)合同審議会が設置され、追加施策の検討が開始された581

5.3.4 京都議定書発効を受けた国内実施

2005年の京都議定書発効に伴い京都議定書目標達成計画が閣議決定され、イギリス型の 補助金および任意の排出枠取引制度を模した「環境省自主参加型排出量取引制度」及び「温 室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度」が導入された。京都議定書目標達成計画にお ける対策、施策の一つとして位置づけられたのが、経団連が1997年に自主的にとりまとめ た自主行動計画に基づく取り組みおよびフォローアップであり、温暖化については「2010 年度に産業部門及びエネルギー転換部門からの二酸化炭素排出量を 1990 年度レベル以下

577 温暖化対策推進法の枠組み自体は弱く、各主体の行動を変える法律としての実効性は乏 しい。淡路剛久「わが国現行法制度の分析」環境法政策学会編『Journal of Environmental Law and Policy』5号(2002年)10-15頁。

578 大塚『前掲書』(注13)157頁。大塚編『前掲書』(注563)63-67頁。

579 前田陽一「地球温暖化問題への法政策的対応―現状と課題の概観―」大塚直・北村喜宣

『環境法学の挑戦』(日本評論社、2002年)247頁。和田武・田浦健朗『市民・地域が進め る地球温暖化防止』(学芸出版社、2007年)31、34頁。

580 環境省「改正地球温暖化対策推進大綱(新大綱)」(2002年)

http://www.env.go.jp/council/16pol-ear/y161-07/mat01.pdf (2014年12月1日最終アクセス)

581 大塚『前掲書』(注13)157頁。大塚編『前掲書』(注563)65-71頁。

に抑制するよう努力する」との統一目標が掲げられている582

また、京都議定書目標達成計画のため、2005年には省エネ法が再度改正された。同改正 では、全国約3500 の第1 種エネルギー管理指定工場(年間エネルギー消費量が原油換算

3000kl超)と約9000の第2 種エネルギー管理指定工場(年間エネルギー消費量が原油換

算1500kl超)について従来の熱・電気の区分が廃止され、これらを合算して規制し、中長

期計画や定期報告が求められることになった。また、温室効果ガスの排出が急増していた 運輸分野での省エネ対策として、エネルギー消費の伸びが著しい輸送事業者と荷主を新た に対象事業者とした。同じく温室効果ガスの排出が急増していた民生分野での省エネ対策 として、現在利用可能な機器の中で最高の値を省エネ基準として定めるトップランナー方 式が1999年の9品目から21品目に拡大された583

2005年に開催されたCOP/MOP1(モントリオール)でのマラケシュ合意の正式採択を受 け、翌 2006 年には京都メカニズム購入の業務を担う組織として独立行政法人新エネルギ ー・産業技術総合開発機構(NEDO)を活用するため、「独立行政法人新エネルギー・産業技 術総合開発機構法(以下、NEDO 法)」が改正された。同改正では、事業が複数年にまた がる性格を考慮し、NEDOのクレジット取得業務に対して国が債務負担を行う場合に、負 担期間の年限を8年内とする特例を設けている。また、NEDOが行うクレジット取得業務 に必要な費用の一部を歳出するため、「石油及びエネルギー需給構造高度化対策特別会計法

(以下、石油特会法)」改正が閣議決定された。

また、最大、二酸化炭素の1万倍以上の温室効果を持ち、オゾン層を破壊するフロンに ついては、既に1988年の段階でモントリオール議定書を実施するためのオゾン層保護法お よび2001年の段階で「特定製品に係るフロン類の回収及び破壊の実施の確保等に関する法 律(以下、フロン回収破壊法)」が制定されていたが、フロン回収率を高める目的で、2006 年にフロン回収破壊法が改正された。

2006 年には中環審および産構審の合同審議会がはじめて設置されて追加施策が検討さ れるとともに、ステップバイステップアプローチに基づき気候政策の第2回見直しが行わ れた。また、京都議定書に定められた目標を達成するため、京都議定書目標達成計画が大 幅に改訂され、温暖化対策推進法および省エネ法が改正されるとともに、2008年の省エネ 法改正においても引き続き、民生・業務部門の対策が強化された。2009年には「エネルギ ー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促 進に関する法律」が制定され、石油代替エネルギー法が改正された。

5.3.5自主参加型排出量取引制度の導入

日本では京都議定書目標達成計画に基づき 2005 年に環境省自主参加型排出量取引制度 (Japanese Voluntary Emissions Trading Scheme: JVETS)が導入された。当初は環境省を中心に

EUETS のような義務的 ETS の導入が検討されたが、企業や経済産業省の強い反対もあり

自主的ETSとして導入されたため、参加企業数、取引数等も限定され、大企業からの排出

582 大塚『前掲書』(注13)157-158頁。大川正人「京都議定書目標達成計画と地球温暖化 対策法改正」『ジュリスト』1296号(2005年)29-35頁。

583 大塚『前掲書』(注13)162-163頁。

については経団連の自主行動計画の見直しにより補完されてきた経緯がある。日本とイギ リスはともに自主的ETSを採用したが、イギリスが過渡的な措置とみなしたのに対し日本 は国内の対立が目立つのも特徴である584。自主的ETSであるものの、目標は原単位(集約 度)ではなく拘束力のある絶対目標であり、目標を達成できない場合には補助金を返還し なければならないとされた。日本には日本の法文化に即した制度があるとするとJVETSは 日本の気候変動法政策の文化を踏まえた制度であると言える585

省エネ、エネルギー転換などのCO2排出抑制設備に対して補助金交付を行うのが特徴で あり、排出枠を償却できない不遵守の場合には、罰則として最終取引期間終了後に補助金 を返還しなければならず、企業名が公表される。なお、本補助金は市場をゆがめるとの他 国からの批判を受けて2009年に廃止された。

対象ガスはCO2のみで取引可能な排出枠は、経団連自主行動計画における余剰排出枠、

JPA(Japanese Emission Allowances)と CDM からのクレジット(jCER)、CDM に類似する

JVETS で対象とならない中小企業を対象とする国内オフセット(国内 CDM)からの排出

枠である586。なお、JVETSに参加する大企業は中小企業への技術・資金の見返りに得た排

出枠を自身の削減目標の達成に用いることができる。また、2009 年には JVETSを支える 制度として排出量算定・報告・公表制度が施行された587

JVETSの導入は日本の気候変動法政策において革心的であったが、排出量の大きな企業

がそれほど参加せず、大幅削減も要求され、罰則も厳しくなかったため、その削減効果は 限定的である。一般的に、自主的な排出枠取引制度においては目標が容易に達成される参 加者には魅力である。JVESTの参加者は徐々に増加しているが、真に効果的で効率的な市 場を支えるには十分ではない588。特にJVETSには鉄鋼や電力などエネルギー集約的な大企 業がほとんど含まれず、経団連の自主行動計画でカバーされているのが特徴である589

5.3.6 クレジットの法的地位590

日本ではクレジット(排出枠)の法的性質について議論が割れており、所有権の対象物 となる有体物ではなく、法定された無体財産権でもないとする見解、動産類似の財産権と する見解、クレジットに財産権を認めるものの、現状ではその具体的効用が明らかとなっ

584 天野明弘『排出取引―環境と発展を守る経済システムとは』(中公新書、2009年)205-206 頁。

585 EUETSもEUの法文化に即した制度であると言える。Sanja Bogojević. 2013. Emissions Trading Schemes: Markets, States and Law. Hart Publishing.pp.64-65.

586 Kimura and Tuerk, supra note 205.; Tuerk, Kimura, et al., supra note 205.

587 Kimura and Tuerk, supra note 205.; Japanese Ministry of the Environment. 2008. Approach to Japanese Emissions Trading Scheme: Interim Report, Executive Summary. Available at:

http://www.env.go.jp/en/headline/file_view.php?serial=233&hou_id=788 (As of a December 2014).

588 JVESTのフェーズI(2005年4月-2006年3月)には目標を有する31の参加者と7の 取引参加者が参加し、フェーズII(2006年4月-2007年3月)には61の目標参加者と12 の取引参加者、フェーズIII(2007年4月-2008年3月)には61の目標参加者と25の取引 参加者が参加した。また、取引数についてはフェーズIが24、フェーズIIが51となって いる。 589 Kimura and Tuerk, supra note 205.

590 木村「前掲論文」(注305)75-80頁。

ドキュメント内 気候変動法政策の国内実施 (ページ 136-182)

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